オペさんが一人亡くなった件(2)
「ごめんなさい、間違えてかかっちゃいました」ピッ。私が管理者さんと繋がった電話を切る。
「取り敢えず近くのカフェに行きましょうか〜」三人でビルを出た。
飯田橋東口にはマクドナルドが無い。神楽坂に存ったお店は2015年末に閉店して、今ではコンビニらしい。モスバーガーならある、店頭の二つ折り黒板で中国人を差別したとかネットで話題になったお店だ。だからカフェなのだ。
「とうちゃ〜く」
「えっとコーヒーでいいですか?」
「あ、僕文無しなんだ」
「…」
「コーヒーを3つお願いします」
「えっ」
「私が奢らせていただきます」アンデッドさんが遠慮しがちにそう言った。
「で、なんで死んだんですか?」
「オペちゃん単刀直入ね」
「っていうか、本当に死んでるん(アンデッド)ですか?」
「それはつまり、僕がアンデッドかってことかい?」
「まぁ、一文無しというのがアンデッドっぽいと言えなくもないですけど」
「どういうことかしら?」「あはは」失言。
「あの日僕はビルの屋上から身を投げたのさ」
「あの日?」何か思い当たるところがあるような気がするけどもーすぐに思い出せない。
「何があったんですか?」
「女性にフラレたんだよ」
「そんなことで身投げを?」早乙女さんの絶望した表情に発言に気をつけようと思った。なんか、周りのお客さんも引いてるし。
「誰にフラレたの?」アンデッドさん追い打ち!?
そして、アンデッド早乙女さんは私をやおら指差したのです。
「ごめんなさい」私にも選ぶ権利があるのですよ〜あるでしょ?きっとある〜♪
「世の中半分は女性なのよ」
「でも、それで身を投げたと。それはわかりました」
「じゃぁ、どうしてアンデッドになったの??」そう、次はそれだ。
「飛び降りたところにちょうどトラックが走ってきて、その積み荷が人魚の肉だったみたいで…」
「!?」人魚の肉は食べると不老不死になるんです。高橋留美子先生の人魚シリーズ参照!
「なるほど、それで意識を失って葬式をとり行われ、荼毘に付された後に復活したと〜。あるある♪」アンデッドあるあるなのかな。
「戸籍上死んでるし?帰るところも働き口もなくて困ってらっしゃるのね〜」だからなんでアンデッドさんはノリノリなのん?
「なんとかなりますか?」私がそうアンデッドさんに助け舟を求めると、アンデッドさんは真顔で私に面と向かってこう言った。
「で、オペチャンは早乙女さんに気はないのね」
「え?そうですね」早乙女さん涙目。
「それはアンデッドになった今でも変わらない?」
「変わりません」私がそう言うと満面の笑みを浮かべて確かにこう言った。
「良かった」と。
「アンデッドって出会いが少なくて」
「はぁ」
「人と付き合っても死んじゃうし?一緒に飛行機事故にあった時とかに」
「まぁ、普通死にますね」
「早乙女さん、私とお付き合いしましょう」
「へっ」早乙女さんが狐につままれた顔をしている。こいつ、頭が鈍いのか、女の子に恥をかかせるな。私が舌打ちをするのと同時に早乙女さんがアンデッドさんの手を取り、
「よろしくお願いします」今夜初雪の舞うここ飯田橋でアンデッド・カップルが誕生した。
翌日の朝礼。
「本日アンデッドのオペレーターさんが一人入社になります。早乙女さんです」アンデッドの求人は限られている。私としては気まずいが、人間と人外はチームが別なので、そんなに問題ない。
アンデッド(女)さんと机を並べて今日も幸せそうに働いていらっしゃいます。