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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第21話 掌握

 お久しぶりです。花粉もスギ→ヒノキへと移り変わり、第二ラウンドに移行しました。家から出ずにいられる方法はないものか……

 さて、今回でついに初投稿から一年が経ちました。これも皆様が読んでくださるおかげです。私も精進いたしますので、今後もよろしくお願いします。

  Side:Tsukiyo



「失礼致します。シンドウ様、アマキリ様、フミノ様をお連れしました」


「来たわね。早く席について頂戴。

 あなたは下がっていいわ。ご苦労様」


 一礼して退出するメイドさん。


 シェリーさんに緊急連絡をもらい会議場へと戻って来た俺らだったが、未だに混乱状態にあった。ただの学生だった俺らに急に戦争の話をされても、まずそれを受け入れることが難しい。知識はあっても、それを行動に活かせるかはまったくの別問題だと実感した。


 取り敢えず話を聞かないことには始まらないだろうと、促されるまま席につく。因みに会議室の机は円卓で、俺らの席は下座。俺らの方が立場は下だから当然だ。むしろ席が用意されてることに感謝すらした。……嘘だけど。

 貴族社会は面子を大事にする。俺らみたいな庶民が混ざっても何も言われないとこを見ると、やはりこの国の人間はあの王国を捨てただけのことはあるのかもしれない。俺ら日本人の勝手なイメージだと、貴族ってのは私腹を肥やす豚だったり、金に物をいわせてその権力をふるう利己主義者だったりするけど、少なくともここにいる連中はそこらへんのところをわきまえているように見えた。

 もっとも、悪感情がないわけではないようだけど。


 全体の視線が集まったことを確認して、シェリーさんが口を開く。


「では、あらためて説明します。

 先日リルバ王国に宛てて親書を送りました。10月の初めにそちらを伺いますという旨のものです。その返答がどうであれ、私たちは明日出発する予定でした。

 そして本日10の刻、リルバ王国から1つの文書ととある荷物が届けられました。

 文書の内容を読み上げます。


『天命を授かりし我がリルバ王国は、神への忠誠を誓いてその正義を全うす。

 我らはここに、ヴィガーズ公国に対し宣戦を布告する。

 そもそも、貴国の愚かにも魔王とその配下に唆され、魔族と結託し世界を混沌に陥れたらんと画策するは、全くの遺憾である。あまつさえ、我が忠臣たる家々を唆し闘争に巻き込む様は、卑劣と言わざるを得ない。

 そのような凶行を見過ごし魔族に脅かされる危険は明らかである。よって我らは勇武を示し、正義の名の元にこれを討ち滅ぼさん。

 ひいては貴国が余計な抵抗をせず、速やかに軍門に降ることを強く望む。さもなくば、平和と秩序のため、我が国の誇る屈強な騎士団、そして神の寵愛を賜りし勇者が貴国を滅ぼすこととなるであろう』


 ……ということです。何か質問等はございますか?」



 和訳はそれっぽくしてみました。ニュアンスはそんな感じ。


 その内容を聞いた公国のお偉いさんの様子は様々だった。憤怒をたぎらせる者、渋面を作るもの、ピクリとも反応しない者、等々。ただ当然のことだけど、良い顔をしている人はいなかった。

 天霧たちの様子もさりげなく伺ってみると、文野は予想通り嫌悪感を隠せないような表情をしていたが、いつもへらへらとしている天霧からは表情が抜け落ちていた。恐らくではあるけど、感情を抑えているんだと思う。天霧にしては珍しいことだ。

 しかしそれも当たり前のことなのかもしれない。内容を要約してしまえば、『お前らは悪。だから正義の我々が滅ぼす』と一方的に言っているようなものだ。こちらの親書はガン無視で。当然俺だってイラついてる。


「シンドウ様、どうぞ」


 何か質問はないか、おそらく形式的なものであった問いに対して手を挙げた俺に視線が集まる。そこには少しの驚きと話の腰を折ったことに対する怒り、そして呆れが()い交ぜになっていた。『部外者は引っ込んでいろ』『ガキの癖に粋がるな』ってところか。


「念のため確認させてもらえますか。その文書はリルバ王国から送られてきたもので間違いないんですね?」


「ええ、それは確実です。この封筒の印を見てください。

 これはリルバ王国の正式な紋章になります。この紋章を刻む印璽は王家のみに伝わっており、その他の者が持ち出すことは不可能です。そうですね、エドガー公?」


「そうだな、これは本物で間違いない。故意に流出でもさせなきゃ、擬装は無理だろうよ」


「では、今回の件はリルバ王国からヴィガーズ公国に対して宣戦布告がなされた、という認識でよろしいでしょうか」


「はい、その認識で構いません。何者かが文書を擬装し我が国と王国とを争わせようと企てている、などという可能性はごく僅かです」


 流石シェリーさん。俺の意思をしっかり汲み取ってくれる。


 今のやり取りは内容的には意味の無いものだ。誰も質問しなかったということは、疑うことなくその事実を事実として受け取っていたということ。それをいちいち確認するなんてバカのやることだ。時間だけ浪費されて益がない。

 だが、言われたことをハイハイと鵜呑みにしているだけではそもそもこの会議を開く意味が無い。そこにあるのは一人の意見と同意する大勢ではなく、多くの個々の意見であるべきだ。きっとこれは正常ではないのだろう。今回の会議におけるイレギュラー、原因は俺らにもある。部外者が口を挟むことに対する苛立ち、緊急事態への焦りや緊張。他にもあるのかもしれないが、それらがこの人たちの脳を鈍くしてしまっている。

 ならば指摘してやれば良い。直接的にでも、間接的にでも、今自分たちがどれだけ冷静になれていないかを。


 効果はまあそこそこだった。事態の危険性を改めて認識し、俺たちへの敵意よりも事態の把握と解決に向ける意識が上回ったようだった。

 ついでに、俺らが発言するハードルも下がった。


「そしてこちらが、王国の言う『荷物』とやらです。気分を悪くされる方が出てしまうかもしれませんが、ご容赦願います」


 シェリーさんが指示して包みから取り出させる。中に入っていたのは、


  ―――人間の生首であった。



「……彼は優秀な人間で、今まで間者としてよく働いてくれました。数日前から連絡が取れずにいたのですが……恐らく、その時点で既に殺されていたのでしょう。

 惜しむべき人材を亡くしました……」


 そう言って、シェリーさんは目を伏せて黙祷を捧げた。俺ら含む他の人間も、シェリーさんに倣う。


 この世界では人が死ぬことはありふれた日常にカテゴライズされる。しかしそれは人の命が軽視されることと同義ではない。魔物に仲間を殺されたときに感情を押さえつけこそすれ、悲しみを感じないことなどあり得ない。俺は実際にそういった様子を見てきた。

 だからこそ分かる。ここにいる議会の人たち、一見すると落ち着いているように見えるが、その心の中には俺では計り知れない激情が渦巻いていることが。


「……では、会議を再開します。

 王都で活動してもらっていた彼が殺されたことが判明した時点で、他の間諜にも警戒を呼び掛け、彼と同じく王都に潜伏してもらっていた者には一時離脱を命じました。

 今回の宣戦布告、そして間者の殺害、目的は恐らく挑発でしょう。無抵抗の相手に攻め込むのは他国からの心証が悪い。私たちを戦争に引っ張り出して、合法的に叩き潰すつもりではないかと思われます。

 しかし、だからといって抵抗しないわけにはいきません。例え私たちに戦意が無く、抵抗せずとも、王国は嬉々として攻めてくるでしょう。他国の心証は二の次です。そのような挑発はあくまでついで、労力もそうかからないため行ったに過ぎません。私たちを蹂躙する機会が来れば、彼の国は攻めてくることを何よりも優先するでしょう」


「では、我々もやつらを迎え撃つのですかな?」


「それは最後の手段とします。王国の文書に虚偽が含まれていなければ、この国には王国騎士だけではなく、王国により召喚された勇者も攻めてきます。召喚された勇者は41人。その内の3人が、ここにいるシンドウ様、アマキリ様、フミノ様です。

 戦力差は一目瞭然。真っ向から戦うにはリスクが高すぎます」


「しかし副議長殿。勇者とはそれほどまでの相手なのですかな? 勇者と言えども子供、我が国の軍隊の敵ではないのでは?」


「そう思うのであれば、確かめてみてはいかがですか?勇者の力がどれほどのものであるのか。ここにはユリアをも上回る強さを持つシンドウ様もいらっしゃるようですし」


「な、あのユリア嬢をですと!?」


「はい。付け加えれば接戦ではなく圧倒されたと、あの子からは聞き及んでいます」


 明らかに俺ら異世界人の力を侮っていた男だったが、ユリアが敗れたと聞いた途端に目に見えて狼狽え出した。どうやら、ユリアはこの国の人間にとって強者に位置付けされているらしかった。確かに実力はあるし、容姿も優れている。強さと美しさを併せ持つ者は、人を惹き付ける。勇人のように。そして、ユリアも違わず持っているということだろう。すなわち、カリスマを。


 そして勇者はそのユリアを倒すだけの実力がある。そこまで聞いて男はようやく危機を理解したらしい。……そんなすぐ論破される反論ならしなきゃいいのに。さっきの俺とシェリーさんのやり取りで思い知っとけよ。

 という文句はおくびにも出さず。


「他に何かございますか?

 ……無いようなので次に進みたいと思います。

 このまま行けば開戦は3日後。あまりにも急ですが王国が私たちと交渉などすることはないでしょう。恐らくですが、国境を越えて初めに攻め込まれるのはヴィンデミアだと思われます」


 俺の脳裏に浮かび上がってきたのは地味な装いをした宿屋、絶品の料理、そして笑顔のベラさんたちが楽しく談笑している光景だった。


 そうだ……戦争ってことは犠牲が出るってことだ。あの街には確かに兵士は数多くいるけど、勇者に対抗できるだけの人間がいるかと問われれば答えはNOだ。ステータス差はそう簡単に覆せるものじゃない。


「取り押さえろ!!」


 大きな声にギョッとして見ると、鬼の形相のエドガーを後ろで待機していた護衛らしき人たちが二人がかりで押さえ込んでいた。声の主はシェリーさんのようだ。


「クソッッ、おい放せ!! 俺の言うことが聞けないってのか!!!」


 きっとエドガーも俺と同じものを幻視したのだろう。エドガーの方が付き合いは長いのだから、あいつの思いは俺とは比べ物にならないくらいに強いのかもしれない。想い人のベラさんもいるわけだし。


「我々はエルバン家に仕える者。我が主はシェリー様でございます」


「うるせえ!! 行かせてくれよ!! おいシェリー!!」


「それは許可できません。我々の象徴であるあなたを危険な目に遭わせるわけにはいきませんから。

 そして聞きますが、あなたがヴィンデミアに行ったとして何ができるというのですか? ユリアにも劣るあなたが勇者たちに勝てる可能性など、万に一つも無いでしょう。あなたもそれは分かっているはずですが」


「じゃあ! あの街が攻め滅ぼされるのを黙って見てろって言うのかよ!!」



「誰がそんなことを言いましたか? あの街を見捨てなどしません」



「は………?」


 唖然とするエドガー。酷い間抜け面だ。どうせまた早とちり、勘違いをしてたんだろう。あのエドガーラブなシェリーさんが、エドガーを悲しませるような選択肢を取るはずがないじゃないか。


「あなたでは力が足りません。勇者と騎士団を相手にして一人で街を守り切れると思いますか? 断言しましょう。不可能であると。

 ならば、策を練る他に道はありません。力で敵わない相手なら、頭で対抗しましょう。ここにいらっしゃるのはそれができる者であるはずです。違いますか?」


 そう言われて、エドガーははゆっくりと会議の出席者を見回した。シェリーさんの凛とした顔、その言葉を受けた議員たちの自信に満ちた顔、天霧のにやけ顔、文野の鉄面皮、そして最後に俺の顔を。

 そうしてエドガーは深く息を吐く。ようやく落ち着いたらしい。と言っても、未だに焦りはあるようだが。


「そうだな……自分の身の丈に合わないことをしても無意味か……

 だが、策と言ってもどうする? 王国騎士に勝つ方法などあると言うのか?」


「ふむ……それは確かにな。して、副議長殿、いかにしてやつらに打ち勝とうと言うのか?」


「いえ、彼の国と剣を交え、勝てる見込みはごく僅かです。そのため、まず戦わないことを目標とします。戦わずして勝つ。それが今回の作戦の基本軸になります」


「ええい、もったいぶるでない! 具体的にはどうするのかを聞いておるのだ!」



「失礼しました。結論から述べますと、戦端の開かれる3日後までに―――勇者たちをこちら側につけます」


 その発言には流石に議員たちも驚きを隠せない様子だった。


「先程より話していた状況に偽りはありません。しかし、そこにはまだ話していない裏の事情が存在しています。

 そもそもこの国を立ち上げた際、我々には目的がありました。お忘れではないでしょう。王国の腐敗の原因を取り除き、私たちの愛した母国を取り戻す。そう誓ったはずです。そして今、そこへ到達する道が完成しつつあります」


「なんと!? ではあの王を狂わせた原因が判明したと言うのか!」


「その通りです。この国に力を貸して下さった異界の御三方は、幸運なことに、情報収集に長けた御方でした。彼らがあの国を離れ私たちに協力してくださるのも、同じ目的を持っていたため。

 結論から述べますと、彼の国は何者かによる洗脳を受けています。私は魔族の仕業ではないかと睨んでいますが」


 長年の謎がほぼ解けたというのに、議会の反応は微妙だった。呆れが混じっているのは気のせいではないだろう。今シェリーさんが告げた内容は、王国がやっていることとまるっきり同じなのだから。


「副議長殿よ、当然その根拠は説明していただけるのでしょうな?」


「もちろんです。まずは情報のソースと信用性を証明します。

 キャベンディッシュ卿、ステータスを確認してもらえますか」


「構わんが……まさか貴女の[鑑定]で知ったなどと言うつもりではあるまいな?」


「もちろんです。それに近しいことではありますが。

 シンドウ様、お願いします」


 ようやくお仕事か。了解ですよっと。

 あー、凡庸ねおっさん。名前は――



「ルーカス・キャベンディッシュ。普人族の46歳、男性。パラメータはHP151、MP95、STR「ま、待て! 待ってくれ!!」はい、いかがなされましたか?」



「なぜだ!? 私は誰にも触れられていないというのに、なぜ私のステータスを知っている!? まさか……!? まさか貴殿は、触れてもいない相手のステータスを知ることができるのか?!」


 That's right.その通りですよっと。


「皆様の思っている通りです。こちらのシンドウ様は、直線触れることなく対象のステータスを見るスキルを持っておられます」


「なんですと!? それは情報戦においてかなりの優位に立てるではありませんか!!」

「だが、それだけでは勇者たちの状態を知ることができないのでは?」

「いやしかし、スキルの発動条件によっては……」


 それは鑑定系スキルにおいては破格だったようで、会議室は大人たちのざわめきにつつまれる。



「静粛に!!」



 一喝。どよめきが落ち着いたところで、シェリーさんが話し始めた。


「……この通り、シンドウ様は他人に触れずとも相手のステータスを見ることができます。必要であれば他の対象を見ていただいても構いませんが……その必要はないようですね。

 シンドウ様が調べた結果、召喚された勇者たちやあの王国の人間は洗脳状態にあります。勇者にも効く洗脳が使える者で、なおかつそれを行う動機があるのは魔族である可能性が最も高いと結論付けました。他国の陰謀という線もありますが……どちらにせよやることは変わりませんのでその考察は置いておきます。

 そして、ここからが本題です。リルバ国王や中枢は難しいかもしれませんが、この世界に来てまだ日が浅い勇者たちは洗脳も弱く、正気に戻すことも可能だというのが私の見解です」


「ふむ……そうか。では、その役目は誰が担う? そもそも洗脳を解く方法は心得ているのか?」


 その問いかけを聞いて、すかさず俺が出る。


「そこは私がお話しします。

 洗脳状態を治す方法ですが、これは問題ありません。洗脳は混乱などと同じ精神汚染状態ですので、少なくとも上級の光属性魔術、もしくは治癒魔術の呪文ならば正気に戻すことができるはずです」


「ほう……しかしまずいことになりましたな。我が国の軍や国抱えの魔法使いは盗賊団討伐に向かったところ。帰ってくるまで5日はかかりましょう。上級呪文を扱える人間などそう簡単には見つかりませんぞ」

「問題はそれだけではない。たとえ方法が分かってもまず勇者どもに接触できなければ無意味であろう。ここからあの街へは早馬を走らせても5日はかかる。そのことは考慮に入れているのか?」


「勇者との接触に関してはエドガー様の力を御借りしようと考えています。ただ、魔術は現状では冒険者に頼る他ないかと思われます」


「それが妥当か……

 おい! 聞いていたな! 冒険者ギルドへ行って魔術師を募集してこい。報酬は弾んでいい。この国の危機だ」


「はっ」


「これに関してはもう打つ手なし、か。

 エドガー様、お聞きしたいのですがヴィンデミアまで“転移(ワープ)”で送ることができる上限は何名ですか?」


「悪いが……あの距離じゃ1人までがせいぜいだ。魔力の回復を待つにも丸1日はかかるだろう」


 少ないな……脳筋の弊害がここで出たか。そんな人数だと、たとえ魔術師を送ったところでなにもさせてもらえない。[気配察知]を持ってるやつもいるから不意討ちも敵わない。


「1人ですか……」

「勇者相手にその人数では……」

「ですがヴィンデミアの軍は500は下らないはず。彼らと協力すればあるいは……」

「希望的観測は不要だ。客観的な事実に基づいた論理でなければ足元をすくわれるぞ」

「ぐっ……」


 しかしいくら頭を捻ったところで良い案は出そうにない。会議室は次第に絶望と諦観に包まれていった。

 ……そろそろいいか。


 静寂の中、スッと手を挙げた俺に視線が注がれる。既にその目には嫌悪や侮りは存在していなかった。むしろ一筋の光明を見つけ、すがるようにも見える。どうやら布石が活きてくれたようだ。


「俺に考えがあります。

 まず、この国で動ける人間を2つに分けます。1つは情報整理と民衆の印象操作を行う部隊。もう1つは勇者に接触し洗脳状態を治す部隊です。前者にはシェリー様とエドガー公、後者は魔術師と天霧を軸にしてもらいたいです。

 エドガー公の魔法で送っていただく者は一対多の戦闘に長けている人物が好ましいです。その者には実働部隊が到着するまでの時間稼ぎをしてもらいます」


「まさか……1人の人間の命と引き換えに!?」


 最初は期待した様子で聞いていた議員たちも、俺の案を聞いて困惑しているようだった。面と向かって反論しないのはそれが現状での最善策だと分かっているからだろう。誰かを戦場に送り死ぬまで戦わせて時間を稼ぐ。確かに現実的だ。

 俺の言葉をそのまま受け止めればそうなるだろう。だけどお前たちは勘違いをしている。お前たちは知らないだろうけどな……



 俺は、死者の上に成り立つハッピーエンドが大っ嫌いなんだよ!!



 そんなやり方、他の誰でもなく俺自身が認めない。認めてたまるか。妥協はしない。誰もが描くハッピーエンドを叶えてみせる。そんなこともできず何が【神童】だ。



「そして肝心のヴィンデミアにて時間稼ぎを行う人間ですが、この私、進藤月夜が立候補します」



 そもそも考えてもみてほしい。勇者たち40人近くと王国騎士団を同時に相手取れるなんて化け物だ。そんな化け物、俺以外にいると思うか? いるにはいるかもしれないけど、あと3日以内に見つけてヴィンデミアまで連れていける可能性はほぼゼロだ。

 なら、俺が出るのが最善の策。ステータスもスキルもあいつらとは隔絶している俺なら、戦闘になる前に完封することもできるはずだ。たとえ戦闘になっても生き残る自身はある。恐怖に負けるな。傷つくことを恐れるな。生きるためには、命よりも大事なものがあるんだから。


 議員たちの感触は良くない。『何をバカなことを』とこの場のほとんどの人間が思っていることだろう。だが、全員をいちいち説得する必用はない。今の不安定な状態なら、誰かが賛成すればあとはなし崩し的に傾く。そしてそれは影響力があればあるほどいい。


「立候補が出ましたが、反対する方はいらっしゃいますか? 私個人としましては賛成します」


 シェリーさんの賛成を聞いて戸惑う議員たち。もう一押しか……


「エドガー公」


「何だ?」




「信じてほしい」




「………」


 出来るだけ真摯に告げたつもりだ。真っ直ぐにエドガーの目を見る。エドガーも珍しく真面目な表情で見つめ返してきた。決して目をそらさず、数十秒ほど過ぎたころ、エドガーは目を閉じて大きく息を吐いた。


「ふう………うし。ヴィンデミアにツキヨを送り、後から実働隊を向かわせる。ツキヨの策に従って行動しろ! いいか、てめえらの国だ! てめえらで守らなくてどうする!! さっさと準備を開始しろ!!」


『ハッッ!!』



 エドガーの鶴の一声で停滞していた会議室が慌ただしく動き始めた。


「エドガー」


「何だよ?」


「ありがとな」


「そりゃあこっちの台詞だ。お前のおかげで望みが見えてきたんだからよ。

 あの街とベラのこと、頼んだぜ」


「ああ、任せろ」



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