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毎日胸ポケットに女の子を入れて出勤しています  作者: 渓夏 酔月


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7.陽菜ちゃんのいない部屋

 仕事からアパートに帰って、冷え切った部屋の電気を点ける。


 床のカーペットの上には、陽菜ちゃんが寝ていた人形ハウスのベッドがそのまま置かれている。


 作りかけだった陽菜ちゃんの洋服は、陽菜ちゃんがいなくなった日からそのままだ。


 かつては一人で普通に過ごしていたはずなのに、一人っきりのアパートが耐えられない。


 寝ても覚めても陽菜ちゃんのことを思い出してしまう。


 お風呂代わりのお椀は、主をなくして寂しく机の上に転がっていた。


 自炊もやめて、またもとどおりのコンビニ弁当の夕食に戻った。


 何か、もういろいろなことがどうでもよくなった。


 今日は十二月二十四日。クリスマスイブだ。


 そう言えば、陽菜ちゃんに妖精の世界でもクリスマスはあるのかと聞いて、「あるわけねえだろ! キリスト教か!」と怒られたことを思い出した。


 陽菜ちゃんのことを思い出して、笑っている自分がいた。


 喜びも悲しみもすべて陽菜ちゃんが自分に教えてくれたのだと思った。


 陽菜ちゃんと出会う前は、喜びも悲しみもない灰色の世界だった。


 ただつけているだけのテレビからは、賑やかなクリスマスイブの街並みの様子が、クリスマスの音楽に乗せて映し出されていた。


(クリスマスケーキとか、陽菜ちゃん喜んだだろうなあ)


 一緒にクリスマスを過ごせたら、どんなに楽しかったのだろうかと、僕は思った。


 ふと見ると、部屋の脇に陽菜ちゃんが飲んでいた焼酎、『悪魔界への誘い』の瓶が置かれていた。


 陽菜ちゃんにどれだけ「凪太郎! お前も飲め! 男だろ!」と言われても、飲まなかった焼酎を、瓶からラッパ飲みで飲んでみる。


 お酒に弱く、いつもはほとんど飲まない僕は、すぐに酔っぱらって視界がゆがみ始めた。


 お酒のせいなのか、感情が整理できず、想いがとめどなく溢れてくる。


「陽菜ちゃん! 帰って来てくれ! 寂しいよ!」


「君のことが好きだ! 大好きだ! お願いだ、もう一度だけでいいから戻って来てくれ!」


 世間はクリスマスイブで恋人たちが温かい気持ちで過ごす夜、僕の心は悲しみで張り裂けそうだった。


 通勤電車で、陽菜ちゃんが押しつぶされないように胸のあたりを守っていたこと。


 仕事中に、デスクの上をうろうろ歩く陽菜ちゃんにひやひやしたこと。


 ランチのカラオケボックスで、マイクの音に陽菜ちゃんが驚いていたこと。


 仕事帰りに一緒に陽菜ちゃんの服を選んだこと。


 食事を作っている最中に、陽菜ちゃんがつまみ食いをしてしまうこと。


 お椀の風呂に入りながら、焼酎を飲む陽菜ちゃんに怒られたこと。


 夜中にベッドから落ちた陽菜ちゃんを戻したこと。


 僕のすべての日常に陽菜ちゃんとの思い出が詰まっている。どこにいても陽菜ちゃんのことを思い出してつらい。いっそのこと引っ越してしまおうか。でも、そんなお金もない。


 いつしか『悪魔界への誘い』は空になり、僕は意識が朦朧として床に倒れ込んだ。


 何かで、泥酔したまま寝ると、吐物を喉に詰まらせて死んでしまうことがあると聞いた。でも、それもいいかなと僕は思った。そうすればこの悲しみや辛さから救われるのかもしれない。もう生きていたって何にもいいことはないし、生きていたいとも思わない。



すみません、次回が最終話です。

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