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不老不死の代償はわたしじゃダメですか?

作者: 満原こもじ
掲載日:2026/07/05

 魔道具って怖いのです。

 特にアンティークの魔道具はどんな効果があるか不明のものも多くて。

 知らずに使って呪われたりすることも珍しくないのです。


 だからおかしな品は聖女であるわたしの元に持ち込まれることが多いです。

 わたしならば爆発しようが大型魔物を召喚されようが結界で押さえ込めますし、毒や呪いも中和できますしね。

 今日も天神教会の信徒の方から一つの魔道具が持ち込まれました。


「ランプ、ですか?」

「オイルランプですね。もっとも上蓋が外せないですし、ランプとしての機能が

あるかはわかりません」

「あ、本当ですね」


 蓋が開かないのでは油を入れにくいですし。


「聖女様の見立てでも?」

「明らかに魔力が関与しています。魔道具に間違いありません」

「やはり」


 信徒さんが頷いていますが、何でしょうね? このランプは。

 魔道具にしては変です。

 ランプ自体にごく微量の魔力しか含んでいませんし、魔力を吸収する仕組みもありません。

 起動に魔力を必要としない魔道具ということでしょうか?


「実はこのランプ、使用説明書が付属しておりまして」

「珍しいですね?」


 その説明書が信用できるかはわかりませんけれども。

 ただこの不思議なランプが何なのかを明らかにする助けになることは確かでしょう。


「説明書には何と書いてあるのですか?」

「魔人よ出でよと念じながら、ランプの側面を三回撫でよ。さすれば魔人が現れ、使用者の望みを三つ叶えるであろうと」

「……」

「怪しいでしょう?」

「怪しいというか、そもそも人の作ったものに望みをかなえるなんてことが、できるわけないではありませんか」

「ですよね」


 ランプを持ち込んだ信徒さんも納得したようで、ホッとした顔をしています。

 人の作ったものならば、ですが。


「つまりこの説明書は、ランプを使わせようとする罠なのですな?」

「罠と言えるかどうかは。このランプ、ただの魔道具ではありません。何かが封じ込まれているようです」

「えっ?」

「側面を三回撫でるというのがトリガーとなって、封じらせし存在が飛び出すのでは?」

「願いをかなえる存在……あっ、まさか悪魔?」

「可能性は高いですね」


 悪魔は人間の欲望を利用し、魂と引き換えに願いを叶えると取り引きを持ちかけてくる厄介な存在です。

 悪魔との取り引きはまず人間側の負けになるらしいですね。

 ほとんど魂を取られるだけに終わるのですって。

 狡猾な悪魔に関わることを戒める訓話は多いです。


「そうか、悪魔か。いや、得心しました。そのランプは聖女様に差し上げますので」

「えっ? 結構なレアアイテムです。値打ちものではありますよ?」

「いや、元々聖女様に進呈しようと思っていたものなのです。それがしのような俗人が持ってはいかんものと理解しました」

「でも……」

「実は夢に神が現れましてな。このランプを聖女様に献上せよと。さすれば全ては丸く収まるであろうと」


 その信徒の方はサッパリした顔で帰っていかれました、が……。

 どうもこのランプは気になります。

 わたしも一旦は悪魔が封じられているということで納得したのですが、どうもそんな俗悪な雰囲気を感じないのですね。

 むしろ神聖な感じがします。

 いや、そう偽装しているのかもしれませんけれども。


 夢に神様が現れたというのも気にかかります。

 確かに夢に神様が出て指示を与えるということはあります。

 わたしにも経験がありますが、ただランプをわたしに渡すためだけに神様がそんなことをするでしょうか?

 甚だ疑問なのですね。


 悩んだ末にこの不思議な魔道具のランプを使ってみることにしました。

 わたしの手に入ったということは、使えという神様の意思なのでしょうから。

 魔人よ出でよ。

 ランプの側面を三回撫でました。

 すると……。


「はあい、御主人様。御用は何ですか? 三つの願いを叶えますよ」


 煙に包まれながらランプから出てきたのは、見目麗しい男性です。

 ……魔人という触れ込みでしたけど、どう見ても普通の人間ですよね?

 悪魔なんかじゃありません。


「願いを叶えたらあなたはランプに戻ってしまうのですか? 再びランプをこすれば、あなたはまた現れる?」

「今説明しようと思ったんだけどな。願いを叶え終わったら僕はランプに戻りまーす。その後に僕とランプは消え、遠く離れたどこかに出現しまーす」

「なるほど、そういうカラクリですか」

「願いの前にもう一つだけ質問を受けつけまーす」


 ということは、質問の答えを聞くのも願いの内に入ってしまうのですね?

 どうしてランプに封じ込められているのか。

 どうやって願いをかなえようというのか。

 聞きたいことは山ほどありますが……。


「正直に答えてください。あなたはわたしのような女性をどう思います?」


 だってとっても凛々しい殿方なんですもの。

 わたしは聖女ですのでその人の性根みたいなものも見えるのですけれども、魔人さんは間違いなく善良な方ですし。

 ハッキリ言って好みなのです。


「とっても可愛らしいお嬢さんでビックリした。君みたいな子は初めて見たよ。今日はいい日だね」


 わあ、こう言っていただけると嬉しいですね。

 ドキドキします。


「では一つ目の願いを言います」

「はい、どうぞー」

「わたしの質問に答えてください。あなたは封じられているそのランプから出たいですか?」

「……君は僕がランプに封じられていることがわかるのか。出られるものなら出たいけど」

「二つ目の願いです。わたしの質問に答えてください。あなたはランプから解放されたら、わたしの側にいてくださいますか?」

「君が望むならもちろん。願ってもないことだね」


 心配そうな顔の魔人さん。


「いいの? そんなことに願いを使って。他人事ながら心配になるんだけど」

「わたしは恵まれていますからいいのです。いつも神様に感謝しています」

「そうなの? 僕は神を恨んでいるけどね」


 やはり魔人さんは神様の関係者でしたか。

 思った通りです。


「三つ目の願いです。わたしの質問に答えてください。あなたをランプから解放するためにはどうしたらいいですか?」


 顔を顰める魔人さん。


「……難しいんだ。ランプの蓋を取り外せばいいんだけれど、尋常でない力がいる」

「あ、力で外せるのですね?」

「ああ。君みたいに可憐で華奢な女の子にはとてもとても……えっ?」


 大丈夫ですよ。

 ポロッと蓋がもげました。

 わたしは身体強化魔法も得意ですから。

 ボウンと音がして再び煙が出ます。


「……いいですね。ランプとの魔力的連携は途切れました。これであなたは自由ですよ」

「わあ、ありがとう! 君ってすごいんだね!」


 魔人さんはわたしをぎゅっと抱きしめて、ぴょんぴょん跳び回っています。

 照れちゃいますね。


「わたしは聖女ハイネと申します。あなた様は?」

「僕はヤマトと言うんだ。ところで聖女とは何かな?」


 ええ、御存じないだろうと思っていました。

 推測通りです。


「神様に力を授けてもらい、民に奉仕する女性のことです」

「ああ、だからすごい力を持っているんだね」

「はい。ヤマト様も神様に見込まれた方のようですが」

「見込まれた、というとそうなのかもしれないけど。騙された、ってのに近いね」

「騙された? どういうことでしょうか」

「うん。不老不死にしてやるって言われたんだ。その代わりに言うこと聞けって」

「ははあ」


 不老不死の代償でしたか。

 あっ?


「申し訳ありません。不老不死はあの不思議なランプの中にいたからこそだと思います。今のヤマト様は……」

「いや、いいんだ。外界に出るのは僕の意思だから。ランプの中で過ごすのは退屈で飽き飽きした」


 ホッとしました。

 ヤマト様がそのつもりでしたら。


「確かに不老不死だったようなんだけどさ。不思議なランプに閉じ込められて、時折神の代行者としてランプをこすった者の言うことを叶えるという仕事をしていた」

「大体わたしの思った通りです。願いをかなえるランプは、聖女出現以前の古い手法だと思います」

「古い手法、とは?」

「神様は信仰心を得るために、信者を得ようとしますよね?」

「うん、神に直接聞いた」


 何と、神様に直接会ったことがあるのですか。

 ヤマト様の知識があると、わたしの仮説も立証されそうです。


「おそらくヤマト様の時代は、神様がたまに信者の願いを叶えるという方法を取っていたのではないでしょうか?」

「その願いを叶える手段として用いられたのが、僕の閉じ込められていた不思議なランプ?」

「だと思います」


 神様の力を使っていたから、人の願いを叶えるなんて途方もないことができてしまうのでしょう。

 神様を信仰していれば願いが叶うかもしれないぞ、っていう勧誘手段ですね。

 でも……。


「例えば世界を滅ぼしてくれ、みたいな願いですと、信仰心の欲しい神様自体の利害と対立してしまうではないですか」

「なるほど、だから今では使われなくなった古い手法なのか」

「はい、それで神様は聖女というものを考えついたのだと思います」

「君みたいな可愛い子が一生懸命奉仕しているとなれば、神の存在を意識せざるを得ないもんな。確かに不思議のランプの手法より安全で合理的だ」

「うふふ、可愛いだなんて」


 あれ?

 でもヤマト様怒っているではありませんか。

 何ゆえに?


「いかに不老不死とはいえ、僕を長い間タダ働きさせたことは許せない!」

「そのことについてなのですけれども。ヤマト様の不思議のランプがわたしの手元に来たのは、おそらく神様の采配なのですよ」

「えっ?」

「天神教会の信徒の方が神様の指示のもとに、ランプを持ってきてくださったのです。わたしがランプに干渉してヤマト様を解放せよという、神様の意図があったものだと思われます」

「そうだったのか……。君に引き合わせてくれるまで待っていた? では神を恨むのは筋違いなのかな?」


 どうでしょう?

 今までヤマト様の不思議のランプの存在を忘れていただけのような気がするのですけれどもね。

 神様は意外とうっかりさんですから。


「ハイネ」

「はい」


 名前を呼ばれるとドキッとしますね。

 普段聖女様と呼ばれていますから新鮮です。


「ありがとう。僕も不老不死時代以前には持ってなかった不思議な力を使えると感じる」

「えっ?」

「癒し手や占い師の真似事はできるな。君の手伝いができると思う」


 今までランプの魔人として働いたので、神様の補償ですかね?

 わたしの夫として認められるよう、神様がサービスしてくれたのかも。

 だってヤマト様、とっても素敵な方ですもの。

 同じ神様の僕としての共通点もあるので、気が合いそうですし。

 これぞ運命の出会いとしか……。


「色々教えてくれ。運命の人」

「はい、もちろんです」


 運命の人ですって。

 そう思ってくださるのですね。

 ヤマト様を抱きしめます。

 はあ、本当に慕わしい感じがします。

 わたしに対する御褒美という面もあるのでしょう。

 言ったことはなかったですけど、素敵な恋人が欲しいというのはわたしの願いでしたから。


 神様、ありがとうございます。

 ランプの『魔神』としてしまうと何か違うなと。

 よって『魔人』にしてみました。


 最後までお読みいただきありがとうございました。

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