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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第二章 十歳。就職三年目の受難。
19/34

19.就職三年目に突入したんですが。

 さて、僕が宮廷神官という名誉ある職に就いてしまってから、三年も過ぎた。ついに年齢二桁突入、身体も健やかに成長した。けど、流石に少し違和感を感じるようになってきた、かな? 何というか、アレがないのにはもう慣れたんだけど、胸とか腰つきとかはやっぱ、気になる。これから第二次成長期に入るってわけで、どんどんそれは大きくなっていくんだろう。んー、こればっかは男と女の差だから、早く慣れなきゃね。

 慣れる、と言えば服装もだな。曲がりなりにも神官、ということで毎日毎日変わり映えのないローブを着るんだけど、これが意外と質素なもので。木綿製。拝命式の時のアレは本来儀式なんかの際に着用するものらしく、普段は装飾もへったくれもない、本っ当にあっさりな無地。色も白じゃなくて地味な群青色だった。後ね、なんか、凄い、タイトっていうの? いや、マーメイドラインか。そんな風なのね、デザイン。そんで、肩にケープを羽織る感じ。そこにベールを被れば立派な女性神官。少なくとも、ソフィアさんや他の女の人たちはそういうのを着こなしてらっしゃいました。僕は……まあ、子供ってことで、普通の長袖ワンピースっぽいのです。これも一年したら作り直しの重ね重ね。成長期怖い。


 そんでもって、僕がこの三年間何をしていたのか、っていうと。


「それじゃあ、今日の講義を始めようか、セス君」

「はい。よろしくお願いします、ジョルジュ様」


 神殿内の図書室の一角で、先輩神官であるジョルジュ・フルニエ様に毎日講義を受けていた。


 何というか、宮廷神官側にとって、当時たったの七歳だった僕が皇帝陛下の目に留まる、というのは完全に想定外だったらしい。大の大人でも簡単に落とされる筆記試験を突破するほどの知識を持つ娘でも、複雑な行程を踏む儀式の準備などに、いきなりは関わらせられない。特に世間一般の常識なんかは、学校どころか屋敷の外にすらロクに出掛けもしていないセス嬢には足りていないだろう、ということで。

 正直、仕事しなくて良いのかな、って思う。四大属性の魔術を使える人は、よく魔術省に出向いて共同研究をしているみたいだし、そうでなくとも様々な儀式の準備や備品なんかのチェック、それから貴重な書物の解析や保管なんかも神官側の仕事らしいから、ちょっとは手伝いたいんだけど。講義を受ける以外にやったことと言えば、備品の数チェックとか、本棚の整理とか、それぐらい。本格的な術式の施行や、儀式の手伝いなんかは全く。これが一年目の新人ならともかく、もう三年目だよ。もうちょっと何かやらせてもらっても良いじゃない。まあ、そんなことを愚痴っても仕方ないから黙ってるんだけどね。


 ところで、軽い厄介者である僕の教師役を引き受けてくれたジョルジュ様。この人、人当たりがすんごい良くて、普通の人なら嫌がることも易々と引き受けて、そしてあっさり解決してしまう。それでいて何もないところですっころんだり、うっかり服を裏表ひっくり返して着てたり、とか。真面目で親切なドジっ子さん。ただし可愛い女の子、とかではない。二十代後半の、立派なお兄さんである。垂れ目で黒フレームの眼鏡、見るからに白魔導士タイプの優男、って感じ。ちなみにこの人、ゲームではロレッタちゃんと同じく、主人公一行でバリバリ活躍する仲間たちの一人。若者たちが多い主人公一行の中でも数少ない大人で知恵袋。腹の中ではいつも一物二物は抱え持っているブラックな性格だったけど、今のところそうは見えない。この世界が『暁のエインヘリヤル』とよく似ているだけの現実である、と言う僕の仮説が正しいなら、そういった面は今後も見せなさそうだけど、果たしてどうなるやら。


「じゃあ、今日は人工術式について詳しくやろうか。良いかな?」

「大丈夫です」

「それじゃあ。まず、これを見てもらえるかな」


 ジョルジュ様が鞄から取り出したのは、ミニチュアサイズの扇風機だった。正方形の箱の中に収められた四枚羽は全く動いていない。へえ、扇風機なんてあるんだな。


「これは風を発生させるものなんだけど、このままでは動くことはない。けれど……」

「箱の中に仕込まれた術式に、マナを送り込んで起動させれば良いのですね」

「うん、そうだ。僕たち魔術師は体内に術式を有しているから、こういった道具を用いなくとも魔術を使うことが出来る。けれど、そうでない人々は、例えマナを感じ取ることが出来ても変換することが出来ない。そんな人のために作り出されたのが、人工術式というわけだ」


 人工術式。簡単に言えば、魔法道具っていうの? とりあえず、魔術師でなくとも魔術を使えるようになったら便利じゃね、っていう発想の下作り出された革命児である。それまでこの世界では「圧倒的な力である魔術が使える」ということから、権力の中枢には魔術師が居座ることが多かった。ところがどっこい、普通の人間でも疑似的ながら魔術を使えるようになってその優位性が崩れることとなり。低コストで簡易的なものならば民間にも流通するようになった今、魔術師の権勢は多少後退することになった、ってわけ。

 その肝はマナライトと呼ばれる特殊な鉱石に、用途に合わせた術式の図形を刻み込んだ基盤。これをありとあらゆる何やらに組み込めば完成。この世界におけるランプやこの扇風機のような日常の電化製品や、水道のようなインフラは人工術式によって支えられているのだ。インフラレベルまでいったらそりゃもう大規模な代物らしいけど、見たことはない。ゲームではあったかなぁ?


「この神殿内や中央宮殿でも、人工術式を用いたものはたくさんあってね。僕は元々、これを作る技術を持っている、と言う理由で陛下に見い出されたんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。マナライトに刻み込むのは、複数属性に対応した術式と、繊細な技術が必要だからね。本当なら、君にも教えてあげたいんだけど……」


 体属性特化型ですからね、残念。

 そうなのだ。人工術式自体は、制作過程でマナを変換する必要があるってことで、結局魔術師にしか作れない。様々な種類を作ろうとすれば、当然複数の属性を扱えた方がいい。技術流出の懸念などもあってか、魔術師であっても、僕のような特化型の人には技術を伝えられることはない。残念!

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