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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第二章 十歳。就職三年目の受難。
33/34

33.どうも、僕にはとんでもない力があってしまったようだ。

 プリシラ様の転移魔術は、確かに僕たちを安全そうな場所に移してくれた。


「ここは……」


 フェル様が、難しい表情で黙り込んでいるプリシラ様に問いかける。僕も気になる。

 少なくとも、修道館ではない。けれど、聖殿の外の施設とも思えなかった。シンプルな、四角い部屋。壁も床も石で出来ているみたいだ。等間隔に置かれているのは、背の高い蝋燭台と、そこに立てられた火のついた蝋燭。かろうじて周りが見渡せる、っていう程度だ。だけど、そんなものよりも遥かに目を引き付ける、物がある。

 とりあえず、先輩を寝かせておく。それから、僕も聞いてみた。


「教えてください、プリシラ様。ここは一体?」

「……」


 彼女は、僕たちに伝えるべきか否か迷っているみたいだった。無理もない、と思う。僕にだって、見当がつく。


 部屋の中央にそびえ立つ、それ。盛り上がった土山状の水晶に支えられる六角状の水晶柱。


「……これは、ノーム様の御宿りになっている、「本物」の水晶柱です。ここは、聖殿の地下にある、水晶柱を隠し奉るために作られました部屋です」

「……ということは、祭壇のオベリスクは?」

「偽物、ですわ。こうして何者かが襲撃を加えて来ても、水晶柱を守り抜くために」


 そういうことか。それで祭壇のやつとゲーム中のものとの見た目が違ったのか。

 国にとって大事なものを守るためにダミーとすり替えるっていうのは、基本だけど結構効く手だからなぁ。今回みたいに……うん?


「あの、プリシラ様。この部屋、どうやって外に出るんですか?」


 四方の石壁には、出口らしきものが見当たらない。天井と床も同様。ホントに、四角い箱。石棺みたい、いや、まさか本当に?


「ここから出るには、ノーム様のお力を借りて転移魔術を使うしかありません。……戻り先は、祭壇以外指定出来ないのです」


 あちゃー。状況確認出来ないのが響くなぁ。あ、ちょっと待って。僕の体魔術で透視出来れば分かるかも。そーい。

 ……アレ。見えない。というか、マナが変換出来ない。術式に限界が来ちゃってるのかな。さっきお兄様に、ありったけの魔術を注ぎ込んだからか。


「連絡も出来ないのか?」

「ハイ。人工術式による連絡器などは逆探知される恐れがあるので」


 この世界、カメラはないけど通信機はあるのか……って、そんなことはどうでも良いんだよ。応援要請出来ないじゃん。「少なくとも」って、そういうこと?

 何にせよ、しばらくは、ここでじっとしているしか無いらしい。正直、歯がゆい。ドームではお兄様が、外ではクリスさんを筆頭に、近衛騎士団や警備騎士の皆が魔物と戦ってる、っていうのに。ロクに魔術も使えなくなった今の僕じゃ、戻ったところで足手まといにしかならないし、フェル様やプリシラ様もここなら無事でいられる。


 だけど、何だかな。嫌な予感がするんだよね。


(ほっほう。それで?)


 大体、魔物がどれだけの規模で放たれているのか分からない。フレイムドラゴンなんて大物を操っている時点で、そちらにマナの大半を割かなければならないから、外の魔物自体はたかがしれているのは分かる。けれど、そういったのに限って集団で操るのが容易いみたいだから……。


(ふむ。つまり、お主は地上に蔓延る不浄の輩どもを打ち払いたいのじゃな?)


 まあ、つまりそういうこと……あれ? また?


 聖殿に来てから、時々聞こえる、この声。今までは途切れ途切れだったけれど、今はハッキリ聞こえる。女の人の声だ。穏やかで落ち着いた、深みがある。結構いい歳した感じ……あ、失礼だこれ。

 とにかく、これはどういうことなんだ? ゲームで似たようなこと、あったっけ?


(何を言うておるのか分からぬが……我が声を聴いておるのは確かなようじゃな。しかも、声を届けておる。ふむ、もしやすると……)


 え、何この展開。嫌な予感。


(よし、試してみる価値はあるかの。お主、我が元に来やれ。そして、祈りを捧げるのじゃ)


 はい? いや、「我が元」が何なのかは分かるけど、それだったらプリシラ様か、フェル様の方が。


(あいにく、プリシラとフェリクスでは、出来ぬのじゃ。それよりも、早くせぬか。地上の奴らを助けたくはないのか?)


 そう言われると断れない。僕は大人しく声に従い、水晶柱に歩み寄る。


「どうした、セス?」

「神官セス、あまり水晶柱には近付かないようにして頂きたいんですが……」

「……その、ちょっと。頼まれまして」


 その言葉の意味が、プリシラ様には分かったらしい。ワンテンポ遅れて、フェル様も。二人とも、凄く驚いた表情。うん、流石に分かって来てるよ、意味。

 だけど、時間がないみたいだから、二人にはあまり構わず水晶柱の前に座り込む。えーっと、祈るんでしたっけ。神殿スタイルで良いかな。手を胸の前で組んで、と。あ、でも何を祈ればいいの。


(我が名を唱えるのじゃ。そして、願え)


 あい分かりました。とにかく、適当に一発。


「ノーム様! 取り敢えず外の魔物と、余裕があったらドームのフレイムドラゴンもパパッと片付けてくださーい!」


 うん、破れかぶれな自覚はあるよ? 思い付いたのがこれだったから仕方ない。


 そう思った、刹那。水晶柱が、淡い光を放ち始めた。優しい萌葱色。どんどん、強くなっていく。洪水みたいに溢れ始める。祭壇の時とは、随分違うな。本物だから? それとも――


「……そんな、本当に……?」


 プリシラ様が何か、呟いているのが聞こえた。そして。


「――ふむ。何百年ぶりかの、外に出るのは」


 水晶柱があったはずの場所には、一人の女性が立っていた。褐色肌の、綺麗な女の人。若草色の、腰ぐらいまであるロングストレートの髪を遊ばせながら、菫色の瞳を悪戯っ子のように煌めかせている。


「我が名はノーム。この大陸のマナの流れを司る偉大な聖霊である! 覚えておくが良いぞ、我を召喚した者よ」


 実に楽しげかつ尊大に言い放ちながら、女性――土の聖霊、ノーム様――はカラカラと笑った。

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