邂逅
城の巨大な扉を、片手で押し開けるアル。
想像したより、大きい音は鳴らなかった。
奥の部屋から、ロウソクの光が漏れ出ている。
「ふむ」
迷わずそこに向かうアル。
「誰だ!」
アルの足音に気が付く部屋の主人。
「あれ?」
その部屋にいたのは二人。
部屋の入り口で、アルは銃口を頭に突きつけられる。
「ん?」
「おい!なんでお前がここにいるんだよ?」
銃口を向ける人物は、黒髪黒目の小太りのおっさん、公爵シン=マルクナスだった。
「え?シンさん?なんで?」
「何ではこっちの台詞だって!」
シンが驚愕に目を見開く。
一先ず落ち着いて話す為、部屋に招き入れられたアル。
中にはシン以外にももう一人いた。
長身長髪のスラッとしたモデルのような男性が、長い脚を組んで座っていた。
真っ直ぐにアルの目を見る。
「オレのことを知っているか?」
男の突然の質問。
「誰?」
「ルキウス=ザウリレウスと言う名は?」
「誰?」
アルは、立て続けの質問に目を白黒させる。
「ここが何の城か知ってるか?」
「知らない…」
「敵ではないようだな、ここは魔王城と呼ばれている城だ」
勝手に納得する目の前の男。
「ふむ、魔王はいずこに?」
「今は…いない」
少し目を伏せるルキウス。
「そうなんだ、会ってみたかったですね」
ボソッと呟くアル。
そのアルの一言を聞いて、笑い出すルキウス。
「悪い悪い、普通は会いたくないもんだぞ、魔王という存在は」
笑い過ぎて出た涙を、長い指ですくい取るルキウス。
「変な奴だろ?」
シンは頭をボリボリと掻いた。
「そうなんですか?会いたくないんだ…」
「何にせよ、敵ではなくて良かった」
先程から、アルに浴びせていた敵意が晴れた。
「敵にしたらダメな奴だ、敵対したら絶対に勝てん、マジやめて」
シンは慌ててルキウスに言う。
「シンにここまで言わすとはな」
「俺が貴族になった理由がコイツだ」
突然の告白、シンはルキウスの事を親指で差す。
「???」
「俺はこの国を終わらせる」
「???」
アルには、何のことかさっぱり分からない。
「俺はこの国を終わらせたい」
何度も言うシン。
「いや、なぜに?」
首を傾げるアル。
元老院の復活の為、奔走している事や、中央議会を叩く為に手を尽くしている事などを、説明された。
「ちょっと何言ってるか分かんない」
しかし、アルには分からないし、興味もなかった。
「まあ、いいんだけどよ」
逆に興味ある人間には言えない話だ。
「シンさん?」
「なんだよ?」
「向こうから、妙な気配がします、だんだん強くなってきてるような…」
右の壁の奥の方から、湧き上がる気配を感じ取ったアル。
「向こうって…玉座の間だな」
「行ってみよう」
玉座の間は広くひんやりとしていた。
奥に見える玉座には、杖が置かれていて、淡く光を放っている。
「あれは、ルシフェルの杖…なんでここに?」
「ルシフェルの杖と言うと、父…皇帝マルクス=ザウリレウスが所持していたと言う、あの?」
「そうだ、なんかヤバい臭いがしてきたぞ」
「臭くはないですけど?」
「そういう臭いじゃねぇよ!」
ルシフェルの杖が独りでに立ち上がり、光量を強くする。
「なんだ?」
一瞬強く光り、闇が飛ばされると、杖と入れ替わりに、男が一人立っていた。
「!!?」
「嘘だろ…マルクス…お前なのか?」
「私はマルクス=ザウリレウス、皇帝から魔王に至った者だ」
「会話は出来ないみてぇだな」
「この杖に相応しいか、試させてもらう」
「下がって、オレがやってみる」
ルキウスが前に出る。
「………」
アルは静観する構えだ。
「おいおい、やってみるったってよ…」
魔王の残滓対ルキウス。
「行くぞ!」
マルクスはルシフェルの杖を一振りすると、杖は片手剣へと姿を変えた。
ルシフェルも腰のサーベルを抜く。
剣とサーベルがぶつかり合い火花が散る。
「本物みたいですね」
幻影ではなかった。
「どういう技術なんだろうな?」
職人の感想のシン。
「本気で来い!」
「くっ!」
マルクスが再びルシフェルの杖を振るうと、今度は三mはありそうな大剣へと変わった。
それを一旦、床に突き刺す。
両手を握り祈るような姿勢になると、身体から光が漏れ出した。
「本気にならぬなら、私から本気になろう!」
身体中の骨がゴリゴリ鳴り、体型が変わっていく。
身長が伸び、髪も伸び、耳が尖り、頭からは角が二本生えてきた。
上半身の服が破け、下から覗く皮膚は紫色に変色していた。
大剣に見合った存在へと変化した。
これが魔王本来の姿だ。
「さて」
大剣を抜き、ルキウスへと迫るマルクス。
「これで本気になれるか?」
素早い魔王の斬撃にサーベルが飛ばされ、尻もちをつくルキウス。
「ふん、こんなものか…」
魔王は掌をルキウスに向けると、その中心に黒い光が集まってきた。
「魔波!」
魔王の掌から黒球が、ルキウスに向かって放たれた。
世界の色が反転する、ルキウスは避けられない。
「アル!」
瞬時に反応するアル。
「はいよ」
ルキウスに当たる寸前で、アルが黒球を右ストレートで吹っ飛ばした。
魔王城に大穴が空き、轟音が鳴る。
その流れでアルは魔王の懐に入り込むと、かち上げアッパーを振り抜いた。
そのアッパーの威力に、魔王の姿をした者が掻き消えた。
アルの放ったアッパーの風圧で、玉座の間の天井に穴が空いた。
「これが、父の力か…」
「そのほんの一部さ」
いつの間にか、玉座の間に入り込んでいたピエロがそう言う。
「シンさん、アイツは?ぶっ飛ばすヤツ?」
アルは拳を握り、シンに問う。
「いや、アイツはぶっ飛ばさんでいい!こっち側だ、味方だよ、妙な格好だが、あの道化も使いようがある、ギルって名前の奴だ」
「ちょ!怖い事言わないでよ、もお、ぼぉくは味方、味方だってば!…使い方って言い方もなんだかなぁ…」
ピエロはあからさまに肩を落とした。
「コイツはルキウスを逃がしてくれる奴だ」
「逃げる?」
「そうだ、体制が整うまでは、この国は危険過ぎる」
「そ、それでぼぉくの出番ってやつさ」
アルに向けて、慌てて親指を立てる道化。
「気は済みましたか?」
「………」
「今の貴方では勝てませんよ」
「そのようだな…」
ギルはピエロの仮面の下の目を細める。
「行こうか」
「次はどこに?」
「さて、温暖な所が吉、だってさ」
占いの本で行き先を決めるギル。
「オデッサファイルに俺の…いや、余の名が載る事になるのだな」
「そうなりますね、閣下」
ギルは、恭しく腰を曲げるのだった。
「まぁ、どうでも良いんですけど…ヌークって町はどの方向か分かりますか?」
「お前はマイペースでいいよな…」
シンに、地図を見ながら道程を教えてもらうアル。
道程自体は簡単なので、直ぐに覚えられた。
「じゃ、僕はこれで」
無表情で片手を上げ挨拶とするアル。
「他言は無用だぞ」
ルキウスは目を鋭くする。
「それくらいは、僕でも分かります、皆が心配してると思うので、とっとと戻ります」
アルは魔王城を後にした。
「もう終わりかい?ヒーロー君」
腕を広げ余裕の表情のシンエ。
「んな訳…ぐっ」
シンエのボディブローに膝をつくラインハルト。
颯爽と飛び出したはいいが、多勢に無勢、実力差もあり、早々に鎮圧された。
「ここまでだな」
「いんや、これから反撃だ!」
窮地にも関わらず、ラインハルトは口角を上げた。
「なに?」
ラインハルトは両膝をつき、とても戦える状態ではない
「強がりを…」
「待ってたぜ…」
自身の役目は果たした、充分な時間稼ぎだった。
「なんだこの気配は?」
「ホンモノのヒーローのお出ましだ!!」
そう言うとラインハルトは、後ろ向きに倒れた
「遅ぇんだよ!」
すっと、ラインハルトの脇に立つアル。
「ごめん、後は任せて」
「少年が一人来ただけで、何が変わると?」
シンエが首を傾げていると、トワと名乗る少女が震えだした
「どうした?トワ、何を…?」
「アイツだけは…手を出しちゃダメなやつだ」
「なに?」
アルは流星牙の片方の刃を音速で投げた
轟音の刃はナラコの腹を貫き、後ろのカグヤの剣に当たり上へと軌道を変えた
「なっ!?」
デュランダルは完全に破壊された
「そんな…不壊の剣が…あぁ…」
「痛いなぁ」
ナラコの腹の傷は直ぐに癒された。
鎖を引き手元に戻すアル。
「僕の友達に、手を出した事を後悔させてやる」
「これだけの面子を前にして良く吠えるわ」
楽しそうに嗤うラウラ。
「王獣八体より、全然怖くない」
「王獣と戦ったのか?」
「戦ったよ何回も何回も、何なら八体全部と一斉に戦った、戦ったし勝った」
「そんな嘘…嘘…お前のレベルは?」
青褪めるシンエはアルに問い掛ける。
「今はグレイプニルで十分の一になってるけど、元は十一万四」
「は?110004…」
アルの祖父、チュルパンの言ってた話だと、レベル10004だったはず。
つまりアルは祖父の知らぬ間に、とんでもないレベルアップを果たしていたのだ。
「で、今は、抑えた状態で…一万超え…だと?」
制御してそのレベル、通常のレベル上限は999。
「だから勝てないって言ったじゃん!」
トワの叫びが、闇夜に響き渡る。
黒い7がアルに付きっきりになっている間に、ジルはリイアの元へ駆け寄り、回復薬を飲ませる。
ラインハルトも合流し、アルの邪魔にならない場所に移動する。
お祭り男達は一先ず放っておく。
窮地に陥り、彼女達は一斉に両手を上へと挙げた。
「アード!来い!」
ラウラが叫ぶと、中空から炎の塊が現れ、人型へと変わる。
ジルとリイアが湖でみた、宙に浮く男だった。
「湖で会った奴…まだ仲間がいるの」
「おやおや、知らないのですか?ボク達は彼女達に従う魔神ですよ、ま・じ・ん」
アードと呼ばれた男が、自分を魔神と言った。
「嘘…」
リイアは両肩を抱き震え出す。
「魔神?」
「嘘じゃないですよ、ボクは火の魔神です」
「ユ、ユーリフ!」
トワの呼びかけに、剃髪のゴリマッチョが現れた。
「今、呼ばれたのが、悪意の魔神ユーリフです」
アードは丁寧に説明してくれる。
「………」
アルは静観している、守るべき者がいる中で隙は見せられない。
「ハークぅ…」
ナラコの呼びかけに、ラインハルトが対峙した龍が現れた。
「今、出て来た首だけの龍が、毒の魔神ハークです」
「マルド!」
リンナの呼びかけに、シルクハットをかぶった紳士が現れた。
「今、現れたのが、大地の魔神マルドです」
次々に呼び寄せた魔神に連れられ、戦線離脱する黒い7。
それはそれで良いと思うアル、大事なのは仲間の命なのだ。
「ドゥーラズー!」
ミミの呼びかけに、全身包帯だらけの女が現れた。
「今、顕現したのが、虚偽の魔神ドゥーラズです」
「ワーラ!」
カグヤの呼びかけに、毛が逆立ったエルフらしき者が現れた。
「彼女、カグヤに呼ばれたのが、風の魔神ワーラです」
「ここまでだね、ジャフイ!」
シンエの呼びかけに、黒髪ボブの、肉切り包丁を両手に持った女が現れた。
「そして、最後に紹介するのが、誘惑の魔神ジャフイです」
説明を終え、丁寧にお辞儀をするアード。
「まさか、こんな化け物が居るとは思わなかったよ…」
シンエの嘆息。
魔神にレベルの上限はない、逃げるなら魔神の力を借りたほうが早く済む。
「さて、これ以上はここに居るのも意味がないので、お暇しますね」
ひらひらと手を振るアード。
「待て!!」
ラインハルトが噛みつく。
「待ちませんよ、ですが、我々は再び貴方がたと対峙する事になる、それまでのお別れですね」
アードは最後にもう一度、恭しく頭を下げた。
ラインハルトは唇を噛んだ。
かくして、黒い7の七人は撤退した。
「遅れてごめんね」
皆に頭を下げるアル。
「良いってことよ、ありがとな、よく暴走しなかったな、大したもんだよ」
大の字になりながら、アルを称えるラインハルト。
リイアとジルの緊張もやっと解けた。
「これではっきりしたな、奴らは魔神に従ってるんじゃない」
「ええ、従えてる…従えられる程に強い、若しくは魔道具や契約があるのでしょうね」
「これから先、アル一強では詰むな…」
「………」
「早急な戦力強化が目標ですね」
「七つの力…早く集めなきゃ」
なのに、今手の内にあるのは、七つの力の内の覚醒前の“武の力”、ラインハルトのみ。
敵の戦力はハッキリした、だが、敵は黒い7だけではない。




