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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第12話 愚者と賢者の討議

  Side:Edgar



 俺は目の前のこいつ、カマルの変貌ぶりに驚きを隠せなかった。

 確かに、依頼を受ける前まではよくいる小生意気なルーキーといった雰囲気だった。それなのに今はどうだ? あの余裕に満ちた表情はなりを潜め、真剣そのものだ。


 こいつは一体何者だ? そんな疑問が浮かんでくる。


 ただのガキかと思っていたらありえない手際で依頼をこなし、

 されどトウセンモドキに騙されることもなく、

 そんな結果にも肩を落としてどこまでも上を目指そうという向上心。


 そんなやつが持ち掛けてくる話を、俺はどこか楽しみにしていた。

 が、その話は楽しんでなどいられない内容だった。


「単刀直入に伺います。あなたはリルバ王国現国王オブリーシュ・L ・クリストフの兄、エドガー・L・クリストフで間違いありませんね?」


 それを聞いた瞬間、呼吸が止まりそうになった。




『どうしてお前がそれを知っている?』




 そう訊きたくて仕方なかったが、かろうじてカマルに返答する。


「……あ、あぁ。その通りだ」


「やはりですか。あぁ、訊きたいことがあるなら今のうちにどうぞ」


 俺は違和感を覚えた。王国側の人間かと思ったが、妙に低姿勢だ。

 まぁ、好都合だろう。早速俺は質問を始める。



「俺のことをどうやって知った?」


「俺のスキルですよ。[解析]といいます」



「なぜ俺に接触してきた?」


「そうですね……俺に協力してもらおうと思いまして」



「お前は俺の敵か?」


「敵対するつもりはありません。むしろ味方かと」



「最後に――――お前は、何者だ?」

 


 こいつに感じている違和感。その原因の一端は恐らく、強さの底が見えないという点だろう。実際に戦ったらよくて五分、下手したら敗北を味わわされることになる。

 それでも、得体のしれない相手と手を組むことなどできない。ここだけはどうしても譲ることができなかった。

 が、予想外なことにこいつは簡単に正体を告げた。驚きのその正体を。



「王国に召喚された異世界人の一人、ですかね。

 あ、カマルは偽名です。本名は月夜と言います」



 …………は?


「質問はこれくらいにして本題に入りましょ「待て待て待て待て!」……なんですか?」


「いやいや今のは流していいところじゃねぇから!なんで勇者様がこんなところにいるんだよ?ワケありか?」


「はぁ……そうですね…実は……」



 そして俺はカマル、じゃなかった。ツキヨの経歴を聞いた。


「うっ、お前もそんなに若いのに……苦労ばっかしやがって……お、俺はそんなやつを疑ってたのか……

 ウォォォォオオオ! ツキヨ! 俺は、お前に協力を惜しまねぇぞ!いや、むしろ協力させてくれ!!」


 号泣だった。


「え、えぇ、ありがとうございます」


 だってよぉ、こんな若いやつが仲間のために一人で頑張ってんだ……漢を託すには十分だろ!








「ヨッシャ、あの馬鹿弟をブチのめすぞ!」







「いや、戦うかどうかはまだ決まってませんから」




  ◇◆◇




「ではまず手始めに、王国について、エドガーさんの知ってることを全て教えて下さい」


「ツキヨ、敬語はなしだ。それと、俺のことも呼び捨てでいい」


 まったく……こいつは分かってねぇな。漢を託す以上二人の間にそういうのは不要なんだよ。


「えぇ……? はぁ……分かったよ、エドガー。これでいいのか?」


「おうよ。よろしく頼むぜ、相棒」


「相棒、か。まぁよろしく」


 そう言って俺たちは拳をぶつけ合う。

 やっぱテンション上がって来るな! まるで若い頃に戻ったみてえじゃねえか!

 懐かしいな……三人で城を抜け出して「冒険だ」なんて言ってな。結局見つかってこっぴどく叱られたあと、無理やり連れ出した俺はしばらく口も聞いてもらえなかった。俺たちがあの頃のように笑い合える日は、来るのか……。

 いや、今はそんなこと考えてる場合じゃねえか。


「さてと……王国についてだったな。

 そうだな……じゃあ勇者召喚が何を元にされているか知っているか?」


「[空間魔法]と、初代勇者が元の世界に帰るときに使った魔法陣だって聞いてる」


「なんで知ってんだよ……そう、[空間魔法]は初代勇者のスキルだった。つまり、何一つ自分の力じゃないのに我が物顔でそれを使い、果てには関係ない異世界人を呼んでいるんだ。あの国はな。

 さて、ここで再び問題だ。勇者のスキルはどのようにして王家に組み込まれていったと思う?」


「遺伝、つまりは性交渉」


 なんだ、つまんねえな。もうちょい初心(ウブ)な反応を期待したんだが。


「その通り、勇者の血筋を持った子供を元に、親から子へ、子から孫へと受け継がれてきたのさ。確率こそ高くはないが、[空間魔法]を持ってる人間が子をなしていけば、いつかスキルを受け継いだ子が産まれるって寸法だ。王には[空間魔法]を持ってるやつしかなってはいけないから、どうしても王族は増えてしまうんだがな。

 そんな特殊魔法を持ったやつが何人もいれば、強大な軍事力を誇る帝国ともやり合える訳だ。まぁあいつは子供に恵まれなくて帝国に休戦を持ちかけたらしいが」


「たとえピンチになっても異世界から勇者を呼べばいい……これは国としてデカいアドバンテージだな」


「ま、そんな簡単なもんでもないんだがな。

 そして頼みの綱である勇者召喚。こいつにも欠陥が存在するんだ。それはな、術者が呪われるということだ。

 勇者召喚は空間魔法の使い手、初代勇者の魔法陣を元にした新たな魔法陣、そして異世界から勇者を呼び出すだけの魔力、それら全てが揃ってようやく発動するんだ。だがな、異世界から勇者を呼び出すなんて技術、そんなものは普通存在してはならないんだ。そうだろ? 世界の法則を無視してやがる。

 そんな超技術になんのデメリットもないなんてこと、あるはずがない。そのデメリットこそが呪いだ。術者の命と引き換えに、世界を救ってくれる勇者を呼び出す。……それが勇者召喚の正体だったわけだ」


 胸糞悪い話だ。何かを救うために何かを切り捨てるなんて。どんな理由があろうとも、人が死んでいい言い訳にはならねえだろうがよ。そんなもんを許容しやがるなんて反吐が出る。

 おっと、いけねえな。


「さて、じゃあ本題に入るとするか。

 国王の異変、だったか? そいつは俺も感じていたことだった。

あいつは昔から優しくて、面倒見もいいやつでな。俺も歳上だが散々世話になったんだ。俺は昔っからよく不器用だって言われててな、あいつに王位が与えられるのは当然だった。

 あいつが王になってからは全てが順調だった。ちゃんと民のことを考えた政治をしていたし、実際あいつを慕う民衆は大勢いた。

 けど………そうだな、5年くらい前から、あいつのやり方は変わっていった。何よりも国の利益を優先するようになっていったんだ。はじめの頃はそれに反対する人たちもたくさんいた。だが、面と向かって「間違っている」と言える程おかしいものではなく、次々と王に言いくるめられて誰も反対できなくなったんだ。

 それからどんどんあいつは過激になっていった。奴隷の扱いへの規制を緩くしたり、他種族への差別を煽ったり、税を巻き上げまくったりな。直接的でなかったにしろ、それに等しいことをしていた。それこそ狂ったような政治、いや、政治とすら呼べないものだったな。あれは。

 だが、王宮内の奴らは誰もそれを指摘しなかった。まるでそれが当然であり、違和感何か感じないとばかりに。

俺は怖くなった。いつしか俺も同じようになってしまうのではと。

 そんな俺が決意したのはある人のお陰だった。さっき言った召喚を行った術者、アイリス様だ。アイリス様は俺の他に唯一変化に気付いていた()だった。あの子は言ったよ。他の貴族を連れて逃げてくれ。そしていつか国王を戻してほしいってな。当時10歳の子がだぜ?

 そして俺は数人の貴族を連れて南へ逃げた。王都に住んでいた貴族はもう既にダメだったが、辺境のやつらは正気だった。そいつらだけでも、と思ったよ。

 それが公国の始まりだ。あの国は王国の異変に対抗するためにつくられたんだよ。こいつは知らなかっただろう?

 そんなこんなで今に至るわけだが……何か分かったか?」


 久しぶりにこんな喋ったな。やっぱり一人旅よりも話し相手がいる方がいいな。


「そうだな……一つ、確認したいんだが」


「おう」


「現国王は本当にそんなことをするやつじゃなかったんだな?」


「20年以上一緒にいた俺が保証する。それはない。あいつはひたすらに民のことを考えるやつだった。絶対にだ」


 しばらく黙り込んでいた月夜だったが、ようやくその口を開いた。


「恐らくだが、国王は何者かによって洗脳に近い扱いを受けている。そうでなければ、脅迫されている場合だが……その可能性は低いだろうな」


 なるほど………だが――――


「どうしてそう言える? 根拠はあるのか?」


「なくちゃこんなこと話さないよ。

 まず、王がそんな行動をとる状況には、いくつかパターンがある。


 1つ目。王が望んでそうした場合。その場合、王はとんでもない愚王ということになるな。だが、これはエドガーの証言に反するから却下だ。それに数年前から急に、って部分の説明がつかない。


 二つ目。あの王が偽者である場合。これは本命だな。それなりに可能性は高い。本者と偽者をすり替えるには、当然王城の内部まで誰にも気付かれず侵入し、王を誘拐しなければならない。王の側に控えているのは王国でも有数の実力者なんだろ?そんなやつらを掻い潜り誘拐できるなら暗殺し放題だ。

 ただ、それは相手の目的が王の暗殺だった場合だ。相手の目的が別の、例えば王国を裏から操るためとか、そういった類のものだったら大いにありえることだ。


 3つ目。王がそうせざるを得ない場合。これにはさっき言った脅迫なんかが含まれる。ただな……こいつは王がそれに従う理由が思いつかないんだよ。暗殺の脅しだとしたら今までにいくらでもやられてきただろうし、テロもこの世界の技術ならいく防ぎようはある。そんなのにいちいち従ってたらそれこそ愚王だろ。親しい人がってのも考えられるけど……ま、大穴ってところか。

 だからこれも却下。


 そして4つ目。王が洗脳かそれに準ずることをされている場合。こいつが大本命だな。

 エドガーの話によれば、国王がおかしくなった後、周りのやつらもおかしくなっていったんだろ?ならば入れ替わりよりも洗脳の方が可能性は高くなる」



 なるほどなるほど。すげえ考察だ。しかしツキヨ、俺を見くびってもらっては困るな。

 俺の―――




「で、結局どういうことなんだ?」




 ―――俺の頭の悪さを。



Vocablary


・スキルの継承

固有スキルを除く全てのスキルは、親から子に、子から孫に受け継がれることがある。

また、スキル継承とは別に産まれた時点で何らかの特殊スキルを有している場合もある。


・奴隷

犯罪を犯した犯罪奴隷、借金が返せなかったりしたときに売られた、あるいは自らを売った負債奴隷、種族差別によって堕とされた亜人奴隷などが存在する。

選ばなければ安く入手できるため、高位の冒険者たちは決して裏切ることのない仲間として、あるいは盾として購入する。

値の張る奴隷程、元を取るために好待遇になりやすい。

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