第5話 明日に備えて
説明回が続きます。
Side:Tsukiyo
では、俺が一ヶ月間、何をしていたか教えてしんぜよう。
まず行ったのは保有スキルの確認だ。その結果がこちら。はいドーン。
神格……■■■■■■■■■
高速思考……思考を高速で行う。効果はスキルレベルに依存する。
並列思考……思考を一度に並列して行うことができる。上限数はスキルレベルに依存する。
完全記憶……一度見聞きしたことを完全に記憶する。
天賦の才……スキルの習得数に上限がなくなる。また、スキルの習得が簡略化される。
千里眼……遠く離れた場所を視ることができる。透視も可能。その距離はスキルレベルに依存する。
聞き耳……ある程度近くの音を、細かく聞き取ることができる。その精度はスキルレベルに依存する。
解析……視界にあるものの情報を見ただけで読み取ることができる。
言語理解……知性あるものすべての言語を理解する。
偽装……自身のステータスを偽ることができる。自身の[偽装]より高いレベルの[鑑定]スキル、もしくはその上位スキルには看破される。
表情操作……感情を押し殺し、自身の表情を違和感なくつくることができる。
闇属性魔法……闇属性魔法を行使できる。
といった感じだ。量も多く、文字化けしていたりとなかなかに混沌としてるが、注目すべきは[天賦の才]だ。これはかなり破格なスキルだと思う。条件はあるものの、実質ノーリスクでスキル習得し放題なのだから。
そもそも、この世界では無数にあるスキルを無限に習得することは、システム的に(というと語弊があるかもしれないが)不可能になっている。魔術・魔法の属性の適正は産まれた時点で決まるし、スキル自体への適正もそれまでの経験により変わってくる。今まで魔術師だったやつが近接戦闘系のスキルを習得することは不可能に近いのだ。
しかも、ほとんどのスキルの習得には多大な時間がかかる。特に、常時スキルなんかはそれが顕著だ。例えば[剣術]なんかであれば、習得するには剣を振るという動作を何千回、何万回と繰り返し行い、身体に覚え込ませる必用がある。そうすると段々と、動作を自分の魔力で補助するように働くのだ。例外はあるが、この補助作用こそ常時スキルである。
これとは別にレベルアップなんかで勝手に習得される能動スキルも存在するのだが、今は置いておこう。
話を戻して、[天賦の才]での簡易版スキル習得の条件は、
1.他者のそのスキルの行使を知覚する
2.そのスキルを一度でも再現する
以上だ。まさしくチートである。
そう思っていた時期が私にもありました。
まず、スキルはほとんどが見えないし聞こえません。それに加えてスキルの再現。それができないから誰もが地道に努力するのに……これなんて無理ゲー?
しかし俺はとても幸運だった。情報集めのエキスパートと、一ヶ月を共に過ごすことになった。そう、文野だ。
どうにか[天賦の才]を有効活用できないかと考えた俺は、早速取引を持ち掛けることにした。実は、これが最大の理由だったりする。
そうしてあいつのスキル[閲覧]を借りて、俺は……遂に見つけたのだ。[天賦の才]を活用するためのスキルを。その名も[魔力感知]と[魔力操作]。効果は文字通り。習得者の少ないスキルだ。
なぜこの二つが有用かと言うと、スキルは魔力を少なからず消費することが証明されているからだ。まぁ例外はあるのだが。魔力を知覚できればスキルの発動も分かるし、直接操作できればスキルの再現も可能だろう。
つまり、
「[魔力感知]で発動を知覚」
→「[魔力操作]で擬似的なスキル発動を再現」
→「スキル習得!」
となるのだ。
こうして俺は「スキルを習得するためにスキルを習得する」という、なんともアホな状況に陥ったのだった。
そうして俺のスキル習得訓練は始まった。といっても本来の仕事を怠る訳にはいかないので[並列思考]を使いながらだ。魔力をガリガリと削られていくが、無駄に高いステータスのお陰で何とかなった。お陰様で[魔力回復]なんてスキルを習得しちゃったけどね!
情報収集をする一方で第六感を研ぎ澄ませ、不可視のはずの魔力を感じる……のをイメージする。こんなやる意味を疑うような行為を、魔力のもつ限り続けていた。気が狂うわ。独りじゃなかったのは幸いだった。文野に感謝。
そして少しずつ魔力を感じることができるようになった俺は、ある日ステータスにスキル[魔力感知]があるのを見つけたのだ。思わず立ち上がって思い切りガッツポーズしてしまうくらい嬉しかった。……近くにいた文野に冷ややかな目で見られたけど。
始めてから丁度二週間後のことだった。
[魔力感知]を習得してからは脳へ伝達される情報が増え、世界が変わったようだった。クラスメートから、軍団長さんから、そして何より自分から魔力が流れているのが分かるのだ。そして俺は、[魔力操作]スキルの習得に乗り出した。
結局、[魔力操作]を習得したのは一昨日のことだった。
◇◆◇
「うん、苦労したのは分かったから得た情報について語ってくれないかな?」
…………。はっ!? いつの間にかただの愚痴になってしまったようだ。……恐ろしい。
「いつの間にかじゃなくて最初からだったと思うよ?」
「おい、天霧。人の心を勝手に読むんじゃない」
「いや、その会話、おかしいよ? まず心を読めることが異常だって分かってる?」
明上がなんか言ってるが……どうせ些細なことだろう。無視だ無視。
何の話だったっけ……
「愚痴じゃなくて得た情報を教えてって話だよ」
「あ、そうだった。サンキュー」
「あれ?俺がおかしいのかな?俺の中の常識が崩れていくよ……」
「俺が調べたのはステータスの正体ついてが主だな」
「あ、スルーですかそうですか……」
あ、いじけちゃった……。まぁ、イケメソリア充(笑)にはこれくらいが丁度いいだろ。
「さっきのスキルについてだね。
そういえば月夜クン、前回に調べて来るって言ってた英語表記のスキルは何か分かったのかい?」
「あぁ、バッチリとな。まず、この世界の称号には能力値に補正がかかるものがある。能力値欄の横の括弧内がその増減だ。
そして、英語表記の称号は全て大きく補正がかかる」
「なぜそう言い切れるんだい?」
「統計学的な分析の結果、としか言いようがないな。片っ端から[解析]を使って調べて他の奴らと比較。過去のデータも漁ったけど間違いなさげ。
それは置いといて、あのスキルを調べた人は昔にもいたようでな、研究資料を読ませてもらった。その結果分かったことが二つ。
一つはその数だ。全部で十四あってな、肝心の訳だけど、希望、智慧、慈愛、誠実、節制、親切、寛大。そして傲慢、憤怒、嫉妬、色欲、強欲、暴食、怠惰だ」
「それは……」
「七つの大罪、だね?」
「その通り。結局予想通りだった。七つの大罪と、残りはちょっとマイナーだけど、七つの美徳とか七元徳とか呼ばれるものだ。そしてここからが重要なんだが、大罪の称号を持つ人たちの半分以上は、なんとびっくり、魔族になったらしい」
「ッッ!」
「……」
二人とも絶句している。そりゃあそうだ。人が魔族に変わるなんて話、簡単に信じられる訳がない。茶化してはいるが、これは異常なことである。
ちなみに、人が魔物になるということは結構頻繁にある。ゾンビなんかはその最たる例だし、人が魔物の肉を食すと、身体が変化して生ける屍と化す。
「月夜クン、それは……本当かい?」
「残念ながら、事実だよ。いろんな場所に同じような記録があった」
「月夜、大罪を持ってる人は俺たちの中に……いたのか?」
恐る恐る明上が聞いてくる。こいつにとってそれは最も重要なのだろう。
「……あぁ、いたよ。五十嵐が傲慢、小林が怠惰、日向が嫉妬だ」
五十嵐仁と小林祐太。
五十嵐は所謂不良である。いつも数人の取り巻きを従えている。入学当初にはよくカツアゲしたりしてたんだが、すぐにそういったことはやめて大人しくなった。いったいどんな心境の変化があったのか、俺にはかり知ることはできない。
……え? いや、あいつが更生した理由とか何も知らないよ? 本当本当。ツキヨ、ウソ、ツカナイ。
そして小林。こいつのことはよく知らん。学校にいる間はずっと寝ていて、家に帰ったあとも寝ているということしか。極度のロングスリーパーと言えるかもしれない。医学はよう知らんから合ってるか分からないけど。
こちらへ来てからも、大抵部屋に篭って寝ているようなやつだ。怠惰と言われればそうだが……大罪ではないんじゃないかとも思う。
「そして、美徳を持ってるのは俺ら含めて5人だ。俺、明上、御巫、村雲、古川」
古川大地は貧乏症の少年だ。親が残した借金を誰の手も借りず、自分の力で返そうといくつものバイトをしている。いや、していた、か。そのひたむきさに惹かれる女子も多いそうだ。
ちなみに彼女持ちである。……滅ッッ!!
「クソッ!! ……月夜、何か方法はないのか?」
「称号は持ち主に合わせて変化する。だから本人から大罪が消えれば平気だと思う、けど……」
称号の獲得理由も禄に分からないのに、それを捨てる条件となると、一段と難しくなる。
「日向サンは簡単だね。勇人クンが付き合っちゃえばいいんじゃない?」
いつものからかい混じりの口調で天霧が言う。実際、ほんのジョークのつもりだったんだろう。
「それは……できないな。『明上勇人』は誰とも付き合わない」
対して明上は、本当に辟易したような、あるいは困ったような表情をしていた。クラスメートが見たら疑うだろう。これがあの明上勇人なのか、と。明上勇人という人間のイメージはある程度決まっている。明るい、優しい、かっこいい……聞けば聞くほど、理想像に思えてくる。しかし、現実にそんな完成した人間がいるはずがないのだ。
俺らは知っている。こいつの本質は、唯のイケメン野郎などではない。「明上勇人」という人間の仮面を被った全く別の人間だ。だからこそ、こいつは「明上勇人」として逸脱した行為はできない。
「ホラホラ、そんなこと言いつつ嬉しいんでしょ? 明上・い・さ「おい天霧」
声を強めて遮る。そして目で語りかけた。それ以上踏み込むな、と。
そもそも、俺たちの関係は固い絆で結ばれたとか、そんな綺麗なものでは断じてない。いうなれば互いが互いの手綱を握っているような状態だ。だから誰かがそれを放してしまえば、この関係はあっという間に消えてしまう。それ程までに脆いのだ。
「ふぅ……分かったよ。ごめんごめん」
「いや、いいよ。それも解の一つだと理解はしてるから」
理解はしているが――納得はしていない、といったところか。
実際内心ではかなり悩んでるのだろう。友の身と自分の信念、どちらを取るのかを。この二択は矛盾している。詰んでいるのだ。どちらを選んでも「明上勇人」という虚像は消えるしかない。友達を救わないなど言語道断だし、誰かとこんな理由で付き合うのもまた違う。考えれば考える程、泥沼に嵌ってしまいそうになる。
「明上」
「何だ?」
「『意思なき行動に意味はない』それだけは覚えておけよ。
自分の意思じゃなきゃ後悔することも許されないんだからな」
「前も言ってたな、それ。
でも、分かったよ。覚えておく」
きっとこれを言ったところで意味などないのだろう。人を変えることができるのは、本人だけなのだから。それでも、俺は言わずにはいられなかった。
それが、まさかあんなことになるなんて。この時の俺は思いもしなかったのだ」
「おい天霧。勝手に人のモノローグを捏造すんじゃない」
「テヘペロ☆」
結局、あの三人への対処は保留という形になった。それ以外、選択肢がなかったのである。
「あとは、この世界の『神』についてだ」
その台詞を放った途端、場に緊張感が増す。
「まず、この世界の一週間を天霧、言ってみてくれ」
急にそんなことを聞かれて面食らった様子だったが、天霧が返答に窮することはなかった。
「え? 光、火、地、水、風、元日の六日間でしょ? え、あーそゆこと?」
「そういうこと。以前は光、火、地、闇、水、風の六日間だったそうだ。今でこそ変わってしまっているけどな。この六日に代表される六柱の神、これらは六元神と呼ばれ、この世界を創った創造神の次に権威が高いらしい」
「つまり闇神はかなり高位の神だったってことか?」
「ああ。ちなみに、この文献があったのは既に滅んだ文明の遺跡だ。教国の近くだったかな。
昔栄えた文明では高位の神とされたのに、現代ではほとんどの国で魔物を生み出す悪神とされている。しかもそれが書かれた資料のほとんどが比較的近くに書き直されたものときている。
……明らかに作為的な何かを感じないか?」
「確かに……闇神への信仰を妨害しているのか? 何のために……?」
「分からん。ただ、これは勘だけど……もしも国王の奇行への違和感が消えたのも人為的なものだとしたら、闇神の件と国王の件、どちらにも『作られた記憶』という共通点ができないか?」
そして全員が顔を見合わせる。言葉にはしていないが、その表情から読み取れる考えは同じだった。
「……方針が決まったな。国王に気を配りつつ、闇神についての情報を集めていこう。ただ、引き際だけは見誤るなよ」
「うん、分かったよ」
「了解」
「よし、じゃあまずは明日の実践訓練、生き残って帰ってくるぞー」
「おぉー」
「ぇーい」
帰ってくるまでが遠足。帰ってくるまでが訓練ってね。
◇◆◇
「じゃあおやすみ~」
「おやすみ」
「あぁ、また明日」
そう言って二人を見送る。こちらから見えなくなったのを確認した。そして声をかける。
「もう行ったから出てきていいぞ」
「そう? いやー疲れたね」
そこから出てきたのは、天霧だ。確かにさっきその姿が出ていったのを見た。つまり、
「やっぱエグいな。[幻影魔法]と[認識阻害]のコンボ」
「うん、訓練を抜け出すために使いまくったからね。スキルレベルもだいぶ上がってるよ」
と、まぁそういうことだ。
「それで、どうしたんだい? 一人で残ってほしいだなんて」
そう、俺が頼んだのだ。残ってくれるように。明上がいるとできない話だから。
「頼みがある、天霧。俺を――――――
――――――――殺してくれないか?」
Vocablary
・魔術
媒介となる道具と呪文、または魔法陣が必要。魔力の燃費はいい。
・魔法
自身の魔力とイメージのみによって発動する。魔力の燃費は悪い。
・常時スキル
常に発動するスキル。スキルを切ることを意識しない限り発動し続ける。大抵はMPの自然回復量と同じくらいの消費なので、MPが減り続けるということにはならない。
武術系スキル、回復系スキル、修練度を上げるスキルなどが該当する。
・能動スキル
発動を意識しないと使えないスキル。
常時スキルに属しているものでも、アーツは能動スキルに属す、という場合もあるので注意が必要。




