クリスマスデート side香織2
涼宮さんと談笑しながら列に並んで呼ばれるのを待つ。
「次のお客様〜」
しばらく待つと従業員から声がかかり、俺たちはお化け屋敷の中に入る。
「うわぁ、真っ暗だね」
「あぁ。本格的だな」
「じゃ、じゃあシロくん。行こうか」
涼宮さんの言葉に頷き、俺たちは並んで進む。
しばらく薄暗い道を歩くと、「ポタっ。ポタっ」といった水が地面に落ちる音が聞こえてきた。
「な、なんか水の音が聞こえるんだけど、雨漏りでもしてるのかな?」
「確かに雨漏りの音は聞こえるが、外は雨なんか降ってないぞ?」
「だ、だよね?じゃ、じゃあ――ひゃぃ!」
突然、涼宮さんが変な声を出す。
「ど、どうした!?」
「く、首元に水が当たったような――」
「ん?上に何かあるのか?」
俺たちは同時に上を見る。
すると、そこには怖い顔のお面をした人形が吊るされていた。
「きゃぁぁっ!!」
涼宮さんが悲鳴を上げながら俺に抱きつく。
「も、もももしかして、私がさっき感じた水滴って血なのかも」
「だ、大丈夫だ!落ち着け!よく見たら人形だ!」
死んだ人間が吊るされているように見えなくはないため、涼宮さんに人形であることを伝える。
「そ、そうだよね。さすがに本物の人間が吊るされてるわけないよね」
「あぁ、だから安心して進もう」
「う、うん」
少し落ち着きを取り戻した涼宮さんと再び歩き始めるが、何故か俺の腕に抱きついたまま離れようとしない。
「な、なぁ、涼宮さん?」
「な、何かな?」
「なんでまだ俺に抱きついてるんだ?」
「えっ!だ、だってその――こ、怖いから」
涼宮さんが目を潤ませながら言う。
「だ、だからね。も、もうちょっとだけ抱きついたままでもいいかな?」
そして上目遣いでお願いされる。
「っ!」
その破壊力に俺の心臓が“ドキっ!”と跳ねる。
「わ、わかった。お化け屋敷を出るまでだぞ?」
「う、うん!あ、ありがと!シロくん!」
そう言って、さらに抱きつきを強くする。
「ふふっ、シロくんに抱きついてると安心するよ」
そして可愛い笑顔を見せる。
(可愛いっ!アイドルだから男を虜にする術を完璧に熟知してるぞ!しかも涼宮さんの胸が当たってるし!)
可愛い表情や涼宮さんの感触にクラクラしそうになる。
(お、落ち着け俺!涼宮さんは怖いから俺に仕方なく抱きついているだけだ!だから抱きついている腕に全感覚を集中して堪能を――じゃなくて!)
「ど、どうしたの!?シロくん!?」
「い、いや。なんでもないよ」
(危ねぇ。気を引き締めないと)
そんなことを思いながら、ゆっくりと前に進む。
すると今度は病院の病室のような部屋にたどり着いた。
「病院の病室かな?ベットが何個も並んであるし」
俺たちの目の前には病院のベットが何個か並べられており、先を進むにはベットとベットの間を通らなければならない。
「先に進むには、この間を通るしかなさそうだ」
「これ、絶対なにか起こるよ。ベッドの下から何か出てきたりとか」
「俺もそう思うが、通るしかないだろ」
「だ、だよね」
俺たちは覚悟を決め、ベッドとベッドの間を歩く。
すると、天井から…
「呪ってやる――呪ってやるぞぉぉぉ!!!」
一体の人形が俺たちの前に姿を現した。
「きゃぁぁっ!」
それを見た涼宮さんが、悲鳴を上げながら俺への抱きつきを強める。
「だ、大丈夫だ!これも人形だから!」
未だに目をつぶって震えている涼宮さんに声をかける。
「ほ、ほんと?」
涼宮さんが涙目になりながら上目遣いで聞いてくる。
「あ、あぁ。だから怖がらなくていいよ」
俺が声をかけると、涼宮さんが人形を見る。
そして人形だということを確認して、その場に座り込む。
「お、おい!大丈夫か!?」
「う、うん。ちょっと驚きすぎて腰を抜かしただけだよ」
そう言いながら立とうとするが、なかなか立ち上がれない。
「ご、ごめん、うまく立てなくて」
涼宮さんを見ると未だに震えているのがわかる。
そんな涼宮さんを見て、俺は涼宮さんをおんぶできるように座る。
「ど、どうしたの!?シロくん!?」
「そ、その。涼宮さんが立てそうになかったから、少しでも恐怖を取り除けるよう、おんぶしようかと思っただけだ。け、決してやましい気持ちがあるわけじゃないからな!?ここでずっと座ってるわけにもいかないからってだけで――」
等々、俺が涼宮さんをおんぶする理由を必死に述べていると…
「ふふっ。ありがと、シロくん」
涼宮さんが可愛い笑顔を見せてくれる。
「じゃあ遠慮なく――えいっ!」
そして涼宮さんが俺の背中に勢いよく乗る。
「シロくんのおかげで怖くなくなったよ!ありがとね!シロくん!」
「あ、あぁ。気にするな」
涼宮さんをおんぶすることが恥ずかしいため、顔を赤くしながら言う。
「やっぱりシロくんは優しいね!」
「やめてくれ」
そして照れ臭そうにそう答えた。
あれから涼宮さんをおんぶしたまま歩き続ける。
(お、おい!お、おんぶってヤバいぞ!涼宮さんの大きなものが背中に当たって、正直お化け屋敷どころじゃない!)
俺はお化けではなく自分自身と戦っていた。
「ご、ごめんね?やっぱり重いよね?」
俺の動揺が伝わったのか、涼宮さんが不安そうに聞いてくる。
「い、いや。大丈夫だ。むしろ軽いくらいだよ」
「そ、そう?それならよかったけど」
そんな会話をしていると、日の光が遠くに見えた。
「ふぅ、なんとか抜け出せたな」
「うん。その、おんぶしてくれてありがとね」
「これくらい大したことないよ」
俺は出口前で涼宮さんを降ろす。
「とても面白かったな」
「うん!また来ようね!」
「えっ、また?」
「うんっ!約束ね!」
そう言って可愛い笑顔を見せる。
(くそぅ、可愛いな。そんな顔されたら断れないじゃないか)
そんなことを思いつつ、涼宮さんとお化け屋敷を出た。
その後、時間になるまで涼宮さんと遊園地を満喫する。
そして12時前となる。
「あっという間に時間が経っちゃったね」
残念そうな顔で涼宮さんが言う。
「このまま延長したいけど延長したら元日にシロくんと会えないから我慢だね」
「ん?」
(俺、涼宮さんと元日に会う約束したっけ?)
俺は自身の記憶を遡るが全く思い出せない。
そう思い涼宮さんに問いかけようとすると、先に涼宮さんが口を開いた。
「ねぇ!やっぱり3時間って短いよね!?シロくんもそう思わない!?」
「あ、あぁ。そうだな。3時間だと乗れるアトラクションも限られてくるからな。遊園地を満喫するには3時間じゃ物足りないな」
俺の返答に涼宮さんがパーっと笑顔を見せる。
「ホント!?『3時間じゃ短い。もっと涼宮さんと遊びたかった』と言ってもらえて嬉しいよ!次は朝から晩までデートしようね!」
「あれ!?『3時間じゃ短い』って遊園地の話じゃないの!?」
「ふふっ。次はどこに行こうかなー!楽しみにしててね!シロくんっ!」
俺の問いかけに、涼宮さんが答えてくれることはなかった。




