表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第一章 七歳。転生ほやほや一年目。
2/34

2.どうも厄介なキャラになってしまったようだ。

 僕は一抹どころでない不安を抱きながら日記を読み始める。出てくる地名にも、人命にも、果ては「魔術」だの「ギルド」だのといういかにもファンタジックな言葉にも、見当が着いてしまう。間違いない。

 

 ここは、<僕>がプレイしたことがあるRPGだ。その名も、『暁のエインヘリヤル』。

 

 ジャンルとしては、割と典型的なアクションRPG。メインシナリオは割とベッタベタだったけれど、しっかり設定が練られているキャラ達と千差万別なアクション、結構な量のサブシナリオとそれに付随するマルチエンドが評判で、設定資料集が発売されたり、ちょっとしたイベントが開かれたりしていた。

 僕は結構やり込んだ派で、流石にイベントには参加しなかったけど、資料集なんかは買ったりしていた。死んでしまう少し前にも起動していた覚えがある。


 さて、僕の転生先となってしまったセス・カタリナ・ジェラードもまた、このゲームの登場人物の一人。簡単に言ってしまえば怪しい宗教の狂信者、といったところ。元々は若干七歳で宮廷神官に選ばれた天才少女。けれど、それ故に周囲の期待を必要以上に背負う羽目になってしまったのがケチの付き始め。周囲にとっての「自分」と彼女が自覚している「自分」の差に悩んでいたところを、そこに付け込んだラスボスによってとある宗教(これがゲーム中での敵組織)に傾倒することになってしまった。

 その結果、彼女は両親を暗殺して当主となり、実家を信者と不正の宝庫に変え、ラスボスに対し金銭的な面でも人材的な面でも貢献することとなった。しかし、終盤になると主人公一行の活躍で実家がおとりつぶしの憂き目に合い、当の本人も宮廷から追放処分。散々尽くしてきたラスボスには見捨てられ、最期は主人公一行の足止め役、という名の捨て駒としてラストダンジョンで待ち構えざるを得なくなる。もちろん、救済は一切なし。容赦なく倒されてお仕舞い。

 ちなみに、さっき取り上げた彼女の過去というのは、あくまでも設定資料でしか語られない範囲。つまり、主人公たちがそれを知る機会は一切ない。ゲームをやる限りでは、あくまでも「宗教に身も心も捧げた挙句の果てに、文字通り全てを失った狂信者」でしかないのである。


 そんなシナリオと描写の仕様上、「このままだと行く先は破滅」が約束されてしまっているセス嬢。転生先がよりによって彼女ですか、せめてその辺の目立たないモブにしといてくださいよ神様。と僕が思っているのは言うまでもない。

 とにかく、これから成長してゲームと同じ行動をとることになったら、目も当てられない結末が待っていることは火を見るより明らかだ。<僕>にとってはしょせんゲームの世界だけれど、今の僕にとってはここが現実なのだ。それならせめて、のらりくらりと波風立てずに生きていきたいというのが僕の性。

 だから、僕は今のうちに今後の人生計画を建てることにした。目標はもちろん、平穏無事に老後を迎え、可愛い孫たちに見守られながら大往生を果たすことだ。そのためには、幾つかの注意事項を作らなければならない。例えば、


一、敵味方問わず、メインキャラには出来る限り近づかない。

二、怪しい宗教は一切合財お断り。

三、実家の破産などというパターンに備え、お小遣い等の収入がある場合は貯金に回す。

四、就職先に宮廷関係は選ばない。


 といったところ、か。特に宮廷と宗教はセスの人生がお先真っ暗になる直接的な原因だから、関わり合いになるのは絶対に避けなければならない。そもそも宮廷生活とか、一般庶民の感覚しか持っていない僕には百パーセント無理だろうしね。

 さあ、次は現状の確認だ。ゲームに関する知識を駆使すれば、セスの未来の行動は大体把握できる。けれど、そこに描かれていない過去の行動を知るにはこの日記を読み進めないと。


「これが最後の……」


『金牛宮の月 十四日

 今日はお母様と一緒に、宮廷神官のアウグスティス様にお会いしました。私はお母様とアウグスティス様のお話はあまり詳しくは聞かせてもらえなかったのだけれど、「一週間後、皇帝陛下の前で魔術をお披露目するように」とは言われました。

 それならきっと、これが宮廷神官になるための試験、なのね。お母様も家臣のみんなも、私なら上手くいくよ、と言ってくれたし、お父様も見守ってくださるに違いないわ。さあ、がんばらなきゃ』


「……」


 注意事項その四、あっさり崩れ去るの巻。

 ああ、彼女ってこの時点で運命が決まってたんだなー。一瞬「バックレようかなー。もしくは失敗してやろっかなー」とか考えたけど、肝っ玉の小さい僕には皇帝の前で大恥かくような行動は絶対取れない!


 そういうわけで、僕は大人しく宮廷神官の試験らしいものを受けることにします。ああ、どうなっちゃうんだろう僕の第二の人生。トホホ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ