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僕(女)、脱・ボスキャラを宣言します!  作者: 氷翠
第一章 七歳。転生ほやほや一年目。
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10.試験二日目。筆記試験より大事なこともある。

 それにしたって疑問だった。いや、薬湯は我ながら上出来だったんだよ。フェルもぶっきらぼうながら「ありがとう」って言ってくれたし。中央宮殿までの付き添いは徹頭徹尾辞退させてもらいましたが。僕はあくまでも候補生、皇帝様の実家に土足で上がりこめるような身分ではないのだ。あ、いや貴族だけど。中央宮殿に乗り込めるほど高貴、ってわけではない。

 問題はそういうことではなくって。明らかに最上クラスの大貴族、もしくは皇族の子息であるらしいフェルが、何故僕に薬湯を作ることを許したのかが分からないのだ。中流貴族のジェラード家と違って、上流貴族ならばいくらでもプロの薬師や神官あるいは魔術師を雇うことが出来る。皇族ならもっと簡単、宮廷神官に頼めば良い。対して僕は、完全な素人よりは知識や技術があるものの、所詮はただの候補生。プロには劣るってもんだ。

 せめて誰にあげる者なのかは聞いておくべきだったかな。人に言うかもっと上質の材料を取り寄せれば良いだろうに、健気にも雑草じみた薬草を自ら採取していたということは、大事な人を自分の手で助けたかったとか、そういう可愛らしい考えがあったのは想像が着く。でも僕にはその相手がさっぱプーなんである。兄弟とか?


 いやあ、分からん。何で僕ごときの申し出を受け入れてくれたんだか。

 

 そんなことを考えながら、僕は羽ペンを置く。目の前には二枚の解答用紙と、全二十ページの問題冊子。

 西宮殿滞在二日目、筆記試験でございます。さてどんな問題が出てくるのやら、と多少は身構えていたんだけど、ほとんどが前世の知識フル使用でどうにかなりそうな代物ばかりで助かった。後、お母様から伝授された薬草豆知識。セスが所持していた、皇族内での儀式に関する資料を読める限り読んでおいたのもプラスだったかな。そういや、セスは設定上では試験をほぼ満点で突破したらしい猛者なんで、それを崩してなかったらなお良し。

 そういうわけで、残り時間……十五分ぐらいかな。は暇なんである。見直しもしたし。それで昨日の出来事を思い出していたのだ。こっちは前世の知識は何も役に立たず。フェルは何を考えてたんだろう。


※※


「はぇー」


 私は雑巾をバケツに突っ込むと、一つ息をついた。うん、バッチリ綺麗になったね、窓。元々そんなに汚れてはなかったけど。流石は皇宮、手入れが全然違うなぁ。それとも材質が違うのかしら。

 大して深く考えず、私はいったん部屋を出る。バケツの水を捨ててこなきゃいけない。結構遠いのよね。面倒くさい。

 とはいえ、仕事は仕事だ。私はしがない貧乏貴族の三女。家に頼らず生きていくには、とにかく一生懸命働かないとダメ。てのは分かってるんだけど、どうしても眠たくなったり忘れちゃったり一言こぼしちゃったりするわけ。セス様がああいう人じゃなかったら、私速攻でクビ首切られてただろーなー。うん、感謝感謝。

 部屋を出て、私は真っ直ぐ一階に向かう。もちろん、初めに入って来た来客用の豪華な装飾の施された飾り扉には向かわない。しがない使用人には専用の出入り口があるのね。何の変哲もない質素なのが、目立たないようにこっそりと。

 まあ仕方ないことだ。使用人は「見えない存在」であることを徹底的に求められるもの。大体あんな贅沢な玄関ホールなんてこんな汚いバケツ持ったまま通れないわー。あんだけ踏み荒らされた赤絨毯に、万が一中身をぶちまけたら、とか思うとね。


 別段そんなこともなく、私は水汲み場に辿り着く。先客は一名様。あら、小っちゃい女の子じゃない。見習いちゃんかな。


「ねぇ」

「は、はい」

「そこ、一緒に使っても良い?」


 皇城の一角だけあって、使用人しか使わないようなこんなとこでも、十数人同時に使用しても十分な数の水道が整えられているんだけどね。いやあ、この子のいかにも新人、って手付きが気になって仕方ないんですよ。くあぁ妹みたいな年頃の子が健気に雑用してんの可愛いなぁお傍でハスハスしたーい、とかそんなことは微塵も考えちゃあいないデスヨ?


「ど、どうぞ……」


 いやいや、そそくさと離れなくても良いんだって! むしろここでおっちょんとしていてくださいお願いしますハァハァ。


「ありがと」


 あらまあ震えちゃって。私、いまそんなに怖い顔してるのかな。それか元々こんななのかしら。それにしても、


「貴女、変わった髪の色してるのね」

 

 頭の上から肩ぐらいまでは卸し立てのインクみたいに伸びやかな黒。なんだけど、そこから胸元ぐらいにある毛先までは鮮やかな緋色。夕焼け時の空みたいに綺麗なグラデーションになっている。んー、これってすんごく珍しいんじゃ。それとも、他国じゃ普通なのかしら。少なくとも、染めてるだけ、ってことはなさそう。染粉を使ってる、って感じがしないもの。


「……よく、言われます」


 あらら、更にうつむいちゃった。気にしてたのね、それは悪かった。

 この子が何処のメイドなのかは知らないけど、この調子じゃすぐ辞めざるを得なさそうだなぁ。同族だから何となく予想が着くのよね。よし、ここは一肌脱いじゃいますか。カリン・バセット十三歳、不肖ながら短期の指導役に着かせていただきます!

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