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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第一章 七歳。転生ほやほや一年目。
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16.宮廷神官、拝命いたしました。

 結局、リボンは無難な白色にしておいた。ただ、単純にプレゼント用にしておくのはもったいないと思って、レースで編まれた本格的な装飾用の物を。ロレッタちゃんの黒い髪には、白はよく似合うと思う。僕? カリン曰く、「セス様の髪色は、ちょっと淡いですからね~」とかなんとか。もっと濃い金色だったらお似合いだったんですけどねー、とかも言ってたような。そんなものなんだな、適当に何か着けてれば良い、ってわけじゃないんだ。分からん。

 試験に受かったことは、夕食の席で伝えた。お母様は無邪気に喜んでたけど、お兄様がすんごい渋い表情だったのが気になった。宮廷神官になると、宮廷内の神殿に住み込みで働くことになる。屋敷に足を運ぶ機会は極端に少なくなるだろう。それでかな。三日間もかろうじて、しか耐えられないみたいだし。良いじゃんお兄様、妹離れするチャンスだよ、チャンス。


 そして、二日経った今。僕はソフィアさん、そして両脇をガッチリ固める近衛騎士団の皆様方と共に、西宮殿から神殿に向かっていた。他に候補生だった人はいない。僕が想像している以上に厳しい試験だったのか。そういや、実技試験の時点で僕とソフィアさん含め、四、五人ぐらいしかいなかったな……。もう過ぎたことだけど。

 履きなれない、少しヒールの高いブーツと今にも引きずりかねない長さの裾のローブ。手紙と一緒に届いていた、宮廷神官の正装だ。見た目だけだとシスターっぽい。白地に金の装飾が施されていて、ちょっと意外。こう……僧衣ってのは、黒が基本だと思ってたから。本場ではそうでもないのかな。それと、ベールは皇帝陛下が直々に授けてくださるらしい。それをもって宮廷神官の仲間入り、同時に皇国への恭順を示すこととなる。ボスへの道を走ることにはなりたくないし、それでなくとも逆らう気なんて初めからないけど、何らかの強制力とかあったら嫌だなぁ……。


 そんなことを考えている内に、僕らは遂に神殿へ辿り着いた。勿論止まることなく入っていく。上がり段の脇に堂々と設置されている、この世界で最も隆盛な宗教「エオス教」の主神エオス(そのまんまだよね、こういうのって)を象った、巨大な彫像を脇目に中庭へ。皇帝陛下と二人の側近、それから……もうすぐ先輩となる宮廷神官の人達が待ち受ける礼拝堂へ。近衛騎士団はここまでらしい。ちょっと心細い。


「……緊張してますの?」


 ソフィアさんが囁いてきた。大丈夫です、と目で答える。もうここまで来たら止まってられない、やることやれば良いんだから、さ。

 二人の騎士が、重厚な木の扉をゆっくりと開ける。僕たちは「命じられるまで皇帝を直視してはならない」という、現代人からすれば七面倒くさい指示に従ってうつむきながら、足並みは揃えて歩みだす。確か、七列ある長椅子の、祭壇から数えて先頭の奴を超えたら恭順の礼をして跪く……と。


「よくぞ参られました、我らの新たなる同朋よ……。これより、洗礼の儀を執り行います。よろしいですね?」


 張のあるメゾソプラノ。聞き覚えがある。ゲームで、だけど……。これは、宮廷神官長エレミヤ・アウグスティスだな。日記を読んだ限りでは、この人がセスを推薦したらしい。これから上司になるのか。プレイ中の印象は純然たる善人で、宮廷内のいろんな人の悩みを口も挟まずに聞いていたり、時に主人公たちに道筋を示すこともあった。ここでもそうだと良いんだけど。優しくて丁寧に教えてくれる上司が持てるかは大切。だと思う。


 それから、儀式は滞りなく進んでいった。もちろん、何か聞かれたら「はい」「誓います」。便利な言葉だな、これ。


「それではこれより、皇帝陛下から訓示を承ります。セス・カタリナ・ジェラード、御前へ」


 メインイベント発生。遂にお顔拝見タイムか。さて、設定画と同じか否か……。

 僕は立ち上がり、二歩前へ出る。言葉を待つ。それからベールも。


「セス・カタリナ・ジェラード。今この瞬間をもって、其方を宮廷付きの神官として任命する。……面を上げよ」


 促されるまま、僕はベールを被せられた頭を上げる。そして、情けないことに硬直してしまった。


 立ち上がった皇帝陛下の、左脇でニヤニヤしていやがる師匠はなんか、どうでもいい。何でいるんだ、とは思うけど、僕の頭から思考を吹っ飛ばすほどのものでもなかった。問題はこっちだ。

 白銀色のおかっぱ頭に、やや釣り目気味の大きな紅の瞳。皇族の紋章――背中合わせの竜と鷲、テューダー・ローズと呼ばれる薔薇を組み合わせたものだ――があしらわれた、実に豪奢な作りの白いローブ。年の頃は、今の僕とそう変わらない少年。見覚えのある顔。それに、聞き覚えもバッチリなこの声。


 これ、別人だ。アーノルドじゃない。……ぶっちゃけ、フェルじゃね?


 いやいやいや、何で? 確かに五大家レベルか、もしくは皇族かなーぐらいには考えてたけど、まさかの皇帝陛下ご本人? でも、今までの経験から察するに、この世界の根幹や大枠の設定は『暁のエインヘリヤル』との相違は見られない。てことは、「ヘーメレー皇国の現皇帝はアーノルド・エヴァン・イヴェット・ヘーメレー」という根幹にあたる事項が変わっている、ということはない、と思う。じゃあ、フェルは何者? 影武者か何かか?


「若年の身でありながら、知識量や術の扱いは見事だった。期待している」


 僕の踊る疑問などにはちっとも気付いちゃいないのか、それか素知らぬフリをしているだけなのか。彼は平然とそんな言葉を投げかけてくる。

 うーん、声もゲームのとよく似てる、かな。よくよく見れば、顔も幼少期のアーノルドとそこそこ似ている。だがこの素っ気なさと逆ハの字眉は、間違いなくフェルだな。

 もう直ぐにでも確かめたいけど流石に、この場では聞くことはできないだろう。ソフィアさんに代わらないといけないし。いつか絶対何がどうなってるのかを聞き出してやる! あ、師匠は屋敷でな、必ずだ。

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