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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第13話 あ、そのイベントは遠慮します

  Side:Tsukiyo



 結局、あの後エドガーに理解してもらうのに夜までかかってしまった。そりゃあ王位が弟に行くわけだ。あんなのに国任せたら一ヶ月もも経たずに崩壊するわ。


 話しあった結果、とりあえず公国に移動することになった。何でも、エドガーは公国の重鎮らしく、今回得た情報を持って帰らなければならないとのことだった。……真偽の程は後で確かめよう。国任せたらアカンってさっき言ったばっか。


 実は、必要なことは聞けたし、面倒ごと避けるためにも別れようと思ったのだが、エドガーが


『男に二言はねえ! 付き合うっつったら付き合うぞ!』


 などと鬱陶しく(のたま)うので連れて行くことにした。

 え? エドガーの扱い? ……バカに払う敬意はない。


 まぁ冗談はこれくらいにして、実際エドガーはなんと言うか、良い意味で親しみやすいんだよな。バカだけど頼れる兄貴分、みたいな。

 この場合のバカは勿論良い意味だ。未知の世界、未知の環境、そんな中で他人を信用するのがどれだけ難しいことか。加えて言えば、俺自身若干の人間不信が入ってるから信用のハードルは高くなってる。

 その点、エドガーのように奔放に生きているやつといるのは気が楽だ。Assassin Classroomのカ○マ君も言ってたな。警戒せずにいられる数少ない相手だとかなんとか。俺から見たエドガーは正にそれで、裏表のない裏切りそうもない相手、いま現在最も信頼してる相手と言っても過言ではなかった。俺が一日中誰かと一緒に旅をしていられるなんて、他人を受容できるようになったっつーことで、良い傾向なのかね……


 ま、調子のるから絶対本人には言わないんだけども。


 そんなわけで色気も何もない男2人旅を続けているが、問題は特になかった。馬鹿みたいに強い魔物が出ることも、お偉いさんに目をつけられることも、美少女とフラグが立つようなこともなかった。

 ……なかったんだけどなぁ…


「おい、おっさん達!身ぐるみはいで全部置いてけや!!

 素直に従えば命だけは見逃してやるよ!」


「なんて慈悲深いんだww俺らのお頭はwww」

「ちょ、お頭この前そう言っておいて結局殺したじゃないッスかwww」

「お前それ言っちゃ意味無えだろうがよ!」

「wwwサーセンww」


 そう思ってた結果がこれだよ。日も傾いてきたころ、山越えをしようとしていたときに遭遇したのは、よりによって盗賊だった。下っ端たちに草生えてめっちゃウザい。5chに帰れ。

 どうせなら襲われてる女の子助けるとかさ、もっとこう……あるでしょ? 確かに定番だけど、どうせなら他のイベントが良かった……

 今からチェンジ利かない? 無理? あそう。


「あぁ? なんだお前ら、盗賊か。

 そっちがその気ならこっちも容赦しねぇぞ。こちとら懐がちょいと寒くてなぁ。お前らふん縛って街の衛兵に突き出すだけで報酬金がもらえんだからな」


 そう言い放ち戦斧を相手に突きつけるエドガーからは、確かに強者のオーラが漂っていた。いつものまぬけな様子は微塵もなく、一流の冒険者の表情だった。それを盗賊共も感じ取ったようで、なかなかエドガーに攻めようとしない。


「オラ、さっさとかかって来いよ! この腰抜け共が!」


「グッ………」

「クソ……!」


 変わらず動こうとしない盗賊にじれったくなったのか、エドガーが動き出そうとした瞬間、盗賊頭の悪意(・・)が俺に牙を剥いた。それなりの速さで俺の背後を取った盗賊頭は剣を俺の首に突きつける。


「ハハハッ! 残念だったな! この坊主、テメェの連れなんだろ? そこから動くんじゃねぇぞ! こいつの命が惜しければな!!」


「なるほど、その手があったか!」

「流石俺らのお頭だ!」

「オラ、さっさと武器捨てて大人しくしやがれ!」


 大方、エドガーを俺の護衛とでも勘違いしたのかね。エドガーに聞いたが俺は割と幼く見えるらしい。16だと言って驚かれた。だから賊も俺を戦えない者としてカウントした。そして大男に敵わないのであれば、弱い方を人質に取ればいい。当然のことだ。

 ……その認識が正しければ、だが。


 そんな盗賊たちを見たエドガーは深く、それはもう深く溜息をついた。


「はぁ~~~……おい、死ぬなよ」


 それは、この場の状況を正しく理解しているからこその警告だったのだろう。暗がりの強襲、彼我の人数差、自分の圧倒的な実力、人質にとられるT少年。

 しかし何も分かっていない盗賊共は。


「『死ぬなよ』って、テメェが動かなきゃ殺しはしねえよ!

 オラ、さっさと持ってるモン全部置いてけ。そうすりゃこの坊主の命は助かるんだからよ」


 そんなことをほざいている。だが、その顔は次第に驚愕と不信感に染まっていった。エドガーがゆっくりと歩き出したからだ。


「おいおい、死ぬなとか言っといて酷えやつだな。マジでこいつの首撥ねんぞ」


「やってみろよ。できるんならな」


 エドガーの表情は冷たく、その言葉が本気だということを否応なく理解させられた。こんな顔もできたのか。

 エドガーは仲間を犠牲にしても盗賊たちを捕えるつもりなのだと、盗賊頭は考えたのだろう。そんなエドガーに恐怖を感じたのか、剣を握る手に力が込められていく。


「クソッ、死にやがれッ!!!」


 冷静さを完全に失ったやつは、半ばヤケクソ気味に腕を大きく振りかぶる。ついに剣が俺の首を撥ねるかと思われた瞬間、




 べキン、と。そんな音が辺りに響いた。




「………………あ?」


 盗賊頭が動きを止める。他の盗賊たちも思考がフリーズしてしまったようだ。

 これはパラメータの差だ。奴のSTRを加算した剣撃を、俺のVITが上回った。それだけの話。まあ、[硬化]使うなど小細工はしたのだが。

 これが当然の結果なのだ。蟻の牙が、象の皮膚を通ることのないように、奴の(STR)が俺の皮膚(VIT)を通る道理はない。


 少しして思考を取り戻した盗賊共の顔には、恐怖がありありと浮かんでいた。まるで化物を見るかのような目つきで俺を見ている。


「な、何なんだよお前ら! おかしいだろ! こ、こんなの聞いてねぇよ!

 わ、分かった、もうお前らにては出さない! だから早くどっか行ってくれ!」



「おいおい、何を言ってやがるんだ? 先に手を出して来たのはそっちだろ?

 それに俺は言ったはずだぞ?



   死ぬなよ、ってな 」



「ヒィッ!!」



 今から自分が何をされるか、大方、拷問されているところでも想像したのだろう。エドガーが[威圧]を以て言葉に殺気を込めると、奴は失禁しながら気を失った。というか、他の奴らも大体同じような感じだった。

 ……俺がそんなことをすると思ったんだろうか。失礼な奴らめ。俺ほど温厚なやつはなかなかいないよ?


 しかしそれより、先ほどの言葉が引っかかる。やつは、こんなの聞いてないと言った。果たしてそれはただの言葉の綾だったのか。それとも――――



「おいツキヨ、怪我は無えよな」


「……何その疑問に見せかけた事実確認。まぁダメージはないけど。

 ところでエドガー、こいつらどうするんの? このままバラバラに引きずっていくのは流石にメンドいんだけど」


「別に一気に連れてきゃよくね? 紐とか無えの?」


「縄なら持ってる。じゃあ縛って連れて行く感じでいいか?」


「あぁ、それでいいぞ」


「了解。じゃあちょっとこいつら洗ってくるわ。こんな悪臭耐えられる気がしないし」


「おう、頼んだ」


 なんでお前は働こうとしないんですかねぇ。これだからやんごとなき方々は……。……今晩の飯抜いてやる。




  ◇◆◇




「おい、ちょっといいか?」


「? はい、何でしょう?」


「ここに来る途中で盗賊共に襲われてな。引っ捕らえてきた」


「え……? しょ、少々お待ち下さい! ただいま鑑定が使える者を連れて来ますので!」


 ヴィガーズ公国入国のために関所のような場所に来たのだが、どうやら犯罪者の受け渡しには面倒な手続きが必要なようだった。ま、そりゃそうか。ただそれっぽい見た目だけで犯罪者と決められはしないわな。


 しばらくすると、先ほどの衛兵がもう一人を連れて戻って来た。何だか小林を連想させるようなダルそうな男だ。鑑定を使えるというのは本当みたいで、スキルに[人物鑑定Lv.4]を持っている。


「どうも、そいつらが件の盗賊たちですか?」


「あぁ、そうだ」


「んじゃ、いっちょ働きますかね」


 鑑定士は盗賊たちに次々と触れていく。


 [鑑定]スキルと[解析]スキルの大きな違い、それは物理的な接触が必要かどうか、という点だ。[鑑定]スキルはどんなにスキルレベルが上がっても、どれだけ昇華して上位のスキルになってもそこだけは覆らない。対して[解析]スキルの発動条件は視界に入れるというその一点だけ。その差が、特殊スキルになるか一般スキルになるかの分け目なのだ。

 ……そうだよ、優越感に浸って悪いか。ちょっとくらい良いじゃん。あんまり人に見せないから心の中でくらい許せ。


 ちなみに、盗賊たちの今の格好は腰回りに布を巻いただけという、原始人顔負けの素敵なものだ。汚かったし。無論、俺とエドガーでやった。

 なので目の前には裸族に次々と触れていく男、という奇異な光景が出来上がっている。牧野や山本あたりがもしいたらフィーバーすることだろう。腐女子(やつら)は敵だ。最近の流行りは月×影らしい……おっと悪寒が。


「大丈夫みたいですね。あと、念の為あんたらも調べさせてもらっていいすか? 一応規則なんで従わないわけには行かないんすよ」


「大丈夫だ」


「そんじゃ失礼しまーすっと……っ!? エ、エドガー様?! 本物ですよね!

 失礼しました! 公国トップのエドガー様とは露知らず! どんな処罰でも甘んじて受け入れます!」


「何!? それは本当か!?

 も、申し訳ありませんでした! 我が国の頂点であるエドガー様と判別できないとは、職務を全うできなかったも同然。償うためにこの身全てを以て尽くす所存であります!」


「あー、そういうのいらないから。暗いんだから判らなくて当たり前だ。不問にしとけ。あとそんな騒ぐな」


「「は、寛大な処置に感謝いたします!!」」


 ………あのエドガーが、様付けされて、しかも『公国の頂点』などと呼ばれていた。国の重鎮ってガチだったのか!!

 俺は一言も発することができない程に驚いていた。


「ところで、こいつらはどうなんだ?」


「はい、確かに確認いたしました。身分証も持たないところを見るにどこかのスラム出身の者がほとんどみたいです。ま、どうでもいいことなんですけどね。

 それと、私も1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「ん? なんだ?」


「そちらの少年はどうされたのですか? 無理にお答えいただかなくとも良いのですが、気になってしまったもので……」


「あぁ、こいつはツ「どうも、衛兵さん。カマルと申します。少々縁がありまして、エドガー様と行動を共にさせていただいております。冒険者をやっています」……ってわけだ」


「はぁ………」


 エドガーに任せると嫌な予感しかしなかったので割り込ませてもらった。そしていきなり本名晒すとかやめてほしい。馬鹿じゃねえの?

 ……あぁ、馬鹿だったわ。


「ま、俺の客人として扱ってやってくれ」


「エドガー様がそう仰るのであれば、了解いたしました。

 何はともあれ、どうぞ中に入って下さい、お二方。ようこそ、自由の国、ヴィガーズ公国へ」


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