シロの正体
撮影が始まる。
今回は俺の妹役であるヒナちゃんとの撮影をメインで行う。
何度か撮り直しをすることはあったが順調に撮影が進む。
しばらく撮影を行っていると、とあるシーンの撮影中にアクシデントが発生した。
「ご、ごめんなさい。お兄ちゃん」
「大丈夫だよ。擦り傷だから。これくらいならすぐ治るはず」
「うぅ、ごめんなさい」
ヒナちゃんとの撮影中、ヒナちゃんのミスにより俺は右手の甲を擦りむいてしまうアクシデントが起こった。
その様子を見ていたミクさんとお母さんが俺たちの下へ駆けつける。
「すみません、シロさん。傷は大丈夫ですか?」
「はい。これくらいはなんともありません」
俺は怪我をした右手を動かし問題ないことをアピールする。
思った以上に傷が深いので血は出ているが我慢できるほどの痛みなので、これからの演技には支障ないだろう。
「そうですか、よかったです」
その様子を見てホッと胸を撫で下ろすお母さん。
「これを使ってください」
そしてミクさんから熊のような動物がプリントされた絆創膏を渡される。
「ありがとう、ミクさん」
「いえいえ。今後もヒナが迷惑をかけるとは思いますが、よろしくお願いします」
そう言ってミクさんとお母さんが俺たちの元から離れる。
その後、絆創膏を貼って撮影を再開し、残りの撮影は問題なく終わった。
問題なく撮影が終わり、スタッフや監督に挨拶を済ませて控え室に戻る。
(今日も母さんとの練習のおかげで無事撮影が終わったな。ありがとう、母さん)
心の中で母さんに感謝しつつ着替え終えた俺は、神野さんと穂乃果が待つ駐車場へと向かう。
「真白お兄ちゃーん!」
すると後ろから俺を呼ぶヒナちゃんの声が聞こえてきた。
「ヒナちゃん、収録お疲れ様」
「うん!あ、真白お兄ちゃん。シロお兄ちゃんの居場所わかる?」
ヒナちゃんたちにはシロのマネージャー見習いとして働いていると伝えていたため、俺に声をかけたようだ。
「シロさんなら先に車の方に行ったよ」
「うぅ、やっぱりなの。ヒナ、お兄ちゃんに怪我をさせてしまったことを謝ろうと思ったんだけど、控え室にいなくて」
「そのことなら気にすることはないと思うよ。シロさん、全く気にしてなかったし」
「いえ、そういうわけにもいきませんから」
「あぁ。アタシも、もう一度謝りたかったんだ」
とは伝えるも、ヒナちゃんたちは納得しない。
「真白くん。申し訳ないけど、これをシロさんに渡してもらえるか?」
そう言ってミクさんが俺の前に缶ジュースを出す。
「さっき買ってきたんだ。真白くんならこの後、シロさんに会うだろ?」
「あぁ。シロさんが待つ車に向かってる途中だったからな」
「ならシロさんに渡してて。ヒナが迷惑かけたから」
「わかった」
俺は返事をしてから右手でミクさんが持ってる缶ジュースを受け取る。
その時、ミクさんが俺の右手を見る。
「ん?真白くんも右手の甲を怪我したのか?」
「っ!」
その一言に俺の心臓が“ドキっ!”と跳ねる。
(ヤ、ヤバいっ!怪我から俺がシロだってバレる――わけないよな。たまたま同じ箇所を怪我しただけだ。冷静に対応しよう)
「あ、あぁ。さっき控え室で怪我をしてな」
「そうか、気をつけ――ん?ちょっと待って」
突然、ミクさんが俺の右手を握る。
「これ。私があげた絆創膏だな」
「っ!」
(やべぇ!絆創膏の存在、頭から抜けてた!)
「この絆創膏って、この辺りじゃ手に入らない限定品なんだ。同じ場所を怪我してるし、もしかして真白くんって――シロさん?」
(ぎゃぁぁっっ!マズイ!気付かれたっ!ど、どうすればいいんだ!?)
核心をつく問いかけに心の中で叫ぶ。
(な、何とか誤魔化そう!今なら間に合う!)
「えーっと。じ、実は俺も持ってたんだよ。この絆創膏。可愛い熊がプリントされてたから買ったんだ」
「そうなんだ。ちなみにプリントされてる動物は熊じゃないけどな」
(えっ!熊じゃないの!?)
自ら余計なことを言って墓穴を掘る。
「真白くんはどこで買ったんだ?」
「え、えーっと。熊本?」
「だから熊じゃないって。クマ⚪︎ンとは似てないだろ?」
(俺にはクマ⚪︎ンの親戚にしか見えないんだが)
確かにクマ⚪︎ンとは違うが激似すぎるので、逆にイラストされてる動物が何なのか興味が湧く。
「やっぱり真白くんはシロさんだったんだな」
「真白お兄ちゃんはシロお兄ちゃんなの?」
「真白さんってシロさんなのですか?」
ヒナちゃんたちが聞いてくる。
(くっ!誤魔化す方法が思いつかねぇ!シロからもらったって言うか?いや、もらった絆創膏をシロが右手の甲に貼ったのはヒナちゃんたちが確認してる!)
色々と考えを巡らせるが、この状況から誤魔化すのは無理だと判断する。
そのため、3人へ真実を口にする。
「皆んなには黙っててごめんなさい。実は俺がシロの正体です」
俺は頭を下げて素直に打ち明ける。
「やっぱりそうだったんだ」
「ヒナとお姉ちゃんが思ったことは間違ってなかったの!」
「シロさんの正体は真白さんだったのですね。これを旦那に伝えたら面白いことになりそうです」
俺のカミングアウトに3人とも驚く様子は見られない。
「あれ?驚いたり幻滅したりしないの?こんな冴えない男がシロの正体だったんだよ?」
「最初にシロさんと会った時に疑ってたからな。アタシはそこまで驚かないぞ」
「ヒナはシロお兄ちゃんの正体が真白お兄ちゃんで嬉しいの!」
「驚きはしましたが幻滅はしませんよ」
「そ、そうですか」
幻滅されるだろうと思っていたため、3人の返答に嬉しく思う。
すると、お母さんが俺の耳元へ近づく。
「真白さんはミクとヒナ、どちらと結婚したいですか?胸が大きいミクですか?それとも天真爛漫で将来は美少女になるであろうヒナですか?」
「えっ!な、何を言ってるんですか!?」
「ふふっ、慌てなくてもいいですよ。旦那にシロさんの正体を話せば真白さんが娘と結婚することは容易いですから。もし、どちらかと結婚したいのであれば相談してくださいね」
そう言って俺にウインクをする。
「お母さん、何話してるのー!?」
「少しだけ真白さんと将来の話をしただけですよ。では真白さん、前向きに考えてくださいね」
俺にそう言って耳元から離れる。
「じゃあ真白お兄ちゃん!また今度ね!あと怪我をさせてごめんなさい!」
「今度、機会があればアタシとも一緒に仕事しような」
各々、俺に一言告げてから別れる。
(一応、シロの正体については問題なさそうだが……え?お母さん。あの言葉、本気で言ったの?俺の返答次第でミクさんたちの将来が決まっちゃうんだよ?)
本気なのか冗談なのか分からず、首を傾げる俺だった。




