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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第31話 帰還

こんばんは。気づけば10月になっていました。体調崩しやすい季節なので気をつけたいですね。


前回までのあらすじ

・深影の口八丁!

・ゆうしゃ は しょうき を とりもどした!

・ヴィンデミアで合流


こうですかね。ではどうぞ。

  Side:Tsukiyo



 暴走した天霧は無事勇人たちの洗脳を解き、ヴィンデミアに戻ってきた。言いたいことはたくさんあるが、その役は文野に譲ることにしよう。たっぷりと()られるがいい。


 夜も深まり、勇者御一行は宿に案内された。さすがに40人分の部屋はフィリップさんの屋敷にはない。みんな寝静まっているころだろうか。進軍の疲れはそう簡単には取れないだろうし、きっと夢の中だろう。明日に備えて英気を養ってくれ。


 そう、明日。いよいよ、王国公国の合同軍は王都に向かう。再会したときにひと悶着あったものの、エドガーも、シェリーさんも、バルダさんも、誰しもが同じ希望を抱いている。魔族から王国を取り戻すのだと、その情熱は止められない。歴史的事件のその前日の晩に、俺はといえば。




「はい8切りからの7を3枚で〜す! 上がり〜」


「大富豪とかマジクソゲーやんけ! もうやめやめ。天霧とトランプやっても何も面白くねえわ」


「うわー月夜クンひどーい。ボクのガラスの心は傷ついてしまったよ。

 ねえ、勇人クンもそう思うよね?」


「深影とやってもおもしろくないっていうのは同意しかないだろ……。もう一回聞くけど[読心術]なんて持ってないだろうな?」


「持ってないって言ってるじゃない。ハハハハハ。月夜クンが確認したの、信じてないのー?

 っていうか勇者がそんなこと言っちゃうんだー。うわー。勇者うわー」


 結論。大富豪はクソゲー。大富豪の前にもババ抜き、ポーカー、ダウト、七並べなどなどやってみたが、一度として天霧に勝てることはなかった。神経衰弱の提案は残念ながら秒で却下されましたとさ。チッ。


「にしてもこの三人で集まるの久しぶりだよな、何日会ってなかった?」


「初めて迷宮に潜ったときに月夜クンが()()()()()()からね。あの前夜が最後だろうから……」


「43日ってところか。……あ?」


 声をあげる俺に首をかしげる二人。いや、うん。やっぱそうか。早く答えろと視線で先を促してくる。


「あーいや、たいしたことじゃないんだが。明後日でたぶん17になるわ、俺」


 こちらの暦では、1年が30日×12月の360日。地球とだいたい一緒のおかげで、俺らは時間感覚に関しては困っていない。加えて言えば、日付もほとんどズレがない。パルティアへと召喚された日、スマホの日付は7/3を示していたし、こちら側の日付は7の月の3の日であった。

 その計算でいくと、二日後、日付は10の月の15の日を示し、ステータスの年齢の欄が17に変わるであろう。


「誕生日!? こりゃめでたい! 祝わなきゃ」



「「はっぴばーすでーでぃあつきよー

 はっぴばーすでーとぅーゆー!」」



「ええい二人そろって夜に騒ぐんじゃねえ! それでも勇者か! しかもまだ!」


 やるならやるでもうちょい真面目にやってくれよ……。そうすれば素直に喜べたものを。


「しかたないだろ、月夜。まさかもう一度君とこうして笑い合える日が来るなんて、思ってもなかったんだから。テンションが上がっちゃうのはゆるしてくれよ」


 そう言われてしまえば、こちらは何も言えなくなるわけで。


「……その件に関しては、悪かったと思ってるよ。すまん、勝手な行動をとった」


 俺は居直って頭を下げた。正直あそこまでの慎重策をとる必要はなかったと、今となっては思える。そのおかげで得たものも確かに多いが、こいつらをないがしろにしたのも事実。他人を顧みない人間は、俺の目指すものではない。


「ホントだよ〜たいへんだったんだからね。これは貸し一つ、かな?」


「お手柔らかに頼むぞ……」


 顔を上げればいつものように笑みを貼り付けている天霧の姿があった。まーたこいつに貸しを……っていうか。


「いや待て、天霧も途中で明上に押しつけたし同罪じゃね?」


「あ、バレた? さあ勇人クン、ボクらに貸しをつくれる機会なんて滅多にないよ! 君は何を言いつけてくれるんだい!」


 そう言って、二人して明上の方を向くと、そこには依然としてシリアス表情の勇者様がいた。


 ……。


「……そんなもの、要求する権利は俺にはないよ。魔族の策にまんまとはまり、勇者でありながら人々を傷つけた。こんなやつ、勇者を名乗る資格もない……」


「……そうか」


 やはり、自責の念にかられるか。明上はただでさえ責任感も人一倍なのに、理想の「勇人」たらんとしている。今回の一件は、許せるようなものではない。これはこいつの美徳であり、同時に悪癖だ。

 だが、そんな都合は俺の、俺たちの知ったことではない。なんと言葉をかけようかと思っていると、天霧が口を開く。


「逃げるのかい、勇斗クン。許されないのは君らが勇者を辞めることだ。今回魔族に踊らされなかった勇者はたったの三人。その理論でいくと、38人が勇者を辞めなきゃいけなくなるけど? ボクらだけで魔王を倒すなんて現実的じゃないと思うけどなぁ〜」


「逃げだって? そうじゃない。俺たちが戦いに参加するよりも月夜一人でやった方がうまくいくんじゃないか? 俺の存在なんてちっぽけなものだ。

 それと、その名前はやめてくれと前にも言ったはずだぞ、深影。俺は、()()だ」


「勇人だって言うんならちゃんと「勇者」をやってくれよ。君のそれは逃げだ。失敗から、勇者という重責から逃れようとしているにすぎない。魔王を倒すのは、【勇者】である君の役目だ。君がやらなくちゃいけないんだよ」


「……っ!」


「反論がないならボクの勝ちだけど?」


 激しい口論。明上にも同情の余地はあるが、天霧の言も正しい。やる気もなく押しつけられたのなら完全に被害者であるが、明上は【勇者】の称号を「勇人」であるために利用した。そのツケは払わなければならない。


「あんまり無駄に煽るんじゃねえよ天霧。イキりたいんなら他所でやれ。

 んで、おい勇人」


 俺は呼びかける。


「お前は今回やらかした。大勢に迷惑をかけた。これは事実で、覆ることはない。

 だが、だからって、全てを打ち捨てることはできない。お前は勇者だからだ。お前にできることは、これから現れる脅威を打ち払い、目の前に苦しむ人々を助けてやることだけだ。後悔に引きずられている暇なんてないぞ」


「分かってるよそんな「ただ」……ただ?」


 深呼吸。


「ふぅー。……俺らの前くらいは弱音も吐いていいんじゃないかって、思うよ。少なくともな」


 俺にとって、こいつらは他のクラスメートとは違う。具体的にどう違うか、説明しろと言われても困るけど。こうしてわざわざ生存報告をするのは相手が明上と天霧だからで、洗脳を解いた他のやつらにはまだ隠すつもりでいる。きっとこいつが友情だとか、()()だとかいうやつなのだろう。


 しばらくの静寂。恐る恐るといった風に口を開く二人。


「「……月夜クンがデレた……!?」」


「いや別にデレてはない」


「だって今、泣くなら俺の前で泣け、って……」


「言ってない、言ってない」


 野郎にデレてたまるか。デレさせたいんならヒロイン連れてこいこのヒーローモドキが。


「やっぱり、月夜クン変わったよ。ねえ、勇人クン?」


「ああ、今ので実感した。いい変化だよ、きっとね。

 二人とも、ありがとな。弱音吐いてすまん。もう大丈夫だ。俺は勇人だから、勇者として、ちゃんとするよ」


「よ! 世界一!」


 そんなに俺は変わったのだろうか。自分のことだからあまりわからないが。この数カ月、いろんな人と会って、いろんなことを知った。願わくば、この変化がいいものでありますように。


 勇人もある程度は吹っ切れたようだし、あとは戦うだけだ。決戦はいよいよ明日。ついにここまで来たんだ。絶対に成功させてみせる。


 勇人の目に光るものがあったことは、最後まで誰も触れなかった。




  ◇◆◇




 王都についたころには、すでに日が落ちていた。勇者たちと合流するつもりのなかった俺は、エドガーに頼んで後続の騎馬隊に紛れさせてもらった。ワイバーンの背に乗るのも憧れたが、今回は諦めるとしよう。やはり亜竜と言っても竜は竜。馬とは比べのにならない速さで、王都にたどり着いたようだ。

 先行した勇者たちが準備を整えていて、あとは王城に突入するのみ。……というのが理想だったんだがなぁ……


「よっ」


「ガギャッ!」


 手にした剣で首を掻っ切ると、小鬼(ゴブリン)はあっけなく絶命した。

 辺りを見回せば、あちこちで炎が上がっている。耳をすませば人々の悲鳴だって……


「ッ!」


 戦っている騎士の背後から襲いかかろうとしていたオークに小剣を投擲。右腕に傷を負ったオークは持っていた棍棒を落としてしまう。それに気づいた騎士は相手取っていたゴブリンにシールドバッシュ。すぐさまオークの両腕を切り落とした。


「ありがとうございます!」


「いえ、それより俺はそろそろ王城へ向かいます! あとは任せました!」


「はい、我々にィッ! ら”ぁ”!! お任せください!」


 手を止めず答えてくれる隊長のシモン。ヴィンデミアから駆けつけてくれたフィリップの私兵、その統括である。騎士団だけでなく、Bランクパーティー『黄金伝説』も契約更新して来てもらっている。人々を助けて回るように指示は出した。報酬の分は働いてもらわないと。ま、フィリップの金だがな!


 それよりも、この状況だ。天霧に念話で聞いてはいたが、街中に魔物が溢れかえっていて、街はもはやカオスを極めていた。ゴブリンやオークなんかが多く、そこまで強くないのはまだ救いか。これならそれなりの実力があれば対抗できる。こいつらの共通点は王都近辺に生息する魔物だということくらいか。まったく、とんだバースデープレゼントをよこしてくれたもんだよ。

 聞くところによると、その発生源は王城だという。すでに勇者たちは魔物を倒しながら王城へ向かっているはず。俺も急がないと……


 混雑を避けるため、[軽業]を使って屋根伝いに王都の中心部を目指す。[万里眼]を駆使しながら情報を集める。王国騎士、冒険者、公国騎士、区別されることなく怪我人が運ばれているのは……教会か。

 透視で中を覗けば、多数の治癒術師が治療にあたっていた。御巫はいない、か。あいつは王都に残されていたから、治癒に専念してるかと思ったんだが。王都に残された組の解呪はどうなってんだ? さっきそれらしいのが魔物と戦っているのは見たから、勇人も作業を進めてるって感じでいいんかね。あーくそ、天霧にもう一回くらい連絡くれって言っときゃよかった。


 城から魔物が溢れ出してるっていうんだから、九分九厘この件の主犯たる魔族のせいだと思っていいだろう。ただ、これまで巧妙にその姿を隠していたのに、何だこれは。隠れる理由がなくなった? 向こうは目的を完遂したのか、あるいは……俺らが戻ってきているのがバレたか。そうだとすれば、相当まずい。裏切り者の可能性を、考慮に入れなくてはならない。

 クソ、どうする。伝えに行くのか、静観か。ここまでやって来たのに、全てを無駄にするような真似はしたくないが……。判断は後回しだ、現時点で何か起きてないか一回確認したい。


 足は止めることなく、知ってるやつの姿を探していく。どこも別段やばいことにはなってない、か。裏切り者がいるってのが杞憂なら、それが一番望ましいんだけど……おっ。

 城門の前に、また別のクラスメートの姿が見えた。交戦中の騎士たちに加勢しようとしてるようだ。城の門を守護するかのように構えるのは単体でAランクと判断される大型の魔物、ハイオークだ。紅色の皮膚は硬くその中も分厚い脂肪に守られていて、かなりの防御力を誇る。[痛覚鈍化]で怯むことなく、[剛力]で強力なカウンターを放つパワーファイター。門番にはもってこいだ。


 実際、王国騎士が城の中へ入るため、ハイオークに攻撃を仕掛けてはいたようだが、ダメージというダメージを与えることすらできていなかった。少なくともレベル40前後の一平卒じゃあ、まともな戦いにすらならないだろう。

 重症が出ていないのは、敵が攻めてこないからだ。騎士たちも馬鹿ではない。無理やりに押し通ろうとはせずに、間合いをとりながら槍でチマチマ攻撃している。門を守らなければならないのなら、下手に動くことはできない。こいつの使い方としては大正解だ。役割は殲滅ではなく時間稼ぎか。やはり何かしらの目的がなされようとしてるのか?


 だがその豚も運が悪かった。やってきたのは勇者の中の【勇者】、明上のチームである。ただしいつものメンバーより増えている。途中で他のチームと合流したと見るべきか。なかなか見ない組み合わせでおもしろい。


 いくらAランクモンスターと言えども、明上たちの前ではもはや時間稼ぎにもならない。加えて、自分からは動くことができない状況では、勝算は消え失せた。

 マジシャンが同時に叫ぶ。


「“火槍(ファイアランス)”!」

「“岩弾(フロンド)”!」

「“落雷(サンダーボルト)”!」


 遠距離から一身に魔法を受けるハイオーク。かなりの威力のはずだが少しよろける程度。しかし勇者のターンはまだ終わらない。


「喰らえッ! [投槍(ジャベリン)]!」


 陸上部、渡辺の放った槍は凄まじい速度で動きの鈍ったハイオークへと迫る。そのまま抵抗を感じさせない勢いで、腹に大穴を開けてしまった。さすがはやり投げの選手。良い一撃が入った。

 ハイオークと言えどもそれだけのダメージを食らえば立っていることもできず、膝をついた。痛みがなくとも身体の機能は落ちる、当然である。明らかな隙、だがそれが誘いである可能性も考慮に入れれば。


「ラスト頼んだ!」


『一切を押し流す蒼き力、一つになりて彼の敵を穿たん。“水圧砲(ハイドロカノン)”!』


 距離を詰めずの魔法。この場における最適解。

 水圧砲は水属性魔法の上級呪文。圧縮した水を打ち出すという単純なものだが、単純だからこそその魔力を多く消費するとき、その威力は破城槌にも匹敵する。

 しかし、まさかこいつらだけでも上級呪文を扱えるとは……正直予想外だ。制御を術式に任せてる分、バカみたいに消費魔力が多いはずなんだが。清水、そして松本。二人であれだけの威力を出す魔力量、技術には感心する。勇者側の戦力は上方修正、かね。


 真正面からモロに食らった紅の豚は背後、すなわち城門へと押し戻され、門はその質量に耐えることができず破壊された。ま、鍵かかってたかもしれないしこれはこれでいいか。どうせ復興しなきゃいけないんだ。今さら壊すのを躊躇ってもしかたない。


「よし! 門番も倒したことだし、王城の中に入るぞ! 目的は王国の奪還だ。この城も、街も、民も、王も、全てを取り返すぞ!!」


『ゥオオォ!!』


 勇者の口上、ずいぶんと様になってるじゃん。あいつらは、俺が力を貸すまでもないだろう。うまくやれよ……なんつって。何様だっての。このレベルなら戦闘はおそらく問題ない。あいつらを信じて、俺は隠密に徹するとしますか。


 かつてのクラスメートが城の中へ入っていくのを見届けると、俺は城の外壁からの侵入を試みようと、満月の夜空へ飛び上がった。


Skill

・痛覚鈍化

痛みを感じにくくする。傷つきにくくなるわけではない。


・剛力

人の域を超えた力を発揮する。[怪力]の下位スキル。


・投槍

槍を扱う際に少々の補正。槍を投げる際に威力、命中ともに大きく補正。また、投げた槍を任意で手に戻せる。


Spell

・火槍

槍状の炎を相手に飛ばす火属性中級呪文。


・岩弾

尖った岩を生成し相手に飛ばす土属性中級呪文。“飛石”の上位呪文。


・落雷

相手の頭上から雷を落とす中級呪文。


・水圧砲

圧縮した水を勢いよく相手に向かって噴射する水属性上級呪文。


Monster

・ハイオーク

二足歩行する猪のような魔物、オークの上位種。血のように赤いことから一部地域ではブラッディオークとも呼称される。STRとVITの高いパワーファイター。

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