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アルブス  作者: シバザキアツシ
旅立ち

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7/21

ジル

「お前は騎士に向いてない、二度とこの家の敷居を跨ぐな、さっさと出て行け」

感情なく吐き捨てる男。


家長のゴリアテ=イストにそう言われては、最早、覆すことは出来ない。

雨が降りしきる中、家を追い出された。

「その【クソ重い剣】はくれてやる、せめてもの餞別だ」

剥き出しの大剣は玄関前の水溜りに落ち、跳ねた水はジルを更に濡らした。

大扉が閉まる寸前の、細い隙間の奥に【聖騎士】の姉が見えた。

何故だか、少し悲しい顔をしているように見えた。

そんなはずはないのに。

重い扉の閉まる音は、豪雨の音に掻き消された。


「…え!」

どこからか声が聞こえる。

ジルの鼓膜を震わせる高い声。


「ねぇ!貴方!聞こえる?」

ぼんやりしていて、視界も曖昧だが、どうやら自分に誰かが話しかけているようだ。

虚ろな目を気怠く上げる。

見上げた少女は、目を黒い布で隠していた。

「大丈夫?怪我でもしてるの?」

「姫、そんな小汚い奴など捨て置きなさい」

「あなたそれでも聖塔教会の騎士なの?聖職者なの?信じられない!」

リイアはヤーツを問い詰めるが、本人はどこ吹く風。

「騎士…?」

虚ろな男の背後には、巨大な両手剣が突き刺さっていた。

「ワタシは姫の護衛です、極力、危険から遠ざけ守る事が仕事、それが【教会騎士】です」

「私は聖塔教会の【司祭】でもあります!見捨てるなど言語道断です!」

「騎士…?」

ジルの呟きに反応するヤーツ。

「随分と騎士にこだわりますね、そうですワタシは教会騎士ですが…貴方は?」

「じ…自分は、ジル=【ハビアス】…」

名前を言うのが精一杯で、その後すぐに自分は意識を手放した。

「なんですって?!ハビアス家がどうして」

ジルは前のめりに倒れた。

「先ずは安全な所へ連れて行くわよ、手伝って!」

「御意に」

ヤーツはわざとらしく、恭しく頭を下げた。


ローレア王国、【王都キンガス】、城下町。

【BAR浮麗夢(フレイム)】。

無口な長身マッチョのスキンヘッド店主が、リイア達を顎で奥へと促す。

個室にての三者面談である。

秘密の会談をするには、持って来いの店だった。


「なる程、では貴方はテズヴァイス公国出身なのですね?」

「…はい」


家を追い出されたジルは、雨の中を彷徨い、どこにいるかも分かっていなかった。

無意識の内に国を出る為、旅客船に乗り、ローレア王国へと辿り着いていた。

そんな自分に嫌気が差す。

無意識でもしっかり逃げられるものだなと。


「貴方、ジョブは?」

「………」

「姫、そんな事を聞いてどうするつもりです?」

ヤーツは眉間にシワを寄せて、リイアへと詰め寄る。

リイアはジルの後ろに立て掛けてある大剣を指差す。

抜き身で町中は持ち歩けないので、ヤーツの持っていた布で、2mはある大剣を一先ず巻いてある。

「あれ、ちょっと触ってもいい?」

「…どうぞ」

「ヤーツ、ちょっと持ってみて」

意味が分からず、一先ずリイアの言う通りに、大剣の柄を握る。

「!?」

「どうしたの?」

「…びくともしません、なんて言う重さなんだ」

「…自分のジョブは、ディバインナイトです」

リイアの先程の質問の答えを言うジル。

「光の騎士、貴方にぴったりね」

パッと顔に花が咲き、手を合わせるリイア。

「………」

「私の従者になってくれない?」

「姫!!」

椅子を押し倒す勢いで立ち上がるヤーツ。

「ヤーツは黙ってて」

「三次職など、何処にでもいるでしょう…自分でなくても」

「もう一度言うわね、私の従者になってくれない?」

「…それは、命令ですか?」

「いえ、お願いしてるの、強制はしないわ」

「失望させるかも知れませんよ」

「いえ、それは…私の方かも知れないし…」

急に歯切れが悪くなるリイア。

「…それは、いえ…自分で役に立てるなら」

少しずつジルの目に光が戻る、誰かに頼られる、自分に意味が湧き出てくる。

「良かった」

「全く姫は…契約はしっかりしますからね!」

荷物から契約書を探すヤーツ、いつも持ち歩いているらしい。

「お願いね、ヤーツ」

リイアには敵わないと、嘆息するヤーツだった。

「あぁ、それと…」

「何でしょう?」

「貴方は先ずはお風呂に入って、身体を綺麗にする事!」

ジルを指差すリイア。

「え?」

「これは命令ね」

リイアは片目を閉じた。



その後のジルの活躍は目まぐるしかった。

ローレア王国を行脚するリイア一行、リイアが馬に乗り、徒歩のヤーツとジルが先行する隊形で進んでいた。


「はぁ!!」

一閃、茂みから突然現れた、オオカミ型の魔獣を、巨大なクレイモアが空気と共に切り裂く。

「馬鹿力が…」

眼鏡を上げながらヤーツは零した。

「そんな言い方しないの」

「む…」

護衛としては、言うことはない程優秀であった。


ローレア王国、中央部、ダマの町。

「なんの騒ぎだ?」

町の入口で馬を降り、門から中に入った所で、住民が集まって何やら話し合っていた。

「突然やって来るなんて…」

「聞いてないぞ…」

「とは言え、愚痴っててもしかたねぇ、準備するぞ」

「粗相があったら、叩き切られるぞ!」

「なんだって貴族様がこんな辺鄙な町に…」


「ん?私が来たのがバレてる?やばっ!」

「姫、そうではないようですよ」

馬を繋ぎ終えたジルが二人に合流した。

「お二人共なに…を…?」

住民達の奥、遠くの広場に豪奢な大馬車が見える。

「あれ?あの旗って?」

大馬車のすぐ横で、フルプレート姿の人物が背の高い旗を持っている。

「あの紋様は、ハビアス家か」

いつの間にか、ジルは二人の後ろに小さくなって隠れている。

「今、自分が見つかったら不味いです…」

「ん?特に問題なくない?」

「大有りです!姫はもう少しパワーバランスを考えた方がいいですよ」

「???」

「ここはスルーした方がいいですね、ジル、先に行って馬を出しておいて下さい」

「分かりました」

ジルは頭を低くして、門へ向かい走り出した。


門へ近付いた所で思い切り転ぶジル。

何が起こったか目を白黒させながら、周りを確認するが横に顔を振った瞬間、身動きが取れなくなった。

目と目が合う。

「久しいな、ジル、こんな所で出会うなんてな!」

ジルは倒れたまま動けない。

足をかけたのは、ハビアス家の三男坊だった。

「ワタシの連れが何かしましたか?」

眼鏡を上げながら、三男坊に殺気を放つヤーツ。


「なんだ貴様は!貴族に反抗するのか!」

「貴族…貴族がどうか致しましたか?」

激昂する男、それを涼しい顔で受け流すヤーツ。

「どうなっても知らないからな!!」

ヤーツは落ち着いた動作で、ミスリル製のフランベルジュを抜き放った。

「は?」

その行動の意味が分からず、動けない三男坊。

「どうやら貴方は騎士のようですね、一手ご教授願えますか?」

不敵に嗤うヤーツ。

「ヤーツ殿!?」

パワーバランスどうこう言っていた人はどこへ。

「大丈夫よ、いざとなったら私が殺るわ」

「リイア殿!?」


対決と言う形になってしまった。

引けない男も乱暴に剣を抜くと、鞘を投げ捨てた。

「死ねぇ!」

何とも粗暴な貴族である。

「死ぬ気も死なす気もありませんが、ですが、そう言う事でしたら本気でお相手しましょう」

男の剣を軽々躱し、後ろに回ったヤーツは、躊躇なく背中を袈裟斬りにした。

「うわぁあ!!」

痛みに足がもつれ転がる男。

「おや、コレから面白くなるのに、せっかくわざと浅く切り裂いたのに、喚かないで下さいよ」

「うぐぅ、おわ…」

ヤーツは男の頭を踏みつける。

「早く立ちなさい!」

ヤーツの殺気が男のやる気を失わせる。

「こんな事して…た、タダで済むと思ってんのか!」

「タダで済むなんて思ってませんよ」

「な…に?」

「貴方は極刑ですから」

剣を収め、胸元からコームを取り出し、髪を撫でつけるヤーツ。

「は?頭おかしくなったのか?極刑なんて、王族に剣を向ける…と…か、しない…と?」

「そうです」

「お前!王族なのか…ですか!?」

言葉遣いがおかしくなっている三男坊。

「いや、ワタシではなく…」

リイアが前に出て、目隠しを取る。

「私が王族です、末っ子ですけどね」

「貴方は第四王女、リイア=レイ=ラプキンスに刃を向けた、それは死に値する」

「ひ、姫?王女!?」

「衛兵、コレを連れて行きなさい、沙汰は追って知らせます」

凛と命令を出すリイア。

「はっ!」



ジルはやがて、リイアの本当の目的を聞かされる。

「なる程、それでは一人でも多く仲間がいりますね」

「コレを聞いても、貴方は私の味方で居てくれる?」

「英雄ではない自分でもいいのなら、力を貸し…いや…力を使って下さい、思うままに」

片膝をつき、最敬礼で答えるジルだった。

【クソ重い剣】

全長2mの両刃の剣。

父、ジュリエ=ハビアスの武器を改造したもの。


【聖騎士】

聖塔教会に所属する騎士が、直接教皇に任命される形で、その肩書を得る事が出来る。


【司祭】

聖塔教会の司祭。

教皇、司教につぐ肩書、意外と偉い。


【教会騎士】

特殊な訓練を受けた騎士。

王国が認めるそれとは異なる。


【ハビアス】

テズヴァイス公国の貴族の一つ。


【王都キンガス】

ローレア王国の首都。


BAR浮麗夢(フレイム)

王都キンガスの城下町、大王道の脇の一等地にある。

店主が怖い顔で有名。

元は名のある傭兵だったらしい。

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