浅草行けよ
都内のとある高層ビルにある会議室で、大手自動車メーカーの商品開発部が会議を行っていた。
勿論、議題は商品開発である。
環境問題やエネルギーの保全が騒がれる昨今、本会議で注目されているのは新入社員の大江が提案した代替エネルギーであった。
大江は室内のホワイトボードの正面に立ち、説明を始めた。
「今回、私が提案させていただくのは、お配りした事前資料に書かれてある通り、ガソリンに代わる新エネルギーです。世間ではエコへの関心が高まっており、将来は環境保護の観点から新エネルギーを使った自動車が主流となるでしょう」
大江が一区切り置いたところで、大江の先輩である村山が意見を挟んだ。
「環境保護という点では現時点の我が社の商品でも水素カーや電力カーがあります。それらの性能向上を図ってはいかがでしょうか」
「お言葉ですが水素カーや電力カーは技術の後追いに過ぎず、他社への優位性を示せません。性能の向上を図ったとしても、やはりいたちごっことなるのが明白でしょう」
「しかし、新エネルギーを導入するには新しい工場の生産ラインを増設する必要があり、費用がかさみます。環境保護を主眼とした既存のエコカーのエネルギーとの差別化ができないことには無駄と言わざるを得ません」
「その点も問題ありません。私が挙げる新エネルギーは何よりそのエネルギー変換率に秀でています。ガソリン、水素、電力、いずれもエネルギー変換時の化学変化により、いくらかのエネルギーが熱となってしまいます。しかし、このエネルギーは移動エネルギーをそのまま推進力へ変換するので、熱エネルギーの発生を最小限に抑えられます。また、動力源としての仕組みも極めて単純であるため、新たに車を設計する費用も安価にできるでしょう」
「そんなエネルギーがあるのか?」
村山はいよいよ大江が与太話をしているんじゃないかと呆れ始めた。
「ええ。それも私たちの生活に常に身近にあるものです」
「いい加減にしろ! そんな夢みたいなエネルギーがあればどこだって使ってる!」
まあまあ、と部長が村山を宥め、続けて大江に聞いた。
「して、そのエネルギーとは何だね」
「はい、ズバリ人力です」




