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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第3話 孤独の払拭

先日、初めて感想をいただきました。感謝が尽きません。

これからも是非よろしくお願いします。

  Side:Tomoyo



 私の名は文野智世(ふみのともよ)。文芸部に所属していた元女子高生です。この「元」というのは、私たちが異世界なんて場所へ飛ばされてしまったため付きました。

 こんなことが起きた今なら、大抵のことでは驚かない自信がありますね。私は。



 日本からこの世界に召喚されて一ヶ月が経ちました。私ともう一人、進藤君を除いたクラスメートたちは、明日に迫った実戦訓練に向けて戦闘訓練を行ってきました。

 正直な所、素人が一ヶ月訓練を受けた程度で意味はないと思っていたのですが、意外にも様になっています。これも、高い能力値によるものなのでしょう。


 訓練と平行して、異世界についての講義も行われてきました。こちらは全員強制参加です。初めは訓練を優先したいと言っていた人もいたのですが、生き抜く上では必要最低限の知識だと言われ、今はほぼ全員(あの立花君でさえ)が真面目に話を聴いています。



 今日の講義は明日に向けた最終確認ということでした。いつものように、クラスの人たちが集まったのを確認した執事さんは話を始めます。


「ついに、ダンジョンでの実戦訓練が明日にせまりました。今日までに様々なことを教えさせていただきました。もう私からお伝えすることはありません。なので今日は、今までの復習を軽く行い、終わりにしたいと思います」


「「「よろしくお願いします」」」


「はい、よろしくお願いします。では、明日行く『始まりの迷宮』について、そうですね……イノウエさん、お願いします」


「は、はい。ええと……『始まりの迷宮』は王都の近くにあるダンジョンです。中は洞窟型で、全部で二十階あります。危険度は最低のFで、初心者向けです」


「よくできました。

 しかし何度も言っていることですが一点だけ補足します。確かに危険度が最低のFだというのは事実です。今のあなた方でも攻略は可能かもしれません。しかし、毎年少なくない死者が出ています。

 これは、危険度に惑わされた駆け出し冒険者がほとんどです。データに騙されて気を抜くと、簡単に命を落としてしまいます。危険度は最低でも簡単に死にかねない。あそこは命のやり取りをする場所であると、皆さんも肝に銘じて下さい」


 当然だと思います。寧ろそんな場所に軽い覚悟で行くなんて、この世界の冒険者は阿呆なんでしょうか。

 クラスメートの中にもそんな阿呆な人たちがいたようで、執事さんの台詞に背筋を凍らせていました。皆さん、自分で考えることを放棄するようになってきている気がします。杞憂なら良いのですが……少し、怖いです……


「では『ダンジョン』について、では……シンドウ君、あなたが知っていることを話して下さい」


「はい。 ダンジョンとは、基本的に自然環境を基礎にして造られた多種多様な魔物の住み処です。そのため長い間放っておくと魔物が外へ溢れ出てきます。これを防ぐための定期的な討伐は間引きなどと呼ばれています。

 また、ダンジョンは大きく二つに分けられます。一つは自然にさまざまな魔物たちが集まって形成される自然型。もう一つは『ダンジョンマスター』と呼ばれる存在によって造られたとされる人工型です。人工型の起源は大昔の魔王軍侵略の際、魔王軍の拠点として使われていたものだと考えられています。最深部には『ダンジョンコア』と呼ばれる核があり、それを抜き取るとダンジョンは崩れ去ります。『始まりの迷宮』含めた多くの人工型ダンジョンは、多くの利益を生むため残してあるようですが。

 しかし未だ謎に包まれている部分も多く、研究が続けられています」


「はい、完璧です。流石ですね。ダンジョンマスターの存在は冒険者でも知らない人がほとんどなのですが……」


 その台詞にクラスメートから感嘆の声と拍手が送られました。彼は少し照れた様子で笑います。


 そう言えばこの進藤君、こちらに来てから桁外れた頭脳を見せているんですよね……。講義中では分かりにくいですが、周りに人がいないときは異常です。まるで人智を超えた(・・・・・・)かのような……。単に調べものが得意、というだけでは済まされない程に。

 今日で最後ですし後で聞いてみましょうか。全部とはいかないまでも、何か教えてくれるかもしれません。



 講義が終わると、私は慣れた通路を足早に歩いてゆくのでした。



  ◇◆◇



 学校の図書室とは比べ物にならないほど広い図書室で、読み終えた本を閉じます。エルフの言語で書かれた物語でしたが、これを一人で読めることが私の一ヶ月の成果だと言えるでしょう。



 ―――――――――――――――



 名前:文野智世

 種族:普人族

 性別:女

 年齢:16

 状態:呪い(拒絶)


 Lv.1

 HP 59/59

 MP 0/0

 STR 14

 VIT 13

 INT 42

 MEN 38

 AGI 23


 称号 : 【真実の探求者】

      【読書家】

      【異世界人】

 固有スキル:[閲覧(ブラウザ)]

 特殊スキル:[無限収納]

 スキル : [真偽判断 Lv.7]

       [速読 Lv.8]

       [言語理解]

       [複写 Lv.3]


 ―――――――――――――――



 「呪い」、それこそが私の能力値を低下させている原因です。他の方と比べて立てられた仮説ですが、私は称号による能力値補正を受けられないのではないかと考えられます。クラスの皆さんはすべてに100ずつ加算されているようですし、およそ間違いはないかと。彼我の差を嘆くべきなのか、ゼロがマイナスになったわけではないと安心するべきなのか、悩みますね。


 呪いは、この世界ではよくある欠陥のようです。その影響は様々で、過去には直接生死に関わるような呪いにかかっていた人間すらいたみたいです。そう考えると、私の呪いは能力値を下げるだけでそういう危険はないため、マシな方だとは思うのですが……そう簡単に割り切れるものではありませんね。



 しかし注目すべきはそこではなく、スキル[言語理解]の習得です。それにより、ありとあらゆる文献を読めるようになりました。

 それもこれも、



「おや、今日は少し早いですね」


「ま、最終日だしな。

 っと、もうそれ読み終わったのか。流石、[速読]スキル様様だな」


「そうでもありませんよ。物語などはじっくり読みたいのに早く読み終えてしまいます」


「はは、それもそうか。オンオフできないのは不便かもな。失敬失敬。」



 進藤君(この男)のお陰でしょう。


 初めての講義を受け、ここに案内されたその日、私は進藤君に「取引」を持ち掛けられました。

 曰く、


『取引しよう。人族語以外を教えるから、代わりに[閲覧]スキルを俺のために使ってくれ。期限は実戦訓練の前日まで。どうだ?』


 と。その提案は当時の私にとって渡りに舟だったので、即受託しました。



 世界中に存在する文字列を読むことができる、という[閲覧]スキルですが、それにも弱点はあります。

 まず、その情報が正しいかどうか、見分けなければならないという点です。ただこれに関しては、私の持つ[真偽判断]である程度は選別できるので問題ありません。

 問題なのは二つ目でした。「文字列が読める」ということはすなわち、翻訳はされないということ。つまり、私自身がその言語を覚えなければならないのです。


 呪いのせいでステータスが低く戦闘で役に立てない私は、情報収集などのサポートで活躍するしか道がありません。なので、多少気に入らなかった彼が相手でも我慢することにしました。


 それから一ヶ月、[閲覧]スキルで読んだ(と言うより見た)文章やこの図書室にある辞書を使って多くの他種族語を教わってきました。


 中にはおもしろい話も結構ありました。この世界のスキルや称号について研究した賢者の記録や、魔族に恋をした異世界人の日記、パルティア魔物大全なんて本もおもしろかったですね。

 あとはこの世界の神について現代風に書き直された神話。どうやらこの世界では、闇神は災厄(魔王侵攻など)の原因と信じられているようです。

 進藤君は……その闇神の加護を受けた彼は、いったいどう感じているのでしょうか。そのせいでこの国の大臣の方々から疎まれているみたいですし、彼も自身の不幸を呪っているのでしょうか……?



 あ、彼といえば……


「失礼ですが進藤君。こちらに来てからの貴方の頭脳はいい意味で異常だと感じますが、何があったのでしょうか。何かのスキルですか?」


 これを聞くのを忘れていました。気になっていたんですよね。

 

「なんで知りたいんだ?」


「なぜ、と言われても……強いて挙げるならば好奇心ですかね」


 彼は好奇心という単純な理由に納得した様子でした。決意を秘めたまっすぐな眼差しで問うてきました。


「……何かあったといえばあったし、スキルの効果でもある。が、全てを詳しく話すことはできない。個人情報をおいそれと話すわけにもいかないしな。ただ、俺の持つスキルにまつわることなら、他言しないという条件付きで話そう。まあ、つまらない話だけどさ。

 どうする?」


「もちろん、誰にも話さないと誓いましょう。」




 そして聞いた称号【神童】にまつわる彼の過去。正直、意外でした。あの進藤君にそんな過去があったのですか……。

 私は、彼の本当のステータスを聞いて落胆した自分に気づきました。気付かないうちに、能力値が低い人が他にいるというだけで安堵していたなんて……自己嫌悪。



 一ヶ月を一緒に過ごすようになるまで、私は目の前のこの男が気に入りませんでした。原因は彼の作りものめいた、計算上に成り立ったような表情です。


 日常的に嘘をつく人間は、誰もがあの男(・・・)と同じ価値観を心の奥底に持っている。私は長い間疑いもせずにそう信じてきました。

 しかし、彼と関わるようになってから、その考えは揺らぐようになりました。他愛ない会話が嬉しかった。時折彼が飛ばす冗談がおもしろかった。楽しいと、そう感じたのです。それも、当然だったのかもしれません。



 私は端的に言うと、向こうで友だちがいませんでした。



 と言っても、誰とも話さなかった訳ではありません。少なくとも必要最低限の会話はしていましたし、知り合いと呼べる人も多少はいました。部活にも所属していましたし。

 ですが、友だちと呼べるほど深い付き合いはありませんでした。別に虐められているとか、そんなことは無く、寧ろクラスの方々はいい人だと思います。


 問題があるのは私の方です。私は他人の嘘を許容できない。どうしてもあの男を連想してしまうのです。生きていく上では致命的な欠陥だと、客観的には理解しています。

 しかし、私の本能が、感情が、嘘を赦さない。真正直に生きることが難しいこの世の中、その人に1ミリでも虚栄を認めてしまえば私の心は容易く()()に走ってしまう。非合理的だとは分かっていますが、それに抗うことはできませんし、したくないのです。


 だから私は「本物」の関係を求め続けます。互いに全てを曝け出せる、理想のような関係を。


 そんな生き方を続けて何年になるのでしょうか。私は孤独でした。家族ともろくに話さず、学校でも話すような友はいない。年齢のせいもあって、どこか斜に構えていたところもあったかもしれません。


 それでも、きっと心の奥底では、人の温もりを求めていたのではないでしょうか。元来、人間は社会的動物ですから、他人と関わらずに生きていくことなど不可能に等しい。

 だから、彼と過ごす時間がかけがけのないものに感じたのです。私が彼に踏み込まない限り私は彼を信じられますし、彼も私をある程度は信じてくれてると思います。

 条件付きの信頼など本物ではありません。なのにとても心地が良い……そこに身を委ね、ぬるま湯にずっと浸かっていたくなる。嘘が嫌いと言っていた私がその偽物の関係に妥協しようとしている。なんと滑稽で罪深いのでしょうね……


「すみませんでした。軽い気持ちで辛いことを聞きました」


「いや、別にいい。これは克服しなきゃならないことだからな。

 さ、辛気くさいのは終わりだ。作業を始めよう。明日までに終わらせないとな」


「そうですね。……進藤君」


「なんだ?」


 空気を変えようとしてくれたんでしょう。彼は無理に表情を変えて言います。

 ただ、これだけは言っておきましょう。


「あまり、無理はしない方がいいですよ」


 彼は驚いたようでしたが、すぐに穏やかな笑顔を浮かべました。


「ありがとう」


 その顔から、その台詞から私は目をそむけました。そうしなければ、罪悪感に押し潰されてしまいそうで。


Vocabulary


・エルフ

弓矢や魔術・魔法が得意な種族。森人族とも言われるように、基本的には森で狩りをして生活している。

美形ばかりだが、女性は普人族と比べて胸部が成長しにくい。


・呪い

ステータス異常の一種。さまざまな害をもたらす。条件さえ満たせば解呪可能。



Skill


・速読

文章を読む速度が速くなる。速さはスキルレベルに依存する。


・複写

文章を手書きで写し書く。精度・速度はスキルレベルに依存する。

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