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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第二章 十歳。就職三年目の受難。
30/34

30.イベントっていうのは邪魔されるものか。

 その日までは、とにかくてんてこ舞いだった。儀式の打ち合わせに参加して、クリスさんが騎士団員に指示を出している間は僕が聖殿の侍従さんと協力して、フェル様のお世話をして、その合間に先輩たちと立ち回りについて話し合って……疲れた。お兄様達の説教の方が楽だったよ。あの時は言葉がポンポン出て来たから。


 そんでもって、今日は双児宮の月十二日。豊穣の祈願当日。うう、緊張してきた。と言っても、僕がやるのはちょっとした舞台セッティングだけで、後はフェル様達の後ろを追うだけ。違うのは、聖霊様がいる水晶柱をお目に掛かれるってこと。ゲーム中でも結構な迫力だけど、実物ならもっと凄いんだろうな。某最終幻想のクリスタル並みだったらサイコー。


「神官セス、迎えに上がりました」

「ありがとうございます」


 騎士の人の後ろをちょこちょこ着いて行く。本日の服装は拝命式で着た、あの白いローブ。成長に合わせて一回仕立て直してもらった。まだワンピーススタイル。クリスさん並みの美人になったら、あのマーメイドラインも似合うのかな。動きにくそうなのは置いといて。

 僕たちは回廊からではなく、外を経由して入り口ホールへ向かう。今頃回廊は見物客でいっぱいだろうから。あんまり多いから、この一週間で先着三十名にだけ整理券を配布して、持ってる人だけゆっくりしていってね! スタイルらしい。お兄様達は配布開始数時間前から張り付いて入手したそうです。よくやるよ。


 入り口ホールでは、先輩たちが最後の話し合いをしていた。と言っても、確認とかに近そう。僕の出番は後一つ。他の仕事? 例えば、回廊とドームは薄いガラス状の結界で仕切られている上に、分厚いカーテンで仕切られている。それを開けました。後は草むしり。と言うのも、ドーム部分の床は石やレンガが全面に敷かれているわけじゃなくて、祭壇へ進むための石畳みの道以外は、色々かつ貴重な草花が植えられている。そこの雑草抜いといてね、ってこと。確かに十歳児でも、儀式準備の邪魔にならずに出来ることだな。


「セス」

「何でしょうか、アーノルド様」


 うう、何か変な感覚。でも守るべき秘密だからな。それにしても、このタイミングで何なんだろう。


「お前の兄が来ているそうだな」

「はい」

「終わったら、会わせてくれ。少し、話がしてみたい」

「承知いたしました」


 おお、お兄様とね。何がフェル様の琴線に触れたのか分かんないけど、まあ、悪いことにはならないでしょ。

 宮廷外での儀式用だという、緋色の絹地に金糸で様々な装飾が施された法衣に身を包んだ彼は「ありがとう」とか、珍しくお礼を言った後にプリシラ様の下へ行ってしまった。よく見てみると、結構緊張してるみたいだ。三十対の視線と数人の部下、更には聖殿の巫女の前で絶対に失敗出来ない儀式に臨むって、計り知れないプレッシャーだろうな。皇国一年間の実りが掛かってるんだし。実際どれだけ効くのかは分からないけど。


「そういえば、師匠は儀式の間、何をするんですか?」

「ドーム入り口の警護。お前は添え物なんだろ?」

「わざわざ悪い言い方しないでください。随行者と言ってください」


 ん、何か違うような。ま、良いか。フェル様の一歩後ろで着いて行くことは確かだし。


「それでは、参りましょうか、陛下、皆さん」


 お、もうそんな時間になったのか。行かないと。


(……主……、の……)


 ん? 誰か何か言った?

 見回してみる。けど、それっぽい人はいない。皆所定の位置に着き始めている。僕に話しかけて来てる人はいない。気のせいか。


 入り口ホールからドームに繋がる石の扉が、ラッパの音に合わせてゆっくりと開かれる。薄茶色と萌葱色を基調とした巫女装束を着こなすプリシラ様を先頭に、フェル様が続く。僕はその右斜め後方、隣の先輩と歩調を合わせて進む。結界越しに感じる視線。防音付きなのが本当にありがたい。

 さて、この先には本日の祈願対象、土の聖霊の水晶柱があるはずだ。それだけは回廊からでは絶対に見えないようになっている。その間近まで迫るプリシラ様とフェル様の姿も、お兄様達見学者にはもう直ぐ見えなくなるわけだ。大人気の少年皇帝の顔を、国民が良く知らないのも何となく分かる。カメラ技術はまだ発展してないし。


「それでは、陛下。よろしくお願いします」


 プリシラ様の言葉に従って、フェル様が固い表情のまま祭壇への階段を上がる。僕たちは階段の手前でストップ。そこでしゃがみこんで、祈りの姿勢を取る。だけどその前に、少しだけ水晶柱を拝もう。

 僕は少しだけ顔を上げて、目線だけ祭壇上に向ける。それから――思わず、息を漏らしてしまった。


 そこにあったのは、巨大なオベリスク。祭壇自体はドームの端にあるけれど、そもそもの天井がかなり高い分、オベリスク自体の天辺も相応の位置にある。その材料は石ではなく、僅かな不純物も見当たらない、透明で純度の高い水晶だ。これが、水晶柱? ゲームのとは随分形が違う、ような? 根元を土山状の石山で支えられている、六角柱じゃないんだ。と、もうそろそろ止めよう。目を瞑る。


「――大地の豊穣を司りし土の聖霊、ノームよ。我が声を聴き給え。我が声、我が祈り届いたのならば、御身の力をこの大地に降り注ぎたまえ」


 何時もに増して厳かなフェル様の声。それに呼応しているのか、目を閉じていても認識出来るほどの光が、あのオベリスクから放たれているのが分かる。祭壇にいる二人の目は大丈夫なのかな。って、どこ心配してるんだ、僕。


(……ズイ! 聞こえ……)


 ん、また? さっきから何者……ハッ、もしかして僕、テレパシーか何かに目覚めたとか……ないか。それにしても、何か切羽詰まってらっしゃる?


 僕がそんな風に、のんきに考えている時だった。


 轟音が、ドーム中に鳴り響いた。


「!?」


 振り返る。立ち込める土埃の向こうに、何か巨大な影と降り注ぐ日差しが見える。屋根を突き破って来たのか。でも、どうやって結界を? 力づくとか、言わないよね。


「おっじゃま~。わぁ、人がいっぱい。あ、正面からじゃなかったのは許してね。上から行くのが一番楽そうだったからさ。ね?」


 そう言いながら、土埃をかき分けて出て来たのは、ヘラヘラと笑う一人の少年。麦わら帽子にノースリーブの麻のシャツ、足首で捲り上げている青いズボン。これで虫取り網を持っていたら完璧な虫取り少年。って、軽く現実逃避してる場合じゃないってば、僕。


「あ、初めましてー。ボク、ヒューって言います。今日はそこのお嬢様と、皇帝陛下に御用があってきました~」


 ヘラヘラ言いながら、そんなことを……ん、「お嬢様」って、僕の事ですか? こんな乱暴な方法で入ってくる不審人物とは、何の縁もないはずですが。いや、そうでもないな。この顔に見覚えがある。前世で。

 そうだ、ヒュー。ゲームのメインシナリオで、二番目に戦うボス。主人公一行が初めて戦う、黒蛇旅団の一員。ただ、彼自身はそう強いわけではない。序盤ボスだから、と言うわけでない。サポート要員。つまり、メインの戦闘要員が、いるのだ。そう――


「その為には、ここにいる人たちはみーんな邪魔なんで。トモダチと一緒に片付けちゃいますねー」


 土埃が、晴れていく。次第に鮮明になる、その姿。

 赤銅色の鱗。大きく、力強く広がる蝙蝠のような翼。細い唸り声を漏らす、鋭い牙の生えそろった咢。野太い手足に支えられた、トカゲのような体。――火炎袋を体内に持つ大型龍、フレイムドラゴン。


「じゃ、派手にやっちゃおうね、エディ。ボクが思いっきり強化してあげるから」


 ヒューの囁きに、エディと呼ばれたフレイムドラゴンがけたたましい咆哮で答え――僕はただ、委縮するしかなかった。

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