第33話 合流
「この連載小説は未完結のまま約半年以上の間、更新されていません。」
すまんて……忘却してるわけじゃないんですよ……
前回までのあらすじ
・王都へカチコミじゃ!
・世紀末かな?
・門番倒した、城内へGO!
Side:Isato
城の門番たるハイオークをほぼ無傷で倒すことができた。この調子ならいける、そんな雰囲気が流れ、勢いづいてきたはずだったのに……。俺たちが相手にしているのはただの魔物ではなく本物の魔族、魔王の直接の眷属だ。そう簡単にことが運ぶはずもなく、次なる試練が待ち構えていた。
「ハメられたな、ユート。いや、どちらにせよ我々はこちらに来る以外の選択肢はなかったか……」
「そうですね。ただ、罠ではないだろうと希望的観測に縋ったことは、反省します。
それより、今は目の前をどうにかしましょう。幸い、こっちも人数は十分に揃っています。無理に逃げようとしなくても大丈夫でしょう。なあ、みんな!」
『おぉ!!』
時はしばらく遡る。
俺たちが中に入ると、城内にはかつての面影こそあるものの、魔族の手に渡ったことを思わせるくらいには破壊の跡が見えた。そしてその跡は一つの道を形成している。魔物たちの発生源がこの先にあると考えていいだろう。
今から振り返ればその推測は大正解ではあったが、早急な判断だったと言わざるをえない。
後続の連中のために目印を残し、魔物の発生源、すなわち地下へと向かう俺たち。 途中正面からやってくる魔物を倒しながら進んでいく。
王城で生活していた俺らも、地下は馴染みがなかった。何があるのかも知らされていなかったから、こんなときに不謹慎かもしれないけど、それが知れるという高揚は少しあった。以前は錠付きの堅い扉があった場所には瓦礫と鉄塊が散乱していて、その奥の階段を降りるのを躊躇させる。
「“微光”。……じゃあ、行こうか」
だが、そんなことで歩みを止めるわけには行かない。俺は先陣を切って進んで行った。みんなも頷きかえして後に続く。
問題はそこで起きた。階段を降りた先で待っていたのは、まさしく地獄絵図。
ゴブリンが、オークが、スライムが、ダイヤウルフが……奥から次々と魔物が湧き、そこら中を埋め尽くすモンスターは互いに傷つけ合い、出口――俺たちから見れば入口に当たる――へと押しやられ、外へ飛び出そうとする。
「ッッ、ここがやつらの発生源だ! これ以上街に魔物を出してはダメだ! 一匹たりとも通すな! 死守するんだ!!」
『オウッ!』『ハイッ!』
次々にやってくる魔物を、ただひたすらに殺していく。目を潰し、腕を切り落とし、首を刎ね、心臓をつき……。いくらやっても、キリがない。幸い、現れるのはゴブリンやオークといった危険度の高くないモンスターばかりだ。ダイアウルフとライダー――ゴブリンライダーとの連携は厄介ではあるが、幸いここは狭い地下空間。ご自慢の機動力も十分に活躍はできない。加えて、仲間割れかはわからないけどなぜか魔物同士でも争っているようだ。そこまで消耗している状態なら、こちらがすぐに押し負けるようなことはないだろう。
ただ、問題はやはりその量だ。倒しても倒しても湧いてくるんじゃ、俺らは攻勢に出ようもない。これは、まずいぞ。俺たちとここにいる魔物で戦い、負けることは万に一つもないだろうが、それが何百と繰り返されるのなら話は別だ。俺の集中力、そして武器の耐久力には限界がある。予備の武器もあるとはいえ、性能はやはりいくらか落ちる。
それに、俺の見間違いじゃなければ……ここはただの地下空間じゃない。さっきから殺しているモンスターの死体がまったく見当たらない。奴らが食いつくした? そうじゃない、俺らはよく知っているはずだ、倒した魔物が消えるという現象を。俺たちのトラウマとも言える、すなわち――ダンジョン!! 元からそうだったのか、魔族がダンジョン化の術を持っているのか……
「お前らのような汚れた存在に、我々の剣が折れるわけがなかろうッ!」
違う、それじゃあダメだ。
抜き身の刃のような殺意を隠しもせずに敵を殲滅しているバルダさんだけど、もしかして、気づいていないのか。モンスターへの恨みが、判断を鈍らせている? そうだとすれば、危険だ。この均衡はきっと――
「ゴォぉオあアア!!」
俺たちはずっと入口付近で防衛線を張っていたけど、姿が見えずともそいつの雄叫び、強大な気配はビンビンに伝わってきた。きっとみんなも気づいただろう、今ここにいる魔物たちよりも、明らかに格が違う。
ここにいる魔物は元からここにいたんじゃない。呼び出されたのだ、ダンジョンの仕掛けによって。殺し合わせたのもおそらくわざと。やつらを贄としてより強力な魔物を召還するため――
「全員警戒! あづさ、一旦下がって確認してくれ! 敵の様子は!」
弓使いのあづさが持つ[遠視]を頼る。
「3mくらいの……鬼、かな? 棍棒持ってる。髪とか髭が立派でお腹はたるんでるね。色は何ていうのかな……枯れ草色? あ、ゴブリンの進化先、何だっけ、オー、オー……」
「オーガ!」
「そうたぶんそれ! 今は近くにいる味方を手当たり次第に攻撃しながらこっちに向かってるよ」
大鬼。怪力、巨体、鋼の肉体と三拍子揃ったパワーファイター。力だけでなく速さもあるため、ハイオークとは対称的に攻撃向きの能力をしている。その代償として知能は著しく低下しているから、罠にかければ倒すのは難しくない、が。俺たちはそんなもの持っていないし、いまは設置する余裕もない。
どうする、この消耗した状況じゃ、正面戦闘だけは愚策。あいつが一匹だけとは限らないからここで力を出しきるのはダメだ。何かないのか、何か……
考えているうちにもオーガはどんどん近づいてくる。確かにあづさの言った通り、手に持った棍棒で周囲の魔物を殴り飛ばしている。あいつの周りからは逃げようとするゴブリンに、オークの死体を投げつける。負傷したゴブリンに悠々と追いつき、上段から振り下ろした。棍棒はゴブリンの血に染まり、その顔は愉悦に歪む。凶悪な残虐性、俺たちがもしやられたらどんな目に遭うのか、想像したくもない。
俺たちは相も変わらず殲滅を続けていたが、ついにオーガのその瞳が俺たちを捉えた。もう、覚悟を決めるしか――
「蜃気楼結界!」
背後を振り向き、もしやと思いつつその声の主を確認する。ああ、やっぱり。
「あれ、これウチめっちゃ良いタイミングで来ちゃった感じ? いやー、そんな褒められても何も出せないっていうかー」
長谷川日守、そしてその後ろにも数人のクラスメートが。向こうだけでない。俺たちにも、援軍が到着したのだ。
彼女の蜃気楼が俺たちの姿を隠した。天然バーサーカーのオーガは俺たちを見失った瞬間、周囲の魔物を標的に定めた。
「誰も何も言ってねえだろ、長谷川」
「ん? 助けてもらってその態度なんだ、ふーん。そっか、虎太郎ならあいつらにも圧勝だよねー」
「んぐ、いや、すまん、助かった……」
「素直にお礼とかキモっ」
「ああ? おいテメ「それよりも、構えないでいいの? もうそろワンコ来るよ」クソッ、わあったよ!」
その言葉につられて前を向くと、俺たちの姿を見失ってまた適当に殺して回ってるオーガが見える。その点は安心だが、ダイヤウルフの群れがこちらへ向かってくる。俺たちの存在を嗅ぎつけたのか、なるほど、嗅覚はごまかしようがない。
「全員固まるように! 防衛の陣形を思い出せ! 遠距離からの攻撃手段を持たない者はマジシャンとスナイパーの守護に当たれ!」
支持を出すと俺はすぐに日守の元へ。この状況をうまく利用しないと……!
「日守!」
「あ、勇人じゃーん。どしたん?」
「これ、どのくらい保つ?」
「物理干渉はできないけどねー、その分エコなのよ。重ねがけしていいなら結構いけるよ」
「1時間とか?」
「うんにゃー、これに集中していいんならその倍は」
「よし、わかった。ありがとう」
能力的には、問題ない。あとは俺がみんなを信じるだけ……
「みんな、そのまま聞いてくれ。これから、チームを二つに分ける。一つは、ここの防衛に当たるチーム。申し分ないけど、日守はこっちに残ってほしい。持久力と対応力が求められると思う。あのオーガよりもよりも強い魔物が現れるかもしれないから。
もう一つは、俺と一緒に魔族を探しに行くチームだ。こっちは本当に何があるかわからない。罠、不意打ち、その他の搦手があるかもしれない。大事な役目だ」
「勇人が決めて」
そう言ったのは楓だった。彩星の安否が確認できていないから、自分だって不安定なはずなのに、彼女はいつだって、正しい提案をしてくれる。俺たちのパーティの頭脳にして精神的支柱。
その発言を聞いても誰からも反論はなく、俺の決定を待っているかのようだった。
「……俺についてきてほしいのは……虎太郎」
「おう!」
「美咲」
「はい!」
「菜々子」
「了解」
「バルダさん」
「ああ」
「その四人です。
残ったメンバーは楓の指示に従うようにしてくれ。楓、くれぐれも自分たちの命を大事に頼む」
「任せて」
「よし……どっちも苦しい戦いになるだろうけど、絶対、勝つぞ!」
『おう!』
◇◆◇◆◇
その後軽く打ち合わせをして、ひとまずは王の間を目指すことにした。 地下から伸びている階段を駆け上り、一階に到着。王の間へ行くには入口正面の大階段を登らなくてはならない。
さすがに王家の人たちも避難は終わっていて城内に人は残っていない、はずだったのだが 、金属同士がぶつかり合うような甲高い音が聞こえた。
言葉はいらない。俺たちは互いに頷くと、 魔力灯の光がぼんやりと照らす道を走り出した。
もちろん、誰かが襲われてるのではないかもしれない。けど、1%でもその可能性があるのなら。俺たちは向かわなくてはならない。聞こえてくる音は多様で、金属音は最初の一回だけ、その後は爆発や殴打、あとは石が散らばるような音。まだ続いている。
大階段まで半分は過ぎたかというくらいに、一際大きくグチャッと聞こえた。それを最後に物音は止んでしまった。おそらくは戦闘の音という予想は外れてはないだろうから、決着がついたのだろう。
ようやく、人影が見えた。床に転がっているのは魔物の方だった。いや、心配いらなかったか。そこにいたのは守るべき市民ではなく、頼りになる応援だった。自然と顔がほころぶ。
「おーい、おーい! 深影! 文野さん! 彩星! よかった、合流できた」
こちらを認めた三人はホッと息をついた。人間の、加えて見知った顔だ。
「やあ、明上クン」
「あ! 勇人くん! やっほー!」
彩星とは王都を出てからは一度も会ってない。連絡もつかず、無事かどうかもわからなかったから、ほかの四人も彩星に話しかけている。
目の前で日守と彩星が再会を喜び抱き合っていた。いつの間に近くまで忍び寄っていたのやら、深影が俺の耳元で言った。
「感動のシーンだねえ。どうする? ボクらも抱き合っとく?」
「うわ、ゾワッてした! やめろ深影! 男と抱き合う趣味はないから。それに数時間前まで一緒にいただろ……」
「やだなあ、冗談だよ。ジョ・ウ・ダ・ン。
それよりこの奥で何があったんだい。何もなくて引き返したわけじゃないんでしょ?」
「ああ、それについても歩きながら説明しよう。休憩が必要って人はいる? ちょっとなら休んでもいいけど」
見渡してもみんな元気そうだ。大丈夫、かな。
「明上くん、大丈夫です。行きましょう。戻ってきた理由があるのですよね?」
「ありがとう文野さん。そうなんだ、歩きながら話すよ。そっちも、もうそろそろ置いてくよ」
「せっかくのお話なのにー。待ってよー」
これでメンバーは八人、か。バランスがいいとも言えないし、連携もうまくいくかはわからない。もう少し応援が来るのを待つか、先を急ぐか。
俺は話した。魔物の通った跡を辿ったら地下に行き着いたこと、魔物で溢れかえっていたこと、奥の方から湧いていたこと、今は楓たちが抑えてくれていること。それを聞いた彩星は楓のことが心配みたいだったけど、一瞬迷って俺たちの方についていくと言った。彼女を信じるそうだ。やっぱり、強い。
「でもさ」
深影が言う。
「さっきボクらが戦ったインプってどこからきたのかな」
「だから魔物は地下の……」
地下の魔法陣から? いや違う。あそこにはインプなんかいなかった。インプは王都周辺には生息していない。つまり、魔物の侵入ルートが他にもあるということ。一箇所を抑えたからって、余裕ができたわけじゃなかった。
どうする? このまま進むのか? 戻って楓たちのフォローに回らないで平気なのか? どうする? 外の様子は? インプなんか比べ物にならない危険なやつが暴れている可能性がないと言い切れるのか? どうする、どうする――
「落ち着きなよ、勇人くん」
「だけど「いいから」……ああ」
いけないな、混乱してる。落ち着かないといけないのはわかるけど、なかなかおさまらない。
「まず、この城の外で戦った魔物で、ゴブリンとか狼とか、その地下からやってくるの以外はいた? うん、いないよね。
じゃあ勇人くんに聞くけど、お城に入ってからインプ以外でなんか変なのを見たかい? 戦ったかい?」
「いや……ない、な」
「じゃあキミが想像する最悪の事態っていうのは可能性が低いんじゃないの? 違うかい?」
畳み掛ける深影。俺にはそれを一つ一つ吟味する余裕などなく、首を横にふることしかできない。
「ほら、大丈夫だ。強大な敵が新たに現れたりはしないし、敵の罠にかかっているわけでもない。それはキミの幻想だ。ボクが下手に煽ったのは謝るよ。ただ慎重になるのはいいけど、それはちゃんと理性の上でやってよ」
「それは……そうかもしれない。すまん、深影。ありがとう。みんなも無駄に不安にさせてごめん」
「いいともー!」
「弱くなっちまうときは誰にでもあるだろ。気にすんな」
「勇人くんが優しい証拠でしょ、謝る必要なんてないよ!」
みんな口々に励ましてくれる。ありがたいけど正直、ここまで責めてもらえないと逆に不安にもなる。本当に大丈夫なのだろうか。誰も実際は考えてすらいないんじゃないかって。先に進むのが正解なのか。
「ユート」
「バルダさん、どうしたんですか?」
「お前は、良い仲間を持ったな。お前を肯定しながらも、向き合ってくれる仲間だ。迷っているのなら、あいつらのことを信じてやれ。もっと言えば、あいつらの信じているお前のことを」
俺は咄嗟に言葉を返せなかった。全て見透かされていたことに恥を覚えながらも、俺を気づかってくれたことが本当にありがたくて。だから俺はまだ……そう、まだ「明上勇人」でいることができる。
「はい……ありがとうございます!」
気づけば俺たちは入口正面の大階段まで戻ってきていた。傍らには矢印の石塊がある。後ろからやってきた人が間違えないようにとおいたものだったけど、間違えたのは俺たちだったとは、笑える話だ。これはもうとっておいても意味がないか。
「文野さん、これ、壊してもらえる?」
「えー、壊しちゃうのー」
「いやとっておく意味がないだろ」
「いいんですか? 標しるべを残さないと上にはバラバラになってしまうかと思いますが。方向を変えれば再利用も可能なのでは?」
「いや、バラバラでいい。全員が全員戦えるのは、そこが広く、相手が巨大なときだけだ。
それに、楓たちのフォローにも行ってほしいから。増援はどっちにも欲しい」
「そこまで言うのなら、わかりました。“粉砕”」
さすがに素の能力だけじゃ壊せないとみたのか、アーツを使った文野さんだったけど、これ本当に必要だったのか……? 矢印は粉々、ついでに床にも相当なダメージが入ったみたいでヒビができている。建物に影響ないか心配だ。深影はこのパワーで日ごろから殴られているのか……俺も、彼女を怒らせないようにしよう。
結論は、優柔不断な俺の出したものらしい半端なものだった。これで全てが守れるわけではないし、逆に全てを失ってしまうかもしれない。この街も、人も、楓たちも、俺たち自身も。だけどどれかを選ぶことの方が、俺にはできなかった。これは俺の性だ、これを今どうにかする方が無理だろう。と、自分を強いて納得させる。今できる、精一杯だ。
「よし、それじゃ、行こ――」
「俺が来たぞぉぉおおう!!」
沈黙。
「来た…ぞ……? おーい。
……いや、すまん、本当なんか……すまん?」
「……いやまあ、駆けつけていただいたのは嬉しく思いますよ。エドガーさん」
砂埃を巻き上げながら、ヒーローチックな登場を果たしたのは隣国のトップにして現リルバ王国国王の実兄、エドガー=L=オブリーシュであった。相変わらずの熱量だ、うちの秀造といい勝負じゃないか。
「遅れてすまないな、間に合ったようで何よりだ。あのクソ弟をブチのめしてやるのは俺の役目でなくてはならんからな。
ちなみに、来たのは俺だけじゃあないぞ。ほれ」
後ろを見れば、3人の応援が。はは、噂をすれば、か。熱田秀造、熱き魂を持つ高校テニス界のプリンス(自称)。火術士である。火属性魔法は全六種類の属性魔法の中で最もダメージ量が多い。生活やサポートよりはむしろ、戦闘向きの魔法であると言える。
二人目は先生、武田克清。召喚された中で唯一の大人。ステータスは尖ったところはなく一般的な前衛であると言えるが、年上であるというアドバンテージ――安定したメンタルをどう活かすかを考えなければならない。
三人目、五十嵐仁。クラス内でも孤立気味の不良っぽいやつ。盗み等のシーフ的な動きを得意とする。しかし俺自身も関わったことが全然ないからよくわからないというのが正直なところだ。ぶっちゃけ助けに来るとも思ってなかったし……
「三人とも、ありがとうございます。
いきなりで申しわけないんですけど、早速頼みたいことがあります。たぶん秀造が適任だとは思うんですが」
「おう! まかせろ!」
「ありがとう。やってほしいのは純粋な魔物の殲滅。その舞台はこの城の地下だ。もう聞いたかもしれないけど外の魔物はこの城から出現している。その湧出ポイントがこの通路を進んだ奥の階段を降りるとある」
「オッケー。でもさすがに放置してるってわけでもないよな? どうなってんだ?」
「うん、これ以上街に魔物を行かせるわけにはいかないから、何人かに残ってもらってる。ただ正直、人が足りないから応援をお願いしたい。詳しい話は楓に聞いてくれ」
「了解! じゃあ早速、行ってくるわ!」
早くも駆け出して行った秀造。運動部で培ったスタミナとフィジカルは、他の魔法職にない強みだ。
「それでは俺はお前について行けばいいんだな?」
残った二人の片割れ、先生が尋ねる。
「はい、正直前衛があそこに行ってもできることは少ないと思います。
だからお前にもこっち来てもらいたいんだが、いいか五十嵐?」
「お前の命令は聞かねえ。だが俺をいいように使おうとした、そのお礼はしねえとな」
「それでいい、サンキュー」
「チッ」
ありがたい、本当に。何が待つかわからない以上、少しでも戦力は多い方がいいに決まってる。五十嵐だってあんなことを言ってはいるが、魔族を討ちたいという思いは俺たちと同じはずである。
「じゃあ、今度こそ。行きましょうか」
Skill
・[遠視]
遠くのものを見ることができる。[千里眼]の下位スキル。
Arts
・"蜃気楼結界"
そこにあるものを消し、ないものを作り出す[結界]スキルのアーツ。
幻惑魔法に近い性質を持つ。
蜃気楼とは言っているがその原理は蜃気楼とは程遠い。
・"粉砕"
鈍器を振り下ろし対象を破壊する[槌術]スキルのアーツ。
Spell
・"微光"
豆電球程度の明かりを灯す光属性初級呪文。
Monster
・ゴブリン
緑色の皮膚、子どもほどの背丈、同じく子ども程度の頭脳を持つ魔物。属性は闇。地球のGと近い扱いであり、「嫌なもの」の代名詞。一匹見かけたら30匹いると言われるが誇張ではない。メスは存在せず他種族と交配する。
・オーク
二足歩行の猪。属性は無し。ハイオークに比べて一回りほど小さく、そこまでの耐久力もない。
・ダイアウルフ
大型犬サイズの魔獣。色は青みがかったグレー。地球の絶滅種とは別物。
・スライム
粘菌類の魔物。属性は土。
その性質上物理攻撃に強い耐性を持つ。しかし魔力を付与するだけであっけなく倒れる。
異常なまでの適応力を持つ。
・ゴブリンライダー
厳密にはゴブリンと同種。他の魔獣・魔物に騎乗することを覚えた個体を便宜上このように呼称する。危険度はD。
・オーガ
ゴブリンが子どもだとすればオーガは肉体のピークを迎えた成人。鋼のような肉体に[身体強化]、[硬化]を付与することで凄まじい膂力を手にした。速さも併せ持つため搦め手を用いないと逃走すら困難。




