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神童君は異世界で本気を出すようです。  作者: Sonin
第一章 狂王と愚王
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第9話 強欲の気配

短いです。


第三者視点です。

  Side:No One



 進藤月夜の死。その事件はクラスメートたちに多少なりとも影響を及ぼしていた。

 そしてここにも、大きな変化が見受けられる者がいた。



 その青年はダンジョンから帰り部屋に篭ると打ち震えていた。






 ――歓喜と狂気によって。






「ヘヘ……あいつ、ついに死にやがった。弱えのに調子に乗るからだ……!」


 青年は、高校にいた頃から僅かに狂っていた。周りが気付くことのない程の小さなズレ。何事もなく高校生活を送り、社会に出ていくことで、その歪みは更正される……はずだった。

 しかし異世界召喚などという非現実的な現象に巻き込まれ、その上怨嗟の対象であった月夜の死。青年の心は静かに、されど着実に破滅へ向かっていた。


「……これで俺を邪魔するものは無え。『全て』を手に入れてやる……!」





「イイねえイイねえ! 近ごろ稀に見るほどの強い『強欲』じゃねぇか!!」


 行き場のなくなった感情をどこへ向けるか。無意識にそんなことを考えていたときであった。窓際から声が聞こえてきた。しかし人影はどこにも見当たらない。


「誰だ!!」


 青年が叫ぶと、目の前の空間が歪んだ。

 そして現れたのは、浅黒い肌をした大男だった。


「テメェ、何モンだ?」


 この城は王国の中心である。大男がそんなところに堂々と入ることが許されるようなやつではないことは明白だった。頭部の角と、背中の翼、それらは魔族、特に『悪魔』の特徴だったからだ。

 しかし悪魔は人間界に姿を見せることはなかったはずだ。いったいなぜ……?


「人に訊ねるときはまず自分からって習わなかったのかよ。

 まぁ、いいだろう。答えてやるよ。俺の名はマモン。『強欲』を司る、由緒正しき悪魔だぜ」


「やっぱ悪魔か。魔族が勇者(おれら)を殺しに来たのか………?」


 悪魔族。その種は魔族の中でも特に好戦的な種族である。勇者たちを殺しに来たと考えれば納得できる部分はある。しかしそうすると、まだレベルの低い異世界人が簡単に皆殺しになることは想像に難くない。たとえ勇者の力を持ってしても。


「お前、勘違いしてねぇか?

 俺がこんな所まで来たのはそんなことのためじゃねえよ。俺がここに来た理由。そいつはなぁ………」


 悪魔はそこで言葉を切ると、その者を指さして(わら)った。







「お前に会いに来たんだよ」







  ◇◆◇



「俺に会いに来た、だと?」


「そうだ。勇者でも、他の誰でもない。お前に会いに来たんだ。」


 何を言いたいのかは何一つ理解できなかった。しかし、こいつは俺の真の価値を見出してくれるかもしれない。この国の連中とは違うのだ、とも思った。


 青年は他人から良い評価をされたことがなかった。学校での生活では暴力でしか力を示せず、それさえも劣性をまざまざと見せつけられた。パルティアで得た力は勇斗たちにはどうしても劣ってしまっていた。凄まじいまでの劣等感。それこそが狂気の原因の一端でもあった。

 そのため、悪魔の言葉は青年には実に心地良い響きを与えていた。


「そうか。で、俺に会いに来た理由はなんだ?」


「お前、さっき面白いことを考えてたな」


「心まで読めんのかよ、クソが……!

 あぁそうだよ。悪いか」


「いやいや、何を言ってやがんだ。強欲、結構じゃねぇか。

普通人間は誰でも考えるもんだ。『あれが欲しい。これが欲しい。』 むしろそれがあるべき姿だと言ってもいい。

 だが、『全てが欲しい』。そんな願いを、欲望を持つヤツは最近減ってきていてな。全く嘆かわしいぜ」


「おい、さっさと本題を話しやがれ」


「おっと、そうだったな。スマンスマン。年寄りは話が長くなっちまってな。

 で、聞きたいんだがよ。その願い、叶えるために必要なのは何だ?金か? 時間か? 努力か? 知略か?

 違えな。そんなチンケなもんじゃない。答えはなぁ、決まってんだよ。チカラだ」


 そう言って、悪魔はニタァと笑う。その笑みは紛れもなく悪魔のものであった。


「お前が望むんなら能力(チカラ)を与える。金を、チカラを、命を、そのすべてを奪い、我が物にするチカラをな。

 だが、身体が保たない可能性も」


 ある、と続けようとしたところで青年は遮るように言葉を発した。


「ごちゃごちゃうるせえよ。さっさと寄越しやがれ。」


「……キヒヒ、イイぜ。後悔すんなよ。」


 悪魔は掌をその者の胸にかざす。するとすぐに得体の知れないナニカが青年の中に入ってきた。


 瞬間、激しい痛みが青年の身体を襲う。


「グッ………、ァ……!」


「痛みにさえ耐えることができたら、そいつはお前のものだ。そしたら試すといいさ――」




   ――その力をな。




 そう言い残し、悪魔は消え失せた。

 悪魔の言った通り、死ぬ程の痛みであった。まさに死の縁をだが、青年はそんなことを考えていられなかった。かつてない全能感と自己陶酔によって。


「ハハ…………ハハハハハ!

 最っ高じゃねえか! こいつはよお! こいつがあれば……もう恐れるもんは何もねえ!勇者がなんだってんだよ!!

 待ってろよ、御巫彩星!


 お前は…………俺の物だ!!」




  ◇◆◇




「あなた、見つからなかったからって無理やり枠を捻じ曲げるのはどうかと思うわよ?」


「キヒヒ、イイじゃねえか。2つ手にした奴がどうなるのか。お前も気にならないわけじゃねぇだろ」


「まあそうだけど。もし死んだりしたらどうするつもりだったのよ?」


「結局アイツは耐えて力を手にした。結果が全て、だろ?

 あ、それとこのこと他の奴には言うなよ? さすがの俺もまた罰せられるのはイヤだからな」


「結果が全て、か。ものは言いようね。

 それから安心して頂戴。私もあなたに裏切られたら困るもの」


「キヒヒ、それもそうだな。

 さて、俺はアイツが来る前にトンズラさせてもらうわ」


「あら、そう? じゃあ私は食事にでもしようかしら」


「何が食事だよ。ただの男漁りじゃねえか。って聞いてねぇし……

 ま、いいか。俺も欲を満たすとするか。キヒヒッ!」


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