ヘッドセット
ある日私が席につくとヘッドセットの頭にかける部分が尖っていた。これは昨日この席を土星人さんが使っていたに違いありません。
コールセンターのマストアイテムといえばヘッドセットです。中には受話器を使ってるセンターもあるのかもしれませんが、それだと片手が塞がって不便ですよね?電話をしながらメモをとったり、パソコンを操作したり、検証機を操作したりするにはやはりヘッドセットが便利な訳です。そんな便利なヘッドセットですが、基本的に共用です。だから、自分が使う前にウェットティシューで丹念に拭いています。
「土星人さんの頭だとヘッドセットを使うのも大変なんですね」私がしみじみとヘッドセットを拭きがてら尖った形になっているスチール部分を元の形に戻そうと悪戦苦闘していると。
「土星人はまだ良い方にゃー」
「そうなの?」声のかかった方を見やると、獣人のにゃんだぁシバターさんでした。頭の上には獣耳を2つ生やしていらっしゃいますね。
私が手持ちの人用ヘッドセットを「えいっ」とにゃんだぁシバターさんにかけると。
「痛い、やめるにゃ〜」頭の上の獣耳がヘッドセットで塞がれたり当たったりとして、大変難儀なことに成ったのでした。
「ヘッドセット付けられません」私が途方に暮れると。
「だいたい耳の位置そこじゃないみゃろー」キシャ―ッって怒られましたキシャーと(笑)
「んもう、笑い事じゃないにゃんね」
「でも、ヘッドセット出来ませんね―」私がそう言うと、何やらポケットをガサゴソさせ。
「私はこれを使ってるにょ」
「こっこれは」お手製の獣人用イヤホンマイクではないですか。
その形状は獣耳にも優しいイヤホンとそこからたれたマイクがちょうどにゃんだぁシバターちゃんの口元でふらふらしてますね。
「これって」私が匠の仕事とは程遠い専用イヤホンへの驚きから覚め平常心を取り戻しつつ尋ねると、獣人が頬を赤らめ身をクネクネさせながらこう言いました。
「これわ〜、センター長が作ってくれにゃのにゃ」
「へー」別に私も独自のヘッドセットが欲しかった訳じゃありません。
「あ、でも、それなら土星人さんにも」
「土星人っちも特性のやつもってたにゃ」
「えーでも、これを見てよ」
「わにゃ、無理して使った形跡ありありにゃー」等と言って一緒に不思議がる始末。
そこにやってきたリーダーさんが言うには。
「あ〜なんか昨日は忘れたらしくて、それ使ってたね」なんて種明かしを。
人外も勤務する異世界(向け)コールセンターならではのエピソードでした。