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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第一章 七歳。転生ほやほや一年目。
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8.試験の日々がやって参りました。

 師匠の旅立ちやお兄様の奇行から五日過ぎた。そして、遂にやって来てしまったのだ、この日が。


「はぁ……」


 僕はベッドに腰掛けながら、大きく溜め息をついてしまう。ここまで来てこの有様。全然ダメじゃん、腹くくれてないじゃん。<僕>が基本逃げ腰態勢だったことがモロに出てしまってるじゃないか。


「どうしたんですかぁ、セス様。もしかして、もうホームシックとか?」


 全然違うよ。それとカリン、ニヤついてるのも分かってるよ。怒んないけどさぁ……。


 そうなのだ。今日から、宮廷神官の試験が始まるのである。それも三日間。何でも、一日目は試験会場の雰囲気に慣れるため、そして魔術などの最終調整を行うため。本格的な試験は二日目と三日目に当たる。二日目はまだしも、三日目には皇帝陛下の御前で得意魔術をお披露目しなければならない。なんという拷問。

 幸い、たった一人だけと言えど、試験中のお世話をしてくれる付き人を連れていくことは出来る。当然、僕はカリンをお供にしている。この六日間でまともに話してたメイドさんが彼女しかいない、っていうだけだけど……。


「そんなことない」


 僕はそれだけ言うと、天蓋付きのベッドにゴロリと寝ころぶ。ああ、何だこのフカフカモフモフのかけ布団。ウチのも相当のはずなのに、やっぱ皇宮のは違うわー。正に最高級、羽毛は百パーセントですか?


「セス様、流石にちょっとだらしないですよぉ~」


 うっさい。自分もソファベッドにどっかり座り込んでるじゃないか。大体、メイドにしては態度デカ過ぎるだろそれ。


 僕たちは今、恐れ多くも皇帝陛下の居城にしてヘーメレー皇国の中心地、アルカディア皇宮に滞在している。と言っても、中央宮殿に、ではない。敷地の西外れに置かれた西宮殿のほんの一角に、だ。

 ここは元々、皇帝陛下以下皇族たちを守る近衛騎士団のために用意された兵舎に過ぎなかった。しかし、宮廷神官や宮廷魔術師たちの試験を皇宮内で行うように決定がなされた際、試験期間内だけでも候補者たちを目に届く範囲内に留め置くことを取り決められたことで大改造が施されたらしい。

 その結果、著しい老朽化が進み、また客人を受け入れる設備などありもしなかったはずの西宮殿は、超が付くほどの高級ゲストハウスへと変貌を遂げた。近衛騎士団の兵舎は新たに造営された北宮殿に移り、以降はその体制が続いている。始めっから北宮殿をゲストハウスにすれば良かったのでは、とも思うけれど、近衛騎士団の士気とか、そういう関係上だろうか。よく分からない。


 いやぁしかし凄いわぁ。このベッドお持ち帰りしたーい。あ、ウチのベッドに文句があるわけではないんです、ただ次元が違うだけ。ああ、睡魔と怠惰が僕の背にのっかかって来てるー。勝てる気がしなーい。ぐう。


「って、ダメだダメだ」


 思わず呟いた。流石に何もしないのはいけない。と言っても、かつての数少ない名残、訓練場に向かう気にはなれなかった。手の内はさらしたくない。練習は部屋の中でだけ行うのがベターだろう。ああでも、これだと他人のを観察出来ないな。仕方ないか。


「ちょっと散歩に行ってくる。カリンは……アレらの確認でもしておいて」

「かしこまりましたぁ~」


 カリンに持って来させた、ボストンバッグぐらいの大きさの麻袋に詰め込まれた「アレら」が、僕にとっての実技試験のキモだ。ただ、とにかく目立つしかさばるから持ち歩きにくい。そもそもメンテナンスがカリンにしか出来ない。暇にしておくと彼女はすぐにダラけちゃうから、キリリとさせておくにはちょうど良いだろう。


 とりあえず、僕は西宮殿を練り歩くことにした。確か、外に出ても西区画から出なければ問題はなかったはず。出て行こうとすると警備兵にとっ捕まえられちゃうらしいから、そこは大人しくしておこう。

 そういうわけで、僕は部屋を出る。結構な数の候補者が来ているはずなのだが、他の部屋から人が出入りしている気配はない。サロンで談笑しているか、訓練場で練習しているか、それとも僕のようにお気楽気分で散策しているか、はたまた部屋に引きこもっているか……。他人のことを気にしたらキリないな、ヤメヤメ。


 僕とカリンにあてがわれた部屋は、二階の西回廊にある。左右対称構造のはずだから、東回廊側も客室になっているんだろう。となると、東西合わせて十二の客室がある、ということになる。一階には玄関ホールと風呂場に訓練場、それからサロン、大食堂。ちょっとした庭園もあったはずだ。うん、まずはそこに行こう。

 そう考えながら、僕はオペラハウス(行ったことないけど)を彷彿させる階段を降りる。玄関ホールには、人影はあまりない。精々一人、二人といったところか。

 と、僕は新しい気配を感じて顔を上げる。重厚な木造の扉が開いていた。そこから優雅に足を運ぶ女性が一人、とその後ろにもう一人いるみたいだ。


「ごきげんよう」


 僕の姿を認めたらしい女性が艶やかに微笑む。ロングな黒の三つ編みを右肩の前に垂らした、中々の美人さんだ。醸し出す雰囲気は明らかに上流階級のもの。更に彼女の背後から、セミロングの、少し変わった色合いの髪の少女がちょこりと顔を出して、


「……こ、こんにちわ……」


 ギャフン。うるんだ瞳で上目遣い。すんごくか・わ・い・いです! あ、僕はロリコンじゃないから。念の為。


「貴女方も、宮廷神官の試験を?」

「ええ。お互い、頑張りましょう」


 それだけ言って、美人さんは僕の横を通り過ぎて行った。その後を、重そうな革のトランクを抱えてちょこちょこ追いかける女の子。名前を聞き損ねてしまった……のは、どうせ後から分かるだろうから、良いんだけど。どっかで見たような気がするんだよな。まあ、思い出せないっていうことは大したことじゃない、ってことで。

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