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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第二章 十歳。就職三年目の受難。
20/34

20.どうも認識を誤っていたという。

「それにしても、ジョルジュ様。私、そろそろお仕事に参加したいのですが……」

「どうしてだい? 僕は、仕事に参加するのはもっと先でいいと考えているけど」

「だって私、のけ者にされてるみたいで……」


 言ってしまった! この人には恥ずかしいから絶対言いたくなかったのに!


 案の定、ジョルジュ様は柔和なその顔に、いたく困惑した表情を浮かべてしまった。それから、何やら言いにくそうに視線を左右にチラつかせている。やってしまった……。


「……あのね、セス君。ちょっと厳しくなるかもしれないけど、いいかい?」

「は、はい」

「君は、期待されているんだよ? 史上最年少の宮廷神官として、ね。君ほどの子にただ闇雲に仕事をさせるなんて、それじゃあこの組織がバカそのものになってしまうよ」

「……はい?」


 え。いやだって、立派な職に就いた以上、それ相応の仕事を果たすのが僕の役目じゃないのか? いや、七歳に普通の仕事はさせないにしても、実地で手伝わせるなり見学させるなり、そういったことをして学ばせるものじゃないのか?

 僕がまるで分っていないのを見て、この人はたいそう呆れてしまったようにため息をついていた。それから、意を決したように、言う。


「ねえ、僕が何故君の教育を引き受けたか、分かる?」

「それは……」

「君には、いずれ皇帝陛下のそば近くでお務めしてもらうことになる。君ほどの才の持ち主を、ここで捨て置くわけにはいかないからね。その際には、皇帝陛下と同等、もしかしたらそれ以上の知恵や知識、所作や技術を身に付けておかなければならない。分かるね?」


 僕は頷いた。言われてみれば、ただただ「当たり前」のことだった。

 そうだよ。大人でもあっさりふるい落とされるあの宮廷神官の試験に、僕はたったの七歳で通ったんだ。周囲からすれば、それは紛れもない「天才」の所業。宮廷神官に選ばれた時点で相応以上の存在ではあるけれど、僕の場合ではそれは釣り合わない。誰だって更なる存在に仕立てあげたいだろう。そう、それこそ「皇帝陛下の右腕」にだって相応しい程に。

 つまり、ジョルジュ様や指示を出しているであろうアウグスティス様は、僕に英才教育ってやつを施そうとしていたのか。僕と違って、数年先までを見据えた上でのプランを練っているのかもしれない。

 何だか急に、「早く仕事に関わらせてほしい」という気持ちが萎えて来た。今の僕に必要なのは、彼らの言う通り教育を受けることなんだろう。レベルは格段に上がりそうだけど。


 考える。ジョルジュ様の瞳を見る。ありありと浮かぶ、期待。


 そうか。セスが潰れてしまった理由が、何となく分かった。彼女もきっと、抜きん出た才を持つが故に、それ相応以上の優秀な存在になることを望まれたんだろう。それが、彼女自身が描いていた「自分」とはかけ離れていたのかもしれない。その期待を、受け入れきれなかったとしたら。


 僕の答えは、一つしかない。


「……分かりました。今後もよろしくお願いします、ジョルジュ様」

「もちろん。僕としても、君に教えるのは、とても楽しいから。……と言っても、」


 ん?


「ああ、何でもないよ。……まあ、君がどうしても気になるなら、個人的にお手伝いして欲しいことならあるかな。やってみるかい?」

「やります」


 即答。講義を受けてメキメキ才能を伸ばすのが仕事って分かった僕でも、少しでも他の人に役立てることができるのなら嬉しいです。当たり前のこともスコーンと抜け落ちてた僕にしてみれば、ジョルジュ様はもう本当に頭の上がらない人だしね。

 僕の返事を聞いたジョルジュ様は、それまでの厳しい表情を崩してへにゃりと笑った。そして。


「ありがとう。それじゃ早速なんだけど。僕と一緒に、これを運んでくれないかな?」


 デン。と積まれた本、本、本! えーと、これ……六冊ぐらい。こう出すと楽勝そうだけどね。何これ広辞苑ぐらいの分厚さなんですけど。それでいてサイズは生物図鑑。えーっと、これを十歳の女の子に運ばせようとしますか? やるっていった手前、やりますけどさ。


「わ、分かり、ました……」


 だけどね。流石に引きつるよ、顔。絶対そうなってる、今の僕。だけど引きません、頑張るっ……!

 僕は腕まくりをすると、三冊ほど抱え持つ。うっ、キツイ。腕、腕抜ける! 脱臼する!


「む、無理しちゃ駄目だセス君。少しずつでいいから、ね」


 言いながらジョルジュ様が、一冊だけ本を取ってくれた。あ、少し楽。これならまだ動けるかな。図書室からジョルジュ様の部屋は、そう遠くないしね。てかジョルジュ様、毎回こんなに持って来てるの? すんごい申し訳ない。

 結局ジョルジュ様は四冊、僕が二冊という布陣で運ぶことになった。早く終わらせよう。重い。


「ジョルジュ様、よく、持ち運べます、ね」

「体魔術で腕力を強化してるんだ。セス君にも出来ると思うけど」


 そうでした。忘れてた。ここ最近、魔術に関しては自分の体魔術でどこまで人の傷を癒せるかとか、そんなことばっかり考えてたから。考えてみれば、強化魔術って自分にも使えるよね。ゲームじゃ他人にかけるのが基本じゃん?

 それじゃあ早速、ってことで自分の腕力が上がってるところをイメージ。うん、この本を余裕綽々で持ち歩けるぐらいに。そーれそれ。

 効果はすぐ現れた。おお、軽い軽い。腕抜けるとか思ったのが嘘みたいだ。もしや、これを足の速さとかにも使えば前衛チートも狙える……って、永続的じゃない以上、それは周りも一緒か。そもそも僕、剣術とか体術とか、ロクにやったことないしね。何でも欲を出し過ぎるのは良くない。三年前とか、今の失敗もあるし。


 そんなことを考えている内に、ジョルジュ様の部屋へ到着。中は壁一面の本棚。クローゼットとデスク、それからベッド以外は未完成の人工術式や積まれた本の山で埋まっている。かろうじて足の踏み場はあるけど、まあ、腐海に近いよね。片付けたい。


「ありがとう。あ、それと、片付けるのを手伝ってくれたら……」

「ええ、分かってます。やってみせますわ」


 うん。色々あったけど、生活能力皆無なのは分かった。だからってこの部屋はないわ。絶対片付ける。今の僕でも出来る。せめて本の山だけでもやってみせます。

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