視える者、視えない者
小さい頃から、僕には幽霊が見えた。
不思議なことでは無かったけど、他の人から見れば、十分にありえないことだと言われた。
だから僕は、そのことを言わなくなった。
きっとみんな見えているけど、彼らは触れてはいけないんだと、僕自身に言い聞かせながら。
小中学校と、わずかにしかいない友達に話したが、冗談としかとられなかった。
でも、高校に入って、やっと同じ人たちが視える人に巡り会った。
「こんにちは」
出席番号で僕の後ろにいる彼女に挨拶をする。
冷たくあしらわれていたが、挨拶だけは返してくれていた。
「…おはよう」
それも、けっこう嫌々ではあった。
人とのつながりを自ら絶って、孤独に生きることに決めているのだと、僕の友人から聞いた。
でも、その理由は、あの時まで気づかなかった。
高校では、得意だった長距離走をするために、陸上部へ入った。
中学校では、マラソンで全国2位になったこともある。
そのせいか、すぐに練習メニューを組んでくれた。
一方の彼女は、文科系のどこかの部活へ入ったということだけ聞いていた。
ある日、僕がストレッチをしていると、急にグラウンドの校舎から離れたところで練習していた野球部が騒ぎだした。
盛んに校舎の上側を指差している。
顧問もそれに気づいたようで、騒ぎ出しいていた。
僕が、陸上部のみんなとほぼ同時にみたものは、彼女が、黒い何かと戦っているところだった。
剣を振りかざして、次々と切りつけていく。
だが、その黒いものは僕だけにしか視えなかったようだ。
横でアキレス腱を伸ばしている同級生が、ひっそりとつぶやいた。
「あいつ、あそこでなんで踊ってるんだ」
その時になって、初めて相手が視えていないことが分かった。
顧問が止めに入ろうとしたが、僕もついていくことにした。
そしたら、さっきの同級生も一緒にきた。
野球部の顧問と陸上部の顧問、僕と同級生の4人が屋上にたどり着くと、彼女は相手に止めをさしていた。
息がかなり荒くなっている彼女に、僕が最初に聞いた。
「それは、一体なんだい」
彼女はとても驚いた顔をした。
だが、僕と一緒にきていた3人は、何を言っているのかわからない表情になっていた。
「…私は、神の計画に反する者。あなたがこれが視えるというのであれば、あなたも、神の計画の歯車の一つ。殺らないといけない」
左でにもっていた剣を、僕に向けてくる。
ここで陸上部の顧問が、僕と彼女の間に立って、道をふさいだ。
「いいか、お前らは、何も見なかった。トイレに行っていただけだ」
その言葉は、僕と同級生の二人に向けられた言葉だとすぐに理解した。
彼女も剣を向けるのをやめた。
「…いずれは全人類が分かってしまう。神の計画は止めなければならない」
彼女はそれだけいった。
俺はその時一緒にいた同級生と友人になり、大学へ行っても、親しくなっていた。
彼女は翌日からも高校へはきていたが、僕に挨拶も交わすこともなくなり、ずっと孤独な3年間を過ごしていた。
卒業以来、彼女は同窓会にも出ることはなく、いつしか神の計画なんてものも忘れてしまった。