4.専属に近いメイドさんもいたりした。
とりあえず、僕の転生初日は無事に終了した。日記もちゃんと確認した。どうも、お父様のクロード・イルファン・ジェラードは今から二年前に、この世界(ゲーム設定ではアルケイディアという)ではまだ治療方法の見つかっていない病気で亡くなってしまったらしい。以来、お母様であるアーシア・ミラルド・ジェラードが当主代理として立ち、お兄様のテオドール・パウロ・ジェラードが成人して爵位を承るまで家の仕事をしている、ということらしい。
まあ、それは分かる。確か、セスや主人公たちが住むこの国、ヘーメレー皇国では貴族の成人年齢は十五歳、ということになっている。お兄様は十二歳で間違いないみたいだから、跡を継ぐには少し早すぎる、ということだ。
「で、僕は宮廷神官入りを望まれてる、ってわけか」
そりゃそうだよなぁ。だって、皇帝陛下直属の部下になるんだもんな、認められた場合は。
ヘーメレー皇国において、皇帝というのは日本の天皇陛下と同じ扱いを受けている。「国民の象徴」ってやつだ。平たく言えば、国を代表するアイドル。そのお仕事は法律や条約の書類に判子を押したり、国賓と会談したり、逆に迎えられたり。拒否権はないけど書類の最終決定をしているし、他国とのパイプを作ったりしているわけだ。
それから、国を挙げた神事の取り仕切りも仕事に入る。ていうか、これがメイン。政治には受動的にしか関わらない分、神事の一切に関しては能動的な最高権力者となっている。
そして、その補佐を行うのが宮廷神官。通常の文官とは違って、候補者たちの中から皇帝陛下直々に選び出されるエリート集団であると同時に、皇国きっての栄誉ある職業。なんたって、姿を見せるだけで国中を沸かせることすらある皇帝陛下に最も近づくことが出来るのだ。そりゃ誰だってなりたいだろう。僕としては、本当は接触したくない人物ナンバーワンなんだけど。周囲の期待を裏切れないチキン性分が憎たらしい。
「ねぇ、カリンは宮廷神官になれるとしたら、なりたい?」
僕は日記帳を閉じると、傍らにぼんやりと突っ立っているメイドさんに聞いてみた。瞬間、ビクリと跳ね上がった肩。一瞬寝てたのかな、と思ったけど、質問にはきっちり返してきた。
「え、えーっと。私は……そのぉ、魔術の才能がなかったので……」
「そっか」
「でもでも、セス様は試験をお受けになられるんですよね?」
いいなー、陛下に直に会えるなんて。サイン貰ってきてくれませんかね? と彼女は続けた。うん、これってミーハーなアイドルファンの反応そのものだよね。ていうか(形だけとはいえ)国家元首にそんなことを頼んでこれるような図々しさなんて持ってないぞ、僕は。そもそも目的が違うし。
と、僕を見つめていたカリンがクスクス笑い出した。……冗談だったのかな。
「違いますよぉ。一昨日までのセス様って気難しそーだったのに、昨日から全然雰囲気が違うから、ちょっと面白くって」
中身が別人だからね。仕方ないね。
どうもセス嬢は面倒くさいタイプのお嬢様だったようだ。もしかしたら高飛車属性もついていたのかも。対して僕は、ノーと言えない日本人。真逆じゃん、いつか必ず怪しまれるぞ、コレ。
「私は今の方が好きですねー」
「あ、ありがとう?」
「ついでに休憩タイムも貰えたら完璧ですよぉ、そしたら一生着いて行きます」
「はいはいどーぞどーぞ」
カリンには少し、怠惰癖があるみたいだ。それを抜けば細かいことにもよく気が付くし、さっきみたいに冗談も言える。ついでに物怖じもあまりしない。それが原因で他の屋敷では長続きしなかったらしいけど、僕としてはこれぐらい気楽な方がありがたい。出来る限り長くいてもらうためなら、多少の我儘は聞き入れるべきだろう。実際、メイドさんって見た目より重労働らしいし、少しぐらい。
「良いんですか? それじゃありがたく」
僕の適当な返事を聞いたカリンの目が、まるで一等星のようにキラキラと輝いた。次の瞬間、ただのインテリアとして鎮座ましますっていた革張りのソファにダイビング。
「ふわぁ、しあわへ~」
……うん。まあ、いっか。頼むからお母様たちの前ではそんなだらけないでね、絶対。クビにされたら困るから。