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毎日胸ポケットに女の子を入れて出勤しています  作者: 渓夏 酔月


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1.クワガタ採り

 パソコンの画面を見る僕のワイシャツの胸ポケットの中で、もぞもぞと動く感じがする。


 そっとスーツの襟から顔を出した小さな女の子が、僕を見て笑う。また退屈してしまったのだろう。彼女は退屈すると顔を出して僕をひやひやさせる。


 デスクの周りを窺うが、幸い僕の職場の机は個別のパーテーションに囲まれており、彼女の存在に気づくものはいない。


(もう少しでお昼ご飯だから、おとなしくしていて)


 僕がそっと言うと、彼女はほっぺたをふくらませてポケットの中に引っこんだ。


 あとでまた彼女から怒られるのだろう。


 彼女のいる左胸のあたりが温かく、嬉しい。自分の心臓と彼女が一体化しているかのように感じる。


 僕の名前は富浦凪太郎とみうらなぎたろう、四十二歳。厄年の独身サラリーマンだ。


 四十二年間彼女が出来たことはなく、これと言った趣味もない。


 日々、会社とアパートの往復をし、休日はスマホゲームやテレビを見て過ごしている。


 そんなある日、コンビニで買って来たジャンボカツ弁当を食べながら何気なくテレビを見ていると、子供向けの番組でクワガタ採集のやり方が紹介されていた。


 その番組では、意外と町中の公園でも採集できること。はちみつとバナナと焼酎を混ぜたトラップを使えば、誰でも簡単に採集できることが紹介されていた。


 その番組を見て、幼い頃、母親の実家でノコギリクワガタを採った楽しい思い出がよみがえってきた。


 僕は早速はちみつとバナナと焼酎を買ってきて、その日のうちに裏の公園の木の根元にトラップをたっぷりとふりかけた。本来発酵させた方が良いようだが、これでもなんとかなるだろう。


 翌日、深夜二時に公園に様子を見に行くと、トラップに身長十センチメートル程の翅の生えた女の子がくっついていた。トラップのべとべとの液体に絡めとられて逃げられないらしい。三匹のノコギリクワガタのオスが、女の子に襲い掛かっていたので、放り投げておいた。


僕はその小さな女の子をつかむと、虫かごに入れて持ち帰った。


 アパートに帰って、虫かごから女の子を取り出し、石けんで洗った。その際に、トラップでべとべとになった翅はとれてしまった。


 女の子の体は小さかったものの、出るところは出ていて、成人の女性のようだった。


 洗ってみると、透き通るような白い肌に、美しい金髪をしていた。


 目はずっと閉じたままで、ほとんど動かず、僕の洗うがままにされていた。


 飼い方がよく分からなかったので、100円ショップで買った腐葉土を入れた昆虫飼育ケースに女の子を入れておいた。一応、これまた100円ショップで買った昆虫ゼリーも一緒に入れておいた。翅が生えていたくらいだから、きっと昆虫と同じものを食べるのだろう。


 翌日、仕事から帰ってケースの中を見てみると、女の子は隅の方で膝を組んでうつむいて座っていた。昆虫ゼリーに食べた跡はなかった。女の子は指でつついてもあまり動かない。元気がないようだ。


 ネットで調べると、昆虫飼育では葉っぱや木を一緒に入れてやると良いと書いてあった。


 翌日、仕事帰りに買って来た、木の枝と葉っぱをケースの中に入れてあげた。相変わらず女の子は隅っこで膝を組んで座っている。この環境が気に入らないのだろうか。霧吹きで少し水分を足した方が良いのだろうか。


よく見てみると、昆虫ゼリーには少し齧った跡があった。僕は嬉しくなって、もう一個昆虫ゼリーをケースに入れて言った。


「たくさんお食べ」


 その時だった。


「わたしは昆虫か~!」


 女の子が立ち上がり、目に涙を浮かべながら、僕に怒鳴っていた。


「そんなもの食えるか~! さっさとここから出せ~!」




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