シロ様の宣伝効果
桜が部屋から飛び出すのを見送る。
すると神野さんが俺に話しかけてきた。
「日向さん。SNSを始めた日以来、SNSで一度も呟いてませんよね?」
「そうですね。何を呟けば良いのか分からないので」
神野さんの言う通り開設したものの何も呟いておらず、SNSのアプリを開いてもいない。
「そんなことは気にしなくて良いんですよ!炎上するような内容を呟かなければ!」
「そ、そうは言われても――」
「ホント、なんでも良いので呟いてください。『天気がいいですね!』でもいいんです。最近、日向さんがSNSを更新しないことに対して、事務所に催促のクレームが来てて困ってるんですよ」
「なぜに!?」
(俺の呟きなんか誰も興味ないだろ!)
「ちなみに昨日は1000件以上の催促をいただきました。そんな電話に付き合えるほど我が事務所は暇ではないので、何か呟いてください。ホント、お願いします」
「………なんかすみません」
盛大に迷惑をかけているようで申し訳なく思う。
そのため、これ以上、神野さんたちに負担をかけるわけにはいかないので何か呟くことにした。
しかし、呟きたい内容が思いつかず手が止まる。
「何を呟けばいいんですか?」
「そうですね。なら日向さんの最近のブームを呟くのはどうでしょうか?」
「最近ですか。それなら『生徒会長は告らせたい』という漫画にハマってるんですよ。まだ3巻しか出てませんが、これが面白くて5回は読み直しました」
「ならそのことを呟きましょう。もう炎上しそうな呟きじゃなかったら大丈夫ですので」
神野さんから『何でもいいから早く呟いて』という感じが伝わってくる。
(どんだけ催促の電話が入ってきたんだよ)
そんなことを思いつつ、久しぶりにSNSを開く。
すると驚きの数字が目に入った。
「フォロワー50万人!?なにこれ!?」
(えっ!SNS作ってから1週間経ってないよ!?)
「あ、知らなかったんですか?ものすごいスピードで増え続けてますよ!このままの勢いだと100万人を突破するのも時間の問題ですね!おめでとう御座います!」
「いや嬉しくないけど!」
一言も呟いてないのに何故か増えてるフォロワー数。
(なぜフォロワーが増えているのかは置いておこう。目下の問題は呟くことだ)
俺は増え続けるフォロワーから目を背け、神野さんと投稿内容を決める。
『お久しぶりです。俺は最近、集○社出版の『生徒会長は告らせたい』という漫画にハマってます。まだ3巻と巻数は少ないですが、とても面白いラブコメ漫画ですので、お時間ある方は是非読んでみてください』
と、SNSに投稿する。
「ありがとうございます、日向さん。これで明日からは平穏な一日が迎えられそうです」
「ほんと、なんかすみませんでした」
もう一度、神野さんに謝る。
その後は写真撮影の日取り等を話し合い、神野さんが車を走らせる。
その様子を見送った俺は家に入り、自室へ向かった。
〜蒼井アオ視点〜
俺、蒼井アオは○英社出版の週刊雑誌で『生徒会長は告らせたい』という漫画を描いているが、人気がある漫画ではないため「次回の会議で打ち切りになるかも」と担当編集から言われていた。
「この漫画の連載が終了したら漫画家を辞めて安定した職に就かないとな」
俺は妻と子供2人の4人で暮らしている。
俺が安定しない漫画家として働いていても妻は文句を一つも言わず俺以上に稼いでいるが、子供2人をこれからも養うためには妻だけの収入に頼るわけにはいかない。
「俺には漫画家としての才能がないってことを理解するいい機会だな」
そんなことを思いながら、なんとなくSNSを開く。
すると…
「な、なんだこりゃ!『生徒会長は告らせたい』がトレンド1位になってる!」
俺は驚きつつ、慌てて原因を探る。
すると、どうやら人気絶頂中のシロ様がSNSで俺の漫画をオススメしてくれたらしい。
原因を理解した俺は、自分が投稿した漫画の宣伝投稿に沢山のコメントが来ていることに気がつく。
そこには…
『最新刊の3巻面白かったです!これからも頑張ってください!』
『電子版で1巻を購入して読んでみると面白すぎて、気づいたら3巻まで買ってました!』
『電子版3巻読破!明日、単行本を買いに行きます!』
等々、ありがたいコメントがたくさん届いていた。
そのコメントを一つ一つ読んでいるうちに、自然と涙が溢れてくる。
「俺の漫画を読んで感想を言ってくれる。幸せだなぁ」
俺は応援してくれた人たちに応えるべく筆を取る。
「よし!たとえ打ち切りになったとしても、コメントをくれた人たちが楽しんでくれるような続きを描くぞ!」
俺は未だに止まらない涙を拭きながら、漫画を描き始めた。
シロ様がSNSで俺の漫画を宣伝した翌日。
担当編集から電話がかかってきた。
『蒼井さん!嬉しい報告です!なんと全国の書店で『生徒会長は告らせたい』が売り切れ続出となり、全巻重版が決定しました!それに伴って打ち切りの話もなくなりました!これからも面白い話をよろしくお願いします!』
担当編集が言った言葉を理解するのに、かなりの時間を要する。
「お、俺の漫画が重版。そして打ち切りなし」
俺はその場で崩れ落ちる。
そんな俺を妻が優しく抱きしめてくれた。
「良かったじゃない、あなた。今までの努力が報われて。これからも面白い漫画を描き続けないとね」
俺はその言葉に対して力強く頷く。
「あぁ!応援してくれる読者のために!そして打ち切りから救ってくれたシロ様のために描くぞ!」
そう気合いを入れて筆を取った。




