芸能界へ 2
俺は神野さんをリビングへ案内する。
「本日はどのような要件でウチに来たのですか?」
「はい!まずは『読者モデル』の代役を引き受けていただき、ありがとうございます!日向さんのおかげで発売初日で増刷が決定致しました!」
パチパチと手を叩く神野さん。
「はぁ、おめでとうございます」
「あれ、思いの外、喜んでませんね」
「そうですね。俺のおかげとは言ってますが『俺のおかげで無事出版出来ました』っという意味だと思いますので喜びは薄いですね。実際、俺が売上に貢献したとは思ってませんので」
「相変わらず容姿に自信がないですねぇ」
少し顔を曇らせながら神野さんが呟く。
しかし、そんな顔も一瞬のことで、すぐに真面目な顔となる。
「本日は日向さんにご相談があるため、お邪魔させていただきました」
そこで一拍置き、神野さんが口を開く。
「単刀直入に言います。日向さん、我が社で芸能界デビューしてみませんか!?」
「……はい?」
「我が社で芸能界デビューしてみませんか!?」
「いえ、しっかりと聞こえてますので繰り返さなくて大丈夫です」
神野さんの発言内容を理解できなかっただけだ。
(えーっと、つまり神野さんは『本格的に芸能界で活動しないか』という相談を持ちかけたのか。うん、無理ですね!)
「申し訳ありませんが断らせていただき……」
「ちょっと待って!お兄ちゃん!」
俺が断ろうとすると、桜が勢いよくリビングに入ってくる。
「話は盗み聞きさせてもらったよ!」
「盗み聞きしてたんかよ。変な話してないから堂々と聞けよ」
ボソっとツッコミを入れるが俺の言葉を無視して話し出す。
「お兄ちゃんは絶対、芸能界で活動したほうがいいよ!」
「いやいや!俺なんかしても絶対活躍できない……」
「あ、もしもし穂乃果さん?今すぐウチに来てもらえますか?今、お兄ちゃんに芸能事務所の方がスカウトに来てます。これを上手く利用すれば、例の『お兄ちゃんの髪を勝手に切っちゃおう大作戦』を決行しなくて済むかも知れません」
「なんか物騒な作戦名が聞こえてきたぞ!?」
「お兄ちゃん、うるさいよ」
「今のは問い詰めてもいいと思うんだけど!」
と言って桜に問い詰めようとするが、穂乃果との会話が盛り上がっているようで問い詰めることができない。
しばらく近くで2人の会話に耳を傾けていると…
「桜、今の話はホント?」
耳にスマホを当てた状態で穂乃果がリビングにやって来た。
(家が隣だからって速すぎだろ!)
「はい!こちらの女性がお兄ちゃんを芸能界に誘ってるらしいです!」
桜は穂乃果に神野さんを紹介する。
「神野麗華と申します。先日、日向さんにはこちらの事情により急遽『読者モデル』の撮影に協力していただきました。しかし、このまま『読者モデル』だけで終わらせてしまうのは惜しいため、日向さんを芸能界へお誘いに来ました」
「なるほど」
事実確認が終了したのか、穂乃果が俺の方を向く。
「シロ、何してるの。はやく頷いて」
「だから何でそうなる!」
穂乃果まで神野さんの味方となる。
「だって私、シロが撮影した『読モ』買えなかったから。桜と登校中に買おうと思ったら売り切れてて。かなりショックだった」
「あの『読モ』買ってどうするんだよ」
「ん。もちろん四六時中シロを眺める」
「マジで時間の無駄だから!」
そう思うが穂乃果ならやりかねない。
「あ、穂乃果さん!後でお兄ちゃんの写真見ますか!?」
「桜、持ってるの?」
「はい!さっきお兄ちゃん宛に『読モ』が届いてました!お兄ちゃんは要らないみたいなので2人の共用財産にしましょう!」
「桜、天使すぎる。さっそく見せてほしい」
「あ、それなら!」
と、2人の会話に神野さんが割り込む。
「私が1冊お譲りしますよ」
「いいのですか?」
「はい!その代わりにはなりますが、日向さんに芸能界デビューの件を促していただいてもよろしいでしょうか?」
「ん、任せてください」
穂乃果が神野さんにそう言って俺の下に来る。
「ねぇ、なんでシロは芸能界デビューするのがイヤなの?」
「そんなのイケメンでもない俺がデビューしても売れないからだ」
この一言に尽きる。
俺は自分の容姿に自信がないので活躍は無理だと思ってる。
しかし何故か穂乃果がため息をつく。
「はぁ、絶対言うと思った。なら私たちのお願いを聞いてほしい」
「お願い?」
「ん。私はシロが芸能界で活躍してるところが見てみたい。それだけじゃダメ?」
「うっ!そ、それは……」
「私も穂乃果さんと同じで、お兄ちゃんが活躍してるところが見てみたいよ」
「もし容姿とかでシロが非難されても私と桜は絶対味方でいる。それでもダメ?」
2人から上目遣いでお願いされる。
(こんな容姿の俺が活躍できる未来は見えないが……まぁ、やるだけやってみるか。2人にここまで言われて応えないのは男としてカッコ悪いからな)
「わかった。こんな俺が活躍できるとは思えないが2人が味方になってくれるんだ。少しだけやってみるよ」
「さすがお兄ちゃん!」
「ん、それでこそ私の幼馴染」
俺の返答に2人が笑顔で答えてくれた。




