表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毎日胸ポケットに女の子を入れて出勤しています  作者: 渓夏 酔月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

6.翅

「翅が再生してきた!」


 陽菜ちゃんが鏡で自分の背中を見ながら言った。


「翅って再生するものなの?」


「わかんない。でも、これは明らかに翅だ」


 自分でも信じられないと言った感じで、陽菜ちゃんが自分の背中を見ている。


「良かったね。これで森に帰れるね」


「うん、そうだね。ちゃんと生えたらね」


 ちゃんと生えてほしい。心からそう思った。


 陽菜ちゃんと一緒にいられるようになって本当に楽しいが、陽菜ちゃんの大切な翅を失ってしまった原因は、僕が作った焼酎トラップだ。焼酎の臭いに誘われて飛んできた陽菜ちゃんは、トラップに引っ掛かり、翅がダメになってしまったのだ。


 いつも申し訳なく思っていた。外に出かけて木がたくさん生えている場所を見ると、森に帰れなくなってしまった陽菜ちゃんを想って胸が苦しくなった。


 陽菜ちゃんの翅がちゃんと大きくなるようにと、食事の栄養バランスには特に気を付けた。


 でも、相変わらず陽菜ちゃんはポテトチップスを食べ、焼酎を風呂につかりながら飲んでへべれけになっていた。


 それでも翅はどんどん大きくなった。


 やがて、翅は上下左右に伸び、アパートの部屋の中を陽菜ちゃんは自由に飛び回れるようになった。本当に陽菜ちゃんは妖精だったのだと思った。


 雪が降りそうな寒い日の夜。陽菜ちゃんは僕に言った。


「妖精の森に帰ろうと思う」


 僕はその日、何となく陽菜ちゃんがそう言い出す気がしていた。


「今夜は寒いよ。明日のお昼にしたらどう?」


 僕は必死に平静を装ってそう言った。


「今晩、妖精の森との通路が開くの。帰らなきゃ」


 もう、止めても無駄なんだ。僕はそう思った。


「故郷に帰れるんだね。良かったね、陽菜ちゃん」


 精一杯の笑顔で僕はそう言った。うまく笑えているだろうか。


「いままでいろいろとありがとう。凪太郎と一緒に過ごせて楽しかったよ」


 陽菜ちゃんが笑顔でそう言った。


「僕こそ楽しかったよ。ありがとう陽菜ちゃん」


 僕はアパートの窓を開けた。


 冬の夜の冷たい風が入ってきた。


 陽菜ちゃんは、翅をひろげ、静かに飛んで僕の目の前で止まった。


「ありがとう、凪太郎。もし、わたしが人間に生まれ変わって凪太郎にもう一度会えたなら、もう一回一緒に暮らそう。だから泣かないで」


 そう言って陽菜ちゃんは僕の唇にキスをしてくれた。


 僕はその時初めて自分が泣いていることに気づいた。


 陽菜ちゃんは僕から離れると、にっこりと笑って冬の夜の空に飛んで行ってしまった。


 ああ、こんな寒い夜に、大丈夫だろうか。


 窓を閉めると永遠に陽菜ちゃんとのつながりが絶たれてしまうような気がして、陽菜ちゃんと同じ寒さを感じていたくて、その夜は窓を閉めることが出来なかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ