瘴気
守りの民のマルコム=ロッダは、既に公国に依頼され、死の森へと赴いていた。
依頼した人物は、シン=マルクナス。
この国の三大貴族の一つ、公爵マルクナス家の当主、出来る男だ。
マルコムは王骸へと向う途中、一人下を向くラインハルトと出会った。
「おや、君はこんな所で何をしてるんだい?」
ゆっくりと、声の方を向くラインハルト。
その目に止まったのは、細身で長身の、肌が浅黒い男だった。
「…いや、ちょっと反省してただけだ」
首を振り、情けない自分を消し飛ばすラインハルト。
「?」
「あんたはもしかして、マルコムさん?」
「そうだ、何故君は私の事を知っているんだい?」
「ボラック=イストに聞いたんだよ」
「ほう、どうして?」
マルコムは目を細める。
「王骸の結界を張り直してもらおうと思ってさ」
「君に言われなくともそうする予定だったさ、公国から直々に依頼されてね」
「うぉ、マジかよ…とんだ無駄な…」
ラインハルトが、話の途中で突然動きを止めた。
「どうしたんだい?」
「無駄じゃなかったみてぇだな」
無理矢理口角を上げ、ラインハルトは再びダガーを抜いた。
周りに狼型の魔獣が集まって来ていた。
「近くにいろよ、守りきれねぇからな」
「わ、わかったよ」
突然の魔獣の襲来に、青褪めるマルコムだった。
ボラックにマルコムの居場所を聞き、合流する為に移動するアルだが、妙な気配に立ち止まる。
「振動…してる?」
気をつけないと分からない程、微細な振動、この振動にアルは心当たりがあった。
「ラップスで、トワが消える時にも感じたやつだ」
つまり、これは魔法陣の起動の振動だった。
「誰かが来る?」
一瞬空気の振れる感覚がある。
地面が光っている。
恐らく魔法陣から現れたのだ。
既に剣を構えた長髪の女性が、突如アルに斬りかかる。
数ミリ動いて難なく躱すアル。
「なんですか、あなたは?」
バックハンドブローを返すアル。
女性も躱すが、アルの拳に当たった髪が弾け飛んだ。
「我は黒い7が一人、カグヤだ、そなたは?」
黒髪をポニーテールにした細身の女性、袴を履き、剣を構えている。
「また出た、変態赤仮面の次は、女侍か…まぁ、いいですけどね、僕はアルです」
剣より刀の方がしっくりくるのにと、緩い事を考えているアル。
「アル…か、殺すには惜しい気もするが、今、元老院に復活されると困るのでな、済まないが斬らせてもらう」
「ちょっと何言ってるか分からないですけど、僕を殺すのは無理ですよ」
「そうか」
女侍カグヤは、瞬時にアルの懐へ入り込み、下から上へ斬り上げる。
またしても、数ミリ動いて躱す。
返す刀で袈裟斬りにするカグヤ。
しかし、既にそこにはアルの姿はない。
カグヤは気が付いて振り向くと、その瞬間、腹に前蹴りが飛んでくる。
咄嗟に剣の腹で受け止めるが、衝撃は逃せず。
「ぐぁ!!」
カグヤは水平に飛んでいく、木々を折りながら。
五本目の木でようやく止まった。
前のめりに倒れて喀血するカグヤ。
「生きてますか?僕を殺すのではなかったのですか?」
冷たい目でカグヤを見下ろすアル。
「そんな…馬鹿な…」
そんなアルの事すら、目に入ってないかのように、剣を見つめるカグヤ。
「なんなんですか?」
「剣に…ヒビが入って…る」
「そりゃ、ヒビくらい入るでしょ、僕の蹴りがマトモに入ったんだから」
「…!これは!デュランダルなんだぞ!!不壊の剣なんだ!」
「でも、壊れてますよ、壊れない剣なんてこの世にないでしょ」
「くっ!」
女侍カグヤは懐から出した玉を地面に叩きつけた。
「?」
強烈な閃光が木々を照らし、濃い影を刻む。
光が収まった時には、カグヤは消えていた。
「逃げた、まぁ、いいけど…」
実は、アルに強烈な光は効かない、ウィルオーウィスプとの修行で光属性の攻撃やスキルは、一切無効化されるのだ。
「最後に一発、剣にデコピン当てたけど、なんか折れる感覚あった気がするけど、まぁいいか」
アルは当初の目的を思い出し走り出した。
アルと合流した、ラインハルトとマルコムは、アルを王骸に留め、二人は瘴気の発生源へと急いだ。
マルコムによると、瘴気が濃すぎるらしい。
その原因が知りたいらしい、既に簡易的な結界を王骸に張ってあるようだった。
「…また、置いていかれた」
これで黒い7は四人現れた事になる、名の通りだと、あと三人という事になる。
二人は瘴気の発生源に辿り着いた。
地に口を開ける大穴、直径十m程。
ラインハルトの目には瘴気は見えないが、マルコムにはハッキリ見えているようだった。
「うん、特にそれ程の異常はないね、ここにも結界を張っておこう」
閉じ込めるといっぱいになった時爆発するので、網のような結界を張り、その速度を遅くする。
「じゃあ、何で瘴気が濃かったんだよ」
しゃがみ込み、結界を張りながら考察するマルコム。
「恐らく、ここだけじゃない」
「は?」
言葉の意味が、理解出来ないラインハルト。
「人工的な瘴気を生み出す装置、それを仕掛けた者がいる」
「やべぇな、その装置も見つけねぇとな」
「いや、既に撤去済みだと思うよ」
「その心は?」
「装置が作動していれば、瘴気が未だに濃くなり続けている筈だからだよ」
「まぁ、俺には瘴気の濃さなんか分からねえから、信じるしかないんだけどよ」
頬を掻くラインハルトだった。
ヌークの町に残ったジルとリイアは、東の壁の外を調べていた。
「何もないわね」
「そうですが、もう少し調べてみましょう」
飽きたから帰ろうとは言い出せないリイア。
「そうね…」
二人はある異常を見つけた。
「これはもしや…扉跡?」
何もないはずの空間に揺らぎが見えた。




