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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第20話 そして動きだす

  Side:Tsukiyo



 天霧たちに再会してから5日目の早朝、俺と天霧はギルドの訓練場にいた。


「さーて、じゃあ今日も始めよっか。今日こそボクが勝ーつ!」


「上等! やれるもんならやってみろ。さっさとかかって来いや!」


 天霧は小ぶりの短剣を、俺は刃を潰した直剣を構える。決闘なんかではなく、日課となりつつある少々ガチンコの試合である。

 一昨日まではユリアも一緒にやってたんだけど、例の盗賊団の討伐に向かった。


 ガチの試合をするのにはもちろん理由がある。地道に反復練習をするよりも、より実戦に近い形で試合をやった方が得るものは多い。咄嗟の状況判断、対人戦での駆け引き、柔軟な思考、そしてスキルレベルの上昇具合が違う。どうやら、『実戦での経験の方が成長できる』という考察は間違っていなかったみたいだった。

 勇者たちに実戦積ませた方が早いじゃんとか思ったりもしたけど、危険度も段違いだから、結局召喚した勇者たちにいきなり戦わせないのは当然という結論に落ち着いた。


 ちなみに文野がいないのはハブられたからではなく、あいつが朝に弱いからだ。朝のあいつは普段以上に機嫌が悪いからな。関わりたくない、というのが俺らの共通認識。ヘタレではなく合理的判断です。




「ルールはいつも通りでいいね! 行くよ!」


 天霧の手で弾かれたコインは綺麗な放物線を描きながら落ちてゆく。そして地に着いた瞬間、俺は斜め前方に駆け出す。次の瞬間、俺がいた場所をナイフが通り抜けていた。

 天霧に接近した俺は勢いを殺さずに、肩を狙った刺突を放つ。しかし俺の突きは天霧の短剣に軽くいなされてしまった。攻撃を躱された俺はひとまず距離をとる。

 両者共に余裕が見られる。まだここまでは軽い肩慣らし。準備運動に過ぎないということだ。


 ちなみに、いつも通りのルールとは

 ・コインが地に着いたら始め

 ・基本的になんでもあり

 ・魔法で弾幕張るのは流石に……ねぇ?

 ・相手に傷をつけるか寸止めするかで勝ち

 という単純なものだ。まあ合法的に相手を痛みつけられるから基本的に寸止めなんてしないけど。


 戦局の読み合い、意表をつくという点では天霧の方が上手(うわて)だが、そもそもの能力差は簡単に埋まってくれない。今のところ、戦績は俺の8勝1敗だ。奇襲とかそういう裏をかく戦法が得意なやつは、手の内がバレてる相手にとことん弱い。それを克服するためにこうして毎日戦っている、というわけだ。

 そんな相手と戦いまくっているのだから、当然俺の対人戦闘技術も高くなっている。

 互いから学び、盗む。切磋琢磨という言葉をそのまま表しているようだ。なんで異世界に来てから青春っぽいイベントが起きてるんですかねぇ……(呆



 天霧が再びナイフを放つ。今度は10本近くを同時に。不可能ではないが、すべてを避けるのはスマートじゃない。[魔力感知]で見極めて、実体のある本物だけに意識を集中はする。幻影で創られたナイフは無視。剣でナイフを弾く、弾く、弾く!


 しかしナイフは攻撃としての意味はほぼ皆無。ただの目眩ましだ。すでに正面に天霧の姿はなく、気配もない。……影に潜ったか?

 あいつのスキル[影潜]は『影の中を移動できる』というだけの効果だ。一見地味だが、その汎用性は高い。MPの消費は大きいものの、戦闘中に潜り続ければ攻撃はされないし、隠密行動にも便利。ついでに[影魔法]と組み合わせたら戦術の幅がぐんと広がる。



 こんな風に、なッ!



 常識にケンカを売って俺の影が牙を剥く。具体的に言うと、鋭い円錐形に変形して迫ってくる。実体を持って。要するに某鹿忍者の忍法・影縫いだ。今さらだけど魔法ってなんでもありだよな。


 まあ打つ手がないわけじゃない。俺も魔法を発動させる。


「[夜の帳]!」


 場を闇で満たす。ただの暗闇ではあるが、この場では最適解の一つになる。


 因みに呪文を唱えるのにはちゃんと理由がある。

 1つは偽装。魔法系スキルは結構希少だ。魔術系スキルを鍛えていけばいつかは魔法系スキルに昇華するが、それは才能がある者だけ。大半は寿命が先に来る。先天的に魔法を持ってるやつもいるが、やはり少ない。ゆえに、魔法系スキルを持ってるやつは目立つのだ。目立ちたくないってのはさんざん言ってる通り。別にここには天霧しかいないじゃん、と思うかもしれないが、咄嗟に呪文が出なきゃダメだから。習慣をつけようってこと。

 そしてもう1つは威力の増強。言葉にすることでイメージが強固になり、魔法の威力が上がるのだ。問題解いてるときに独り言が出ちゃう、ということに心当たりはないだろうか。言霊とは違うけど、言葉にすると脳で整理される。なのできちんと詠唱までやると威力はまた上がるのだが、やはり時間がかかる。その辺のバランスを考えると呪文を唱えるだけがベストだと考えてる。


 おっと、少々道草し過ぎたかな。本筋に戻そう。



 影を扱うスキルの弱点は光と闇だ。影は光と闇の両方がなくちゃならない。その性質上、光や闇、どちらか片方しかないと影自体が存在できないので、強制的にスキルを無効化できる。


 スキルが無効化され、俺の影のあった位置から天霧は短剣を手に強襲する。影魔法を防がれてから、自分意思でやったんならその奇襲の効果もあっただろう。しかしそう仕向けられた攻撃はなにも怖くない。もとより天霧は接近戦が得意ではないわけで。


 俺は攻撃を軽々と避けて、天霧に渾身のデコピンをかました。[痛撃]を添えて。



「ッッ~~~~~~~!!」



「はい、また俺の勝ち~!」



 いぇーい。

 蹲る天霧。勝ち誇る俺。まさに愉悦!!

 早朝の試合は、今日も俺に軍配が上がった。


「き、キミも随分とイイ性格してるよね……」


「否定はしない。きっとどっかの誰かさんのが移ったんだろ」


「アハハ、そうかもね。

 さてと、じゃあ反省は後にしてさっさと出ちゃおうか。他の人たちもちらほら来はじめたし」


 確かに他の冒険者たちも活動し始めているようだ。装備を外してさっさと場所を空ける。俺らはいそいそとギルドから出て、お世話になってる建物へと向かった。




  ◇◆◇




「いただきます」


「「「いただきます」」」


 食卓に並んでいるのはごく普通の洋食。トーストにオムレツにスープにサラダ。どれも美味しそうだ。食の勇者さん、感謝です!思ってたよりも貴族って質素な食生活送ってんのな。まあシェリーさんたちだけかもしれないけど。


 さて、お分かりかもしれないが、現在、天霧と文野もここに寝泊まりしている。


 天霧の戦法は投げナイフと魔法を組み合わせたスタイルだ。投擲武器というものは消耗品として扱われる。使い回すには使用後に回収し、念入りな手入れが必須となるからな。それを一本一本やるのは果てしなく面倒臭い。とんでもなくコストパフォーマンスが悪いのだ。だから必然的に他の部分で節約しなければならない。

 そんなわけで二人はシェリーさんの『宿が決まってないなら使っていいわよ』という申し出にありがたく応じたのだった。



「―――でさ、今日は何がダメだったのかな? 月夜クン」


「ん? ああ、そうだな……まず、小手先の技術に頼りすぎ。最初からそれだと相手は当然警戒するわな。結果、引っ掛かりにくくなる。表があるからこそ裏があるわけだし。普通に接近戦ができるようになった方がいい、てかなれ」


「あー……だよねー……」


 飯を食べながら今日の反省をする俺ら。行儀とかテーブルマナーとか、勘弁してもらいたい。俺ら庶民ですしおすし。

 俺の指摘に天霧は納得はしてはいるものの、迷っているようだった。


「……やっぱり怖いか?」


「そりゃあ、ね。武器なんて持ったことなかったし、向けられたこともなかったし。傷を負うのはやっぱり怖いよ」


 天霧は小柄ではないが、線が細い。身体的に弱いから相手と正面きってやり合うのが怖いのだろう。どうしても、やりあってぶちのめされるイメージが払拭できてない。とことんロングレンジから攻撃するのは、きっとこいつの臆病の裏返しだ。

 加えて、こいつは傷を負うということに少々トラウマを抱えている。直接敵と対峙するのは、確かにまだ難しいかもしれない。


「まあ、あれだ。1回大型の雑魚モンスターと戦ってみたらどうだ? 俺も最初怖かったけど、自分の2倍近くあるやつとやり合ったら、それより小さいやつらは怖くなくなったし」


「「えっ」」


「えっ」



 ………。

 自分の実体験に基づいたアドバイスをしたらドン引かれた。あれ?なんで?

 俺の疑問に答えてくれたのはシェリーさんだった。


「あのね、ツキヨ君。大型の魔物って最低でもオークレベルよ? 初心者が手出しするような相手じゃないの。というか、ツキヨ君の2倍近くある魔物って何?サイクロプスとでも戦ったの?」


「いえ、ミノさ……ミノタウロスです」


 デカかったなぁー、ミノさん。懐かしい。


「ミノタウロスって確か冒険者ギルドの決めた危険度がCじゃなかったかしら?」


「そうですね……普通ならそのくらいですかね。ただ、俺が戦ったやつは平均より能力値が低めだったのでせいぜいDだと思います」


「まああなたのことだから、ステータスを見て大丈夫って思ったんでしょうけど、あまり過信はしないようにね。

 敵を見過って死んだ冒険者は山ほど見てきたわ。中には将来が楽しみな子もいた。あなたたちは勇者なんて呼ばれて期待されてるみたいだけど、いざいうときには他のことなんか考えずに逃げなさい。元々、あなたたちはこの世界に巻き込まれただけなんだから。責任を負う必用も義務もないのよ。いいわね?」






 か……



 かっけぇ……!!






 気づけば、話に参加してなかった文野もシェリーさんの話に引き込まれていた。マジでこの人がエドガーと立場変わればいいのに。王国抜けてでもついていこうってやつが出るわけだよ。


「はい、気をつけます」


 俺はそれしか返答できなかった。なんというか、反省っていう雰囲気じゃなくなっちゃったな。


「あれ? そう言えばエドガーさんはいないんですか?」


 天霧が会話を続けようとしたのか、話題を振った。

 この場にいるのは俺、天霧、文野、そしてシェリーさん。エドガーは知らんが、ユリアは騎士団に混ざって盗賊団の討伐に行った。あいつには王国に行くことは話してないらしい。娘を自分たちの問題に巻き込みたくないってところか。


「昨日遅くまで飲んでたみたいで、まだ寝てるわ。昼までは起きないんじゃないかしら。

 こっちはお客さんをもてなす側だっていうのにまったく……」


「まあまあ、その辺にしておきましょう。どうせ何言ってもあいつには無駄なんですから。それに、あいつにもてなしなんて期待してませんよ」


「はぁ……本当にどうしてあんな風に……」


 それきり場は再び沈黙に満たされる。

 ……静かだ……いつも騒々しいやつがいないとここまで変わるものなのか。ホントになんであいつより優秀なシェリーさんが(ry


「あなたたちは今日はどうするの?」


「そうですね……簡単な依頼を受けてこようかと思います。午前中に終わるようなやつを。

 午後は休息に当てようかと思ってます。いよいよ明日ですから」


「そう。それならいいわ。前日に頑張りすぎて、当日ベストのコンディションで望めなくなるのは馬鹿みたいだもの」


 そう言ったアリアさんの視線はエドガーが寝ているであろう場所に向いていた。なるほどあの馬鹿は前にやらかしたんですね分かります。

 あれと同レベルなんてまっぴらごめんだ。






「じゃあ、行ってきます」


 朝食を終えた俺らはそのまま冒険者ギルドに向かうことにした。他にすることもないし準備の必要もない。


「ええ、行ってらっしゃい」



 行ってらっしゃい、か。そういえば初めて言われたかもしれない。両親は言わずもがな、お兄さんたちも行ってらっしゃいは言わなかったしな……


 ふと思った。


『普通の母親というのはこんな感じなのかな』と。




  ◇◆◇




 ギルドの大きな掲示板で適当な依頼を探す。


「うーん……どんなのがいいのかね?」


「討伐系じゃない? 新しい武器にも慣れなきゃいけないしさ」


「すぐ終わる討伐系でしたらこれはどうでしょうか?」



     ***


 魔物の間引き【 D 】


 内容

 ・騎士団が盗賊団の討伐に行っている間、冒険者の方でスピカ周辺の魔物の数を減らしてほしいとのこと。


 依頼主

 ・ヴィガーズ公国騎士団団長 ルドルフ氏


 期間

 ・騎士団が帰ってくるまで


 報酬

 ・討伐した魔物の数次第

 ・目安としては20体で1000G


     ***



 文野が指差したのは、掲示版のド真ん中に貼ってあるそんな依頼だった。


「いいんじゃないか? 条件に合致するし、何より出来高制の報酬がいい」


「確かに『討伐した魔物の数次第』っていうのはボクたちにしたらおいしいよね」


「ランクも問題ないしな」


 俺たちは天霧だけがCランク、俺と文野がDランクだ。パーティーとしてのランクはメンバーのランクの平均なので、Dってことになる。


「じゃあ決まりだね。文野サン、お手柄だね」


「心にもないことを。あんな所にあったんですからどうせ誰かしら見つけてましたよ」


「そんな突っかかるなよ。ひねてばっかいると天霧みたいになるぞ?」


「うっ……それは死んでも嫌ですね。先程の言葉は訂正します、すみません」


「二人とも、ボクをなんだと思ってるのさ……」




 天霧をいじり倒したところで、依頼を受付に持っていく。


「こんにちは、カマルさん。今日もあの二人と一緒なんですね」


「あぁ、ソロよりも安全だしな。

 それより依頼の受理頼む。あんまり時間ないんだ」


「……了解しました。スピカ周辺の魔物討伐ですね。依頼の受託を確認しました。

 1つ助言をすると、街の西門から出るといいかと思いますよ。東側は騎士団が通りましたし、南側と北側は他の冒険者が既に向かっていますので」


「分かった。いつもありがとな」


「いえ、お仕事ですから」


 そのまま立ち去ろうとして思い直す。俺は意を決して口からその言葉を絞り出した。


「ティファニー」


「はい、なんでしょう?」




「行って来ます」




 彼女は驚いたようだったが、すぐに微笑みを浮かべて告げた。


「行ってらっしゃいませ」








 二人の元へ戻ると天霧がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。……同じ笑顔なのにどうしてこうも違うのだろうか。


「やあ月夜クン。キミはもしかしてロリコンなのかい?」


「黙れ。てかたかが3歳差じゃロリコンじゃないだろ」


「え!? まさか本当にあの子n「一般論だ一般論!! 俺は変態じゃない! それに、」それに?」


 それに、変態紳士(ロリコン)は白石だ。そう言いそうになるのをすんでのところで堪える。危ない危ない……個人情報を漏らすところだったな。


 白石陽貴。紳士的、イケメン、頭脳明晰、非の打ち所のない生徒会副会長。それがあいつに対する周りの評価だ。明上とは違ったタイプのイケメンで、明上がアツいやつだとすれば白石は暖かい感じ。包容力があるって言うのかね。

 ……というのは表の話で、その実態は重度の変態紳士である。守備範囲は上限がギリギリ13歳までという強者(つわもの)だ。ヲタ仲間として俺もかなり仲良くしていた。今はどうしているんだろうか。やっぱり石黒と白黒コンビ組んでるのかね。


「……何でもない。

 行こうぜ、西門だってさ」


「それに何なの〜? 気になるなぁ〜。教えてよ〜」


 うざったい天霧を適当にあしらっていると、唐突に脳に声が響いた。



『3人とも!! 聞こえているわね!? 今すぐ戻って来て! 大至急!』



 聞こえてきたのはシェリーさんの声、[念話]だ。尋常じゃないほど焦っている。いったい何が……?


『はい、聞こえてますよ。それよりどうしたんですか? やけに焦ってるようですが』



『そりゃあ焦るわよ!! 王国が勇者たち引き連れて戦争仕掛けてきたんだから!!!』



 俺は頭の中が真っ白になった。



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