タイムマシーン
「あっ・・・・」
たまには本棚の整理をしようと思い立ち、本を出しては置いていく作業を繰り返していた日曜午前。足元に1つの封筒が落ちた。
「・・・・・懐かしい」
封筒の表には、とある人への宛名が書かれている。ひっくり返してみると、見覚えのある字で私の名前が書いてあった。
「そう言えば授業で書いたんだった。手紙」
もう2年前になるのか。
中学3年の道徳の時間。何を思い立ったのか担任の先生が「そうだ、京都へ行こう」的なノリで「そうだ、手紙を書こう」と言い出した。
もちろんクラスメイトは嫌がったが、しぶしぶ各々の相手へと手紙を書いた。
内容なんて大して変わらず、話を聞く限り皆『お元気ですか?』で始まって『これからも頑張って下さい』で終わっていた。
「私はどんなこと書いたっけ?」
覚えていないのは、2年の月日の所為か。それとも記憶にさえ残らないくだらない文だったのか。はたまた両方か。
私は手紙を両手で持った。軽く太陽に照らすと、中の紙の影が分かる。だが文は読めそうに無い。
私はまだこの手紙を受け取ってもらえない。
ただ一つ言える事は、この手紙を相手が受け取った時に『今居る私』は何処にも居ないと言う事だ。少し寂しいような、でも楽しみなような。
「皆はもう捨てたかな?・・・・・絶対忘れてるよね」
手紙をもう一度見つめた。
開けてしまおうか。どうせ、きちんと相手に届くかなんて『今居る私』には確認しようがないのだから。
そう思って封筒を片手で持ち、もう片方の手で上部に手を添えた。
その時、とある場面が想像された。私のこの手紙を受け取って、その場に座り込んで手紙を読んでいる受取人の後姿。
その一瞬の想像で十分だった。私は上部に添えていた手を離した。
開けるのはもったいない、だって現代に唯一あるタイムマシーンなのだ。それにこの手紙を受け取る相手は別に居る。
「寄り道せずに行っておいで」
そう言って私は、その手紙をもう一度本棚へ戻した。
「あっ・・・・」
たまには本棚の整理をしようと思い立ち、本を出しては置いていく作業を繰り返していた日曜午前。足元に1つの封筒が落ちた。
「懐かしい・・・・・。もう10年が経っちゃったんだ」
そう言って拾った封筒の宛名はで『25歳の私へ』と書かれていた。ひっくり返してみると、懐かしい字で『10年前の私より』と書いてある。
「やっと届いた」
今、10年前の私から手紙が届きました。
そう思いながら、随分と色あせた封筒を開けた。中の紙はあの授業の日、自分の机の上に配られた時と同じように真っ白い色のままだった。
その文を読んで、懐かしさから微笑んだ。
10年前の私は居ないけれど、10年前の私を思い出した。
私はその手紙を持って立ち上がり、後ろで片付け途中の本を読み出している人へと声をかけながら近寄った。
「ねぇあなた、見てこれ。10年前の私からお手紙が来たの」
そして手紙の最後の一文を指差した。
「なかなか良いこと書いてると思わない?」
「・・・・確かに。10年前の君に伝えてあげたいよ。『その願いかなってるよ』って」
そう言って、2人は微笑んだ。
『拝啓 25歳の私へ。
お元気ですか?10年後の私は何をしていますか?将来の夢は叶えられましたか?良い女になっていていますか?あと、家族は大事にしていますか?他にもいろいろ聞きたいことはあるのですが、手紙の行も少なくなったのでこれくらいにしておきます。何故か私は今この手紙を書きながら、あなたが幸せで暮らしていることを確信しています。
ただ一つだけ願うなら。あなたの隣に愛しい誰かが居て、2人でこの手紙を読んでいますように。
15歳の私より』
手紙を書いたのは本当です(笑)
実際の内容はホントくだらないこと書いてますが・・・。