0.終わりの始まり
何時ものように朝食を摂り、本日の予定と報告を行った後のこと。
いつも頑張ってくれている褒美として、そして自分が目標に掲げていた社畜根性のドロップアウト達成記念として、サプライズ的なノリでやったのだが…。
どうしてこうなった。
カーテンで窓全てが覆われているため、薄暗くなっている部屋を見渡すが時間が分かるようなものは置いてあるはずもなく、あれからどのくらいの時間が経過したのかも分からないまま、僕は途方に暮れていた。
どうしてこういうことになったのか、本当に理解できずに御飯はなにかなと現実逃避していることにふと気が付く。
お腹も空いてきているので、昼か夜かのどちらかなのは間違いないと思うのだが、如何せんそこまで考えれる余裕はない。
頭の中は、疑問や後悔を練り込んで混ぜに混ぜた焦燥感で埋め尽くされており、空腹も相まって頭や胸を掻きむしりたい衝動に駆られている。
どうしようもない崖っぷちに立たされて、それでも抵抗しようと必死になって対策を考えるが焦って逆になにも思いつかない混乱のループに迷い込んでいる今の僕の心境は、多分誰にだって一度は味わっていると思う。
それに、死ぬと決まったわけではないのに、なぜか今までの生活が何故か走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
楽しかったこと。嬉しかったこと。悲しかったこと。悔しかったこと。
浮かんでは消えていく記憶の激流に、僕は別の意味でドロップアウトできる可能性が刻一刻と近づいていることに戦慄を覚えた。
ねっとりした汗を肌で感じながら、ほんの少しでも現状を打破しようとこうなった原因を必死になって思い返してみたのだが、思い当たる節はこれといってない。
なぜこんな事をするのかと問いただそうにも、口に詰め物をされて喋ることができないし、現状を作り出した犯人はニコニコと微笑んでいるだけで喋ろうともしないで佇むばかり。
今すぐにでもここから逃げ出し、全てを放り投げて一から再起したいのだが、手と足と腰をガチガチに拘束されている上、相手の方が僕よりも格上の存在なため逃げ出す事すらできずに失敗に終わるか成功しても程なく捕まることが目に見えていた。
考えれば考えるほど、もがけばもがくほど、心臓は緊張と焦燥感で締め付けられるように痛み、ねっとりとまとわりつくような汗が流れる。思考はグルグルと回り、落ちつこうと努力するが今の心境じゃ無理と言うか不可能なわけで…。
ーーーああ、やっと願いが叶いました。愛しのご主人様。
思考のループに囚われたまま、終ぞ僕の望みは叶うことなく、カチリという音と共にこうして僕は奴隷となった。