第1話 異世界初日
Side:Tsukiyo
不快感を覚え目が覚める。昨晩はそれほど暑くもなかったのに汗ばんでいることに気づいた。何か嫌な夢を見ていた気がするが……
時間を見ると少し早いが起床時間だった。……起きるか。
あれからおよそ1ヶ月経った。この部屋に慣れてしまったことを自覚すると、少しその実感が湧いてくる。着替え終えた俺は食堂に向かいながら、ふと一ヶ月前のことを思い返していた。
◇◆◇
召喚の直後、俺たちは老紳士に連れていかれ広間に来ていた。
見るからに豪華な装飾が施されたその空間の奥には、家具より宝物だと言われた方が納得できそうな玉座と、入口から続く深紅の絨毯があった。
って、いきなり国王に謁見かよ。セキュリティとか平気なの? ちゃんとセ○ムしてる?
国王はイメージしていたよりもかなり若く見えた。日本人のコスプレとは違って(※個人の感想です)きれいな金髪にエメラルドカラーの瞳、おそらく鍛えているであろう体躯だけ見れば二十代でも通用しそうだが、その身に纏うくたびれた空気がそれを否定する。
全員が緊張しながらも真ん前まで来ると、ようやく国王は口を開いた。
「良く来られた、勇者殿。余はリルバ王国国王、クリストフ・L・オブリーシュである。この度はこちらの都合により呼び出したこと、心より謝罪する」
そうして国王は頭を下げる。俺は、一国の王が俺たちのような子供に頭を下げたことに驚いていた。
勝手に呼び出したんだから、もっと身勝手なものだと思っていたんだが……。大臣だと思われるやつらもなにも言ってこないどころか頭を下げているのを見ると、この国がバカの集まりではないことが伺えた。
……まぁ、やはり中には不満を持っているやつもいるようだが。
頭を上げた王はこの国、というかこの世界の状況について説明を始めた。あの女神の言っていた内容と大差ないもので密かに俺は安堵する。
「どうか、我々を助けてもらえないだろうか。頼む」
そう言ってきたが、俺たちの返答はすでに決まっている。
「もちろん、私共でよければ協力いたしましょう。ただ、この子たちはまだ若い。この子らが自衛の手段を確保するまで、安全は保証していただきたい」
先ほど目を覚ました武田先生が答えた。流石大人と言うべきか、遜りながらも要求は断らせない、そんな雰囲気を醸し出していた。
先生は最初は反対していたが、帰還の条件を伝えるとしぶしぶではあるが賛同してくれた。自分のためというのもあるかもしれないが、ここまで真剣になってくれる当たり、かなり「良い先生」だと思う。
……しかし、先生の女神に対する怒りの表情は忘れられない。主に恐怖で。ただでさえ厳つい顔つきなのに、それが憤怒の表情になると一層恐かった。俺たちはあの人を本気で怒らせないようにしようと、固く決意したのだ。生徒の結束を強めるとは、流石です……先生様? うーん…語呂が悪いな。さすせん。
「感謝する。質問に対してだが、こちらから呼び立てておいて危険に放り込むような不義理な真似はしない。そこは保証しよう。
さて、貴殿らは疑問に思っていることであろう。ろくに戦闘訓練も積んでいないのに何故魔王軍と戦えるのか、と。その質問に答えるとしよう。ステータス、と念じてみよ」
来ましたー! 異世界のお約束! 表情には出さないが、ココロオドっちゃうのは男の子には仕方のないことなんです。
言われるがままに念じると、膨大な量の情報が脳に流れ込んで来た。それは自身の情報であることが理解できる。
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名前:進藤月夜
種族:普人族
性別:男
年齢:16歳
状態:良好
Lv. 1
HP 1060/1060(+1000)
MP 800/800(+800)
STR 532(+500)
VIT 540(+500)
INT 1116(+1000)
MEN 777(+700)
AGI 765(+700)
称号 : 【神童】
【情報通】
【偽りの仮面】
【異世界人】
【Sophia】
【闇神の加護】
固有スキル:[天賦の才]
特殊スキル:[神格]
[高速思考Lv.1]
[並列思考Lv.1]
[解析]
[無限収納]
[完全記憶]
スキル : [千里眼Lv.1]
[聞き耳Lv.1]
[言語理解]
[偽装Lv.1]
[表情操作Lv.1]
[闇属性魔法Lv.1]
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まるでRPGだな。漠然とだがスキルの使い方も分かる。一気にたくさんの流れ込んで来たせいか、少し頭に痛みが走った。
括弧内の数字は……何の上昇値だ……?
にしても【神童】ね……嫌な称号だ。あとは一つだけ英語なのも気になる。暇作っていろいろ調べないと。
「もう理解されたと思うが、異世界から来た者は、高い能力値と強力なスキルを得ることができるのだ。自身の能力が理解できたかと思う。今感じている痛みはすぐに消えるので安心して欲しい。では治まった者からこちらにに名前と能力値、称号、スキルを伝えてくれ」
みんな少しの間痛みに呻いていたが、明上を皮切りに貴族っぽい男の元へ歩いていった。
アイツのことだから勇者だとか言われたりしてな。いや、ここまでのネット小説的展開なら意外なやつがメチャクチャな能力を持ってたりとか……?
「最初はお前か。では教えてくれ」
「はい、名前は明上勇人。能力値はHP 250、MP 200、STR 553、VIT 247、INT 245、MEN 239、AGI 232です。称号は……【努力家】【勇者】【異世界人】【光神の加護】【Hope】、スキルは[早熟] [限界突破] [聖魔法] [無限収納] [身体強化] [鼓舞] [人族語理解] [光属性魔法]。以上です」
マジで勇者キタ――!! いやはや、予想通りといえばそうだが、勇者ってのが現実に現れるとは……
しかし勇者の能力値よっわ……素を伝えるのは何かとマズそうだ。いや、あいつが低いという可能性も――
「おぉ、あなたが今代の勇者様ですか。しかも『光神の加護』持ちですとな! 是非とも頑張って下され。期待しておりますとも。
では次の方、どうぞ」
おっとノーコメントぉ! どっち? 勇者として問題ないステなのかザコ過ぎてスルーされたのかどっち?! そこ重要よ?
さすがにこのタイミングで並び直すのはあまりに不自然。チクショーこんなことなら様子見しときゃ良かった。まぁ確認終わって暇だったんだけど……しゃーなし。診察の順番が来た患者の気分で俺は前に出る。
「はい、能力値はHP 60、STR 46、VIT 51、INT 116、MEN 77、AGI 82です。称号は【情報通】【異世界人】【Sophia】【闇神の加護】。スキルは[千里眼] [聞き耳] [解析] [言語理解] [無限収納] [闇属性魔法]以上です」
「名前は?」
そうじゃん。はっず。
「あ、すいません。進藤月夜です」
クスクスと言う声を背に俺は言う。
あやしい匂いのするスキルは伏せ、能力値はサバを読んでおいた。これで多少は凡人になった筈だ。勇者より能力値高いやつとか冗談にすらならない。まだ俺のレベルは1、取り押さえられるようなことがあれば、その時点でゲームセットだ。
しかし、『闇神』の名前が出た瞬間、俺は「悪意」を感じ取った。……いや、そう感じたとかじゃなく。マジで感知したのよ。何を言っているかと思うだろうけど、そうとしか形容できないのだ。地球にいた頃はこんなことなかったし。たぶん何かのスキルが働いたんだと思うが……こいつも要検証っと……
全員の確認が終わった後、騎士団長を名乗るごついおっさんから今後について説明があった。
「これより一ヶ月間、貴様らにはそれぞれに合った訓練をしてもらう。かなりキツいだろうが、死なないために行うものだ。死ぬ気で取り組むように。
ただし、シンドウ、フミノ、この二名はステータスが異常に低い。恐らく戦闘では足を引っ張ることになるだろう」
そう。
そうなのだ。
あのときは本当の値を言うのはヤバイと思ったのでサバを読んだんだが、低すぎた。クラス最底辺レベルで。やっちった。テヘペロ☆
と、そこに御巫が食って掛かる。
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!」
「事実だ。そこをはっきりさせないと死ぬのは君たちの方だが? その責任をお前がとると言うのか」
「それは……」
「いい、御巫。団長さんの言ってることが正しい」
というか俺たちを守ってくれようとしているんだこの人は。好感度上がっちゃうね。
「そこの少年は分かってるようだな。それで良い。
二人には完全なサポートに回ってもらう。そうだな、武具の整備は各自でできた方が良いだろうから、当日まで、情報収集を主にしてもらおう。1ヶ月後にはその成果を発表してもらおうか。幸い、それに向いたスキルを両方とも持っているようなのでな。少しでも仲間の助けになれるよう励むことだ」
「分かりました」「はい」
まぁ結果オーライというやつだ。お陰で訓練を受けるより自由に動ける。……負け惜しみじゃないんだからねっ!
◇◆◇
もう日没も近いということで、訓練は明日から始めるということだった。今日は老紳士に城内、そして隣接する宮殿を立ち入れる範囲で案内してもらってる。
それにしても、スキル[完全記憶]は名前だけではないようだ。クラスメートと話しながらでも、今まで通った道のりを完璧に覚えている。こいつは使い勝手が良さそうだ。他のスキルも早く試してみたい。わくわく。
「ねぇ月夜君、なんで止めたの? あれはあっちが悪いよー」
「ん? いやあのまま言い争ってたらお前、目を付けられてたぞ多分。問題児として。そんなの望まないだろ? ま、知らんけど」
俺たちが反抗的だと判断されれば、この城内の監視の目も強化されてしまうだろう。御巫ひとりでそんな変わるとは思わんが……悪い事態を想定して動く、それが未知の世界を生き残る術だと思う。そうなると少しでも自由を確保しときたいと思うのは当然のことだ。
貸しにできないかと恩着せがましく言ってみたが、俺は御巫をまだ見誤っていたらしい。
「え!? 私を心配してくれたの? ありがとう!」
「あぁー……、はいはい。そうでーす」
真正面から受け止め、自分の思いを素直に語る。現代日本には珍しいほどに、まっすぐな心だ。御巫は小躍りしそうなくらい喜んでいるし、それを見た周りのやつらもニヤニヤしてるし……ウぜぇ。こんなことならスルーしときゃよかったわ。ちくせう。
そうして雑談している内に次の場所に到着した。案内の初老が遠足のガイドのように語りだす。
「ここは、歴代の勇者様方の象が飾ってある場でございます。ユウト様方でちょうど十代目ですね。そして、こちらが初代勇者様、」
その象を見た瞬間、周りにクラスメイトがいることも忘れ、俺は固まってしまった。
何故……ここにいるんだ……
「名前をセイジ・イトウ様と仰られます」
そこにいたのは『近所のお兄さん』こと伊藤誠二だった。
Vocabulary
・ステータス
実在する全てに存在するそのもの自身の情報。ある程度の自我と知性があれば自分のそれは無条件に見ることができる。
・能力値
そのものがもつ強さ。肉体との相互関係は未だ解明されていない。
HP……Hit Pointの略称。イコール生命力。ゼロになると生命活動が停止する。一割を切ると気絶する。三割を切ると立つのがやっとの状態となる。
MP……Magic Pointの略称。イコール魔力量。ゼロになると気絶する。一割を切ると戦闘が困難となるほどの目眩に襲われる。
STR……Strengthの略称。筋力。それ以上でもそれ以下でもない。
VIT……Vitalityの略称。非魔法的現象・攻撃に対する耐性。
INT……Intelligenceの略称。魔力との親和性、扱いの巧さ。
MEN……Mentalの略称。魔法的現象・攻撃に対する耐性。
AGI……Agirityの略称。神経信号の伝達速度。
・スキル
ステータスに記載される、そのものが持っている技能。基本的に消えることはないが、技量を高めることで上位スキルへ昇華する。
中でも普通には習得できず、才能や条件に左右されるものは特殊スキルと呼ばれ、さらにその中で世に二人と同じスキルを持つものがいないスキルは固有スキルと呼ばれる。
・称号
ステータスに記載される、そのものの功績。中には能力値やスキル習得などに補正がつくものもある。が、その事実は一般には知られていない。
・属性
例外を除き、パルティアに存在する生物が持つ特性。元属性と呼ばれる火、光、風、水、土、闇の6つに加え、特殊属性と呼ばれる雷、氷属性などがある。
それぞれが持つ属性は基本的には1つに定まっているが、稀に2つを持つ者もいる。元属性の魔術・魔法の適性は、自分の属性によって決まる。火、光、風、水、土、闇を円状に並べ、自分の属性に近い位置にあるものほど適性がある。
光
火 風
土 水
闇
・一ヶ月
六日で一週間、五週間で一ヶ月、十三ヶ月で一年。