こんな触れ合いコーナーってあり? ~夢見る水族館?!~
「ん~、良い天気」
大きく伸びをしながら私は駅で幸太を待つ。
今日は久しぶりに近所の水族館でデートだ。
期間限定で魚たちとの触れ合いコーナーが出来たというので、あまり気乗りしていない彼を無理やり誘ってみた。
しばらく待っていると、幸太が青いプリウスでやってきた。
私はいつも通り助手席に座り、彼の運転で水族館へと向かう。
日曜日ということもあって、水族館は中々に混んでいた。
私たちは行列に並びチケットを買って、まずは普通に館内を見て回ることにした。
幸太は海獣が大好きで、お魚の水槽はほとんどスルーするくせに、アザラシやラッコ、ペンギン、アシカのコーナーには放っておくといつまでもいる。
今回もいつものように海獣コーナーをのんびりと見て回り、時間を見てイルカショーに移動。
その後、いよいよ期間限定の触れ合いコーナーへと移動する事にした。
今回のコーナーは、ただ触れ合えるだけでなく、一部ブースでは釣りも楽しめるらしい。
幸太も私も釣りは初めてだったが、係のお姉さんの指示に従ってやってみる。
「おぉ、釣れる釣れる」
幸太は意外とこういうのが得意らしく、開始数分で早速釣り上げている。
対する私はあまり得意でなく、中々釣れない。
それでも、しばらくじっと待っていると私の竿にも当たりが来た。
「やった! 釣れたよ!」
「こっちもまた釣れた」
結局、二人合わせてアジを5匹釣った所で終わりにした。
釣れた魚を水槽に戻そうとすると、幸太が耳を疑うような事を言い出した。
「なぁ、隣の海鮮丼屋さんでこのアジ料理してくれるらしいから、持っていこうぜ」
「…は?」
どうしてよりにもよって水族館で魚を食べるのか、私には理解できなかった。
でも、幸太はどうしても食べたいらしく、しつこく私に言って来る。
「もう! いいかげんにしてよ!」
「そ、そんなに怒らなくても良いじゃないか…」
あまりにもうるさかったのでつい大きな声を出してしまった。
幸太はしばらくシュンとしていたが、また海獣コーナーを眺めている内にすっかり機嫌を直してくれた。
そんな幸太が、水族館を出てすぐに言った。
「なぁ加奈」
「何? 幸太」
「これから、海鮮丼食べにいかないか?」
「はぁ……」
――あんた、どんだけ海鮮丼食べたいのよ!―――
プルル,プルルと遠くから音が聞こえる。
完全に覚醒していない頭を働かせ,何とか手探りに音源を探す。
どうやら携帯が鳴っていたらしい。
いつものアラームだと思った私は電源ボタンを押して音を止める。
しばらくして,また音が聞こえた。
スヌーズ機能にしては間隔が短い。
私は少しだけ目を開け,改めて携帯の画面を確かめる。
そこに表示されていたのは,横山幸太の名前。
私はすぐに覚醒し,急いで電話を取った。
「はいもしもし?!」
『ぅん?! ど,どうしたんだいきなり大声出して…』
思っていたより大きな声が出ていたらしい。
戸惑う幸太に構わず私は言葉を続けようとして…
……そこで気づく。
私は今どこで何をしている?
起き上がった勢いで上半身から滑り落ちた毛布。
ふかふかの敷布団に,着慣れたパジャマ。
焦点が合っていないのは,普段かけている眼鏡をかけていないから。
それはつまり――
「全部幸太のせいよ…」
『え? 俺何かした?』
「最近幸太が変な夢ばっかり見るから,私もうつっちゃったじゃない」
『またか。今日はどんな夢だったんだ?』
「…水族館で、釣りをした夢よ」
『またおかしな夢を…』
「全くよ…」
『じゃあ詳しい話は後で聞くとして……今日は水族館にでも行くか』
「え?」
『夢に見るくらい行きたかったんだろ?』
「べ、別にそういう訳じゃ…」
『じゃあ行かなくて良いのな』
「…もう,幸太のイジワル」
『はははっ。じゃあ今日の予定はそれで。せっかくだからお昼は海鮮丼でも食べるか』
「そ、そうね……」
こうして私の朝は過ぎていく。
今日も良い日になりますように。