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アルブス  作者: シバザキアツシ
旅立ち

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3/21

クマさんに出会った

よく晴れた気持ち良い朝だった。

風もとても気持ち良い、道案内なんかしないで丘の上でお昼寝したいと思うアル。

木々の隙間から光が落ち、森は生き生きと輝いていた。

後ろに付いてきている二人の金髪も、キラキラと陽光を反射している。

僕の髪は真っ黒なので、そんなに反射しない。

決して羨ましい訳では無い。


「アルは前髪で右目を隠してるけど、酷い傷でもあるの?」

リイアは、【疑問を直ぐに口にするタイプ】らしい。

「そんなもんです、見ない方がいいですよ、危ないから」

「危ない?」

ふと、不意に強烈な獣臭が漂って来た。

「下がって下さい!」

異常事態を感じ取り、ジルが二人の前へ出る。

「クマさんだ」

久しぶりに見た熊に、無表情だけどちょっとテンションが上がる僕。

「でかいですねぇ…」

皆で熊を見上げた。


クマさんは(いき)り立っていた。


クマと遭遇する少し前。

僕のじいちゃんの家を発った三人は、歩いて10分程で、この島唯一の森の前まで来ていた。

じいちゃんの家は、島の北東の海の側にある。

「はい、ここで選択です」

僕はくるりと振り返り、二人に問う。

「何よ突然、どういう事?」

リイアは形の良い細い眉を寄せて、当然の質問を口にする。

「ひとつ、この森に入って南に向かい、平地に出て西に向かって進むルートか」

僕は指を一つ立て、闘技場へのルートの説明をする。

一つ目は【東ルート】。


「もう一つは森に入って西に向かい、昨日僕が筋トレしていた丘を登り、更に西に向かい、その後南の川を渡って、闘技場に入るルートかの二択になります」

「どっちのルートがおすすめなの?」

「おすすめと言う言い方は、少し違うかと…」

ジルは困惑している。

「森には危険な魔獣が多いので、直ぐに抜ける【西ルート】が安全ではある」

「ではある?」


「森を長く南下すれば、半分の時間で闘技場に着くけど、魔獣遭遇率は高まる」

僕は説明を終え、判断を二人に託す。

「どうするジル?」

リイアはジルに判断を伺う。

「時間が掛かっても、安全なルートにしましょう」

即答のジル。

「分かったわ」

リイアも即答だった。


その後、森に入ってすぐ、クマさんに出会った。

「安全なルートなのに、すぐに魔獣に遭遇とか…」

白目を剥くジルは、だらしなく空を仰ぐ。

「ですねぇ、【ついてない人】なんですね?」

僕はリイアの事をジト目でみる。

「そうですね…否定はできませんね」

目を伏せるジルは涙目だった、恐らく壮絶な船旅だったに違いない。

かわいそうに、彼に祝福あれと切に願う。

「うっさ…うっさいわ!うっさいわ!うっさいわ!」

リイアは顔を赤く染め抗議するが、時すでに遅し、一切の信用はない。

体長5mはあるだろう黒毛の熊は、こちらの様子を伺っている。

「普通の獣と魔獣って、どんな違いがあるの?」

こんな状況でも余り緊張感がないリイア、ジルはそれ程の手練れなのだろうか。

「単純にデカイし強いです」


森のクマ

魔獣

レベル35

HP1200

MP15

スキル∶噛みつき、引っ掻き、体当たり


「では、自分が【討伐】しますので、二人は下がって下さい」

ジルが剣を抜きながら、二人の前へと出る。

随分とデカイ剣だった。

しかし。

「僕がやりますよ」

「え、何で?」

「君はあの時、僕の心配をしてくれた…だから、守ってあげようと思って」

同年代の友や仲間がいないアルは、じいちゃん以外に心配された事がなく、それをしてくれたリイアに少なからず好感を持っていた。

「え?」

あの時…リイアは思い出した、アルが丘から飛び降りた時、死んじゃうかと思って叫んだ事を。

しかし、あれは心配したというよりは、驚いただけなんだが、とても言い出せるような雰囲気ではない。


ジルを遮り、僕は更に前へ出る。

「…ジル、彼の実力を知るいい機会よ、どんなスキルを持っているのか気になるし」

小声でジルに耳打ちするリイア。

「分かりました、彼が危なくなったら介入します」

リイアとジルは後ろへ下がった。

「お願い…」

僕は構えをとった。

二人は目を疑う。

「え?うそ」

「素手?」

ジルは、信じられないような物を見た様な顔をしている。

「スキル…」

クマさんとの距離は5m。

「出るわよ!」

その挙動を見逃さないように、ジルとリイアはしっかり目を見開く。

「【握る(グリップ)】」

僕は一瞬でクマの懐へ入り込み、一度腕を引き、右の拳を握る。

「は?」

クマの懐に入るまでのスピードが速すぎて、二人にはアルが瞬間移動したように見えた。

「【放つ(リリース)】!」

握った拳から、腕を前に伸ばし切り、中指を弾き出した。

クマの腹にクリーンヒットし、辺りに衝撃波が飛ぶ、皆の髪ははためき、草花は千切れ飛び、森の鳥は一斉に飛び立つ。

そのクマさんの腹から、鈍い音が響いた。

「ぐおぉおぉおおおお…」

「すごい音!え?【デコピン】!?」

クマは凄い勢いで、水平に北へと、木々をへし折りながら飛んでいった。

「ふぅ、討伐完了!」

僕は拳で額を拭った、拭うふりをした、汗はかいていない。


「いやいやいやいやいやいや!?」

「ん?どうしました?」

リイアがまた大声を上げる。

「それ、スキルって言います!?」

二人が僕に詰め寄り確認する。

レベル至上主義と共に、【スキル至上主義】が存在する、スキルを持ってない者は少数派なので馬鹿にされがちだ。

「ススス、スキルですけど、何か?」

何故か盛大に目が泳いでいる、やはり【ノースキル】なのかと疑う二人。

「…確かに、ただのデコピン一発でクマが飛んでいくなんて、通常考えられませんけど…けど!」

多少、デコピンとは指の形は違うのだが、それはこの際関係ない。

納得のいかないジルは渋面を作り、アルを追求しようとする。

「まぁ、いいじゃないですか、魔獣は居なくなったんだし、先を急ぎましょう、さ、さ!」

深掘りされる前に、僕は提案し勝手に先に歩き出す。

「アルの言う通りよ、一先ず先に進みましょう」

リイアはアルに同調して僕の後を追う。

「…分かりました」

渋々承諾するジル。

「では、付いてきて下さい」

その後三人は森を順調に進んだ。



「しつこい奴だな、ワシは隠居の身じゃ、ほっといてくれ」

僕達が出発した後、じいちゃんの家に来客があった。

その玄関前でのやり取り。

「頼みますよぉ、今や魔法に変わる【技術開発】は急務でして、その研究を進めたいらしいんです、その協力を是非とも!」

気持ち悪い笑顔の男、身長は高く筋肉質だが太っている様にも見える。

「ワシのは魔法じゃないと、何度も言っているじゃろ?研究しても何もでんわい!」

じいちゃんの家に勧誘にくる人物は、これで7人目。

「そのスキル…下さいよぉ!!」

そう言うと、男は懐から瓶を取り出し、中に入っている液体を一気に飲み干した。

「うへぇ…げふっ!」

投げ捨てた瓶が、地面で砕ける。

ボコっ、ボコと男の身体から、不快な音が鳴る。

男の身体は、急激に膨れ上がっていった。

「これは、まさか?」



「ところで、アルのステータスってどれくらいなの?」

先程のデコピンの威力で、アルのステータスが気になったリイア。

「僕は表示では、レベル4ですね」

「表示では?」

「それって、見せてもらえる?」

「まぁ、いいですけど」

ステータスは本人が許可すれば、他人に見えるように出来る。

「はい、どうぞ」

僕はステータスを呼び出した。

A4サイズの青色の、半透明の下敷きのような物が現れ、レイアの方へ向く。

「どれどれ」

そのA4サイズの下敷きに、ステータスが表示される。


名前∶アル=???

ジョブ∶???者


レベル∶004

HP∶0130

MP∶0090


固有スキル∶無限

パッシブスキル∶全圧縮、物理半減

スキル∶???

称号∶???

武具∶???

アイテム∶???


「なにこれ?」

「ステータスですが?」

僕は首を傾げる。

「そんな事は分かってんのよ!」

何故かリイアに怒られてしまった。

「頭に0が付くのは、初めて見るわね…そして殆ど?じゃない」

後ろから覗き込むジルが呟く。

「それと、アル殿の名前は?」

今度はジルは首を傾げる。

「アルとしか聞いてないけど?特に必要なかったし」

僕は自分の名前に対して愛着はない。

「そうですか…」

それでも通常は、ステータスに勝手に反映されるはずなのだが、それはジョブも同様に。

「お爺様と同じ名ではないの?」

「じいちゃんとは、血が繋がってないから違う名だよ」

「ふむふむ、そうなのね」

それ以上は、突っ込んで聞かないのがリイア。

「何らかの【バグ】か【呪い】ですかね?」

ジルは顎に手を当て考え込む。

「呪いとか、怖いことを、いいい、言わないで下さいよ」

僕はカタカタカタと震えだした。

「そんなに怖がらなくても、特に体調が変とかないんですよね?」

ジルは僕に優しく言う。

「な、なななな、無いです、無いですね…」

一つ長く息を吐くと、僕の震えは止まった。

ホント怖い事は勘弁して欲しい。

「何にせよ、レベル4でHP130とか、【規格外】ね」

通常、レベル一桁であれば、HPやMPは二桁程である。

「そうなんですか、もういいですか?」

ここに留まるのは良くないと先を促すアル。

「あ、ありがとう、もういいわ」

僕はステータス画面を消す。

「それじゃ、進みましょう」

「………」

(この少年、何かおかしい)

心の中で言うにとどめるジルだった。



醜く異様に膨れ上がった身体は、ギリギリ人型を保っていると言ってよかった。

両手から魔獣のような爪が生えていた。

「もしや、【魔薬】か?」

「ふふ、どうカな?手に入らヌ、力であれば、死体でも良いとイう依頼だ、素直に従っておくべキだったなぁ」

声も低く太い声に変わっていた。

「依頼ねぇ、ふん、そんな変身でわしに敵うつもりかね?」

「ほざイてろ!」

【異形の者】は、鋭くじいちゃんの懐へ入ろうとする。

醜い見た目と違い素早い。

ガキンと、何かが異形の者の爪を防いだ。

「お爺様は、下がっていて下さい」

「ヤーツ殿?」

従者の一人、ヤーツのアルに砕かれた(勝手に砕けた)拳は、じいちゃんによって、完全に回復されていた。

「ワタシも騎士の端くれだ、守る事が仕事なのだよ」

剣を構え直すヤーツは異形の者へ吼える、【騎士の矜持】であった。

「しっ!」

ヤーツの剣が一閃。

「しっ!」

ニ閃。

「そんなモの…あレ?」

異形の者の身体は、十字に斬り裂かれ、そのまま後ろへ倒れ動かなくなった。

「ヤーツ殿、助かりました、意外と強いんじゃな?」

随分と【斬れの良い剣】である。

「意外と…は、余計ですが」

異形の者は絶命した事で、急速に元の身体へ戻っていった。

「なんなんだコレは?」

「以前、一度だけこう言う症例を見たことがあります、この魔薬、恐らく【サタンブレス】ですね」

剣を納め、乱れた髪を胸元から取り出した【コーム】で撫でつけながらヤーツは呟いた。

「なんだって!?」

その時、家の外壁から爆発音が鳴った。

「今度はなんじゃ!?」



アル達は無事森を抜け、丘へと登っていた。

「登る必要はあるの?迂回したらダメなの?」

息を切らせながら、アルについて行くリイアは訊ねる。

「丘の下は朝から昼に掛けて、犬型の魔獣がけっこういるんで」

「あぁ、なる程それで」

合点がいった二人は、その後は黙ってアルの後を追う。

「はい、頂上で一息つきましょう」

「そうね、正直ありがたいわ」

頂上に着いたとき、レイアとジルは腰を抜かす事になる。

【疑問を直ぐに口にするタイプ】

近くに居られると、正直めんどくさい…。


【東ルート】

長く森を南下するルート。

魔獣に出会う可能性が高いが、早く闘技場に着く。


【西ルート】

直ぐに森を抜け、西に平原へ出るルート。

魔獣に出会う可能性は低いが、闘技場に着くのに時間が掛かる。


【ついてない人】

何をやっても裏目に出るタイプ。

これまた、近くに居られるとめんどくさい。


【討伐】

退治する事。

魔獣を倒し、討伐証明部位をある所へ持っていくと換金出来る。


【握る】

握り込む事。


【放つ】

放つ事。

投げる事。


【デコピン】

中指を親指で押さえて、反動を使い中指を放つ攻撃の事。

アルの場合少し指の形が違う。


【ノースキル】

スキルを持たない者の事を指す。

蔑称。


【技術開発】

魔法に代わる力を探求している機関があるという。

魔法の代替の能力の仮説は存在するが、未だに不明な所が多く、遅々としている。


【バグ】

プログラムやシステムに存在する、欠陥や誤りの事。

ステータスは、神の与えしシステムである。


【呪い】

呪術、簡単に説明し辛いが個人を攻撃するもの。

呪いを喰らうと、体調が悪くなったり、最悪死亡することもある。

呪いを弾かれると、術者に跳ね返ってくる。

二種類あるらしい。


【規格外】

通常の枠を超えた存在の事。

アルはそれを、遥かに超えた存在と思われる。


【魔薬】

複数種類があり、それぞれに致命的な副作用がある。

当然違法である。

しかし、製造方法は不明で、どこの誰が流通させているか分かっていない。


【異形の者】

ヒトにも動物にも存在する、通常の姿形と違う存在の事。


【騎士の矜持】

騎士とは戦うものではなく、何かを守る者の事らしい。


【斬れ味の良い剣】

ヤーツの持つ剣は、刃の部分がミスリルで作られている。


【サタンブレス】

魔薬の一種、一時的に能力を劇的に上げる事が出来る。

使用後の副作用が酷く、使われる事は稀である。

当然違法である。


【コーム】

ヤーツの前髪を整える物。

七三命らしい。

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