歌の練習 2
“パシャっ!”というシャッター音が聞こえたため振り返ると、涼宮さんと同じグループに所属する夏目梨奈がいた。
「シロ様と肩をくっつけてイチャイチャしちゃって。これはシロ様との熱愛報道が発表されるのも時間の問題かな?」
写真を見せつつ、ニヤニヤしながら俺たちの下にやってくる。
「ちょ!梨奈!今すぐ消して!」
写真を見た涼宮さんが顔を赤くしながら夏目さんに詰め寄る。
「えー、ホントに消していいの?シロ様とのイチャイチャ写真だよ?」
「うっ!や、やっぱり後で送ってください」
「んー?ボソボソと言われても聞こえないなー?」
「この距離なんだから絶対聞こえてるでしょ!?」
俺には聞こえなかったが、夏目さんには聞こえる声で何かを言ったようだ。
夏目さんは聞こえないフリをしたようだが。
その様子を遠くから見ていると、夏目さんが俺の下へやってくる。
「君がシロ様なんだね」
「あぁ。様付けされるような人間ではないがな」
俺が肯定すると、夏目さんが俺の顔をジッと見つめる。
おそらく髪を目元まで伸ばしているため、俺が本物かを見極めているのだろう。
しばらく俺の顔を眺めた後、俺の耳元まで近づいて…
「香織ってば、口を開けばシロ様のことしか話さないんだよ。しかも今日、シロ様と会う時間を作るために――」
「わー!ちょっと!なに話してるの!?あと近いよ!」
涼宮さんが俺と夏目さんを引き離す。
「ウチはただ香織が今日、シロ様と会うために仕事を――」
「だからそんなこと言わなくていいんだって!」
手玉に取られている涼宮さん。
「そっ、そもそも今日は私とシロくんが使うからここには来ないでってお願いしたよね!?」
「そんなお願いされると逆に来たくなるよー」
「梨奈には逆効果だった!」
(お願いをガン無視して来たのかよ)
「まぁまぁ。ウチは香織とシロ様のイチャイチャを邪魔しに来たわけじゃないよ」
「じゃあ何しに来たのよ」
「イチャイチャを見学しに来ただけだよ」
「今すぐ帰って!」
ただの野次馬でした。
「いやー。ホントはこっそりと覗く予定だったんだけど、香織が連れてきた男がシロ様なのか遠くからじゃわからなくて。確認するために出てきただけだよ」
「えっ!覗いてたの!?」
「そうだよー!あ、確認も取れたから今からは傍観者に徹するね!なのでウチのことは気にせず思う存分イチャイチャしてね!」
「だから帰ってよ!」
涼宮さんが若干、涙目になりながら訴えるも、夏目さんには届かないようで覗く気満々だ。
「あ、そうだ!」
すると何を思ったのか夏目さんが涼宮さんに近づく。
そして耳元で何かを囁く。
「ホントはシロ様とのデートに緊張してるかと思って手助けする予定だったけど心配なさそうだね。頑張ってね!」
「う、うん!心配してくれてありがと!」
涼宮さんが笑顔で答える。
「よしっ!じゃあウチは隅っこの方で見学してるから、2人は思いっきりイチャイチャしていいよ!」
「えっ!帰らないの!?」
「ふふっ。冗談だよ!ウチ、この後レッスンがあるから!じゃ、後は2人きりで頑張ってね!」
そう言って夏目さんが部屋から出ていく。
「な、なかなか癖のある女の子だな」
「うん。でも私の大切なメンバーなんだ」
そう言って涼宮さんが笑う。
「じゃあ気を取り直して早速シロくんの歌唱力を確認します!」
「歌が下手だから幻滅するとは思うが、よろしく頼む」
「任せて!じゃあ音楽を流すよ!」
涼宮さんは俺が準備できていることを確認して、『スノーエンジェル』のデビュー曲を流す。
「〜〜〜〜♪」
その曲を俺はいつものように全力で歌う。
そして歌い終わり、涼宮さんの方を見る。
「ど、どうだった?」
俺は恐る恐る感想を聞く。
「…………」
しかし“ポカーン”としてて返答がない。
「おーい、涼宮さーん」
「はっ!」
俺の声掛けにようやく反応する。
「ど、どうだっ――」
「ちょっとシロくん!」
「は、はい!」
ものすごい剣幕で涼宮さんが俺に詰め寄る。
「なんなの!あの歌声は!?」
「ご、ごめん。やっぱり酷かったよな」
「違うよ!上手すぎだよシロくん!私、シロくんより歌が上手い人、見たことないよ!」
「お、おう。あ、ありがとう」
(俺の歌を聞いて意識が遠のくくらいなのに褒めてくれるとは。やっぱり優しいなぁ)
涼宮さんのお世辞をありがたく受け取る。
「で。俺に何かアドバイスはないのか?遠慮せずビシバシと言ってくれ」
「いやいや!私からアドバイスすることなんて何もないよ!」
「え、遠慮することはないぞ?家族とカラオケに行った時も涼宮さんのように誰1人コメントしてくれないからな。きっとコメントできないくらい低レベルの歌唱力を――」
「違うよ!コメントできないくらい、すごい歌唱力なんだよ!」
「そ、そこまで褒めなくてもいいぞ?俺の歌が酷いことは自分が一番理解してるからな」
「一番理解してないのはシロくんだよ!」
「………え?ホントに俺って歌が下手じゃないの?」
「うん。私にアドバイスしてほしいくらい上手いよ」
どうやらアドバイスの必要がないくらい上手いらしい。
「じゃ、じゃあ。今のような感じで歌ったら、全国放送されても笑われたりしないのか?」
「むしろファンが増えるんじゃないかな?」
「おう……」
俺にこんな特技があったとは。
(全国放送されても恥をかかないということがわかったのは大きい。ファンが増えるのは涼宮さんが過剰に言ってるだけだろうが)
そんなことを思った。




