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アルブス  作者: シバザキアツシ
復活編

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30/32

集結

ラインハルト達を待ってる間、暇だったアルは、筋トレをしていた。

「99、100」

一先ず100回腕立て伏せをやった頃、またしても空気の揺らぎを感じた。

その方角に視線をやる。

「また、誰か転移してくるのかな?」

そう思い待っていたが、一向に現れる気配はない。

「行ってみよう」

暇つぶしだった。


気配の方へと向かったアルは、奇妙なものを目にする。

「ナニコレ?」

空間に揺らぎらしきものが確認出来る。

「うーん…」

よく観察すると、その揺らぎは球状になっている事が分かった。

「触ってみよう…」

アルは人差し指で、その揺らぎに触れた。

「あ…」

瞬間、アルの姿はそこから消えた。



「え?ここは…」

アルは周りを見回す、白い世界。

アルの方が転移させられた。

「何にもない…いや、気配はある、魔獣かなぁ」

魔獣らしい反応が、アルの五感に引っ掛かる。

「取り敢えず、行ってみますか」


「いた、なんかいる」

アルの目の前に現れたのは、四足歩行の獣型の魔獣。

身体が獅子、顔は人間、尾はサソリと言った見た目だ。

「気味悪!」

アルを視認して、その気味悪い生物が咆哮した。

金管楽器を混ぜ合わせたような、不快な音だった。

「うるさい…」

アルは漆黒の長い鎖で繋がれた、二本の短剣を構えた。

気味悪い生物は、アルに向かい走り出す。

真っ直ぐ流星牙(メテオファング)の片方を投げつけた。

音速を超えるそれを、器用に前足を踏ん張り躱す気味悪い生物。

「ふむ」

鎖を引くと同時に、反対側の短剣を投げつける。

一瞬ピンと張った鎖は、気味悪い生物の足に絡みついた。

「そい!」

動きの止まった気味悪い生物の顔面を、アルの右拳が撃ち抜いた。

一撃で絶命した気味悪い生物は、粒子となり宙に舞った。

魔獣を倒すと空間にヒビが入り、ガラスが砕けるように弾けた。


景色が切り替わる、急に闇に包まれる。

「外だ、どこだろう?ここは…元の場所じゃない…?」

アルは再び辺りを見回すが、やはり別空間に入った場所ではなくなっていた。

「あっちに建物が見える…行ってみますか」

遠くに大きな建物が見えた。


「ほほう、デカい城ですな」

見上げる城は不自然な程、外壁が黒く染まっていた。



「これは?」

東壁の捜索を続けていたリイアが、何かに気がついた。

「お嬢!下がって下さい!」

ジルがリイアを下がらせる。

リイアが見つけた揺らぎが、急速に膨張する。

更に光を放つ球体へと変わる、そこから何かが現れた。

「え?」

「は?」

「それは?」

一人の少女がいた。

揺らぎから現れた少女の左の小脇には、何かの像が抱えられていた。

「もしや、それはエンズの像では?」

大量に汗を流し出す少女。

「なんでこんな所に人がいるのよ!」

「なんでこんな所に盗人がいるのよ!?」

「盗人って…もういいわ!」

少女が突然リイアに、右手に持っていた細剣で斬りかかる。

「ちょっと!」

咄嗟に懐からスタッフを抜き、細剣を受け流すリイア。

金属のぶつかり合う音が鳴り、闇夜に火花が飛び散る。


ジルが助太刀しようとすると、後ろから衝撃を受ける。

「アカリに手は出させない」

夜金師の団長ムツミが、副長アカリを助ける為に駆け付け、ジルの背中に打撃を与えたようだ。

「窃盗を見逃す訳にはいきません」

振り向いたジルの緑眼が光る。

超大剣を抜き、それを片手で構える。

「馬鹿力ね」

そう言うとムツミも片手剣を構えた。


「本当にやるつもりですか?」

「副長を見捨てる訳にはいかないのよ!」

「それが犯罪者でも?」

「そうよ」

即答だった。

「では、制圧させて貰います」

超重量の剣を持っているとは思えない速度で、ムツミに迫るジル。

「くっ!」

ムツミは横にステップして躱そうとするが、超大剣の攻撃範囲から逃れるのは難しい。

「それでも!」

ジルの横薙ぎを、地面に伏す事でやり過ごしたムツミ。

即座に立ち上がり、片手剣をジルへ上から下へ叩き付ける。

ジルに剣を戻す時間はない、鎧の腕部分で受け流そうとするジル。

「もらった!!」

片手剣がジルの腕部分に当たった瞬間。

「この程度の斬撃では…!?」

爆発音と共に炎が吹き荒れた。

「やった…?」

爆発が収まると、何事もなくジルが立っていた。

「いやぁ、油断しました、ファイアエッジとは恐れ入ります、ですが…」

「化け物…」

「自分の防御を打ち砕くまでにはいきませんね、降参してください」

「なにを…そんな事…」

「降参しなさい!」

ジルの語気が強くなる。

「アカリはあの金髪の子を倒すわ」

どうみてもリイアは、戦闘職には見えない。

アカリは戦闘職なので、簡単に勝てそうに思えた。

「あの状態からどうやって?」

しかし。

「あの状態…?」

自身の戦闘に集中しすぎて、周りが見えていなかった。

背中が熱い、赤く後ろが光っている。

「私のファイアエッジじゃない!」

咄嗟に振り向くと、アカリは炎に囲まれていた。

「アカリ!!」

「降参する?」

『久しぶりだね、リイア』

「すっかり忘れててゴメンね」

『それは言わなくても良かったんじゃないかな』

リイアの肩に止まっているサラマンダーが肩を落とす。

「まさか、従魔がいるとは…勝てない…もう無理…」

ムツミとアカリは武器を捨て降参した。


「どこに行ったと思ってたら、何やってんのよアンタ!」

ムツミは、アカリを思い切り殴り飛ばした。

それを静観する二人。

「アンタ、アレ、忘れたとは言わせないわよ!」

涙目のムツミは、裏返る声でそう叫んだ。

リイアとジルには分からない、二人の歴史があるのだろう。

泣き崩れるアカリ、転がるエンズの像。

「わかんないのよ…何で…何をしたの私?」

「………」

「何処から記憶がなくなったか、最後の記憶は分かりますか?」

ジルが優しくアカリに問いかけた時、異変が起きた。



転がるエンズの像、辺り一帯の空気が震えた。

「お二人共お疲れさん」

エンズの像を拾う女、この台詞から十中八九アカリを操った人物と同一人物だと分かる。

奇妙な格好をした女、短髪の黒髪だが、前髪は長く伸ばして、その両目は窺えない。

身体は白いローブで包まれて見えない。

「シンエ、それがそうなの?」

そう問いかけたのは、赤髪をツインテールにした少女。

赤い仮面を被り、黒のローブを纏っている。

「そうよ、トワ、これがエンズの像よ」


「あなた達は…?」

ジルが見知らぬ女に声をかける。

「ん?あぁ、あたい達は黒い7(アビスナイトメア)

「また…なの」

リイアが顔を青くする。

「何が、目的なのですか?」

「さあ?皆に聞いてみて」

シンエと呼ばれた女は、両手を広げ横にはける。

彼女の後ろから、人影が次々と表れた。


集結する黒い7(アビスナイトメア)

内二人は何故か薄汚れていた。


紅髪紅眼のラウラ。

「妾の目的か?凡人には分かるまい」

紅色の軍服を着た妖艶な女は、上から目線で吐き捨てる。


茶髪茶眼のナラコ。

「あちしは、新たな神を創る事かな」

どこからか取り出した、スナック菓子の袋を開けるナラコ。


赤髪赤眼のリンナ。

「うちは、死者の国を創りたいんよ」

リンナの爛々と輝く目に、狂気を感じる。


濃茶毛の猫人ミミ。

「ミミはねー、全てをぶっ壊したいの!」

ちょろちょろ動き回る子猫人。

頭部は完全に猫、身体が人間。


黒髪青眼のカグヤ。

「我は…どうしたいんだろうな」

何故か首を傾げるカグヤ。


そして、銀髪、赤い仮面の少女トワ。

「ああ、ボクはパスね」


黒髪、眼は前髪で隠れて見えないシンエ。

「目的ね、あたいの種族を頂点の存在にしたいのさ」

全員バラバラ、それが余計に怖さを増幅させる。

「教えてくれるんだ…」

素直に目的を教えてくれるあたり、悪い奴とは思えないが、目的が目的だけにおぞましい。


「悪いがエンズはもらってくよ」

シンエから、不気味な気配が湧き出る。

「かなりズレてしまっているからね、無理矢理にでも愚者の記録(アレフレコード)通りにさせてもらう」


「何の…事を?」

ジルとリイアには分からない世界。

「世界を正しい姿にするって事さ」

殺気と圧力が場を包み込む。

「お二人は逃げてください」

震えるムツミとアカリに囁くジル。

「え?なんで…」

「わかりませんか?自分達にすら敵わないあなた達では、あの強者と渡り合えません」

「私とジルですら、敵わないかもしれないの」

目を伏せるリイア。

「犯罪者を逃がすっての?」

「えぇ、何だったら町を捨てて逃げても構わないですよ」

「でも、なるべく住人も連れて行って欲しいかな?」

「なんで!?あんた達は他人の為に死ぬつもりなの!!?」

「あっさり死ぬつもりはないですが、これが騎士の矜持、そして司祭の宿命と言ったところですかね」

死地に向かうにも関わらず、ジルは微笑みを作った。

「何なのよ!」

「早く行きなさい!!」

リイアが珍しく語気を荒げる。

「我々では足止めが精一杯ですからね」

ムツミとアカリは一瞬躊躇するが、目を見合わせると走り出した。


「さて、貴方がたは何がしたいのですか?」

ジルが七人に話し掛ける。

「言ったろ、世界を正しい姿にするんだよ」

「どうやら、分かり合えないようですね…」

ため息を吐くジル。


「ふん、妾と戦うと?」

「正直、やりたくはないですけどね」

ジルは素直な気持ちを言う。

目の前にいる全身紅色の女ラウラ、ジルとリイアは、この女が巨人の超害獣、ヘカトンケイルをお仕置する力を持っている事を知っている。

「素直な奴は嫌いではない、よし、妾は観戦に専念するとしよう」

背を向け壁際へ移動すると、腕を組みもたれ掛かるラウラ。

「あれ?勝手に戦線離脱されたら困るのにゃ」

手足をバタつかせるミミ。

「問題なかろう、この小物相手だ」

鼻を鳴らすシンエ。

「それもそうなのにゃあ」


「まぁいい、とっとと殺るぞ」

「腹減ったし、眠いから、あちしもパス…はぁ」

ナラコはその場に座りこむ。

「…勝手な奴ばかりだな」

嘆息するシンエ。

「あたい達二人で充分だよ、行くよ、ミミ」

「はぁい、やっつけるのにゃ!」

元気良く手を挙げるミミ。

飛び出すシンエとミミ。


他の五人は動かない。

構えるジルとリイア。

「え?」

スルッと影に潜るシンエ。

「お嬢!」

リイアの後ろの影から現れたシンエは、タックルで吹き飛ばす。

「ぐっ!!」

苦悶の声を漏らすリイア。

「あたいは誰にも捕らえられないよ」

三m程飛ばされ、壁に叩きつけられ瞬時に無力化されるリイア。

「いっちょ上がり」

リイアは意識を失った。

「余所見すると怪我するのにゃ!」

小学生低学年程の体格のミミが、ジルへドロップキックをする。

「えい!」

「ぐあ!!」

まともに喰らい、真後ろに数m飛ばされ、膝をつくジル。

「なんでパワーだ…」

ジルの鎧の胸元が、足型に凹んでいた。

「強すぎる…」

相手はまだ、何のスキルも使っていない。

使わずに一瞬で制圧されてしまった。

「打開策は…考えろ…考えろ」


「待たせたなぁ!」

なす術のないジルとリイアに、助太刀が現れる。

上半身裸の傭兵達が現れた、祭気分が抜けていない。

場違いにも程がある集団三十人。

「え?」

ムツミとアカリが呼びに行っていたのだ。

「俺らでも、少しくらいは役に立てるだろう?」

親指を上げて、片目を瞑るお祭り男。

「そんなレベルじゃない!早く住民達を避難させるんだ!」

「なんだよ?女が七人…こっちは三十人はいるんだぜ」

「数の問題では…」

ジルの目の前から、上半身裸の男が消えた。

「ぐはっ!!」

いつの間にか、上半身裸の男は地面に叩きつけられていた。。

喀血し意識を刈り取られる。

「言わんこっちゃない…」と頭を抱えるジル。

ほんの一分程で、町の傭兵達は全員敗れ去った。

不幸中の幸いか、今はまだ死人は出ていない。


「よく頑張った方だが」

シンエもミミも息一つ乱さず、汗一つかかずに、場は制圧された。

「やったのにゃー」

残るのはジルだけ。

「ここまでだね」

そう、宣言するシンエだった。

「いや、まだ楽しめそうだぞ」

ラウラは指を差し嗤った。

「なに?」


「生きてっか!二人共!」

その時、橙髪の少年が、颯爽と表れたのだった。

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