新たな仲間と本当の力
翌日の朝。
闘技場の町で一泊した一行。
「ざまあねぇなぁ!ラインハルトよう?」
スキンヘッドの大男が、ラインハルトに絡んできた。
昨日の話が既に、町中に広がっているらしい。
当然だろう、闘技場の覇者が飛び入り参加の者に、一方的に負けたのだ。
噂にならないはずがない。
闘技場の受付に向かって、皆で歩いていた時に話し掛けられたのが、この男だ。
「喧嘩売ってんのか?【ビガール】」
ラインハルトは大男、ビガールを見上げ睨みつける。
「他にどう見えるよ」
ビガールはニヤケ顔でラインハルトを見下ろす。
「やめとけ、お前じゃ俺には勝てねぇよ」
視線を外し、両手を上げるラインハルト。
「どっかで聞いたことあるようなセリフ…」
僕はボソッと言う。
「うるせぇよ、お前の時とは違うだろ!」
顔を赤く染めたラインハルトは、唾を飛ばしそう叫んだ。
「まぁ、ライさんは間違ってないですよ、そこのツルさんは弱い」
「誰がツルさんじゃい!頭見て勝手に名前つけんな!」
「ごめんなさい、ピカさん」
僕は丁寧に頭を下げる。
「ビガールだ!てめぇ、ぶっ殺すぞ!!」
ビガールの顔と頭は真っ赤になっていた。
「あ…タコさんだ」
わーいと無表情で言いながら、僕はラインハルトの後ろへ隠れる。
「あんたじゃ、アルにも勝てねえよ」
瞬時に、男の後ろに回り込むラインハルト。
「へっ!速いだけじゃ人は倒せねぇぜ!」
ビガールが振り返り相対する二人。
「速いだけ、ねぇ」
ラインハルトはいつの間にか、両手にダガーを持っていた。
それを器用にくるくると弄んでいる。
「あ?」
「ふん、気付いてねぇのかよ?」
今度はラインハルトがニヤける。
「あんなにゆっくり動いてたのに…」
僕にはラインハルトの動きが、全部見えていた。
「私には見えなかったわよ?」
リイアはジルの顔を見るが、首を振られた。
やはり二人は、ラインハルトの動きが速くて目で追えなかったらしい。
「お前の基準で語るなよアル…」
ラインハルトは、意気消沈し肩を落とす。
布が風に飛ばされ、布同士がぶつかる音が微かに聞こえる。
「え?」
何かに気が付くビガール。
男の服が細々に切り裂かれて、風に舞っていた。
僕は暖かい日で良かったと思った。
つまりは、ビガールは何も着てない状態になってしまった。
「きゃああ!!!」
周りのあらゆる場所から悲鳴が上がった。
「きゃあああ、覚えてろよ!」
ビガールも悲鳴を上げ、股間を押さえながら走り去って行った。
「リイアは叫ばないんだな」
ダガーを収ながら呟くラインハルトに、リイアが反応する。
「あのくらいじゃねぇ」
目隠しの結び目を確かめながら答える。
「そっか、見慣れてるのか」
僕は頷きながら呟く。
「そうそうって…違う違う違う違うからねぇ!!」
リイアは顔を真っ赤にして、腕を上下に振って抗議する。
「はいはい、ってか、ライさんの武器ってダガーだったんですね?」
僕は先程の戦闘の事を思い出してそう言った。
「斧は借りただけだからな、本来の武器はこっちだ、それと俺に敬語はいらねぇ」
ジョブはアサシンなので、斧は得意じゃないらしい。
借りた武器なのに、あの速さって、結構凄いかもと僕は思った。
「そうだったんだ、分かったライちゃん」
「ちゃんはやめろ!」
「分かったよ、ライ」
「もう、それでいい…」
ラインハルトは、本来の名前の呼ばれ方をする事を諦めた。
ラインハルト=デルグラート。
19歳、ヒト、男。
ジョブ∶アサシン(二次職)。
レベル29、HP780、MP310。
固有スキル∶加速
パッシブスキル∶装備重量無効
アクティブスキル∶二刀流、斬撃
武具∶風のダガー、大地のダガー
「嘘でしょ?レベル29で、闘技場のチャンピオンって…」
ラインハルトのステータスを見たリイアは、驚きを隠せない。
「あんたもレベル至上主義かよ、レベルなんてものはただの数字にすぎない、こいつの力を見たろ?」
そう吐き捨てるラインハルトは、アルの事を親指で差した。
「…まぁ、そうね」
「ん?」
僕は無表情で二人を振り返る。
「あぁ、気にすんな」
そう言うと、ラインハルトは鼻を鳴らした。
ラインハルトは、闘技場の入り口のカウンターで、何かの手続きをしている。
「何の手続き?」と、僕が聞くと。
「あぁ、【チャンピオンベルト】の返還と、ここを離れる休職願いね」と、リイアは答えた。
「いや、辞めてきた」
違った、全然違った、リイア恥ずかしい。
「え?嘘でしょ?勿体なくない?」
「こんな所のチャンピオン、意味ないって分かったからな」
アルの力を知った今、武王への近道がない事を思い知ったラインハルト。
留まることは良くない事と、アルが言っていた、それは恐らく正しい。
だから、前に進まなくてはならない。
「それは良いことですね」
僕はうんうんと頷く。
「いいんですか?」
念を押すジル。
「何度も言わすなよ、これで良いんだ…」
尻窄みにはなったが、話は終わりとばかりにラインハルトはそっぽを向く。
「では、もう何も言いません」
ジルとリイアは嘆息した。
「そうしてくれ」
「え?なんで!?帰るんじゃなかったの?」
「いえ、ちょっと皆さんの実力を知りたいなと」
「これと…戦えと?」
ラインハルトが指さすのは、細身のゴーレムだった。
「うん、大丈夫、手加減出来る子だから」
今いる場所は、じいちゃん家の南にある森の奥地の開けた場所。
直径30m程の広場の様なところだ。
「アーちゃんです」
僕は手を指して紹介する。
【アダマンゴーレム】、身長はさほど高くない、180cm程。
ゴーレムにしては、かなり小柄なほうだ。
アダマンタイト、不壊の金属で造られている、金属の一種だが表面はマットな質感で、色は茶色。
「名前は聞いてねぇよ!」
ツッコむラインハルトに、意味が分からず首を傾げるリイアとジル。
三人の奮闘を、3m程上から、僕は木の枝に座り見守る。
「だぁあ!!こんなのどおしろってぇ!?」
ラインハルトはアダマンゴーレムと追いかけっこしている。
なんだか楽しそうだ。
「な、なんか今、変な事想像してただろ!アル!?」
声を裏返させて叫ぶラインハルトに、見事に言い当てられて耳が赤くなる僕。
ラインハルトは、何度かダガーで切ってみたが、アダマンゴーレムは無傷。
アダマンゴーレムが、ラインハルトを追っかけ出して数分経つ。
リイアはおろおろとしていて、ジルは機を見ている。
ラインハルトの息が切れ始める。
「一人で戦おうとしないで、協力してみたら?」
僕は皆に助言をする、このまま追いかけっこを見ていても楽しいには楽しいのたが、当初の目的とは異なる。
「横に飛んでください!」
ジルがラインハルトへ指示を出す。
「よし!そいやぁ!」
ラインハルトが真横に飛び、アダマンゴーレムの視界から消える。
走り込んできたアダマンゴーレムの首に飛びつき、そのまま自身の全体重を乗せて、頭から地面へ落とすジル。
地面が割れる鈍い音が響くと同時に、そこにクレーターが出来る。
更に仰向けに転がったアダマンゴーレムの股に自身の首を突っ込み、無理矢理抱え上げての【パワーボム】。
「うおりゃあ!!」
更に鈍い音が鳴り、二つ目のクレーターが出来た。
アダマンゴーレムは、しこたま後頭部を打ちつける。
「すんげぇ力」
ラインハルトは、素直にジルのパワーに感心する。
そこへリイアが駆け付け、アダマンゴーレムの額を細剣で擦る。
「チェックメイト!」
細剣をアルに突き付け、ドヤ顔をキメるリイア。
「………」
「あれ?壊れない…」
通常のゴーレムは額に書かれている、【ある文字】を消すことで無力化出来る。
アダマンゴーレムの目が光る。
三人は冷や汗を流しながら後ずさる。
「アーちゃん!そこまで!」
アダマンゴーレムは僕の指示に動きを止めた、危なかった、本気になれば彼らは瞬殺される。
「ちょっと!何なの?」
「アーちゃんの額のは文字じゃなくて、ただの模様だから」
だから、削っても壊れない、と言うか不壊の金属だし。
「へ?」
「アーちゃんは土属性だから、水属性で攻めれば、もうちょい楽だったかもね」
と、総括する僕。
ただしこの場に、水属性のスキルを使える者はいない。
「まじかよ?」
「まぁ、でも皆さんやるじゃないですか、アーちゃんの、レベル5500を相手にして真っ向勝負とは」
「「「殺す気か!!!」」」
全員一斉に僕にツッコミをいれた。
そう言えば僕は、アーちゃんのレベルの事を皆に知らせてなかった。
うっかりだ、反省しよう、そうしよう。
「お前、反省する気ないだろ」
「………」
僕はラインハルトのツッコミに、あからさまに話題を変える。
「そういえば、先程のジルさんの、飛びついて頭から落とすあの技は?」
僕はその技が大層気に入った。
「ふふ、あの技は【DDJ】と言います」
「おぉ、カッコいいですね」
僕は称賛し拍手を送る。
「いや、技に自分の名前付けるとか…」
「ちょっと引くかなぁ」
渋面を作るラインハルトとリイアの反応は良くない。
このかっこよさは、僕とジルだけにしか分からないらしい。
「まぁ、ともかく三人の実力は、ある程度確認出来ました、ありがとうございます」
僕は皆の協力に頭を下げる。
「何のためにこんな事を?」
リイアは当然の疑問をアルに問う。
「いや、皆の力が分かれば、いざという時に助ける順番を決められるかなと」
「順番なんざ考えるな、お前はリイアを一番優先して助けろ」
「ラインハルトさんの言う通りです、お嬢が助かればそれでいいんですよ」
「時と場合によるんじゃない?」
「まぁ、わかりましたよ、リイさん優先で考えます」
「この戦闘には、何の意味がありましたか?」
ジルは、アルの仕掛けたこの戦闘の意味が見出だせない。
「まぁ、それなりには、皆さんちょっと酔ってませんか?」
「確かにさっきから少し…目が回るような…っとと」
足元がおぼつかなくなり、その場に座り込むラインハルト。
「どう言う事なの?うぅ」
壁に手を付け身体を支えるリイア。
「ステータスを開いて確認してみて下さい」
僕の言葉を聞き、三人は一様にステータス画面を見る。
「嘘でしょ…」
「おいおい、レベルが倍になってるじゃねえか!」
「まさか、倒してもいないのに、異様な上がり方では?」
一気にレベルが上がると、身体が追い付かず、ステータス上昇に馴染むまで、乗り物酔いのような症状がでる。
「だってレベル5500を相手にしたんですよ、それくらい上がるでしょ?」
「これが目的でしたか、恐れ入ります…うぷ」
ジルは口元を抑える。
「一先ず酔いが治まったら、じいちゃん家に戻りましょう」
10分後、四人は北へ向かい歩き出した。
ともあれ、ラインハルトはこれで正式に、リイアの仲間になったのだった。
【ビガール】
闘技場の闘士の古株、強くはない。
【チャンピオンベルト】
革製の極太ベルトに、鉄製の闘技場のエンブレムが貼り付けられている物。
5kgある。
【アダマンゴーレム】
不壊の金属アダマンタイトで創られたゴーレム。
ある世界的錬金術師が手掛けた。
【ある文字】
額に刻まれている、emeth(真理、真実)の頭の文字を消し、meth(死んだ、死)と言う意味に変えることで、破壊することが出来る。
【DDJ】
デンジャラスドライバージル。
首に飛びついて、頭から地面に落とす技。
その名の通り危険な技である。
【パワーボム】
滞空式パワーボム、垂直落下パワーボム、ジャンピングパワーボム、パワージャック等、種類は多様にある。




