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星野姉妹からのお礼、そして真白の過去

 控え室に到着する。


「じゃあ、私たちは先に車に行ってるね」

「あぁ。着替えたらすぐ向かうよ」


 とのことで桜と神野さんが駐車場へ向かう。


「今日の夜も練習しないと。母さんに付き合ってもらうのは申し訳ないが、帰ったらお願いしてみようか」


 昨夜は俺に付き合って深夜3時まで起きていたため迷惑をかけたくはないが、母さんの指導は的確でとても良かった。

 そんなことを思いながら着替えを終えた俺は前髪を全て下ろし、顔が見えない格好となる。


 そして、いつものようにスタッフを装って駐車場まで向かっていると…


「あー!真白お兄ちゃんだ!」


 前方からヒナちゃんが声をかけてくる。

 その後ろにはミクさんと、2人に似た綺麗な女性がいた。


(えぇー!見つかりたくない人たちに見つかってしまった!しかもこの格好で!)


「真白お兄ちゃんは、ここで働いてるの?」


(だよね!なんでここにいるか不思議に思うよね!)


「あ、あぁ。ここで働いててな。今、帰るところだ」


 ヒナちゃんからの質問に答えないわけにもいかず、咄嗟に『働いていた』と答えてしまう。

 そのため、このまま話を広げるわけにはいかないので、無理やり話を終わらせる。


「じゃ、じゃあ俺はこれで。ヒナちゃんはお仕事お疲れ様」

「ちょっと待つの!真白お兄ちゃんっ!」


 しかしヒナちゃんが俺の行動を静止する。


「ヒナは昨日のお礼を真白お兄ちゃんにちゃんとできてないの!」

「いやいや!昨日、お礼の言葉をもらったから大丈夫だよ!」

「ダメなの!」


(ダメですかー)


 どうやらダメらしい。


(仕方ない。お礼といってもジュース1本程度だろ。ボロを出さないよう注意すれば乗り切れるか)


 ヒナちゃんの言葉に負けた俺は、続きの言葉を待つ。


「うーん、どんなお礼がいいだろ。あ!そうだ!真白お兄ちゃん!明日の夜は暇なの?」

「ん?明日の夜は暇だぞ」

「良かったの!それなら明日、ヒナの家に真白お兄ちゃんを招待するの!」

「はぁ!?」

「お母さんとお姉ちゃんもいいよね!?」


 ヒナちゃんはミクさんとミクさんの後ろにいた女性に話しかける。


「そうね。私もお礼がしたかったから大丈夫よ」

「アタシも真白くんとはゆっくりお話ししてみたかったから賛成だ」

「わーい!ありがとー!」

「いや、お礼なんかいらない――」

「お母さん!明日の料理は豪華にするの!」

「ふふっ、そうね。腕によりをかけて作るわ」

「…………」


(あれ!?これ、断れない雰囲気になってない!?)


 そんなことを思った。




 あれから試行錯誤するが断れず、明日の晩ご飯をヒナちゃんたちの家で食べることとなった。

 その際、俺とミクさんが同級生だということがわかり、お互い敬語を使わず接することとなった。


「真白くん。連絡先を交換してもいいか?」

「ヒナも真白お兄ちゃんと交換するの!」

「あぁ、いいぞ」

「やったー!これで毎日真白お兄ちゃんの声が聞けるの!」


(毎日は難しいかなぁ)


 そんなことを思いながら2人と連絡先を交換する。


「真白お兄ちゃん!また明日なの!」

「また明日な」

「真白さん、明日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 俺はヒナちゃんたち3人と別れ、神野さんの車に向かった。




 無事、神野さんの運転で家に帰り着く。


「おかえりなさい」


 すると母さんが出迎えてくれた。


「監督から連絡が来たわ。真白くんの演技、良かったって聞いたわよ」

「あぁ。母さんのおかげで問題なくできたよ。夜は付き合ってくれてありがと」

「これくらい大したことないわ」


 昨夜は深夜3時まで母さんが付き合ってくれたので、感謝の言葉を告げる。


「やっぱり真白くんはモモさんの血を引いてるのね。モモさんのように何でも人並み以上にできちゃうし。きっと俳優の道を極めればモモさんのような役者になれるわよ?」

「そんなことないよ。俺は母さんみたいな天才じゃない。昔の俺はそう思って舞い上がってたんだけどな」


 亡くなった母さんは歌やダンス、演技と何でも完璧以上にできる人で、その血を引いた俺も昔から全てのことが完璧にできていた。

 それこそ小学生までは神童なんて呼ばれることもあった。

 そんな俺が調子に乗るのは必然で、『俺は何でもできる』という思い込みが母さんを死なせてしまった。

 ふと、その時の光景が脳裏に映る。



『――っぷは!か、母さんっ!な、流されるっ!た、助けて……!』

『待ってて!真白!今、助けるからっ!』


 “ザッパーン!”



「っ!」


 その時の光景を思い出して泣きそうになる。


「ごめんなさい。変なことを思い出させてしまったわね」


 俺の変化に気づいた母さんが話題を変える。


「ご飯できてるわ。手を洗ってきなさい」


 そう言ってリビングへ消える。


「お兄ちゃん……」

「ごめんな、心配かけて。でも大丈夫だから」


 俺は無理やり笑って桜を元気付ける。


「うん。私、先に手を洗ってくるよ」


 俺にそう言って桜が手洗い場へ向かう。


(ほんと、昔の俺は調子に乗ってたなぁ。周りから神童なんて呼ばれて。でも今の俺は大した人間じゃない)


 桜たちから頻回に自己評価が低いと言われるが、俺はそう思っていない。


(自分の能力は自分が一番わかってる。俺が自分の能力を過信したから母さんは死んだんだ)


 頂いたファンレターやスタッフたちから俺を褒める言葉をたくさん貰うが、そんな言葉で舞い上がることはできない。


(もう二度と失敗しないよう俺は自己評価に磨きをかけてきた。自分の能力を過信して取り返しのつかない過ちを犯さないように)


「これでいいんだ。今まで通り周りの言葉に舞い上がらず、平穏に過ごすんだ」


 自分に言い聞かせるよう、力強く呟いた。

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