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挿絵(By みてみん)


「ヒロっ!真上に隙間があるよ」

 アスラが指を指す夜天は漆黒に包まれた闇。

 だけどアスラの眼には昼間のように明るく映る。

「よしっ!アスラ、俺につかまれ!」

「うん」

 俺の背中に飛び乗り、アスラは両腕と両足を俺の身体にしっかりと巻きつけた。

 アスラを背負った俺は険しい崖を昇る。

 闇の向こうから警務隊の声が響く。

 俺達を捕縛しようと声を荒げるけれど、この険しい崖に狭まれては追ってはこれまい。


 

 麻耶山頂上の林の奥にある根城まで辿りつき、街で仕入れた食料品と情報をタカトに伝える。

 タカトはこの根城で暮らす二十人程の少年、少女たちをまとめるリーダーだ。

 街の様子など一通りの状況を説明するとパンと果物をもらい、俺とアスラのネグラヘ帰る。


「わあ、ヒロ。このパン、ハムとチーズが挟んであるよ。豪華だね」

「良かったな。よく噛んで食べろよ。急いで食べると咽るからな」

「ヒロ、オレ、もう十四なんだよ。いつまでも子供扱いしないでよ」

「十四はまだ子供だ」

「じゃあ、幾つになったら大人なの?」

「…」

 

 俺にもわからないよ、アスラ…。

 だってさ、

 いつの間にか、この世界に生きる子供たちは未来を夢見ることを止めてしまったんだ。



  夜を駆ける 


  1.



 廃棄されていたキャンプ場のログハウスのひとつを借り、寝泊まるようになってからひと月ほど経つ。

「熱は下がったか?」

 ベットに寝るアスラの額に手を置き、確認する。

「まだ少し熱があるね」と、言うと、「大丈夫だよ」と、いつものようにアスラは笑う。

 俺はアスラを愛しているから、大切にしたいけれど、子供だからアスラを守る力が足りないのは否めない。


「今日はいっぱい収穫があったから良かったね」

 俺の掌を弄ぶアスラは、カンテラだけの僅かな光の中、輝く薄い瞳で俺を見つめる。

「港の闇市はストリートチルドレンにも甘いから、お金を払えば物が買える。タカトの言ったとおりだな」

「でも、警備のオジサンたちをまくのは、大変だったね」

「子供は捕縛の対象だからなあ」

「ねえ、ヒロ。そろそろここも発たないとダメだよね」

「アスラはそんな心配しなくていいよ」

「だってさ、お世話になりっぱなしだし…」

「そうだな。もう少しアスラが元気になったら、出発しようか。でもきつい時は言えよ。いつでも俺がおぶってやるからな」

「うん」

 真っ直ぐで艶のある白髪の頭を撫でると、アスラは嬉しげに眼を細めた。


「あ、誰か来るよ」

 アスラが口を開く前に俺は立ち上がってドアに近づいた。

 扉を引いて開けると、タカトが驚いた顔で立ちすくんでいる。


「驚いたな。マジで勘が良すぎるぜ」

「野生の勘は生き延びるのに必要だろ?」

「まあな。お邪魔するよ。ああ、アスラはそのまま寝てな」

 ベットから起き上がろうとするアスラを気遣うタカトに、アスラも素直に頷いて、また毛布に身体を潜り込ませる。


「夜分に悪かったな」

「いいえ、あ、なんか飲む?コーヒーあるよ。…タカトに貰ったヤツだけど」

「ありがと…」

 簡易コンロに人を付けてお湯を沸かす。

 ここのコーヒーはインスタントだけど、意外と飲める。勿論、由良じいが淹れた本物のコーヒーとは比べものにはならないけれど。

 

 コーヒーをいれたマグカップをタカトに渡した俺は、タカトの正面に座った。

「それで?何か用があるんでしょ?」

「うん…。ケイコの情報なんだが…。公安がアルビノの子供を探しているとの事だ」

「…」

「アスラと決まったわけじゃないが、どうしたって目立つからな。気をつけた方がいい」

「オレ、帽子かぶっても目立つ?」

 頭だけを上げて、アスラが俺達を見る。

「アスラはかわいいからね。帽子ぐらいじゃそのキュートオーラは隠せない!…ってね」

「じゃあ、明日からヘルメット被るよ」

「そうだね、タダシに借りておくよ」

「アスラ、もう寝ろよ。熱、下がらないと明日は自宅待機にするよ」

「は~い。タカト、おやすみなさい」

「おやすみ」


 掌だけをパタパタと振るアスラの仕草に、俺とタカトは顔を合わせてクスリと笑った。

 全くもってアスラはかわいい。

 愛くるしさは万民の癒しだ…と、由良じいはよく笑っていた。


「…さっきの話だけど、近々ここを離れようと思っていたんだ。タカト達に迷惑かけても悪いから」

「迷惑だなんて思った事はないさ。おまえさんたちはよく働いてくれている。ここはまだ小さい奴も多いから、崖の昇り降りも安全とは言えないし、ヒロとアスラが買い出しを頼まれてくれるのは本当に有難いんだ。でもおまえらにも行くべき目的があるなら、無理に止める事はしないさ」

「はい」

「それでな、実は三日後、港に鹿児島行きのコンテナ船が入港する予定らしい」

「本当?」

「うん、おまえら南に行きたいって言ってただろ?」

「はい。でも…俺ら子供だけで乗船許可が貰えるんだろうか…」

「知りあいを当たってみてら、子供二人ぐらいならなんとかなるだろうって」

「え?」

「そいつが三等航海士さんに賄賂を渡して、こっそりと…ね」

「でも、そこまでお世話になるわけには…」

「仲間だろ?それに俺はおまえらよりもずっと大人だから、世話をするのは当然だ」

「大人ってたって、俺より二つ上なだけじゃん」

「昔は十八と言えば、責任ある大人として扱われたらしいぜ。俺達の生まれるずっと前の話だけど」

「じゃあ、甘えさせてもらいます。ありがとうございます」

「こっちこそ…。色々大変だろうけど、大切な人が待っているのなら、早く会いに行ってやらないとな」

「…そうですね」


 大切な人…アスラの病気を治してくれる人。

 待っている人…まだ見ぬ俺の父親。

 たぶん…


 この地上の遥か天上に居る大人たちに頼るしかない自身が歯がゆいけれど…

 アスラが未来を夢見ることができるのなら、そこが目指すべき場所なんだろう。





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