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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第11話 はじめの一歩

  Side:Tsukiyo



 という訳で、俺は今「冒険者ギルド」に来ている。


 冒険者ギルドは大抵の街にある。ほとんどの冒険者が、魔物を狩ることを生業としているからだ。これがあるだけで、街の安全性は大きく変わる。街づくりの際に、まず作らねばならない施設なのだ。


 身分証の入手と自身強化の手段。そのためにここへ来た訳だけど……さぁ、テンプレ通りに行くのでしょうか!

 オラ、ワクワクしてきたぞ!


 カウンターには……受付嬢がいらっしゃいました。クール系青髪眼鏡美人。ウム、よろしい。


「あの、すいません」


「はい。こちら冒険者ギルドです。ご依頼ですか?」


「いえ、登録をしに来たのですが」


 そう言った途端、建物内が緊張に包まれる。

 ざわめきが気になって後ろを振り返ると、かなりいいガタイをした男が立っていた。 


 お? 来るか? 来るのか?

 異世界召喚モノではもはやお馴染みの『ガキのくせに冒険者なんて早えんだよ!』イベントが!! お? お?!


「分かりました。冒険者登録ですね。登録料、3000Gになります」


「え? あ、はい」


 あれ? あれれー? 何もない……だと?

 大男は後ろに並んだだけにとどまった。お金を取り出しながらも、不思議に思い[聞き耳]を発動すると周りの話し声が鮮明に聞こえてくる。


「あれがBランクの……」

「間違いない。『怪力』のエドガーだ……」

「おい見たか、ギルド裏に運ばれてきたオーガの死体。依頼の途中で遭遇したからって、ついでに討伐してきたらしい」

「はぁ!? オーガなんて単体で危険度Bじゃねえか! そんなのを片手間って……Aランク目前は伊達じゃないってことか」


 どうやら俺がどうではなく、エドガー(仮称)が入ってきたせいだったらしい。紛らわしいわ!


「はい、確かに受け取りました。説明は受けますか?」


「お願いします」


「冒険者は七つにランク分けされます。下から、F、E、D、C、B、A、Sです。最初は誰もがFランクです。このランクは依頼の難易度に対応していて、自分のランクの一つ上の依頼までしか受けることはできませんので、ご注意下さい。

 依頼の内容は様々です。ほんの些細な雑用から、素材の収集、魔物の討伐など、当然難易度の高い依頼ほど危険度、報酬も上がります。

 ランクを上げるには、依頼をこなすことです。依頼は全て点数化されていて、その点数が一定の値に達すると昇格です。ただ簡単な依頼だけ数をこなして昇格、とはなりませんので、昇格を望む際にははギルド側の指定した依頼を受けてもらうこともあるかもしれません。ランクCへの昇格から試験がありますが……それと似たようなものですね。他にも何か大きな功績となるようなことを達成すれば上がることもありますが、例外なので覚えていただけなくとも問題ありません。簡単な依頼をたくさん受けるか、危険な依頼を少し受けるか。よく考えて判断して下さい。

 また、登録証を紛失した場合、再発行は可能ですが、Fランクからのスタートとなりますのでご注意下さい。

 ここまでで何かありますか?」


「いえ、大丈夫です」


「では、早速登録しましょう。こちらの紙に必要事項を記入して貰えますか」


「分かりました」


 名前(偽名可・必記)、種族、性別、年齢、レベル、パーティー(必記)と、スラスラと記入していく。


 名前は………偽名の方がいいだろうな。日本人の名前は目立つし。王国にも名前は知られてるし。

 『カマル』でいいか。アラビア語で月を意味する単語だ。……厨二臭いとか言うんじゃありません。どうせ誰も分からないからいいんだよ。


「書けました」


「はい、ではこのカードに血を一滴垂らして下さい。……はい、大丈夫です。

 これで登録完了となります。お疲れ様でした。あなたの血液をこのカードに覚え込ませたので、他人に盗まれても悪用されることはありません。その点はご安心を。

 最後に、何か問題を起こしたり犯罪行為を働いたら、良くて罰金、登録証の没収、悪くて処刑です。まあ処刑になる場合は純粋に王国に裁かれるような犯罪をしたときですので、冒険者だからといって法が適用されなくなるわけではない、と思ってください。それらの記録も残るようになっているので、くれぐれも変な気は起こさないよう、お願いします。

 また、冒険者同士の諍いにギルドが干渉することはありません。ご自分の身はご自分で守って下さい。ですがあまりにもマナーがなってない人には罰則が与えられます。その辺は境目が難しいのですが……まぁ頑張ってください。

 何か質問はございますか?」


 質問か……一つ、気になったことを訊いてみる。


「えっと……討伐系の依頼ってどうやって証明すればいいのでしょう?」


「はい。魔物の討伐記録は自動でカードに残ります。なので行きと帰りにカードを見せて貰えれば、それで大丈夫です」


「なるほど。ありがとうございます」


 流石ファンタジーだな。そんな便利システムがあるなんて。


「他はよろしいですか」


「はい、大丈夫です。ありがとうございました」




 そうして登録を済ませた俺は依頼の掲示してある場所に向かう。

 さて、予定通り冒険者になった訳だが、『俺TUEEEE』はできない。えぇ、できないんですよ。

 これからやるのはある種の諜報活動だから、無駄に目立つ行為は慎まなければならない。ここはまだ王国内だし。

 はぁ……せっかくの異世界なのに……


 テンションは下がったが依頼を探す。Fランクのは……


・廃屋の解体

・トウセン(薬草)の採取と配達

・荷物運び

 etc…


 ま、そりゃあいきなり討伐系は無いか。生死に関わるしな。駆け出しにはまだ早いと、そういうことなのだろう。よし、ここは定番の「薬草採取」行ってみようか。

 依頼用紙を持って再び受け付け嬢の方へ足を向ける。すると周りから嫌に視線を向けられていることに気づいた。なんだ?

 俺が訝しんでると、向こうからやって来たエドガー(仮称)に声をかけられた。


「よう、新人(ニュービー)。お前その恰好で依頼受けに行くつもりじゃないだろうな?」


「いえ、もちろん着替えるつもりです」


 もちろんでまかせである。俺は防具など持っていないし、そもそも必要ない。『始まりの迷宮』も武具らしいものはコボルトから奪った短剣だけだったし。


 それにしてもなるほど。俺が碌に装備もしないで依頼を受けようとしたから視線を向けられたのか。まだまだ浅慮がすぎるなー、俺も。自由になってちょいと浮かれすぎか? 気をつけよ……

 目の前の男はもう納得して行ってくれると思ったのだが、予想外のことを言い出した。


「なら、ちゃんと装備はつけててから依頼は受けろよな。依頼はキープしといてやるから」


 何言ってんの?

 とりあえず詐欺(Fランクの依頼なんかを欲しているとは思わないが)や新人いびりの可能性も考慮して[解析]してみた。悪意は特に感じないけど、一応ね。気になる人間のステータスを見る習慣がつきつつある。



 ―――――――――――――――


 名前:エドガー・L・オブリーシュ

 種族:普人族

 性別:男

 年齢:38

 状態:良好


 Lv.81

 HP 444

 MP 212

 STR 336(+150)

 VIT 172

 INT 130

 MEN 249(+100)

 AGI 167


 称号 : 【リルバ王家に連なりし者】

      【脳天気】

      【破壊者(クラッシャー)

      【建国の功労者】

      【怪力】

 特殊スキル:[空間魔法 Lv.12]

       [怪力 Lv.23]

 スキル : [人族語理解]

       [礼作法 Lv.8]

       [騎乗Ⅱ Lv.19]

       [身体強化Ⅱ Lv.21]

       [斧術Ⅱ Lv.25]

       [見切りⅡ Lv.16]

       [威圧 Lv.8]

       [気配察知 Lv.2]


 ―――――――――――――――



 ブフォッ!?

 王族……だと?


 危ねぇー。思わず噴出しそうになるが、[表情操作]でなんとか持ちこたえる。なんだこれ。思わぬところで思わぬ人物に遭遇してしまった……。さすがは異世界とでも言うべきなのかこれは。

 ……しかし、こいつはチャンスだ。この人と関わりを持てれば、王国側の事情もある程度分かるかもしれない。なら、このまま共に行動する流れに持って行くのがベストか……


「すみません。今のは嘘です。防具とかは持っていないので」


「なんだそりゃ。まあいいが、なら俺が装備選びに手を貸してやろう。もし金がないというなら貸してやらんこともない。防具は命にもろに関わるからな」


「いえ、遠慮します。薬草を採りに行くだけなら問題ないでしょうし。それに――」


 ここでの選択肢はNO。

 そして仕上げに、



「ここら辺の魔物くらいなら、素手でもやれますよ」



 この人だけに聞こえる程度の声で、なおかつ傲岸不遜に言い放つ。

 話していて、かなり大まかにだけどエドガーの性格は分かった。不器用だけど世話焼きなこの人なら――


「おい待て! そんな考えは危険だ! 何が起きるか分からないんだぞ!

 それでもと言うんなら、俺もついてく! つれてけ!」


 簡単に、釣れてくれる。

 ミッション・コンプリートである。


「あ、そうですか。俺は構いませんよ。

 早速、受けに行きましょうか」


 そうしてその日、Bランク冒険者『怪力のエドガー』とFランク冒険者『カマル』との奇妙なパーティーができたのである。周りの視線が痛かったのは、言うまでもない。




  ◇◆◇




 正直言って、この依頼は片手間にできてしまうほど楽なものだった。なぜなら[千里眼]と[解析]で、一定の範囲内ならその場から動かずに目的の品を探せるからだ。

 それに加え、この薬草「トウセン」に酷似した毒草「トウセンモドキ」なる植物にも騙さることがない。それは、俺の大きな強みだった。

 後から聞いた話だと、大半のルーキーは初回にこいつを何本か持ってきてしまうそうだ。いやいや、受付が注意してやれよ。これも新人を育てる上では、優しさなのかねえ。

 そんな訳で、依頼の進行は順調と言って良いものだった。しかし、俺の内心には焦りが生じていた。


 魔物が全く出ないのである。


 そもそも、エドガーに同行させたのは、俺に興味を持ってもらうためだ。もちろん♂な意味ではない。人間的な意味でだ。腐っている方は、ブラウザバックして、どうぞ。

 こちらからアプローチしてもいいが、それではあまり意味がない。

 ならば、俺の戦闘能力とかをそれとなく見せつけてやるのが手っ取り早いと考えた訳だ。


 それなのに、だ。肝心の魔物が出ないという事態に陥った。どーしよー? 確かに出るという確証はなかったけど、そりゃあねえぜとっつぁん……


 結局、その日は異様な量の薬草を採取するだけで終わった。薬屋のおっちゃんにはめっちゃ感謝されたけど、俺の心は沈みきっていた。

 そんな中、ついにエドガーが口を開いた。


「正直……坊主がここまでやるとは思わなかった。依頼の品も高い品質で取ってるみたいだったし、採取中の警戒も怠ってない。勝手に口だけのやつだと勘違いしていた。すまん。お前は一人前だったんだな」


 口から出たのは謝罪の言葉。俺は呆然とした顔になって、同時に罪悪感が沸いてきた。

 散々煽るような台詞を吐いて、なのに向こうから謝罪までしてくる始末。今日一日で、エドガーという男が分かった気がする。

 大体、俺が今日とったのは今までと同じ方法だ。他人を信じず、業務的な関係に留め、自分から歩み寄るようなこともしない。そんな人付き合い、処世術。俺は変わろうと決意したんじゃないのか? それがどうだ。結局何も変わってないじゃないか。人を道具としてしか、見做していないんじゃないか?


 そんなんじゃダメだ。覚悟をしよう。人を信じる覚悟を。裏切られる覚悟を。自分が傷つく覚悟を。

 目の前の大男が誰かを騙すようなやつには見えない。根拠と呼ぶには曖昧で弱すぎる根拠。だが、それでいい。


 初めの一歩を踏み出せる人は少ない。誰もが怖いからだ。未知の恐怖というのはすさまじい。




  だからこそ!!




 それを克服することに意味がある!!!




「……エドガーさん、大事な話があります。この後、時間取れませんか?」


「どうしたんだ? 突然改まって。別に構わねぇけどよ……」


「ありがとうございます。では、俺の取ってる宿の部屋で話しましょう。他に聞かれると、マズいので」



 俺は、一歩を踏み出した。



Vocabulary


・冒険者

初代勇者が考案し、その制度を構築・導入した職業。国家に属さない『冒険者ギルド』に登録することでなれる。冒険者になると、身分の証明、設備の利用、そして依頼を受けることが可能になる。


ランク   平均レベル

 S 伝説   

 A 英雄   100

 B 上級者  80

 C ベテラン 60

 D 一人前  40

 E 新人   30

 F 駆け出し 20



・トウセン

主に下級、中級のHPポーションの原料となる薬草。生命力は強く、ごく普通の草原にも多く生えている。


・トウセンモドキ

トウセンに酷似した毒草。駆け出し冒険者がトウセンと間違えて納品してしまうことが多い。毒はそこまで強くはなく、3日ほど寝込んでしまう程度。



Extra Skill


・[怪力]

常時スキルで、自身のSTRを倍増させる。倍率はスキルレベルに依存する。



Skill


・[騎乗]

馬などの大型魔獣、魔物やに乗れるようになる。


・[斧術]

斧の扱いが上手くなる。


・[見切り]

相手の動きを見極める。


・[気配察知]

五感に頼らずに近くにいる生物の存在を察知できる。その精度はスキルレベルに依存する。


・[硬化]

自身の表皮を硬く変質させることができる。その硬度はスキルレベルに依存する。

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