集結
ラインハルト達を待ってる間、暇だったアルは、筋トレをしていた。
「99、100」
一先ず100回腕立て伏せをやった頃、またしても空気の揺らぎを感じた。
その方角に視線をやる。
「また、誰か転移してくるのかな?」
そう思い待っていたが、一向に現れる気配はない。
「行ってみよう」
暇つぶしだった。
気配の方へと向かったアルは、奇妙なものを目にする。
「ナニコレ?」
空間に揺らぎらしきものが確認出来る。
「うーん…」
よく観察すると、その揺らぎは球状になっている事が分かった。
「触ってみよう…」
アルは人差し指で、その揺らぎに触れた。
「あ…」
瞬間、アルの姿はそこから消えた。
「え?ここは…」
アルは周りを見回す、白い世界。
アルの方が転移させられた。
「何にもない…いや、気配はある、魔獣かなぁ」
魔獣らしい反応が、アルの五感に引っ掛かる。
「取り敢えず、行ってみますか」
「いた、なんかいる」
アルの目の前に現れたのは、四足歩行の獣型の魔獣。
身体が獅子、顔は人間、尾はサソリと言った見た目だ。
「気味悪!」
アルを視認して、その気味悪い生物が咆哮した。
金管楽器を混ぜ合わせたような、不快な音だった。
「うるさい…」
アルは漆黒の長い鎖で繋がれた、二本の短剣を構えた。
気味悪い生物は、アルに向かい走り出す。
真っ直ぐ流星牙の片方を投げつけた。
音速を超えるそれを、器用に前足を踏ん張り躱す気味悪い生物。
「ふむ」
鎖を引くと同時に、反対側の短剣を投げつける。
一瞬ピンと張った鎖は、気味悪い生物の足に絡みついた。
「そい!」
動きの止まった気味悪い生物の顔面を、アルの右拳が撃ち抜いた。
一撃で絶命した気味悪い生物は、粒子となり宙に舞った。
魔獣を倒すと空間にヒビが入り、ガラスが砕けるように弾けた。
景色が切り替わる、急に闇に包まれる。
「外だ、どこだろう?ここは…元の場所じゃない…?」
アルは再び辺りを見回すが、やはり別空間に入った場所ではなくなっていた。
「あっちに建物が見える…行ってみますか」
遠くに大きな建物が見えた。
「ほほう、デカい城ですな」
見上げる城は不自然な程、外壁が黒く染まっていた。
「これは?」
東壁の捜索を続けていたリイアが、何かに気がついた。
「お嬢!下がって下さい!」
ジルがリイアを下がらせる。
リイアが見つけた揺らぎが、急速に膨張する。
更に光を放つ球体へと変わる、そこから何かが現れた。
「え?」
「は?」
「それは?」
一人の少女がいた。
揺らぎから現れた少女の左の小脇には、何かの像が抱えられていた。
「もしや、それはエンズの像では?」
大量に汗を流し出す少女。
「なんでこんな所に人がいるのよ!」
「なんでこんな所に盗人がいるのよ!?」
「盗人って…もういいわ!」
少女が突然リイアに、右手に持っていた細剣で斬りかかる。
「ちょっと!」
咄嗟に懐からスタッフを抜き、細剣を受け流すリイア。
金属のぶつかり合う音が鳴り、闇夜に火花が飛び散る。
ジルが助太刀しようとすると、後ろから衝撃を受ける。
「アカリに手は出させない」
夜金師の団長ムツミが、副長アカリを助ける為に駆け付け、ジルの背中に打撃を与えたようだ。
「窃盗を見逃す訳にはいきません」
振り向いたジルの緑眼が光る。
超大剣を抜き、それを片手で構える。
「馬鹿力ね」
そう言うとムツミも片手剣を構えた。
「本当にやるつもりですか?」
「副長を見捨てる訳にはいかないのよ!」
「それが犯罪者でも?」
「そうよ」
即答だった。
「では、制圧させて貰います」
超重量の剣を持っているとは思えない速度で、ムツミに迫るジル。
「くっ!」
ムツミは横にステップして躱そうとするが、超大剣の攻撃範囲から逃れるのは難しい。
「それでも!」
ジルの横薙ぎを、地面に伏す事でやり過ごしたムツミ。
即座に立ち上がり、片手剣をジルへ上から下へ叩き付ける。
ジルに剣を戻す時間はない、鎧の腕部分で受け流そうとするジル。
「もらった!!」
片手剣がジルの腕部分に当たった瞬間。
「この程度の斬撃では…!?」
爆発音と共に炎が吹き荒れた。
「やった…?」
爆発が収まると、何事もなくジルが立っていた。
「いやぁ、油断しました、ファイアエッジとは恐れ入ります、ですが…」
「化け物…」
「自分の防御を打ち砕くまでにはいきませんね、降参してください」
「なにを…そんな事…」
「降参しなさい!」
ジルの語気が強くなる。
「アカリはあの金髪の子を倒すわ」
どうみてもリイアは、戦闘職には見えない。
アカリは戦闘職なので、簡単に勝てそうに思えた。
「あの状態からどうやって?」
しかし。
「あの状態…?」
自身の戦闘に集中しすぎて、周りが見えていなかった。
背中が熱い、赤く後ろが光っている。
「私のファイアエッジじゃない!」
咄嗟に振り向くと、アカリは炎に囲まれていた。
「アカリ!!」
「降参する?」
『久しぶりだね、リイア』
「すっかり忘れててゴメンね」
『それは言わなくても良かったんじゃないかな』
リイアの肩に止まっているサラマンダーが肩を落とす。
「まさか、従魔がいるとは…勝てない…もう無理…」
ムツミとアカリは武器を捨て降参した。
「どこに行ったと思ってたら、何やってんのよアンタ!」
ムツミは、アカリを思い切り殴り飛ばした。
それを静観する二人。
「アンタ、アレ、忘れたとは言わせないわよ!」
涙目のムツミは、裏返る声でそう叫んだ。
リイアとジルには分からない、二人の歴史があるのだろう。
泣き崩れるアカリ、転がるエンズの像。
「わかんないのよ…何で…何をしたの私?」
「………」
「何処から記憶がなくなったか、最後の記憶は分かりますか?」
ジルが優しくアカリに問いかけた時、異変が起きた。
転がるエンズの像、辺り一帯の空気が震えた。
「お二人共お疲れさん」
エンズの像を拾う女、この台詞から十中八九アカリを操った人物と同一人物だと分かる。
奇妙な格好をした女、短髪の黒髪だが、前髪は長く伸ばして、その両目は窺えない。
身体は白いローブで包まれて見えない。
「シンエ、それがそうなの?」
そう問いかけたのは、赤髪をツインテールにした少女。
赤い仮面を被り、黒のローブを纏っている。
「そうよ、トワ、これがエンズの像よ」
「あなた達は…?」
ジルが見知らぬ女に声をかける。
「ん?あぁ、あたい達は黒い7」
「また…なの」
リイアが顔を青くする。
「何が、目的なのですか?」
「さあ?皆に聞いてみて」
シンエと呼ばれた女は、両手を広げ横にはける。
彼女の後ろから、人影が次々と表れた。
集結する黒い7。
内二人は何故か薄汚れていた。
紅髪紅眼のラウラ。
「妾の目的か?凡人には分かるまい」
紅色の軍服を着た妖艶な女は、上から目線で吐き捨てる。
茶髪茶眼のナラコ。
「あちしは、新たな神を創る事かな」
どこからか取り出した、スナック菓子の袋を開けるナラコ。
赤髪赤眼のリンナ。
「うちは、死者の国を創りたいんよ」
リンナの爛々と輝く目に、狂気を感じる。
濃茶毛の猫人ミミ。
「ミミはねー、全てをぶっ壊したいの!」
ちょろちょろ動き回る子猫人。
頭部は完全に猫、身体が人間。
黒髪青眼のカグヤ。
「我は…どうしたいんだろうな」
何故か首を傾げるカグヤ。
そして、銀髪、赤い仮面の少女トワ。
「ああ、ボクはパスね」
黒髪、眼は前髪で隠れて見えないシンエ。
「目的ね、あたいの種族を頂点の存在にしたいのさ」
全員バラバラ、それが余計に怖さを増幅させる。
「教えてくれるんだ…」
素直に目的を教えてくれるあたり、悪い奴とは思えないが、目的が目的だけにおぞましい。
「悪いがエンズはもらってくよ」
シンエから、不気味な気配が湧き出る。
「かなりズレてしまっているからね、無理矢理にでも愚者の記録通りにさせてもらう」
「何の…事を?」
ジルとリイアには分からない世界。
「世界を正しい姿にするって事さ」
殺気と圧力が場を包み込む。
「お二人は逃げてください」
震えるムツミとアカリに囁くジル。
「え?なんで…」
「わかりませんか?自分達にすら敵わないあなた達では、あの強者と渡り合えません」
「私とジルですら、敵わないかもしれないの」
目を伏せるリイア。
「犯罪者を逃がすっての?」
「えぇ、何だったら町を捨てて逃げても構わないですよ」
「でも、なるべく住人も連れて行って欲しいかな?」
「なんで!?あんた達は他人の為に死ぬつもりなの!!?」
「あっさり死ぬつもりはないですが、これが騎士の矜持、そして司祭の宿命と言ったところですかね」
死地に向かうにも関わらず、ジルは微笑みを作った。
「何なのよ!」
「早く行きなさい!!」
リイアが珍しく語気を荒げる。
「我々では足止めが精一杯ですからね」
ムツミとアカリは一瞬躊躇するが、目を見合わせると走り出した。
「さて、貴方がたは何がしたいのですか?」
ジルが七人に話し掛ける。
「言ったろ、世界を正しい姿にするんだよ」
「どうやら、分かり合えないようですね…」
ため息を吐くジル。
「ふん、妾と戦うと?」
「正直、やりたくはないですけどね」
ジルは素直な気持ちを言う。
目の前にいる全身紅色の女ラウラ、ジルとリイアは、この女が巨人の超害獣、ヘカトンケイルをお仕置する力を持っている事を知っている。
「素直な奴は嫌いではない、よし、妾は観戦に専念するとしよう」
背を向け壁際へ移動すると、腕を組みもたれ掛かるラウラ。
「あれ?勝手に戦線離脱されたら困るのにゃ」
手足をバタつかせるミミ。
「問題なかろう、この小物相手だ」
鼻を鳴らすシンエ。
「それもそうなのにゃあ」
「まぁいい、とっとと殺るぞ」
「腹減ったし、眠いから、あちしもパス…はぁ」
ナラコはその場に座りこむ。
「…勝手な奴ばかりだな」
嘆息するシンエ。
「あたい達二人で充分だよ、行くよ、ミミ」
「はぁい、やっつけるのにゃ!」
元気良く手を挙げるミミ。
飛び出すシンエとミミ。
他の五人は動かない。
構えるジルとリイア。
「え?」
スルッと影に潜るシンエ。
「お嬢!」
リイアの後ろの影から現れたシンエは、タックルで吹き飛ばす。
「ぐっ!!」
苦悶の声を漏らすリイア。
「あたいは誰にも捕らえられないよ」
三m程飛ばされ、壁に叩きつけられ瞬時に無力化されるリイア。
「いっちょ上がり」
リイアは意識を失った。
「余所見すると怪我するのにゃ!」
小学生低学年程の体格のミミが、ジルへドロップキックをする。
「えい!」
「ぐあ!!」
まともに喰らい、真後ろに数m飛ばされ、膝をつくジル。
「なんでパワーだ…」
ジルの鎧の胸元が、足型に凹んでいた。
「強すぎる…」
相手はまだ、何のスキルも使っていない。
使わずに一瞬で制圧されてしまった。
「打開策は…考えろ…考えろ」
「待たせたなぁ!」
なす術のないジルとリイアに、助太刀が現れる。
上半身裸の傭兵達が現れた、祭気分が抜けていない。
場違いにも程がある集団三十人。
「え?」
ムツミとアカリが呼びに行っていたのだ。
「俺らでも、少しくらいは役に立てるだろう?」
親指を上げて、片目を瞑るお祭り男。
「そんなレベルじゃない!早く住民達を避難させるんだ!」
「なんだよ?女が七人…こっちは三十人はいるんだぜ」
「数の問題では…」
ジルの目の前から、上半身裸の男が消えた。
「ぐはっ!!」
いつの間にか、上半身裸の男は地面に叩きつけられていた。。
喀血し意識を刈り取られる。
「言わんこっちゃない…」と頭を抱えるジル。
ほんの一分程で、町の傭兵達は全員敗れ去った。
不幸中の幸いか、今はまだ死人は出ていない。
「よく頑張った方だが」
シンエもミミも息一つ乱さず、汗一つかかずに、場は制圧された。
「やったのにゃー」
残るのはジルだけ。
「ここまでだね」
そう、宣言するシンエだった。
「いや、まだ楽しめそうだぞ」
ラウラは指を差し嗤った。
「なに?」
「生きてっか!二人共!」
その時、橙髪の少年が、颯爽と表れたのだった。




