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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第32話 王都炎上

こんばんは。Soninと申します。

長く空きすぎたので自己紹介が必要かなと。


前回までのあらすじ

・王国と公国との戦争にはさせない!

・やっぱりみんな洗脳されているのか……

・深影は洗脳を解くことに成功した。

・よっしゃ黒幕にカチコミかけに行くか!


こうですね。ではどうぞ。

  Side:Mikage



 必死の抵抗虚しく、ボクはまた竜に乗せられ、空の旅を満喫してしまった。隣にいた文野サンも、ボクが弱ると途端に喜々としていじってくるのはやめてもらいたい。ボクは別にマゾじゃないんだから。……ホントだよ?


 そんなこんなで戻ってきた王都。久しぶりに観光でも、といくはずもなく。しかもなかなかにエキサイティングなことになってるみたいだ。闇を照らすのは魔力灯の明かりではなく、原始的な炎の光。照らしているのは魔物と人間の戦う姿だ。何が起きているかは分からないけど、何かが起きているということだけは分かる。ちょーっと来るのが遅かったかな?


 ただそこは勇者サマのカリスマ性の出番。竜に乗って颯爽と現れた勇人クンの姿は、王都に住む人々にとっては希望の光となる。いやまあ、街の人にこんな上空見てる余裕なんてないだろうけど。


「降りられる者は俺と一緒に来い! 着陸を待つ時間が惜しい! このまま地上へ飛び降りて、街の人を助けるんだ! 準備はいいな、俺に続けぇ!!」


 威勢よく飛び降りる勇人クンとそれに続く軽戦士職のみんな。重い装備の騎士なんかは飛び降りてもケガするだけだ。ボクも能力的には続くべきなんだろうけど……



「天霧君」



 ボクの名前を呼ぶ文野サンはボクの左手をギュッと握っている。マメもあるし力強くもあるけど、確かに柔らかい、女の子の手だった。


「どうしたの文野サン。もしかして怖いのかな? 大丈――」


「大丈夫ですよ天霧君。ですから、一緒に着陸を待ちましょう」


「……うん、そうだね」




 無事に地上へ降り立ったボクら。勇人クンたちはすでにこの辺りの敵をあらかた片付けていたようで、そこらに魔物の死骸が転がっている。仕事の速いことで。こっちは社長出勤なのに申し訳ないね。


「よし、全員揃ったな。もう戦闘は始まっている。これからは一人でも多くの命を救うことを考えて動くようにしよう。もちろん、自分の命もな。くれぐれも無茶はしないように。

 ここで一回解散するけど、最終的な目的地は王城だ。目安としてはあの時計台が10の刻を示すころ、城門の前に集合とする。けど、たぶんそう簡単に合流できないと思うから、各自の判断にまかせる。それでいいですか?」


「ああ、良い指示だ。それで行こう」


 バルダサンのお墨付きももらえたところで、ボクらもうなずいて答える。同時に月夜クンにも報告を入れておこうかな。おそらくこれが最後になるだろう。魔力消費の激しいこの念話の指輪、戦闘になってしまえば簡単につかうことはできなくなるはずだから。


「それじゃ、みんな行こうか!!」


 そう言って駆け出す勇人クンについていくのは十人くらいか。いつも彼の側にいるメンバーだ。バランスを考えろ、とも言いたくなるところだけど、いつものメンバーをそう簡単に分けるのは危ない。ましてやこのパニック、何が起きるか分かったものじゃない。普段通りが一番なのだろう。

 けれど、その理論で行くならば、だ。


「文野サン、行こう」


「はい」


 ボクが文野サンを連れて行くのもごく自然なことだよね? ボクを誘おうとしてたのか、文野サンをなのかは分からないけど、こちらを遠巻きに見ていたクラスメートには目もくれず駆け出す。文野サンが走りながら尋ねた。


「どちらを目指しますか」


「とりあえず勇人クンとは逆の方にしたけど、特にあてはないかな。文野サンなんかアイデアない?」


「先ほど上空から見たところ、火の発生源は北に、魔物は中心部にかたまっているようでした」


「ボクらの能力じゃ乱戦は不向き、サポートとか救出の方が向いてるか……よし、北側に向かおう。反対側で遠いけどしかたない」


「ええ、了解です」


 話しながら街中を駆けていく。途中で遭遇するのもゴブリンなんかの弱い魔物ばかりで、ボクが牽制し文野サンが殴るという流れで倒していく。かける時間と労力は最小限に。まだまだ初心者だったとき、センパイ方に教えてもらった鉄則だ。

 途中、騎士や冒険者が戦闘している場面にも遭遇するけど、問題なさそうなのでスルー。余計な手出しされる方が迷惑だよね、うん。ファイト☆



 魔物の発生源である王都中心――主に貴族サマの住居だ――を迂回し、南部を通って北部へ。北部は王都の掃き溜めとも言われていて、いわゆる浮浪者や裕福でない商人、生産者なんかが住んでいる。もちろん無法地帯なんてことはないけど、衛兵が来たがらないのも事実。おそらくは最初に火が上がったのもここじゃないのかな。知らないけどさ。

 そんなボクらの目の前にちょっと見過ごせない状況が。


「天霧君!」


「わかって、るっ!」


 子どもを追いかける3匹のゴブリンに、背後から投擲。1匹には運良く後頭部にヒット、血を吹き出し事切れた。残りの2匹もこちらを振り返り、向かってくる。うまく敵と認識してくれたかな。

 ボクと入れ替わるように前に出る文野サン。傷を負って動きの鈍ったゴブリンを頭から叩き割る。その隙をつくラスト1体だけど、残念ながらそれは隙じゃない。影に縛られて動けないゴブリンを、今度は豪快な横なぎで吹き飛ばした。ヒュウッ。


 周りを見回すけど他の魔物はいなそうかな。ボクは建物の陰から顔を出す少年に視線を移す。怯えた様子だけど、視線を外そうとはしない。あんな流血沙汰を見てこわくないっていうのは考えにくい。そういえば……


 ボクが近づくと、体を緊張させて、トテトテと走って行った。そしてまたボクを見つめる。ボクが近づくとまた走って行って。そんな鬼ごっこを何回か繰り返すと、焼け落ちた建物の近くに、一組の男女が倒れているのを見つけた。少年は迷わずそちらへ走る。少年の両親だろうことは想像に難くない。

 一緒についてきていた文野サンは、それを見た途端に慌てた様子で駆け寄る。遅れて近寄ると、その状況がどれだけひどいかがはっきりとわかった。我が子を守るために命を賭したのか。さぞやご立派な父親だったろう。

 女性の方はまだいい。頭を打って血が出てはいるけど、おそらくは気を失っているだけだ。ただ、男の人の方は左足が喪われている。膝上あたりから、これはおそらく切れ味の悪い刃物で無理やり叩き斬られたのか。未だ血は止まっていない。このままでは、そう永くない。


「文野サン、何をしようとしてるんだい?」


 [無限収納]から薬を取り出そうとしている文野サンに問う。分かっているはずだ。このレベルの傷を塞ぐだけの薬なんて、ボクらは持っていない。珍しく焦った様子で文野サンは答える。


「ですが……!」


「そんなことをしたところで無駄だよ。それは君の自己満足でしかない。あの子に下手な希望を与えることがあっちゃ、その方がかわいそうじゃあないのかな。助からないという事実は変わらないんだから」


「………」


 これが正論。現実だ。どこまでも正しく、そして残酷な事実。文野サンの助けたいという望み、それはきれいで、賞賛されるべきものだけど、それをできるだけの能力は残念ながらボクらにはない。ボクらは英雄でも、ましてや勇者でもないのだ。


「ねえ、この人たちは君のお母さんとお父さんなのかな?」


 目線を合わせて笑顔で聞くと、少年はうなずいてくれた。


「君を助けようとして、さっきのやつらと戦ったんだね?」


「…うん……大丈夫…?」


「そっか。ご立派なお父さんお母さんだね。キミは幸せ者だよ。

 たぶんしばらくすればお母さんは目を覚ますと思うから、そしたら一緒に避難するのがいいと思うよ。もうそろそろ騎士サマがこっちにも来てくれるはずだしね」


「うん……お兄さんたちも………助けてくれて……ありがとう……

 ……お父さんは……?」



「お父さんは、今のままだと死んでしまう」



「天霧君!! そんな言い方は…」


 声を荒げる文野サンを手で制する。やだなあ、ボクもそこまで鬼畜なつもりはないよ。


「……だけどね、どうやら君はとても幸運みたいだ。もう安心していいよ。彼女が来たなら、お父さんは助かる」


 そう言って、視線を遠くに向ける。こちらへ走って来る人影がかすかに見える。影はだんだんと輪郭を帯び、その集団の先頭にいるのがボクらのよく知る人物であることを示す。



「深影くーん! 智世ちゃーん!」



 手をブンブン振り回してボクらを呼んでいるのは、王都に残されたはずのクラスのマドンナ、御巫サンだった。手には杖を携えている。もともと公国への遠征には同行せず、王都に残っていた彼女が来たということは、残りの勇者の解呪も終わったんだろうか。まあ、その確認は後でいいか。今は人命救助優先だ。


「御巫サン、早速で悪いけどこの人たちの治療お願いできる? 特に男の人は一刻を争う」


「うん、任せて。“天治キュア”」


 御巫サンが祈るように、その手に持った杖を掲げて唱えると、天から降りてくるまばゆいばかりの光。あたたかさを携えたその光が男性の体を包み込むと、細かい傷はみるみるうちに消えて、肝心の左足の血も止まっていた。高難易度呪文を当然のように詠唱省略か、さすがは治癒魔法のプロだ。



「よし、できたよ!」



 なぜここにいるのか、洗脳はどうした、なんて野暮な質問は無しだ。文野サンと、この子と。二人の純粋な願いが呼び起こした小さな奇跡が、一人の命を救ったんだ。



「……ありがとう……もう一人のお姉さん……ありがとう…」



「ありがとうございます、御巫さん」



「んーん、いいんだよ。困ってる人がいて、自分が力になれるなら、助けてあげるのは当然だよ!

 だから、君が将来そういう場面に遭ったら、君が助けてあげてね!」



「……うん…!」



 さすがは御巫サン。まっすぐな言葉っていうのは、大人になるにつれて使える人が減っちゃうからね。小さい子にその言葉が届くっていうのは、ものすごいことだ。ピュアッピュア。

 傷が塞がると、男性はすぐさま意識を取り戻したみたいだ。



「う……ここは………そうだ、ティオは!!」



「お、お父さん……!」



「ティオ…ティオ! 助かったのか……よかった………!!」



「うん……お父さんと、お母さんと、お姉さんと、お兄さんが、助けてくれたから………」



 そこまでしてようやく周りに人がいることに気づいたらしく、目をぱちくりとさせている。現在の状況に思い至ったのか、咳払いを一つ。



「ゴホン……。この度は、私たち家族を救っていただき、本当にありがとうございます。このお礼は必ず……」



「そんなのいいのに〜」

「ええ、人々を守るのは私たちの義務ですから」



 うーん、この発言を本心から言ってるのがまたすごいよねえ。王城で勝手に舞い上がってた人たちよりも、彼女らの方がよほど絵に描いたような善人、ヒーローだ。いまいち得心いっていないようなので補足しておきますか。



「ボクら、勇者ですから」




  ◇◆◇




 その後も何人かを魔物から救ったり治療したりして、時が経つのを待つ。勇人クンたちが王城に侵入するそのときを。ボクと文野サンだけでは敵の本拠地に殴り込む実力が足りていない。だから、脇役は脇役らしく、勇者が通った後をついていくつもりだ。その方がボクらしいでしょ?



 先ほど合流した御巫サンにも話を聞いてたんだけど、非戦闘系スキル持ちで王都に残されたクラスメートの解呪は御巫サンがやったらしい。治癒魔法での精神汚染解除ってできたっけかな。月夜クンのガイドブックに呪文の一覧が載ってたけど、あれを全部覚えるようなスペックはボクにはない。御巫サンがそう言うのなら、きっとそうなのだろう。

 御巫サンの話が本当なら、他の人たちは勇人クンや他のみんなとの合流を図るだろうとのことだった。これで洗脳された人を人質に取られる可能性もほぼなくなったわけだ。ファインプレーだよ、御巫サン。



 王国騎士もだんだんと増え、魔物もあらかた片付いてきたかと思ったそのとき、燃えさかる街に轟音が響いた。方角的に、都の中心部からだ。


「文野サン、たぶん今の!」


「はい、急ぎましょう」


「あ! 置いてかないでよー!」


 御巫サンが連れてきた騎士サマたちは置いて、三人で走る。城近くで待機してたおかげで、城門はすぐに視界に入ってきた。嘘だけど。そこにあるはずだった門は壊され、入り口には大型の豚サンが倒れていた。飛べない豚はただの紅豚ってね。

 勇人クンたちも随分と派手にやってるねえ。あれが門番だったのかな? そしたらもう入れるって感じでよさそうだ。


「うわぁ、すごいね! あの豚さんをやっつけたのって誰なんだろ? 楓ちゃんかな!」


「村雲サンってそんなに力強いの? それとも強力な魔法とか……」


「わかんない!」


「あ、うん。そっかー。

 あの痕跡だと火魔法、土魔法はなさそうだね。そしてあのハイオークと分厚い門をまとめて吹き飛ばすんだから、使ったのは水魔法かな? 近接戦は、どうだろ……」


「へー……みんなすごいんだね」


「何言ってるのさ。御巫サンだって治癒魔法があるじゃない。あれほどのものはなかなか見られないよ。ねえ、文野サン?」


「…えぇ、そうですね。自信を持っていいと思いますよ、御巫さん」


「うん、ありがとうね。二人とも」


 御巫サンなぁ……今を生きるJKとしては怪しいんだよね。ここまで純粋で、そして隙だらけなのはおかしい。真正のお馬鹿サンなのか、裏の顔を持っているのか。少なくともボクが確認する限りは嘘をついている様子もないけど……注意はしておきたい。

 もしもボクらに、月夜クンに害をなそうというのなら、そのときは……


「さ、ここからは敵も強くなるかもしれない。御巫サンはボクと文野サンで守るから、回復は頼んだよ」


 ボクらは魔族の本拠地へと、足を踏み入れた。



 城内は構造が改変されて魔王城と化している、なんてことはなく、ボクらの記憶にあるネスカ城とそう変わりない。強いて言うなら、灯りが乏しくわかりにくいけど、魔物が通って行ったせいだろうか、城内は汚れ、一部破壊された部分が見える。

 その汚れは、道標となって奥の方へ続いているみたいだ。これを辿れば魔物が出てきたところに行けるってことだよね。勇人クンもこっちに進んだはずだ。


「明らかに何かが通った跡がありますね」


「うん、壊されてるのはさっきのデカオークじゃない? ちょっと屈めばいいのに、無理やり通ったんだろうね。魔物の発生源がこの先にあるのかな。こっちに進むことに異議は?」


「ありません」

「いぎなし!」


「じゃあそういうことで」


 正面の大階段はスルーして奥の廊下の方へ歩き出す。勇人クンもこっちを選んだだろう。これは推測ではなく確信だ。それなりに付き合いのある勇人クンの考えを読む程度、ボクには朝飯前だ。


 大所帯の勇者パーティに比べてボクたちはたったの3人。それもひ弱そうな人間ばかりで、向こうからしたら狙い目だろうねえ。何かが飛んでくる気配。何かって? 敵──



「来るよ!」



 前方の天井の方から飛んできた、10センチほどのそれは、手に小さな槍のようなものを構え空中を突進する。


「キシィッ!」


「インプだ! 魔法くる!」


 ガキンッッ!


 ボクは投擲用のナイフではなく短剣を取り出し、攻撃を()()()()()。……ボクだって、遊んでいたわけじゃない。公国にいるとき、月夜クンに散々指摘された悪い癖。近接戦闘で腰抜けになっちゃうのは、少しづつだけど克服しつつある。いつも前衛を文野サンに任せて遊撃、というわけにもいかないし、何より、そんなのはみっともないと言うほかない。この程度の攻撃なら力負けすることもなく、防ぐのに問題はない。


 それよりも気をつけるべきは、遠距離からの魔術だ。インプは最下級の悪魔に分類されるが、その小狡さと複数体での連携で魔物らしからぬ戦い方をする。今回も、急に現れた一体に気を取られている内に──


「キシェ!」

「キエェ!」

「シェェック!」


 案の定、来た。

 飛んできたのは闇球、飛石、火球の呪文。ボクはもう一体を抑えているから処理はできないけど、次の動きを予告されていた文野サンはもう次の動作に移ってる。文野サンはボクと競り合っているインプをメイスで殴りつけ、火球の方に飛ばした。殴られたインプは当然避けられるはずもなく、被弾。これで一番威力の高い火球は無効化。

 動けるようになったから、即座にボクは魔法を使う。発動したのは[影魔法]の影縫。影を留めることで対象の動きを封じる呪文だけど、今回はこれで宙に浮いた石の運動を停止させる。打ち出す系の呪文は、一度でも止めてしまえばもう飛んでこないことは知っている。魔力ももったいないし、一瞬だけ止めて解除すると石はその場にころころと落ちた。


 最後の闇球はダメージの発生しない呪文だし、避けるよりも反撃を優先させる。再びナイフに持ち替え三本同時に投擲。超速の処理に驚いていたインプたちは反応できず、命中、命中、命──外した。闇球を放ったやつだけはずれてしまった。まだまだ甘いか。チェッ。


 そうしてボクは真正面からまともに闇球を受ける。この呪文の効果、それは触れた部位の感覚を封じることだ。右目に当たった拳大の闇球は、ボクの視界を奪ってしまう。だけどもう関係ない。だって──


「フンッ!」


 脳天から振り下ろされたメイスが、インプを文字通り潰しているから。グチャッとグロテスクな音を立てて、インプは絶命した。さすが文野サン、返り血も気にしないその姿、男らしいね。


「二人とも大丈夫!? ケガしてない? 智世ちゃん、その血……!」


「問題ありません。魔物の返り血です」


「ごめん、ボクの方治してもらえるとありがたいかな」


「あ、ごめんね! “快癒(リカバー)

 智世ちゃんもそれきれいにした方がいいよね、“清浄(ピュア)”」


 ボクの方は状態異常を治してもらっただけだから、あらためて治癒魔法の有用性を思い知っただけだったんだけど。文野サンに使った呪文は正直度肝を抜かれた。だって、そんな呪文は見たことも聞いたこともなかったから。


「ありがとうございます……御巫さん、一つお聞きしたいのですが、その呪文は…?」


「ん? “清浄”のこと? キレイにする魔法だよ!」


「いえそうではなく……」


「御巫サン。それってもしかして、オリジナル?」


「あ、うん。私が作った魔法だよー。便利じゃない?!」


 便利、うん、そりゃ便利なんだけどね。風呂や洗濯なんかもなく、現代人にとっては原始的とも言える旅をしてきたボクら2人にとって、MPを余計に消費してそんな呪文を使うっていうのは、なんというか、抵抗がね……。そんなことするなら魔力温存して有事に備える。冒険者の常識だった、はずなんだけど。

 眼の前で何気ない表情をしてる御巫サンを見てると、自分を疑いたくなるよね。常識にとらわれないのは主人公の特権か……。さすが勇者パーティの正ヒーラー。


「どうしたの? 早く行こうよー」


「あ、うん。そうだね」


 呆然としていると、御巫サンに急かされてしまった。確かに、今は先に進むことが優先か──


「──い。おーい! 深影! 文野さん! 彩星! よかった、合流できた!」


 前方の暗がりからボクらを呼ぶ声。その主は──



「やあ、勇人クン」





Vocabulary

・王都ネスカ

リルバ王国の首都にして最大の都市。国のおよそ中心に位置し、周囲には草原が広がる。都市は住民層に応じて区画が分けられており、その境界は越えないのが暗黙の了解となっている。



Spell

・“天治(キュア)

治癒魔術の上級呪文(スペル)。対象の傷を癒す。


・“闇球(ダークボール)

闇属性魔術の下級呪文。当たった箇所に暗闇状態を付与。


・“飛石(ストーンショット)

土属性魔術の下級呪文。こぶし大の石を飛ばす。


・“火球(ファイアボール)

火属性魔術の下級呪文。こぶし大の火球を飛ばす。


・“影縫(カゲヌイ)

黒影魔法の中級呪文。対象を影で縛り動きを封じる。


・“快癒(リカバー)

治癒魔術の中級呪文。対象の傷を癒す。


・“清浄(ピュア)

治癒魔法の呪文。御巫彩星のオリジナル。対象を清潔な状態にする。



Monster

・インプ

悪魔系のモンスター。属性は闇。見た目通り力は弱いが、下級魔術とずる賢さにやられる冒険者は多い。

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