4.焼酎好きな妖精
その日以来、僕は陽菜ちゃんを胸ポケットに入れて仕事に行くようになった。
今までの味気ない日常が一変した。
つまらなかった仕事に行くのが楽しくなった。
最近は他から見えないデスクの上のスペースで、陽菜ちゃんはくつろいでいる。
ときどきお菓子をあげると美味しそうに食べている姿が可愛い。
たまに勝手にキーボードを押してイタズラをするのには困ったけど。
「凪太郎、酒屋に連れて行け~!」
仕事帰りに陽菜ちゃんからそう言われた。
酒屋に入ると陽菜ちゃんが指をさした。
「凪太郎、あの焼酎買ってくれ~! 『悪魔界への誘い』買ってくれ~!」
よく見ると、この『悪魔界への誘い』という焼酎は、陽菜ちゃんを捕まえたトラップ作成に使用したものと同じだった。
陽菜ちゃんははちみつの臭いではなく、焼酎の臭いに誘われてトラップに嵌ったのだと思った。
「今日の~仕事は~大変だった~♪ あとは~焼酎~飲めるだけ~♪」
家に帰ると、陽菜ちゃんはお椀のお湯につかりながら焼酎を吞んで、機嫌良く歌っていた。
コップは職場に置いてあった、シャープペンシルの後ろについていた消しゴムの蓋だった。
「陽菜ちゃんは天使じゃないの?」
僕は最近始めた裁縫、陽菜ちゃんの服を作成しながら聞いてみた。
「天使~? 凪太郎は天使と妖精の区別もつかんのか! おっと焼酎お代わり」
僕は『悪魔界への誘い』をスポイドで吸って、陽菜ちゃんのコップに入れてやる。
「おっとっとっと。なみなみ注ぐね、凪太郎。良い心がけだぞ!」
陽菜ちゃんは美味しそうに焼酎を飲む。
僕はほとんどお酒を飲まないからわからないけど、焼酎ってそんなに美味しいのだろうか。
「天使はもっと大きいだろ。妖精はわたしのように小さくて可憐で儚いのだ。見りゃわかるだろう」
酔っぱらってお椀のお風呂から出てきた陽菜ちゃんは、既に千鳥足だ。
体も拭かずに机の上を歩き回っている。
「ああ、ちゃんと体拭いてよ。机の上がびしょびしょになっちゃうよ!」
僕は裁縫の手を止めて、タオルで陽菜ちゃんの体を拭いてやる。
最初は「うるせー! 変態! さわるな~!」とか悪態をついていたが、体を拭いてやると気持ち良いのか、陽菜ちゃんはうつらうつら眠りそうになっていた。
僕の作った下着とパジャマを着せてあげて、おもちゃのベッドの布団に入れてあげると、すぐに寝てしまった。
寝顔があどけなく、かわいい。
僕は裁縫をしながら、ときどき陽菜ちゃんの顔を眺める。
僕はこの時間が好きだ。
いままでは会社とアパートを往復し、家に帰ってもテレビやスマホを見るともなしに見て寝るだけの毎日だった。特にしたいこともなく、仕事だって、生活するのにお金が必要だからしているだけ。
それが、家に陽菜ちゃんが来てからは一変した。
毎日が楽しく、自分が生きているって感じがする。
明日も楽しいのだろうなあって思える。
ずっと陽菜ちゃんと一緒にいたい。
僕は心からそう思っていた。




