第22話 さあ、行こうか
1ヶ月以上空いてしまい申し訳ないです。その上でこんなこと言うのはたいへん恐縮なんですが、この1年は、このペースの更新が続く可能性が高いです。個人的事情で申し訳ありませんが、ご了承ください。
Side:Mikage
会議で結論が下され、各人忙しなく動き始めた。そんな中ボクらができることなどなく。むしろ邪魔になると思ったため、ボクらは寝泊まりしている部屋で待機することにした。大人はやらなきゃいけないことがいろいろと多くて大変だね。
けれどやっぱり暇なものは暇だ。『時は金なり』と言うのなら、この時間を買い取ってもらいたいものだ。いやまったく。
ボク以外の2人、月夜クンは持ち物の点検確認を、文野サンは目を閉じてじっとしている。寝てるのかな。2人が会話する気ゼロなのもこの暇の一因だと思う。会話一つしないって、これだからコミュ障予備軍は……
とうとう我慢の限界に達したボクは、自分から会話を振ることにした。このままじゃあ一生会話が始まらないような気もしたし。……どうやら、ボクは沈黙が苦手みたいだ。
「ねえ月夜クン。1つ聞いてもいいかい?」
「ん?」
「何であの人たちに言わなかったの? 月夜クン持ってるでしょ? [光属性魔法]のスキルをさ」
暇潰しという意図もあったわけだけど、それが気になっていたのも事実だった。
というのも、月夜クンは持ってるはずなのだ。[光属性魔法]を。あれは確か数日前のこと。『六大属性魔法を習得した』といった話を自慢気にされたを覚えている。へーそうなんだー、と思ったものだ。
あれ? 魔法と魔術どっちだっけ?
「ああ、気づいてて黙ってくれてたのか。すまん、助かった。
確かに俺は[光属性魔術]を持ってるし、上級呪文も使える。勇斗たちの洗脳も、解こうと思えば解けるだろうな」
ありゃりゃ。魔術の方だったか。
……ん?
「あれ? じゃあ月夜クンは解かないの? てっきりエドガーサンに送ってもらって、1人で解除するんだと思ってた」
それで、スキルを隠すのは必用以上に目立たないためだとばかり。月夜クンは目立たないことにご執心だからね。
「んー……一応今はこの国と協力っていう体で動いてるからな。1人でなんでもかんでもやると良くないんだよ。向こう側の顔を立てなきゃならないし」
「ふーん……でも、それだけじゃないんでしょ?」
ただそれだけの理由ならまず協力しなければいい。面倒な手続きを踏んでまで公国と行動するのはメリットがあるからだと、そこまでは分かったんだけど、それが具体的に何なのかは分からなかった。
「そうだな……今回の件、公国側の最終目標は王国の汚染を取り除くことだ。求めているのは王国が正常……と言っていいのかは分からんが、望ましい状態に戻すっていう結果であって、その過程はさして重要じゃない。
その一方で、俺は手段を選ばなくちゃなんない。そもそも今回の騒ぎ、シェリーさんは魔族の仕業だって言ってたけど、魔王のやり方にしては回りくどいんだよ。記録では、これまでの魔王は搦め手を好まずに直接的な暴力で物事を進める傾向にある。それがどうだ?洗脳なんて搦め手の代表格を使ってくると思うか? まあ魔王だからこうだって決めつけていいわけじゃないんだけど、魔王じゃない勢力が関与してる可能性が十分あると思うんだ。俺は。
俺の目標はそいつらだ。そいつらに接触して情報を引き出すことが、今回の俺の最終目標なんだよ。例の件に関わってる可能性も大いにあるわけだし。
つまり、俺が求めているのも結果だけど、その結果のためには過程も選ばなきゃならないんだ。俺が生きてるのがばれて、手掛かりが逃げていくのは阻止しなきゃなんない。この作り出した状況を利用して、黒幕が状況を把握する前にケリをつけるのが理想かね」
長いよ。
「ふーん……つまり月夜クンは、今回の黒幕が例の話につながると、そう考えてるんだね?」
「まあそうなるな。いや、確実ではないんだけど。当たれば儲けもんくらいの感覚でいた方がいいかも」
そりゃそうだ。この世に絶対はないんだから。
しかしなるほどね。さすが月夜クン。これが女神サマの示した、『魔王以外に解決すべき問題』につながると、そう考えたわけだね。うん、言われてみればって感じかな。確かにありそうな話だ。
1人で納得していると、さっきまで眠っているかのようだった文野サンから問いかけがあった。
「すみません、少しお聞きしたいことが。
先程から話している『例の話』とはいったい何のことなのでしょうか?」
………あっ。
てっきり眠ってると思って思い切り話しちゃったよ。やっちゃった☆
ボクらは早急にアイコンタクト会議を展開する。
(ねえどうするのさ。もうこれ誤魔化すのは無理そうだよ)
(だよな……。でも結局のところ、真実を教えるか教えないかの2択だし。どうするかな……)
(嘘が通用しないボクは戦力外だと思ってね)
(この無能ペテン師が!)
(当職は奇術師だお前らとは違う。なので今回はマジで丸投げしますを)
(もうお前黙ってろ!!)
はいはい。黙ってますよー。
諦めたような表情で月夜クンは文野サンの方を向く。
「あーっと、例のごとく他言無用で頼みたいんだが……」
「はい。構いません」
「じゃあ……そうだな、どこから話したものか―――」
割愛。
ところで、割愛って『愛を割る』であまり良い言葉じゃないと思うんだよね。そんな話を月夜クンにしたら、『元は愛を割かなければならないなんて残念だ、みたいなニュアンスらしいぞ』って返された。マジレスに思わず納得した。
閑話休題。
ところで、閑話休題って……え? もういい? あそう。
そうして月夜クンはこの件に関して、知り得る全てを文野サンに話した。話すことにした理由はボクの及ばないところではあるけれど、月夜クンの判断なら間違いないだろう。月夜クンがこういった判断を間違うことなんてないだろうし。
それにしても迂闊だったと言わざるを得ない。もっと用心しなよ。まったく……これじゃまるで、文野サンに伝えるために会話したみたいじゃないか。
話が終わり一息つけるかと思われたけど、文野サンからすかさず次の質問が投げ掛けられた。
「なるほど。そういうことでしたか。
それで、見返りはこの話の調査への協力、といったところですか? 進藤君」
「ご名答。その通りだ。よく分かったな、俺の言いたいことが」
「まあ、私たちの間柄はそんな善意に溢れたものではないでしょう。無償で教えたわけじゃないことは誰だって分かりますよ」
どこにそんなビジネスライクな関係の高校生がいるのかな。嫌だよそんな間柄は。いちいち見返りを求められるなんて、友達が減っていく未来しか想像できない。
……あっ、だから二人とも友達いないのか!
いや、まあ……損得が何よりも信用できるっていうのは、すごく共感できるんだけどさ。
「で、もちろんやってくれるんだろ?」
「ええ……微力ながら、協力させてもらいます。どうやら、それをなんとかしなければ日本に帰ることもできないようですし」
「ああ。なんか脅すみたいで悪いけど、よろしく頼む。
と言っても、一先ずは目の前に集中しなきゃなんだけど」
「そうだね。先を見据えて足元を掬われるなんて笑えないし。
ああ、それでさ、月夜クン。作戦の変更はなしでいいんだよね? 月夜クンが時間稼ぎをしてる間に[光属性魔術]とか持ってる人を捜し出すって感じでさ」
「そんな感じで頼む。見つかったらエドガーにこっちに送らせてくれ。まあお前が出発するまでに見つかる可能性は低いと思うけど」
「え? そうかな? 確かに魔術師とか魔法使いはあんまりいないけど、ギルドに行けばいるんじゃないの?」
「そいつは光属性の上級呪文を扱えて、なおかつこの国のために命をかけられる人間でなきゃならないんだが?」
「あー……そっか。それは確かにむずかしいかも。大丈夫かな?」
「まあ最悪俺が出るから心配はいらんよ。2人が危ない橋を渡ることはないから。安心していい」
……危険が少ないに越したことはない、か。まして月夜クンに任せた方が確実。ありがたくその提案を受け入れるのが正解で、その方が損は少ない。
「けどいいの? そしたら月夜クンが生きてることが明らかになっちゃうよ?」
「そんなんどうにでもなる。俺が生きてるって情報を、ひた隠しにして温存するのか、早々に手札を切って囮にするのか。忘れたか? 俺は【情報屋】だぞ? 情報の使い方は間違えねえよ。そりゃ最初のプランでいけるのが楽で理想的だけど」
それはそうだろう。月夜クンは世界に認められる程の天才だ。1年やってきた情報屋としての技能は凡人とは隔絶している。その程度の手間は無いに等しい。
それは別にいい。ボクも認める事実だから。ただ……
このもやもやは何だろうか?
ありきたりなものだと、悔しさ、かな? ボクらが月夜クンの守る対象であることが悔しいとか?
…………ククッ
アッハッハハハハハハ! 冗談キツいよ。もう笑えてくる。ボクごときが月夜クンに劣等感を覚える? どれだけおめでたいやつだよ、そいつは。月夜クンよりも劣っているなんて今さら過ぎる。
そうだね……じゃあこれはきっと月夜クンにばっかり活躍の場があることに対しての不快感。そういうことにしておこう。
「……そうだね。けどそれは本当に最後の手段だよ。月夜クンが状況の変化に合わせて作戦を練っても、ボクらは対応するのに時間がかかるんだから」
「そうか? まあ天霧が言うんならそうするけど」
そんなかたちで話は落ち着いた。そのタイミング―――盗み聞きしてたんじゃないかってくらい絶好のタイミングで、扉がノックされた。
「どうぞー」
「失礼いたします。副議長がお呼びですので、会議室にお戻り下さい」
「分かりました。すぐ行きます。
おい、文野。起きろ。行くぞ」
「……」
眠そうな目を擦っている文野サンの手を引きながら会議室を目指す。柔らかくてすべすべしてる。こうすると、やっぱり女の子だなーって思えてくる。男だと思っていたわけじゃないけどさ。女性らしさというか、その辺が欠けてるんだよね。そういう偏見は良くないって思うんだけど、やっぱり先入観というか、日本で刷り込まれたものはそう簡単には抜けてくれない。
それにしても……
「うん……なんですか……」
警戒しなさすぎでしょ、さすがに。いくら寝覚めが悪くて、相手が1ヶ月以上二人きりで旅したボクだからって、年頃の女の子が男の前でそんな無防備になるものじゃない。
ちょっとした悪戯のつもりで、歩きながらも半分以上寝惚けている彼女の顔を見つめる。見つめる。見つめるったら見つめる。
……相変わらず整ってる顔だ。どこぞのアイドルよりもよっぽど綺麗な造形をしてると思う(※あくまで個人の感想です)。こんな美少女との2人旅ができるなんて、ボクはなんて恵まれているんだろうなー月夜クンが前を歩いているおかげで見られなくてよかったなー。
ん? いやいや、嘘じゃないよ?
実際、もう少し愛想を良くして、もう少し歯に衣を着せるようになればきっと男なんて選び放題になるだろう。彼女の寝顔を見ているとそんな風に思えてきて、
目が合った。
益体のないことを考えていたら、いつの間にか文野サンが完全に覚醒しちゃっていた。覚醒と言っても超ヤサイ人になったわけじゃない。起きた。目を覚ました。Got up。おどろきけり。……最後のが分かりづらかったかな。古語だよ。
まあ簡潔に言うと、ボクに手を引かれて、半ば寄りかかるような姿勢で、文野サンが意識をはっきりさせた、というだけだ。どっかの誰かさんに見つめられながら。あ、これチャレンジでやったやつだ!!
「すみません、今すぐに離してもらえますか? 1人で歩けますので」
あ、はい。
マジトーンで言われてしまった。おかしいなあ……チャレンジでは、
『キャッ! い、いつから見てたの!?』って頬を赤く染めて……うん、ごめん。これ別人だ。文野サンを当てはめようとしたら無理があった。もはや気持ち悪い。
「お前は何やってんだよ……」
いつの間にかボクらの側まで来ていた月夜クンの言葉。思い切り呆れられてしまった。また適当におどけようとしたけど、自業自得であることは承知しているので黙っておいた。うまい返しが思い付かなかっただけだけど。
「ほれ、もう着いたぞ。ちゃんとしろ」
気付けば、目的地は目前にあった。文野サンの機嫌を直す100の方法を考えている最中に到着してしまったため、心の準備ができていないんだけど。
コンコン。ギイイ……
「あら、3人ともきたわね。じゃあツキヨ君、こっちへ」
うわーお偉いさん方がたくさんで緊張するなー。……偉い(偉いとは言っていない)。ふふっ。
月夜クンは招かれるままに中心へ歩く。もう彼を侮り、見下し、疎む者は誰一人としていない。……ならよかったんだけどね。人間と悪意は切っても切れない絆で結ばれているのさー。例えばそれは妬みだったり、ね。
もちろん議会の人たちも人間であることは疑いようのない事実でありよって彼らが悪意に満ち満ちているのは当然の摂理なのであった。(61文字)
そんなことを気にする風もなく、月夜クンは堂々と歩ききった。その先ではシェリーサンやエドガーサンといった上層部の面々が待ち構えている。「我らこそ四天王である」とか言い出しそうな雰囲気だ。2人は確定として、残り2人はそうだね……あっちのスレンダーの対義語みたいな人と、あのPerfect Humanみたいな人でいいや。何の四天王なのかは知らないけど。
その後のやりとりはシリアスでつまらなかったので割愛。輪郭だけなぞると
「飛ばします。あとよろしく」
「おk」
って感じ。詳細が知りたければ本人に聞くか別料金を支払うかしてください。
そういえば、昔は追加料金が必用だった修学旅行での旅館のテレビも、今じゃすっかり無料で見放題になったんだよね。あー、もしも召喚されてなきゃ、あと1ヶ月くらいで修学旅行だったんだよね、ボクら。いや、この状況もある意味それに近しいものではあるんだけど。今度鉄板中の鉄板、KOIBANA☆をしてみようか。案外盛り上がるかもね。文野サンとだったら『あの子のここが嫌い!』のコーナーになっちゃうかな。
あ、男女でするものじゃなかったね。
「それと、これも渡しておくわ」
「……いいんですか? これ相当希少なものだと思いますけど」
「良いのよ。使えるときに使わなきゃ持ってる意味がなくなっちゃうもの」
「そういうことなら、ありがたく使わせていただきます。ですが、もう片方は誰に?」
シェリーサンが渡したのは、装飾のないシンプルなペアのリングだった。あ、嘘。よく見たらちっちゃな宝石がはめ込まれてる。遠目には分からなかったけど、シェリーサンが近づいてきたからはっきり見えた。そのままシェリーサンはこっちに歩いて来る。あれ?
「ミカゲ君に渡しておくわ。連絡が取れた方がなにかと便利でしょ? 他に渡しておきたい人がいるとかは?」
何かボクにも手渡された。改めて見ると、銀のリングにごく小さな翠色の宝石がはめ込まれてる。月夜クンに渡されたやつとの違いは宝石の色だけっぽい。月夜クンのは黄金色だ。
「いえ、ありません」
「じゃあミカゲ君、よろしくね」
いや、よろしくってなんですか? てかこれを持たされた理由をまだ聞いてないんですが……
そう思っていた矢先のことだった。
(もっしー。聞こえてんのか、これ?
天霧ー、聞こえたら心の中で返事してくれ)
月夜クンの声がした。けど月夜がしゃべった様子はない。まさか……
(はいはーい。聞こえてるよー。
ねえ月夜クン、これってまさか遠くでもあなたの声が聞こえる的なやつ?)
(みたいだぞ。『対のリングの持ち主との間で、念話を可能にする』だってさ)
(うわお。じゃあ条件とか対価とかは?)
(んー、多分自前の魔力を消費すると思われ。一応扱いとしては魔道具だし)
(へえ、それは優秀……でもないみたいだね)
ステータスを確認すると、MPの1割が減っていた。1分も話してないから、単純計算で10分もたない。距離が離れたら消費量も増える、なんてこともありそうだし使うのは出来るだけ控えた方がいいかな。
「月夜クン、MPどのくらい減った?」
「え? 20くらいだけど。天霧は……同じくらいか。つまり割合じゃなくて固定値ってことだな」
一瞬で看破された。ホントズルいよね。[解析]。
けど結構大事なことがわかった。レベル上げて最大MP増やせば楽になる。これは嬉しいね。
「実験は済んだかしら、お2人さん?」
少し怒った様子でシェリーサンが声をかけてきた。どうやら、年甲斐もなく興奮しちゃってたみたいだ。でもボクは一言もの申したい。これを渡したのはあなたですよね?
「すみません。大丈夫です」
「そう? では、よろしくね。ツキヨ君。一応領主のノーランド卿には話は通ってるはずだから、うまくやって頂戴。こっちのことは任せてね。そっちのことは任せるから。
あとは、無理せず、死なないこと。これは最優先で守りなさい」
「はい、ありがとうございます。援軍が来るまで、しっかりと持ちこたえてみせます。無理はしません」
「ええ、頼んだわ。
じゃあエドガー、お願い」
「おう。じゃあツキヨ、頼んだぜ!
ふう……彼の地は此の地、此の地は彼の地。二つは異にして同。其れ則ち此の地にあるは彼の地にある、必然の理なり。“転移”!!」
そして月夜クンはいなくなった。いや、実際は遠くにいるんだろうけど。月夜クンは大変だなぁ、命の危機があるところへ赴かなきゃならないんだから。待機組で良かった。戦うのは怖いし、その相手が異世界人×38とか冗談じゃない。
魔法発動直後、エドガーサンが前に倒れた。顔面からいったから、高い鼻が痛そうだった。これが話に聞くマインドオフか。生命活動を維持するため、魔力(MP)が10%を切ると気絶を引き起こす現象。実際に見るのは始めてだ。
それにしても、魔法を1回使っただけで気絶するとか……。すごい魔法だったのかエドガーサンの魔力総量が少なすぎるのか、判断が分かれるところだ。
「成功したみたいね。
ねえ、あなたたち。エドガーを空いてる部屋に寝かしておいてくれる?」
「了解いたしました」
エドガーサンの魔法と退場でおかしくなっていた空気も払拭され、各自がきびきびと仕事に取りかかる。
そんな中、部下の1人(だと思う)が、シェリーサンに駆け寄ってきた。
「副議長、報告します。先程の件の準備が整いました。いつでも出発できます」
「御苦労様。了解したわ
さて、ミカゲ君」
くるっと振り向いて話しかけてくるシェリーサン。とても優しそうな笑顔である。嫌な予感しかしない。
「あなたにもヴィンデミアに行ってもらいます」
ほうら来たよ。ボクが行ってもできることなんてないんですがそれは。さっき変なフラグ立てたせいかな……?
「それに何の意味が? 自慢じゃないですけど、ボクが出ても月夜クンの足を引っ張るだけですよ?」
「あなたにお願いしたいのは戦闘じゃないわ」
流された。悲しい。本当に自慢じゃないわね、みたいなツッコミを期待したのに。
「ミカゲ君には、ツキヨ君がピンチに陥ったときの手助けをしてほしいのよ。あなたのスキルなら、それは簡単でしょう?」
「シェリーサン、時間が無いんですから回りくどいのは止めにしましょう。ボクに、何を、してほしいんですか?」
ちょっとボクを舐めすぎだ。例えスキルを使わずとも、建前と本音の判別くらいできる。
「ごめんなさいね。では、はっきりと言います。ツキヨ君と協力して勇者たちの洗脳を解いてほしいの」
「それをどうしてボクに頼むんですか? ボクも月夜クンも光魔法のスキルは持ってませんよ。そもそも、この件は魔術師を雇うって形で結論が出たじゃないですか」
「本当にそんなものが見つかると? 少なくとも今現在、条件に合致する人間が見つかったって報告は入ってないわ。きっと王国が何か手を打ったのでしょうね。このままじゃいつまで経っても洗脳を解くなんて無理よ」
「そうだとして、ボクを頼る理由にはなりません。どうしてボクと月夜クンなら、と思うんですか?」
「そんなの勘よ」
と、シェリーサンは堂々と言い切った。
「……ボクたちが何か隠してると?」
「そこまでは言わないけど、できると思ってるわ」
「だからなんで」
「私はね、人を見る目には自信があるの」
……なんだそれ。理由にもなってない。
「その勘が言ってるの。あなたたちならできるって。理由なんてそれだけで十分よ」
もうすでに、その論理は破綻していた。論理ですらなかったのかもしれない。
ただそんなことより、1つ確かなのは、月夜クンにはもっと働いてもらわなきゃいけないということだ。
「分かりましたよ。行きます」
脇役は脇役らしく、引き立て役として働きますよ。
Vocabulary
・魔道具
使用者の魔力を消費することで、魔法やスキルと似た効果を発揮するアイテム。




