ラインハルト=デルグラート
黒い7を追い払ったアル。
その一連を見てラインハルトは思う。
純粋に格好いいと思ってしまった。
「すげぇ…」
いつか、自分もあんな風にと。
目の前に表れた英雄に焦がれた。
それは、武王に惚れた時と同じような感覚。
その後、父に抱いた気持ちにも似ていた。
ラインハルト=デルグラート。
アルに出会う前の話。
現在のターマスの闘技場の覇者であり、最も武王に近い存在とされている。
更に数年前。
テズヴァイス公国、副都レイライン。
「お前が嫌いなのは、俺じゃないだろ?」
父、バルダン=デルグラートと向き合うラインハルト。
「俺はあんたが大嫌いだ」
拳を握りしめ父と相対する。
「さみしいねぇ、でも、お前が嫌いなのは…」
父は腕を組んで仁王立ち、少しもさみしそうではない。
「なんだよ?」
「俺の肩書だ」
副都レイライン、傭兵学校。
最終学年、卒業試験。
教師との模擬戦。
対戦相手は、ターマスの闘技場の運営兼門番の、ウルフレッド=ゴーンウェイ。
元闘士であり、A級まで上り詰めた人物だった。
試合はウルフレッドの勝利で終わったが、一度追い込んだ事もあり、ラインハルトの試験は合格となった。
「すげぇなアイツ、まだ二次職だって?」
生徒たちの間でざわめきが起きる。
三次職を二次職が追い詰めたのである。
「まじかよ?それであの強さとか…」
「もしかしたら、武王再来かもな」
「いや〜、そこまでか?」
「さぁな、それはこれからのあいつ次第だろ」
傭兵学校、卒業式。
「ラインハルト=デルグラート!」
「はい!」
名前を呼ばれ、登壇するラインハルト。
「全ての課程を終了した事を、ここに証明する!」
「は!」
傭兵式の敬礼をとっま後、卒業証書を受け取る。
「これからどうするんだ?」
式の後、同級生にそう問われた。
「うん、冒険者学校に通おうと」
「は?」
「既に試験は突破してるしな」
こともなげに言うラインハルト。
「は?」
同級生は意味が理解出来ず固まる。
「一先ず、強くなれるなら何でもやってやる」
盛大な勘違いであった、強くなるのに必要なのは、習うではなく、いくつもの実践、死線を経験する事。
その後ラインハルトは、僅か二年で冒険者学校を卒業した。
ラインハルトは父が嫌いだった、いつでも自信いっぱいのあの笑顔が。
だから、見返したかった。
ラインハルトは模擬戦で、父、バルダンに勝った事が一度もない。
なので、なりふり構わず走り回った。
「お久しぶりです!」
副都レイライン、要塞都市の所以、城塞オロバス。
本丸を囲む四つの塔、その南西の塔サンブラに、ラインハルトの目的の人物がいた。
「何の用だ?小僧」
ある一室に無遠慮に飛び込んだ。
尊大に振る舞う、ソファーに埋まる少女のように見える人物。
見た目が若いだけで、実は中年を超えている。
サンディ=センズ、父の盟友であり、時の魔術師、ユニーク職のクロノマスターである。
「どうやったら強くなれる?」
唐突なラインハルト。
「単刀直入過ぎやしないか?」
ため息を吐くサンディ。
「まずは…」
「教えてくれんのかよ?」
「聞きたいのか、聞きたくないのかどっちだ」
「すまないサンディさん、先を」
「武王について調べてみよ」
ソファに埋まったまま、そう一言告げた。
「そして?」
「二時間後、ここサンゲイルの町の黒騎士の隊舎を覗いてみよ」
「それだけ?」
「そうだ、今はそれだけだ」
「分かった、ありがとうサンディさん!」
礼を言い走り去るラインハルト。
「忙しない奴だな、しかし、奴はどうやってここに忍び込んだんだ?」
この城塞は難攻不落とされている、ネズミ一匹入り込めないはずなのだが、サンディは首を傾げた。
「おいおい、おっさん、何しにきたんだよ?」
黒騎士隊、隊舎に乗り込んだのは、バルダンだった。
その部屋には、三十人の黒騎士が詰めていた。
「まぁちょっと、アレだな」
「なんだよ?」
「仕返しってやつだよ」
バルダンは指を鳴らした。
数日前にある依頼の事で、黒騎士と冒険者が口論になった事があった。
その時、黒騎士の一人が冒険者一人を病院送りにしていた。
ラインハルトは外から隊舎を覗き見る。
「ここで何が起きるんだ?」
腕を組み返事を待つバルダン。
「何のことかさっぱりだな」
バルダンの肩に手を置いた男の腕を取り、体を入れ換え瞬時に腕を極め、容赦なく折った。
骨が割れる嫌な音が、隊舎に響き渡った。
「うわぁ!!」
「てめえ何しやがんだ!」
一斉に立ち上がる黒騎士。
「それはこっちの台詞だな、うちの冒険者に手を出しやがったな」
更に鋭くなるバルダンの眼光。
「決闘って形で、終いにしてやるよ」
「分かって言ってんのか、おっさんよ!」
「これで手打ちにしてやるんだ、まさか怖いのか?」
「舐めた口を…表に出ろ!」
殺気を強くする黒騎士の副長、マクエド=ファーテス。
隊舎の南東にある公園での決闘となった。
「後悔すんなよ!」
公園には、次々と住人が集まって来ていた。
「お前もな」
マクエドはユニーク職、力王、レベル71。
バルダンは三次職、バトルマスター、レベル99。
一般的に三次職がユニーク職に勝つ事は出来ないとされている。
いくらレベル差があろうと、基本性能が違いすぎる。
それなのに、バルダンのこの余裕はなんなのか。
マクエドはそれに気づかない。
不気味なバルダンの気配に、気づく様子はなかった。
「始めるぞ!」
マクエドはバスターソードを抜く。
バルダンもタングステンの剣を抜いた。
互いに片手剣。
バルダンに襲い掛かるマクエド。
袈裟斬りに、絶妙に剣の角度を調整し受け流すバルダン。
「っ!」
出鼻を挫かれたマクエドはムキになり、勢いのまま身体を回転させて、真横に振るう。
それを後ろへ跳んで躱すバルダン。
「これまでだな」
バルダンは剣を鞘に戻す。
「何のつもりだ!?」
「何のつもりもどうも、その足じゃどうにもならんだろ?俺も動きの取れない奴にトドメを刺すほど非道じゃないからな」
「は?」
バルダンの目線を追い、自らの下の方を見るマクエド。
自身の膝や足首が有り得ない方へと曲がっていた。
「ひぎゃああぁあ!!!!!」
気づいた瞬間に痛みの波に飲まれるマクエド。
「これで手打ちにしてやる、今後は傭兵や冒険者に手を出すな」
「………」
「あぁそれと、お前にバスターソードは合わない、ナックルか打撃武器の方がジョブと合性が良いぞ」
冷たい目線で見下し、その場を去るバルダンだった。
マクエドと黒騎士にとって、表に出たのが裏目となった。
衆人環視の状態で、ユニーク職が三次職に負けたのだ。
しかも、圧倒的に瞬殺で。
三次職であろうとも、第三崩壊を乗り越えた英雄には変わりない。
経験と実績の差であった。
ラインハルトには、バルダンが何をしたかが見えていた。
「土を操った…」
マクエドの足を、何らかの方法で地面に固定、その状態で無理矢理回れば、当然足、膝や足首は破壊される。
「なんだよ…強えじゃねぇか…」
冷や汗を垂らし、笑いながら震えるラインハルトだった。
ラインハルトの強さとは、貪欲な事である。
「親父、教えてくれ!どうやったんだ?アレ!」
例え、気に食わない相手でも教えを請う、頭を下げる事を厭わない。
「お前はあんな小手先覚えなくていい」
しかし、突き放すバルダン。
「え?」
「言った通りだ」
「俺は強くなりたい!どんな事をしてでも!何で分かってくれないんだよ!!」
真っ直ぐ、ラインハルトの目を見るバルダン。
「分かるわけねぇだろ、お前は自分の事を話さない、話そうとした事すらないだろ」
目を逸らさないバルダン。
「………」
何も言えなくなるラインハルト。
「分かんねぇんだよ!話さなきゃ分かんねぇよ…」
「………」
「恥ずかしくて言えねぇ…」
確かに、そう言えば一度も言った事はなかった。
父を憎もうとしていた気持ちが分かった、ギルド総帥、その地位で有りながら、強く有り続ける姿に、嫉妬していたのだ。
どちらも取るなんて、不器用なラインハルトには不可能だった。
「は?」
「親父にだけは絶対負けねぇ!!」
ラインハルトは、そう言うと走り去ってしまった。
「全く意味が分からん…」
その場で呆けるだけしか出来ないバルダンだった。
この一件の後、ラインハルトはウルフレッドの誘いで、ターマスに移り闘士として経験を積む事になる。
アルと言う、新たな目標を見つけたラインハルトは目を輝かせる。
しかしこの後、ラインハルトは更なる力不足を痛感する事になる。




