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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第25話 出陣

はい、お久し振りです。ついに8月になっちゃいましたね。……7月に投稿しないまま。



ホント申し訳なく思ってます! すみません! 代わりに文字数増えたりもしてません。本当にごめんなさい!


と、謝り倒したところで毎回恒例(暫定)前回までのあらすじ!


・国王「公国潰せ」勇者「おk」

・王国騎士団「うわぁぁああ!!」

・勇者たち「うわぁぁああ!!」

・団長「寝ない子だぁれだ?」


こんな感じですかね?

正体不明の襲撃者……いったい誰なんだ?



では、本編をどうぞ。


  Side:Mikage



 俺のターン! ドロー!!




 ……ごめん、でもやってみたかったんだ。許して?




 引き立て役ことボク、天霧深影はシェリーさんに頼まれて()絶賛戦時中であろうヴィンデミアに向かうこととなった。目的は緊急事態への備え、万が一何かあったとき月夜クンをサポートすることだ。……建前上はね。

 実際の目的は勇者サマ方の洗脳を解くことだ。探してはいるのだけど、精神汚染を取り除くことのできる光属性系列のスキルを持つ人材、その見つかる目処が立ちそうにないのだ。

 ……なんでボクにお鉢が回ってきたんだろうか。そんなの、ボクのスキルじゃあどう足掻いても無力なのに。今唯一可能性があるのは月夜に丸投げすることだ。相変わらずのチートの権化に。


 ホント、ボクは何のために行くなんて言っちゃったんだろう? 何故だかあのときはシェリーさんの頼みを断れる気がしなかった。……ちょっと違うかな。断る気が起きなかった、が正しい。

 なんて言うのかな……カリスマ? うん、原因をあえて言葉にするならそんな感じだ。



 さてさて、実はあれからあまり進展はない。言質を取られて、しばらくの間待機を言い渡された。そんなわけで再び部屋に逆戻り。

 普通だったら少しイライラもしてしまうんだろうけど、今ボクにはそれを気にする余裕がなかった。


「あなたがそこまで愚かだったとは思いませんでした。天霧君」


「いやいや、それも仕方ないと思うよ。何せ、ボクらはまだ知り合ってから2ヶ月弱。そんな短い期間で相手のすべてを推し量るなんて――」


「天霧君。私は今真剣に話しています」


「……はい」


 怒られちゃった。反省。


「そもそも、あなたたちは命を軽んじ過ぎています。戦場に出るということをもっと考えてください。もう子ども心でいることは許されませんよ」


 子ども心と来たか。憧れ、夢想、高揚……そんなものをボクらが抱いているとでも思ってるんだろうか? 男の子だから? ボクにそんなまともな感性が残っているとでも?

 それは偏見が過ぎるというものだ。男だからって決めつけるのは良くない。文野サンは正しくあることを心がけているようだけど、非常に頭は堅い。「こう」と決めたらなかなか考えを曲げないタイプだ。頑固とも言う。


 それに文野サンはそう言うけど、ボクは命を大事にしてないわけじゃない。もちろん死にたくないし、痛いのも勘弁したい。それでもさっき断れなかったのは……なんでだろ? 洗脳でも受けたかな? なんちゃって。


「いや、軽んじてるわけじゃないんだよ。ただ、あの人の頼みを断るに断れなかっただけで……」


「それは……もっともです。確かに受けた恩を仇で返すわけにはいきませんが……」


 あ、そう捉えられるのか。今の状況。言われるまで完全に気づかなかった。

 ただそういう打算抜きで断れなかっただけなんだけど……黙っておこう。今それ言うとめんどくさそうだし。


「そう、ですね。すみません、言い過ぎました」


「いやいや謝んないでよ。ボクの考えが足りなかったのも確かなんだしさ。

 はい、この話題終了!」


「わかりました……天霧君がそう言うのでしたら……

 しかし天霧君。ヴィンデミアに行ってクラスの人たちの洗脳を解くという話でしたが、何か方法はあるのですか?」


「ああ、それは―――」




 コンコン。


「失礼します。アマキリ様、フミノ様、ヴィンデミアに向かう準備が整いましたので、こちらへ。ご案内いたします」



 自信満々に丸投げすることを話そうと思ったら、ボクらを呼びに来た使用人の人に遮られてしまった。……本当に盗み聞いたりしてないんだよね? 狙ってやったとしか思えないタイミングなんだけど。


「分かりました。すぐ出まーす」


 ハァ……ついに来ちゃったか。行きたくないな~戦いたくないな~……ケガしたくないなぁ……


「天霧君」


「分かってるよ。後でちゃんと話すから、それでいい?」


 文野サンと行動を共にするようになってから、およそ2ヶ月弱。さっきは「たった」2ヶ月と言ったけど、「もう」2ヶ月とも言える。

 まあ何が言いたいかというと、文野サンの行動とか考えが多少読めるようになってきたっていうことだ。以心伝心とはいかないまでも、同じ戦場をくぐってきただけあって言葉を交わさずとも意志疎通は可能なレベルだ。……たまにひどい勘違いもあるけどね。


 その経験と照らし合わせると、文野サンはボクの考えを知りたがっているのだろうと予想がつく。文野サンは決してボクの立案を安易に信用しない。絶対に自分で確かめてからそれを実行に移すかどうか決める。

 それについて、もっと信用してほしい、とは思わない。むしろ頼もしさを覚えるくらいだ。これは信用するか否かの問題じゃなくて、生き延びるための心構えの問題だから。



 ボクの言葉を聞いた文野サンは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに真顔になって答えた。


「ええ、構いません。

 それでは、向かいましょうか」


 そう言って、文野サンは気負うことなく使用人の男性についていく。……まったく、ボクなんかよりもよっぽど勇ましい。


 ホント、頼もしい限りだよ。




  ◇◆◇




 ついて来いと言われたままに歩くこと数分、目的の場所にたどり着いたらしい。しかしまあなんというか……


「何か用か?」


「エルバン侯爵様の命令で、アマキリ様、フミノ様をお連れした。通してくれ」


「ああ、了解した。侯爵様からすでに聞いている。

 ――どうぞ、お二方。進んでいただいて結構です」


 ……すっごく物々しいんですけど。


 薄暗い通路の先にたどり着いたのは厳重な扉だった。しかしすごい違和感がにじみ出ている。

 まず、ここに来るまでの通路なんだけどさ。なんというか、使われている感があんまりなかったんだよね。掃除もそんなにされてないみたいだったし。


 それが今はどうだろう? 扉の前には武装した人、人、人。活気に溢れているってわけじゃないけど、うーん……こう、厳粛って言葉が似合う雰囲気だ。兵士サンたちの間にはピリピリとした緊張感が漂っている。


 もうね、ヤバイってことだけはひしひしと伝わってくるよね。これ扉をくぐった瞬間に魔法をぶちこまれるとかないよね? ……ないよね?



 文野サンは会釈をしてスタスタと先へ行ってしまう。あ、待って。ここで置いてかれるのはつらい。


 急いで文野サンを追うボク。追いつく直前、並んでいた兵士サンの内の1人に耳打ちされた。


「――気をつけて」


 ……言われなくても。


 ようやく追いついて、文野サンと横に並んで扉をくぐる。その先で待っていたのは―――




「グルァァアアアアアア!!!!」




 ――――。



 ――――――。



 ボクらは。

 その光景を目の前にして。

 一切言葉を発することができなかった。



 それは力の象徴であり、

 ファンタジーの代名詞であり、

 生物の頂点に君臨する存在。



 すなわち―――



「―――ドラゴン……!!」






 そう、ドラゴン。竜だ。ゲームとかで出てくるのと似たような容貌をしている。くすんだ銀色で包まれた体表、背には大きな翼。10メートル近くもある怪物が何匹もいる光景は圧巻の一言だった。


「その様子だと、ドラゴンを見るのは初めてみたいね。驚いてもらえたみたいでなによりだわ。

 それにしても……あなたたちもそんな顔をするのね。ちょっと意外だったわ。でも安心したかも、歳相応の表情が見えて」


 ドラゴンたちを迂回するように、シェリーサンがやって来た。いつの間にか着替えたらしく、先程までのドレスからラフな格好になっている。


 っていうか、歳相応って……なんか今日はそんなんばっか言われるなぁ。別に嫌じゃないけど……慣れなくてムズムズする。そんなこと、今まであんまり言われなかったからなぁ……


「……驚くのは当然だと思いますよ。ドラゴンもそうですけど……何よりもそのドラゴンを数匹手懐けているこの国の軍事力に、ね」


 ドラゴンたちには鎖が繋がれている。ここで暴れてるわけでもないみたいだし、きちんと御すことができているらしい。

 そしてそれが事実であれば、これは大変な偉業だ。ドラゴンの調教(テイム)なんて、まず正気じゃない。


「ふふっ、そうね。確かにこのドラゴンはヴィガーズ公国の力の象徴となりうるでしょうね。人族や魔物と比べても強大な力を持つドラゴン、その調教に成功したのだから。

 とは言っても、実は純粋な竜種ではないのだけれどね」


「え? そうなんですか? 純粋な竜種じゃないって……」


「別に交配をいじったりなんかしていないわよ? ただ純然たる事実として、この子たち―――ワイバーンは竜と蜥蜴(リザード)系の魔物の中間に位置する生物って言われているの。ワイバーンの別名は亜竜。純粋な竜種と比べたら遥かに小型で、強さも比べるまでもないでしょうね」


 驚いた。これで小さいだって? 本物より遥かに弱い? ……この世界には、いったいどれだけすごい怪物がいるって言うんだ。

 前方にいるこのワイバーンたちだって、見るだけでボクなんかじゃあ敵わないことがはっきりとわかる。10メートル近くある体躯にそれを覆う鈍色とでも言うべき鱗、昔図鑑で見た恐竜のように凶悪そうな顔、人間が戦うとなれば一溜まりもない。


「まあ、この話は一旦置いておきましょうか。こっちへついて来て頂戴」


 そう言うと、シェリーサンはボクたちに背を向けてとっとと歩き出してしまった。慌てて追おうとするけど……文野サンがいまだ硬直してることに今更ながら気づく。


「文野サン? どうしたの? シェリーサン行っちゃうよ?」


「……え?あ、はい、すみません。ボーッとしていました。何ですか?」


「だから、シェリーサン行っちゃったよって。どうかしたの? 文野サンがボーッとするなんて珍しい」


 正しく、心ここにあらず、といった様子だった。読書しているときぐらいしかこうはならないのに。どうしたんだろう。


「ああ、そうでしたか。すみません。では行きましょう」


 すでに結構距離が開いちゃっている。早歩きでも追いつくのにしばらくかかりそうだ。走るか……


「文野サン、走るよ」


「はい」


 シェリーサンが通った道を同じように走る。その途中、文野サンがチラチラとワイバーンの方を振り替える。入ってきた扉の反対側へたどり着くにつれて、シェリーサンが向かう先がはっきり見えてくる。明るくて、豊かな自然がある。つまりは屋外だ。


 暖かい光の向こうにシェリーサンが進むと、逆光でいよいよ姿が見えなくなる。スピードを少し上げてボクらも外に出ようとしたんだけど……後ろを走る文野サンは後ろ髪を引かれている様子だった。





 光の向こうは、王城にもあったようなごく普通の庭園だった。……たくさんのワイバーンがいることを除けば。


「お、来たな! ミカゲ! トモヨ!」


 多くのワイバーンが集まってる辺りで、こちらに手を振っている大柄な男の姿がある。エドガーサンだ。ボクらはなけなしの敬意を払って会釈で応える。

 その側にはすでにシェリーサンがいた。……あの人が急いでたのはエドガーサンに会うためか。


「よく来てくれたわ。あなたたちにはこれから、ワイバーンに乗ってヴィンデミアに向かってもらいます」


 唐突な指令というか命令というか。ボクには抗う気力は残っておらず、できるのはできるだけ素早く穏便に済ませられるよう願うことだけだ。

 というかワイバーンに乗って月夜クンの加勢に行けってさぁ……予想通り過ぎて、一周回って新鮮だね。もはや。


「我が国の全52騎の竜騎兵に告げます! これより、リルバ王国軍と交戦中のヴィンデミアへ応援に向かいます! 部隊長はエドガー様に担っていただきます! よろしいですね?」


『ハッッ!!』


「今回の作戦にはアマキリ殿、フミノ殿にも同行していただきます。公国の軍として恥じるところのない行動を心がけるように!

 何か質問は?」


『問題ありません!!』


 あー……ボクが苦手なノリだ。これ。体育会系というか熱血というか……


「では行きなさい!ヴィガーズ公国領ヴィンデミアへの侵略者に、これ以上の自由を許してはなりません!必ずや撃退し、全員生還すること!これは命令です。

 ―――返事は?」



『――ハッッ!!!!』




 見事な人心掌握、流石としか言い様がない。精神干渉系のスキルを持っているんだろうか?もし持っていなかったら、これらが単純にあの人のカリスマ性に依るものだということになる。


 しかし……


「ねぇ文野サン、本当に着いてくるの? 多分ボクらが行ってもすることないよ? むしろ足を引っ張るかも」


「いつから私があなたの命令を聞くようになったのですか? ……はぁ、あなたたちだけではまたどうせ無茶をするのでしょう? それならせめて近くにいるくらいはさせてください。自分の手の届かない場所でことが起きるのは、もう嫌ですから」


「そう、か……。決意は固そうだね」


「はい。天霧君はなんだかんだ言って甘いですから」


「優しいじゃダメなの……?」


「天霧君は優しくはありませんよ。違いますか?」


 そう言って微笑む彼女は綺麗で、僕は不覚にも見惚れてしまったのであった。

 ……何てね。


「ハイハイ、もう好きにするといいよ。元からボクは君の保護者じゃあないしね」


 気恥ずかしさが増してきたから、会話を強引に打ち切って竜の下へ向かう。わざわざボクらのために準備してもらったらしい。

 ワイバーンの背に付けられた鞍に跨がる。……座り心地は悪くないかな。飛んで実際に動いたらどうかはわからないけど。


「……よろしく頼むよ」


「グルル……」


 冗談半分で挨拶したら……返されたのかな? これは。



「よーしお前ら! 気ぃ引き締めてけよ! シェリーの言う通り、全員生還は絶対だ! 死んだらぶん殴るぞ!!

 じゃあ出発だ!!


 ―――目指すは北方、ヴィンデミア!!行くぞぉ!!」



『ォォォオオオオ!!!!』



 男たちの野太い声を伴って一匹、また一匹と飛んでいくワイバーン。そんな中ついにボクらも宙に繰り出す。


「――飛んでる……! 天霧君、私たち飛んでますよ!!」


 興奮気味に叫ぶ文野サン。その少女らしい反応をからかいたいけど……


「……天霧君? どうしました?」


「ああ、いや、大丈夫だよ。……ただ高いところが苦手なだけだから」


「……え? それ大丈夫じゃ―――」




 さてさて。死ぬなよ、ボク。

 Vocabulary


・竜騎兵

文字通り、竜に乗る兵士。竜騎士、ドラゴンライダーなんて呼び名も。

重火器を扱うやつらとは別物。



 Monster


・ワイバーン

亜竜、飛竜とも。

その名の通り、竜に劣る竜種。

全長約10メートル。全体を鈍色の鱗で覆われており、傷つけることは困難。退化した前足の代わりに翼が発達しており、対空攻撃手段を持たないと対峙することさえ難しい。

冒険者ギルドによる危険度は単体でB、複数でAとなる。

知性は竜種の中では低い方だが、人語を解するレベル。しかし本能を御する理性は持っていないので、見つかれば襲いかかってくる。


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