6.お師匠様はある意味覗き魔。
「はあ……」
「どうしたんですか、セス様? 昨日から溜め息ばっかついてますけど……」
気を使ってくれたのか、ただ来客が来ているからなのか、珍しくカリンが自分から紅茶を淹れてくれた。茶葉の銘柄なんて分からないけど、鼻孔をくすぐる甘い香りが「自分を呑めー!」としきりに誘惑してくるのだけは確かだ。取りあえず一口いただきます。
さて、どうしてこんなに落ち込んでいるのかというと。
最後まで出来なかったのだ。中級魔術の発動が。
正確には、イメージは出来る。それに相応なマナも取り込めているし、終着点も決められているのだ。それなのに、何故出来ない。
「そりゃおめぇ、向いてないだけじゃねぇの?」
ずっぱりと切り捨てられた。いや、ていうか、僕一個も口に出してないんですけど。何で分かるんだ。
「フフン。俺様ぐらいの使い手になりゃぁ、お子様の考えなんざ片手間で覗けんよ」
ぐぬぬ。子供(見た目だけだけど……)の思考読み取るのに魔術を使いますか。大人げない。
この人はルーク・フォン・クロード。僕の魔術の師匠にして、自称「世紀の天才魔術師」。おいちょっとは捻れよ、ってぐらいストレートかつ、うさん臭い。ただ実力自体は折り紙付きで、セスの日記にも「この人の魔術の腕前は信用出来る」と記述されていた。原作中にも出てくるけど、確かサブイベントだけで本筋には特に関係ない人だった。だから、<僕>からすれば、まともに対面するのはこれが初めてになる。
「ルーク様、厳しいですね~」
「はん。魔術ってのは、得意分野を伸ばしてナンボだからな。不向きな属性なんざ補助程度に考えりゃ良いんだよ」
となると、僕に炎属性の適性がない、ってことなのか?
RPGでおなじみ、炎とか雷とかいった、いわゆる魔術属性はアルケイディアにも存在している。炎、水、土、風の四つと、体、音という少々風変りな二つ、合わせて六属性。前者はいろんな創作物で出ている四大元素、というやつだ。体は肉体の強化魔術と治癒魔術を主とした、肉体に作用するもの。音は幻覚や幻聴を引き起こす幻惑魔術、それに感情のコントロールと、精神に効果がある。
で、この属性なんだけど、ちょっと厄介だったりする。簡単に言うと、一人が満足に操れる属性の数が限られているのだ。大抵は二属性、多くても三属性。特化型ともなると僅か一属性。どれだけイメージが出来てもマナを取り込めても、全属性を完璧に操る万能魔術師にはなれないのだ。どうも、「術式」によって変換しやすい属性が変わってくるらしい。
「お前には、体属性があるだろうが。それをやってけば何とでもなる」
「はあ」
ああ、だから神官なのか。神官には体属性か音属性、どちらかの素養が必要とされているのだ。元々セスは、大魔術師お墨付きの体魔術の素養を買われて宮廷神官入りした、ってわけね。
「師匠にも得意分野が?」
「俺様に扱えねぇ属性はねぇ。が……強いてあげるとすれば、音か」
「……今もやってます?」
「おうよ。なんたって、心の中の情報は隠せねぇからなぁ? いやはや、面白いことになってるみたいじゃねえか」
師匠の、細長い鋼の吊り目に、肉食獣を彷彿させる光が宿っているように見えた。あ……ダメだ、気付かれたかな、これは。出来る限り、この世界の住人には知られたくないんですけど。
そんな僕の考えも、どうやら目の前の男には筒抜けであるらしい。一生懸命笑いをこらえているみたいだ。止めてくださいカリンさんがものすごい不審者を見る目してますから。
「バラさないでくださいね?」
「安心しな。人の秘密を言い触らすほど落ちぶれちゃねぇから」
うん。イマイチ信用出来ないな。そもそも人の心を盗み見てる時点で。
僕の氷点下の眼差しに気付いたのか、それともまだ思考を見ていやがるのか。師匠は笑いを引っ込めると、これまたカリンが用意してくれたフィンガーサンドイッチをつまみながら言う。
「ちょっとやりすぎちまったな。詫びに心配事項があるんだったら聞いてやんぞ」
「じゃあ、体属性以外も使いたいです」
ああ、言っちゃった。
「お前は特化型だから無理だろ。諦めな」
ぎゃふん。
「そこまでハッキリ言わなくても……」
「悪ぃね、上手い言い回しが出てこねえ性分なんでな」
嘘だ。目も口も笑ってるし。
しかし、体属性特化型だとは思ってもみなかった。原作じゃあセスは地震を引き起こしたり竜巻を発生させたり、挙句の果てには死体の疑似蘇生や集団洗脳とかまで披露するチートっぷりを発揮していたんだけど。怪宗教に傾倒するまでに何かあったんだろうか。ちょっと気を付けた方が良いかな、この辺は。
「ところで、師匠」
「何だぁ?」
「何しに来たんですか」
「ああ……様子を見に来ただけだ。俺は明日には王都を出発しなきゃいけねぇんでな」
「そうなんですか?」
「野暮用だよ、野暮用」
ひらひら手を振る師匠は、明らかに何かを隠していた。人の秘密はガンガン見ていくくせに、こっちには何も教えてくれないのか。まあ、仮に師匠が大事を抱えていたとして、身体は七歳児の僕に出来ることなんてロクにないだろうから仕方ない、か。
「ああ、そうだ。宮廷神官の試験、受けるんだろ? ま、精々頑張りな」
「お言葉だけ、ありがたく」
他に何も言わないってことは、「お前なら楽勝だろ」みたいに考えてるって言う感じで受け取っておこう。その方が気楽だ。